膜性増殖性糸球体腎炎

(メサンギウム毛細管性糸球体腎炎;小葉性糸球体腎炎)

執筆者:Frank O'Brien, MD, Washington University in St. Louis
レビュー/改訂 2023年 6月
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膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は,光学顕微鏡検査での糸球体損傷のパターンを特徴とし,これには糸球体基底膜の細胞増殖および肥厚が含まれる。臨床像としては通常,腎炎の特徴とネフローゼの特徴が混在してみられる。原因は特発性か他の疾患に伴う続発性である。診断は腎生検による。基礎疾患がある場合,治療はそれに対して行う。特発性の患者に対する治療は,支持療法となるか,コルチコステロイドおよびその他の免疫抑制薬を使用する。

ネフローゼ症候群の概要も参照のこと。)

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は,光学顕微鏡検査での糸球体基底膜(GBM)の肥厚および増殖性変化を組織学的特徴とする。従来,MPGNは電子顕微鏡検査での沈着部位に基づいて以下のようにI型,II型,III型に分類されていた:

  • I型:メサンギウムおよび内皮下腔の免疫グロブリンとC3の両方で構成される高電子密度沈着物を特徴とする。

  • II型(dense deposit disease):糸球体,尿細管,およびボーマン嚢の基底膜に沿った,主に補体で構成されるリボン状の高電子密度沈着物を特徴とする。

  • III型:上皮下と内皮下の両方に沈着物を認めることを特徴とする。

しかしながら,MPGNの発生機序の理解が進んだことで,電子顕微鏡観察に基づく分類には限界があり,異なる病型間で重複が生じる可能性があることが明らかになった。

望ましい分類は,病態生理学的なプロセスに基づき,蛍光抗体顕微鏡検査の所見の情報を基にしたものである。この分類体系では,MPGNは以下のように大別される:

  • 免疫グロブリン/免疫複合体介在型MPGN

  • 補体介在型MPGN

  • 免疫グロブリンおよび補体の沈着を伴わないMPGN

病型にかかわらず,大多数の症例で基礎にある(二次的な)原因が存在する。特発性(原発性)の症例は比較的頻度が低く,通常は免疫グロブリン/免疫複合体介在型のカテゴリー内でみられる。

原発型は8~30歳の小児と若年成人で発生し,小児のネフローゼ症候群の症例の10%を占め,続発型は30歳以上の成人で発生する傾向がある。発生率は男性と女性で同じである。一部の型で報告されている家族性症例から,遺伝因子が少なくとも一部の症例では何らかの役割を果たすことが示唆される。低補体血症には多くの因子が寄与する。

免疫グロブリン/免疫複合体介在型MPGN

免疫グロブリン/免疫複合体介在型MPGNは,慢性の抗原血症および/または循環血液中の免疫複合体を原因とし,大半が以下のいずれかに続発する:

蛍光抗体顕微鏡検査の所見により,特定の基礎疾患が示唆されることがある。

補体介在型MPGN

補体介在型MPGNは,免疫グロブリン/免疫複合体介在型MPGNと比べて頻度が低い。補体副経路の調節異常および持続的な活性化を原因とし,毛細血管壁沿いおよびメサンギウムに補体分解産物の沈着がみられる。補体介在型MPGNは,蛍光抗体染色および電子顕微鏡検査で観察される特徴に基づいて,さらにC3またはC4糸球体腎炎とdense deposition disease(DDD)に分類することができる。

免疫グロブリンおよび補体の沈着を伴わない膜性増殖パターンのMPGN

免疫グロブリンおよび補体の沈着を伴わないMPGNは,以下の場合に認められることがある:

組織像は内皮損傷と修復性変化を示唆する。蛍光抗体顕微鏡検査で有意な免疫グロブリンまたは補体の沈着は認められず,電子顕微鏡検査で毛細血管壁に沿った高電子密度沈着物は認められない。

膜性増殖性糸球体腎炎の症状と徴候

症状と徴候は,他の種類の糸球体腎炎と同様である。尿沈渣で血尿(変形赤血球および/または赤血球円柱を認める)が明らかになることがある。タンパク尿の程度は様々である。血清クレアチニン値は正常または高値である。

