虚血性脳卒中

執筆者:Ji Y. Chong, MD, Weill Cornell Medical College
レビュー/改訂 2020年 7月
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やさしくわかる病気事典

虚血性脳卒中は、動脈が詰まって脳に十分な血液と酸素が供給されなくなることで生じる、脳組織の一部の壊死(脳梗塞)です。

  • 虚血性脳卒中は通常、脳に向かう動脈に多くは血栓や動脈硬化で生じた脂肪の沈着物が詰まることで発生します。

  • 症状は突然現れます。具体的には、体の片側の筋力低下、麻痺、感覚消失、感覚異常のほか、発話困難、錯乱、視覚障害、めまい、平衡感覚の消失と協調運動障害などの症状があります。

  • 診断は、症状と身体診察および脳の画像検査の結果に基づいて下されます。

  • 脳卒中の原因を特定するために、他の画像検査(CT検査やMRI検査)や血液検査も行われます。

  • 治療法としては、血栓を溶かす薬や血栓をできにくくする薬、血栓を物理的に除去する処置などがあります。いずれの治療後にもリハビリテーションを行います。

  • 予防策としては、危険因子のコントロール、血栓をできにくくする薬のほか、ときに詰まった動脈を開通させる手術または血管形成術が行われます。

  • 虚血性脳卒中が起こった人の約3分の1では、すべてまたはほとんどの機能が回復します。

脳卒中の概要も参照のこと。)

虚血性脳卒中の原因

虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する動脈が閉塞して起こるのが典型的で、最も多いのは片方の内頸動脈の分枝の閉塞です。その結果、脳細胞に供給される血液が足りなくなります。血液の供給が4.5時間途絶えると、ほとんどの脳細胞が死んでしまいます。

脳への血液供給

血液は以下の2対の太い動脈を通って脳に送られます。

  • 内頸動脈:心臓から出た血液を首の前側に沿って運びます。

  • 椎骨動脈:心臓から出た血液を首の後面に沿って運びます。

左右の椎骨動脈は頭蓋内で合流して、後頭部で脳底動脈となります。内頸動脈と脳底動脈は、大脳動脈を含む数本の動脈に枝分かれします。動脈の枝のいくつかはつながって輪(ウィリス動脈輪)になっていて、椎骨動脈と内頸動脈はこのウィリス動脈輪でつながっています。ちょうど環状道路から分岐する道路のように、ウィリス動脈輪からは複数の動脈が枝分かれしていて、これらの枝を介して脳全体に血液が供給されています。

脳に血液を送っている太い動脈が詰まっても、症状がまったく現れないか、軽い脳卒中しか起こらない人もいます。しかし、同じような閉塞によって大きな虚血性脳卒中が起こる人もいます。これはなぜでしょうか。その理由の1つは、側副動脈にあります。側副動脈は動脈の間を走って、接続路を増やしています。側副動脈には、ウィリス動脈輪や、そこから枝分かれしている動脈間の接続路などがあります。生まれつき側副動脈が太い人もいます。すると、1本の動脈が詰まっても、側副動脈によって血流が保たれるため、脳卒中が起こらないことがあります。一方、生まれつき側副動脈が細い人もいます。細い側副動脈は障害を受けた領域に血液を十分に送ることができないため、脳卒中が起こります。

体には、新しい動脈を作って脳卒中から自分を守る働きもあります。閉塞がゆっくり生じている場合は(動脈硬化症のときなど)、脳の障害領域への血液供給が保たれるように新しい血管が成長するため、脳卒中が起こらないこともあります。脳卒中が起こった場合も、新しい動脈ができて次の脳卒中が予防されることがあります(ただし、すでに起こった損傷を元に戻すことはできません)。

一般的な原因

通常、血管の閉塞を引き起こすのは血栓か、動脈硬化によって生じた脂肪の沈着物(アテロームあるいはプラーク)です。血管の閉塞は以下のようにして生じます。

  • 動脈内で生じて詰まる:動脈の壁にアテロームができると、そこにさらに脂肪が蓄積して、その動脈が詰まるほど大きくなることがあります。動脈が完全に詰まるに至らなくとも、アテロームによって動脈が狭くなると、パイプが詰まって水の流れが悪くなるように、その部分の血流が滞ります。血流が滞ると血栓ができやすくなります。大きな血栓ができると、狭くなった動脈に十分な血液が流れなくなり、その動脈から血液を供給されている脳細胞が壊死します。あるいは、アテロームが崩れる(破裂する)と、アテロームの中に含まれていた物質が血栓の形成の引き金になり、できた血栓によって動脈が閉塞される可能性もあります(図「アテローム性動脈硬化が起こる過程」を参照)。

