ムンプス(おたふくかぜ)

(流行性耳下腺炎)

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2021年 7月
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ムンプスとは、唾液腺が痛んで腫れる、感染力の強いウイルス感染症です。精巣、脳、膵臓を侵すこともあり、特に成人ではその傾向があります。

  • ムンプスの原因はウイルスです。

  • 症状としては、悪寒、頭痛、食欲減退、発熱、けん怠感などがあり、その後唾液腺が腫れます。

  • 診断は典型的な症状に基づいて下されます。

  • たいていの小児は問題なく回復しますが、感染症により髄膜炎や脳炎が起きることもあります。

  • 定期予防接種【訳注:日本では任意接種です[2021年8月現在、https://www.niid.go.jp/niid/ja/schedule.html]】により感染を予防できます。

  • 治療の目標は症状を緩和することです。

感染した人がせきをしたときに飛び散った小さな飛沫を吸い込んだり、ウイルスを含む唾液で汚染されたものに触ったりすることで感染します。ムンプスの感染力は、麻疹(はしか)水痘(水ぼうそう)ほど強くありません。人口が非常に密集した地域では年間を通じて発生しますが、一番多いのは冬の終わりから春先にかけてです。

免疫をもっていない人たちが密集していると流行することがあります。しかしながら、予防接種を受けた人の間で小規模な流行が起こることもあり、これはおそらく一部の人(約10~12%)では予防接種後に免疫ができず、また他の一部の人では免疫が時間経過とともに弱くなることが原因です。推奨されている回数の予防接種をすべて完了できない人もいます。定期予防接種が始まる前は、ムンプスは学齢期の小児に最もよくみられました。しかし現在では、免疫をもつ人が減ってきたことで、この感染症は青年や成人でよくみられるようになっています。

米国では、ムンプスに対する定期予防接種が小児に行われる前の1967年には、約18万6000人のムンプス患者が発生していました。予防接種が行われるようになってから、ムンプスの発生数は顕著に減少していますが、それでもまだ発生しています。2006年に米国中西部でムンプスが流行し、6584人以上に発生しました。このとき一番感染率が高かったのが若い成人であったことから、ワクチン接種を今後も続けていく必要性が示されました。それ以降は、主に大学キャンパスなどの人が密集するコミュニティで起きている散発的な集団発生が感染者数の変動の一因になり、少ない年で2012年の229例、多い年で2017年の6109例と幅がみられています。

ムンプスは、通常2歳未満の小児では起こらず、特に1歳未満では起こりません。ムンプスウイルスに一度感染すると通常は生涯にわたって免疫が得られます。

麻疹と同様、ムンプスは旅行者や移民がもち込んだ可能性があり、これらの人から感染が広がります。特に、多くの人が集まる場所(大学のキャンパスなど)や、外部の人との接触を避ける閉鎖的なコミュニティ(伝統を忠実に守るユダヤ教徒のコミュニティ、アーミッシュ派、メノナイトなど)ではその傾向がみられます。

大唾液腺の位置

ムンプスの症状

症状は感染してから12~24日後に現れますが、約4分の1の人では症状がみられません。大半の小児では、悪寒、頭痛、食欲の低下、全身のだるさ(けん怠感)、微熱や中等度の発熱がみられます。これらの症状に続いて12~24時間後に唾液腺が腫れ、この腫れは2日目に最もひどくなり、5~7日間続きます。

唾液腺が腫れるだけで、他の症状がみられない小児もいます。唾液腺が腫れると、ものを噛んだり飲み込んだりすると痛み、特に柑橘類のジュースのような酸っぱい液体を飲むと痛みます。また、触っても痛みます。通常、この時期には熱が約39.5~40℃まで上がり、1~3日間続きます。

ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)
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ムンプス(おたふくかぜ、流行性耳下腺炎)は、唾液腺の痛みを伴う腫れを特徴とします。
Photo courtesy of Sylvan Stool, MD.