補体介在型MPGNの亜型であるdense deposition diseaseの患者では眼異常(基底層のドルーゼン,びまん性網膜色素変性,円板状黄斑剥離,脈絡叢の新血管新生)の発生率がより高く,最終的に視力が低下する。

膜性増殖性糸球体腎炎の診断

  • 腎生検

  • 血清補体プロファイル

  • 膜性増殖性病変および関連する基礎疾患の分類に基づく特異的な臨床検査

診断は腎生検によって確定される。蛍光抗体顕微鏡検査における免疫グロブリンおよび補体の沈着パターンは,MPGN病変の種類を分類するために役立つ。MPGN病変の基礎にある原因の同定に役立てるため,追加検査も行う。

低補体血症は,あらゆる種類のMPGNで他の糸球体疾患と比べて認められる頻度が高く,その診断を裏付ける証拠となる(膜性増殖性糸球体腎炎の血清補体プロファイルの表を参照)。免疫グロブリン/免疫複合体介在型MPGNでは,古典的補体経路が活性化され,C3は正常または軽度に低下し,C4は典型的に低下する。補体介在型MPGNでは,補体副経路が活性化され,C3は低下するが,C4は正常である。免疫グロブリンおよび補体の沈着を伴わないMPGNでは,C3およびC4は正常である。

表&コラム
表&コラム

二次的な原因に対する特異的な臨床検査をMPGNの病型との関連に基づいて行う。

診断評価の過程でしばしば行われる血算では,正色素性正球性貧血が認められ,しばしば腎機能不全の病期とは不釣合いで(おそらくは溶血が原因),さらに血小板消費に由来する血小板減少症が認められる。

膜性増殖性糸球体腎炎の治療

  • ネフローゼレベルのタンパク尿を呈する小児にはコルチコステロイド

  • 末期腎不全患者には腎移植

可能な場合は,基礎疾患を治療する。軽症の患者(すなわち,腎機能が正常で,ネフローゼレベルに達しないタンパク尿または有意な血尿がみられる)は,典型的にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)で治療する。このような患者では,典型的には追加の免疫抑制療法は適応とならない。

ネフローゼレベルのタンパク尿を呈し腎機能が正常な患者では,コルチコステロイドによる治療(例,プレドニゾン2.5mg/kg,経口,1日1回を隔日[最大80mg/日])を1年間行い,その後は漸減しながら維持療法を行うことで,腎機能が安定化する可能性がある。しかしながら,コルチコステロイド治療は小児の発育遅滞および高血圧をもたらす可能性がある。カルシニューリン阻害薬(例,シクロスポリンまたはタクロリムス)は,コルチコステロイドに耐えられないか投与を希望しない患者に対し,代替薬として使用できる。急速に進行する半月体形成性のMPGNを呈する患者は,コルチコステロイドとシクロホスファミドの併用でより積極的に治療すべきである。

その他の一般的な支持療法としては,食事制限およびナトリウム制限,降圧療法,レニン-アンジオテンシン系阻害,脂質異常症の治療などがある。

膜性増殖性糸球体腎炎の予後

予後は続発性膜性増殖性糸球体腎炎の原因である病態の治療に奏効した場合は良好である。他の糸球体疾患と同様に,ネフローゼレベルのタンパク尿がみられる場合は予後不良となる傾向がある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

    1. Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Glomerular Diseases Work Group: KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases.Kidney Int 100(4S):S1-S276, 2021. doi: 10.1016/j.kint.2021.05.021

要点

  • 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は,光学顕微鏡検査での特徴的所見を伴う糸球体損傷のパターンであり,これには糸球体基底膜の細胞増殖および肥厚が含まれる。

  • 患者はほとんどの場合,ネフローゼ症候群の状態で受診するが,腎炎症候群の状態で受診することもある。

  • 診断は腎生検で確定し,血清補体値(C3,C4)を測定し,MPGNを免疫複合体/単クローン性免疫グロブリン介在型MPGN,補体介在型MPGN,または免疫グロブリンおよび補体の沈着を伴わないMPGNに分類するための追加検査を行う。

  • 臨床像およびMPGNの具体的な種類に基づいて基礎疾患の検査を行う。

  • ネフローゼレベルのタンパク尿はコルチコステロイドで治療し,腎機能障害の進行に応じて免疫抑制薬を考慮する;追加治療は,具体的な基礎疾患に対して行う。

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