  • 別の動脈から運ばれて、脳内の動脈に至る:アテロームの破片、動脈の壁にできた血栓などは、その場所から剥がれて、血流に乗って別の部位に運ばれることがあります(塞栓)。この塞栓が、脳に血液を供給する動脈に詰まると、そこで血流が遮断されます(塞栓症とは、血流に乗って体の別の場所に運ばれた物質によって動脈がふさがれる現象を指します)。脂肪の沈着物によって狭くなった動脈ではこのような閉塞が起こりやすくなります。

  • 心臓から脳へ運ばれる:心臓内、または心臓弁の上(特に人工弁や、心臓の内壁への感染症[心内膜炎]によって損傷を受けた弁)に血栓が形成されることがあります。この血栓が剥がれて、血流に乗って移動し、脳に向かう動脈をふさいでしまう(塞栓になる)ことがあります。このような血栓による脳卒中が特に起こりやすいのは、最近心臓の手術を受けた人、心臓発作を起こしたことがある人、心臓弁膜症がある人、不整脈(特に、心房細動と呼ばれる心拍が速く不規則になる不整脈)がある人などです。

脳動脈に詰まった血栓が常に脳卒中を引き起こすとは限りません。血栓が15~30分以内に自然に溶ければ、脳細胞が死ぬことはなく、症状も解消します。このようなイベントを一過性脳虚血発作(TIA)と呼びます。

動脈の狭小化が非常にゆっくり起こる場合、ときに別の動脈(側副動脈―図「脳への血液供給」を参照)が拡大し、血栓のできた動脈に支配される脳領域に、血液を供給するようになることがあります。こうして側副血行の発達した動脈に血栓ができても、症状が起こらないことがあります。

血栓けっせん塞栓そくせん虚血性脳卒中きょけつせいのうそっちゅう原因げんいん

のう血液けつえきおくっている動脈どうみゃくがつまったり、ふさがれたりすると、虚血性脳卒中きょけつせいのうそっちゅうこることがあります。動脈硬化どうみゃくこうかのためにできた脂肪しぼうのかたまり(アテロームまたはプラーク)が、動脈どうみゃくをふさぐことがあります。くびにある動脈どうみゃく、なかでも内頸動脈ないけいどうみゃくは、アテロームがよくできる場所ばしょです。

動脈どうみゃく血液けつえきのかたまり(血栓けっせん)でふさがれることもあります。血栓けっせん動脈どうみゃくのアテロームからできることがあります。血栓けっせん心臓しんぞう病気びょうきがあるひと心臓しんぞうにできることもあります。血栓けっせん一部いちぶがはがれて、血流けつりゅうって移動いどうする(塞栓そくせんになる)ことがあります。それが脳動脈のうどうみゃくなど、のう血液けつえきおく動脈どうみゃくをふさぐことがあります。

ラクナ梗塞

ラクナ梗塞とは、典型的には約1センチメートル以下の小さな虚血性脳卒中を指します。ラクナ梗塞では、脳の深部にある1本の細い動脈の壁が老朽化して、脂肪と結合組織の混合物に置き換えられ(脂肪硝子変性)、内腔が閉塞します。脂肪硝子変性は動脈硬化とは違いますが、どちらも動脈の閉塞を引き起こします。

ラクナ梗塞は、糖尿病やコントロール不良の高血圧がある高齢者に起こりやすい傾向があります。ラクナ梗塞では、脳の小さな部分が損傷を受けるだけなので、予後は通常良好です。しかし、時間の経過とともに、小さなラクナ梗塞が多数発生すると、思考や精神機能の問題(認知障害)をはじめとする問題を引き起こすことがあります。

その他の原因

アテロームの崩壊以外にも、血栓の形成を惹起または助長して閉塞のリスクを高める条件があります。具体的には以下のものがあります。

  • 血液疾患:赤血球の過剰(赤血球増多症)、抗リン脂質抗体症候群、高ホモシステイン血症(ホモシステインの血中濃度が上昇する病気)などの病気があると、血液がかたまりやすくなります。小児では、鎌状赤血球症が虚血性脳卒中を引き起こすことがあります。

  • 経口避妊薬経口避妊薬(特にエストロゲン用量の高いもの)は、血栓が発生するリスクを高めます。

虚血性脳卒中は、脳に供給される血液の量が減少する、あらゆる病気が原因で起こります。たとえば、

  • 脳に血液を供給する血管が、血管の炎症(血管炎)や感染症(単純ヘルペスなど)によって狭くなると、虚血性脳卒中が起こります。

  • 心房細動では、心臓が正常に収縮しないために、血液の流れがとどこおり、血栓ができることがあります。血栓が剥がれて、脳の動脈に移動して、動脈を詰まらせてしまうことがあります。

  • ときに、脳に血液を送っている動脈(首の動脈など)の壁の層が互いに分離し(解離と呼ばれます)、脳への血流を妨げることがあります。

  • 片頭痛と特定の薬剤(コカインやアンフェタミン類など)は、動脈をれん縮させることがあり、それによって脳に血液を供給する動脈が狭くなる状態が長時間続くと、脳卒中が起こることがあります。