ムンプスの合併症

ムンプスは唾液腺以外の以下のような臓器も侵すことがあります。

  • 精巣

  • 脳と脳を覆う組織

  • 膵臓

思春期以降に感染した男性の約20%で片側か両側の精巣に炎症が起きます(精巣炎)。精巣の炎症は腫れとひどい痛みを引き起こします。感染した精巣が治った後で小さくなることがありますが、通常、テストステロンの分泌量や妊よう性には影響はありません。女性では、卵巣の炎症(卵巣炎)が認められることはそれほど多くなく、痛みも少なく、妊よう性は損なわれません。

ムンプスにかかった人の1~10%では、脳を覆う組織層の炎症(髄膜炎)が生じ、髄膜炎によって頭痛、嘔吐、項部硬直が起こります。また、1000~5000人に1人の割合でムンプスによって脳の炎症(脳炎)が起こり、眠気、昏睡、けいれんが現れます。たいていは完全に回復しますが、難聴や顔の筋肉の麻痺など、神経や脳に永続的な損傷が残ることもあり、これは通常は体の左右片側だけに起こります。ムンプスは、ワクチン接種率が低い地域の小児における片側性難聴の主な原因であると考えられています。

ムンプスを発症して1週間経つ頃に膵臓の炎症(膵炎)が起きることがあり、腹痛、重度の吐き気、嘔吐がみられます。これらの症状は約1週間後に消えて、患者は完全に回復します。

ほかにも肝臓、腎臓、心筋の腫れなどの合併症が起こりますが、極めてまれです。すでに予防接種を受けている人では、いずれの合併症もあまりみられません。

ムンプスの診断

  • 医師による評価

  • 臨床検査

ムンプスの診断は、典型的な症状に基づいて下され、特にムンプスが流行時に発症した場合に診断されます。

臨床検査により、ムンプスウイルスとそれに対する抗体を特定できます。臨床検査で診断を確定することが可能で、臨床検査は通常、公衆衛生上の目的から流行を記録するために行われます。

髄膜炎または脳炎の徴候がみられる場合は、腰椎穿刺を行います。

ムンプスの予後(経過の見通し)

ムンプスにかかった小児のほぼ全員が問題なく完全に回復しますが、まれに、約2週間後に症状が再び悪化することがあります。

ムンプスの予防

  • ムンプスワクチン

米国では、ムンプスワクチン小児期の定期予防接種の1つで、初回接種を生後12カ月から15カ月の間に行います。2回目の接種を、4歳から6歳の間に行います。使用されるワクチンは、混合型ワクチンです。混合型ワクチンには、麻疹、ムンプス、風疹(MMR)に対するワクチンが含まれており、ときには水痘(水ぼうそう)ワクチンも含まれます。ムンプスのみを対象とした個別のワクチンはもう使われていません。集団発生時には、ワクチンを受けていてもムンプスの発生リスクが高い人(大学生やムンプスの流行地域に住んでいる人など)に対して、3回目の接種を行うことがあります。

米国では、1957年以降に生まれた成人であれば、医療従事者によりムンプスと診断されたことがある場合を除いて、1回の接種を受けているはずです。妊婦および免疫系が損なわれている人は、ムンプスの生ワクチンの接種を受けるべきではありません。

ムンプスの治療

  • 不快感に対するアセトアミノフェンやイブプロフェン

ムンプスに対する特別な治療法はありません。不快感をできるだけなくすために、軟らかい食事をとるようにし、よく噛む必要があるものや酸っぱいものは避けるようにしてください。頭痛や不快感を和らげるためにアセトアミノフェンやイブプロフェンなどの鎮痛薬を使用することもあります。

精巣に炎症が起きている男児や成人男性は安静にする必要があります。スポーツ用のサポーターや両足の太ももの間に張った粘着テープで陰嚢(いんのう)を支えることもあります。アイスパック(氷のう)をあてると痛みが和らぎます。

膵炎によるひどい吐き気や嘔吐がある場合は飲食を数日控え、輸液を行うことがあります。髄膜炎や脳炎を起こした小児にも輸液を行い、発熱や頭痛を鎮めるためにアセトアミノフェンやイブプロフェンが必要になることがあります。けいれんが起きた場合は、抗てんかん薬が必要になることがあります。

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