微小変化群

(リポイドネフローゼ;Nil Disease)

執筆者:Frank O'Brien, MD, Washington University in St. Louis
レビュー/改訂 2023年 6月
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微小変化群では,浮腫と重度のタンパク尿を突然発症し,大部分は小児において起こる。腎機能は典型的に正常である。診断は臨床所見または腎生検に基づく。治療はコルチコステロイドにより,反応しない患者に対してはシクロホスファミドまたはシクロスポリンによる。予後は極めて良好である。

ネフローゼ症候群の概要も参照のこと。)

微小変化群は,年齢4~8歳の小児におけるネフローゼ症候群の最も一般的な原因であるが(小児のネフローゼ症候群の80~90%),成人でも起こる(成人のネフローゼ症候群の10~20%)。原因はほぼ常に不明であるが,薬物使用(特に非ステロイド系抗炎症薬[NSAID])および造血器腫瘍(特にホジキンリンパ腫)に続発する症例もまれに起こりうる。

微小変化群の症状と徴候

微小変化群はネフローゼ症候群を惹起し,通常は高血圧または高窒素血症を伴わず,顕微鏡的血尿が患者の約20%,主に成人で起こる。高窒素血症は続発性症例および60歳以上の患者において起こりうる。微小変化群患者の尿中に失われるアルブミンは,より大型の血清タンパク質よりも多いが,これはおそらく本症が電荷バリアに変化をもたらし,これがアルブミンに選択的に影響を及ぼすためと考えられる。

微小変化群の診断

  • 特発性ネフローゼ症候群の成人患者では腎生検

小児では,以下の典型的な特徴に基づいて本症を疑う(および治療を開始する)ことができる:

  • 原因不明のネフローゼレベルのタンパク尿を突然発症し,主にアルブミンである

  • 腎機能は正常

  • 腎炎型以外の尿沈渣所見

成人患者と非定型の臨床像を呈する小児患者では腎生検が必要になる。電子顕微鏡検査では,びまん性の足突起の腫大(消失)を伴った浮腫が確認できる(免疫性糸球体疾患の電子顕微鏡所見の図を参照)。蛍光抗体法では補体およびIg沈着が認められない。タンパク尿がない場合は足突起の消失は観察されないが,足突起が正常でも重度のタンパク尿が起こりうる。

免疫性糸球体疾患の電子顕微鏡所見

微小変化群の治療

  • コルチコステロイド

  • ときにシクロホスファミド,カルシニューリン阻害薬(例,シクロスポリンまたはタクロリムス),ミコフェノール酸モフェチル,またはリツキシマブ

コルチコステロイド

40%の症例では自然寛解がみられるが,大半の患者はコルチコステロイドの投与を受ける。約80~90%の患者が最初の大量ステロイド療法(例,小児ではプレドニゾン60mg/m2,経口,1日1回,4~6週間,成人では1~1.5mg/kg,経口,1日1回,6~8週間)に反応するが,反応例の40~73%が再発する。反応を示した患者(すなわち,タンパク尿の消失か,浮腫が存在する場合は利尿)はさらに2週間プレドニゾンを継続し,その後毒性を最小限に抑えるため維持レジメンに変更すべきである(小児では2~3mg/kg,隔日投与を4~6週間,成人では8~12週間とし,次の4カ月で漸減する)。初回療法の期間を延長し,プレドニゾンの漸減をより緩徐に行うことで再発率が低下する。反応が示されない原因は,生検でのサンプリングエラーにより検出されなかった基礎疾患の巣状硬化症の可能性がある。

治療は通常1~2年間継続する。しかしながら,半数以上が再発し,同一または別のレジメンによる治療が必要になる。

その他の免疫抑制療法

コルチコステロイドに反応しない患者(小児では5%未満,成人では10%を超える),頻繁に再発する患者,およびステロイド依存性の患者においては,別の免疫抑制薬を追加することで寛解が得られることがある(1, 2)。そのような薬剤としては,シクロホスファミド,カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンまたはタクロリムス),ミコフェノール酸モフェチルなどのほか,おそらくはリツキシマブも該当する。薬剤の選択は,医師の選好および患者の希望,薬剤の入手可能性および費用,忍容性,ならびに考えられる毒性に影響される。

治療に関する参考文献

  1. 1.Larkins NG, Liu ID, Willis NS, et al: Non-corticosteroid immunosuppressive medications for steroid-sensitive nephrotic syndrome in children.Cochrane Database Syst Rev 4(4):CD002290, 2020.doi: 10.1002/14651858.CD002290.pub

  2. 2.Azukaitis K, Palmer SC, Strippoli GF, et al: Interventions for minimal change disease in adults with nephrotic syndrome.Cochrane Database Syst Rev 3(3):CD001537, 2022. doi: 10.1002/14651858.CD001537.pub5

微小変化群の予後

治療を受けた微小変化群患者の予後は良好であり,80%を超える患者で寛解が得られる。5%未満の患者で腎不全への進行が起こり,最初にコルチコステロイドに反応しなかった患者でより多くみられる(1)。

予後に関する参考文献

  1. 1.Tarshish P, Tobin JN, Bernstein J, et al: Prognostic significance of the early course of minimal change nephrotic syndrome: report of the International Study of Kidney Disease in Children.J Am Soc Nephrol 8(5):769-776, 1997 doi: 10.1681/ASN.V85769

要点

  • 微小変化群は小児のネフローゼ症候群の大半の症例を占めており,通常は特発性である。

  • 腎機能が正常でネフローゼレベルのタンパク尿を突然発症した小児で,腎炎型以外の尿沈渣所見を認める場合は,微小変化群を疑う。

  • 診断は,成人および非定型の小児の症例では腎生検により確定する。

  • まずはコルチコステロイドで治療する。

  • 予後は良好であり,大半の患者において初期治療で寛解が得られる。

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