まれに、全身の血流が減少することで脳卒中が起こることもあり、大量に失血した場合、重度の脱水になった場合、または血圧が極度に下がった場合などにみられます。このタイプの脳卒中は、それまで症状を引き起こさずに見つかっていなかっただけで、脳に血液を供給する動脈が狭くなっていた場合に起こることが多いです。

ときとして、脳への血流は正常でも、血液中の酸素が不足しているために虚血性脳卒中が起こる場合もあります。血液中の酸素レベルを低下させる病気には、重度の赤血球の不足(貧血)、窒息、一酸化炭素中毒などがあります。通常、このような病気によって生じる脳の損傷は広範囲におよび(びまん性)、昏睡状態をもたらします。

ときに、脚の静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)や、まれに折れた脚の骨の骨髄から出た小さな脂肪片が血流に乗ることがあります。血流に乗った血栓や脂肪片は、心臓に移動し、肺の動脈を詰まらせることがあります(肺塞栓症と呼ばれます)。しかし、心臓の右の区画と左の区画との間に異常な穴があいている人がおり(卵円孔開存)、そのような人では、血栓や脂肪片がその穴を通り、肺を迂回して大動脈(全身で最も太い動脈)に入ることがあります。血栓や脂肪片が大動脈から脳の動脈に至ると、脳卒中が起こります。

危険因子

虚血性脳卒中の危険因子の中には、例えばリスクを高める病気を治療するといった対策によって、ある程度のコントロールや是正が可能なものがあります。

虚血性脳卒中の重要かつ是正可能な危険因子は以下の通りです。

是正できない危険因子としては、以下のものがあります。

  • 過去に脳卒中を起こしたことがある

  • 男性である

  • 高齢である

  • 近親者に脳卒中を起こした人がいる

虚血性脳卒中の症状

多くの場合、虚血性脳卒中の症状は突然起こり、始まって2~3分後に最も重くなります。これは、ほとんどの虚血性脳卒中は突然に始まって急速に発達し、数分から数時間以内に脳組織の壊死が起こるからです。ほとんどの脳卒中は、その後安定し、それ以上の損傷はほとんどまたはまったく起こりません。安定した状態が2~3日続くと、完成脳卒中(completed stroke)と呼ばれるようになります。このタイプの脳卒中が起こりやすいのは、塞栓によって突然動脈が詰まったときです。

脳卒中の約10~15%では、脳組織が壊死した領域が着実に拡大するにつれて、最大2日間損傷が発生し続け、症状が悪化し続けます。このような脳卒中は進行性脳卒中と呼ばれます。一部の人では、症状が片方の腕に現れ、それから体の同じ側の他の部位に広がります。通常は、病状がいくぶん安定する期間を挟み、症状と脳組織の損傷が段階的に進行します。安定している期間中は、損傷の拡大が一時休止したり、状態が多少改善したりします。通常、こうした脳卒中は、狭窄した動脈に血栓ができることで起こります。

塞栓に起因する脳卒中は、日中に発生することが多く、頭痛が最初の症状になることがあります。狭窄した動脈にできた血栓に起因する脳卒中は、夜間に発生することが多く、目覚めたときに初めて気づきます。

症状は様々で、どのような症状が出るかは、どの動脈がふさがれたか、つまり脳のどの部分への血液と酸素の供給が絶たれたかによって異なります(部位別にみた脳の機能障害を参照)。

内頸動脈(首の前方に沿って脳に向かう動脈)から枝分かれする動脈が詰まった場合は、次のような症状が特に多くみられます。

  • 片目が見えなくなる

  • 両眼の同じ側(両眼の左側または両眼の右側)の視力障害

  • 左右どちらかの腕か脚、または右半身か左半身に、異常感覚、筋力低下、または麻痺が起こる

椎骨動脈(首の後部に沿って脳に向かう動脈)から枝分かれする動脈が詰まった場合は、次のような症状が特に多くみられます。

  • めまい

  • 両眼の複視または視力障害

  • 体の片側または両側で全体的に筋力が低下する

ほかにも、話し方が不明瞭になるなどの発話困難や、錯乱などの意識障害、協調運動障害、尿失禁など、多くの症状が起こります。

重度の脳卒中では、昏迷または昏睡に至ることがあります。それほど重度の脳卒中でなくても、抑うつ状態に陥ったり、感情をコントロールできなくなったりすることがあります。感情をコントロールできないと、不適切な状況で急に泣いたり笑ったりしてしまいます。

脳卒中が始まったときにけいれん発作をきたす患者もいます。けいれん発作は、数カ月~数年経過してから起こる場合もあります。後期のけいれん発作は、損傷を受けた脳組織に蓄積した血液の成分や瘢痕が原因で発生します。

ときに発熱がみられることもあり、これは脳卒中が原因で起こる場合もあれば、別の病気が原因で起こる場合もあります。

症状(特に意識障害)が最初の2~3日で悪化した場合、多くは脳浮腫(水分が過剰になって脳が腫れた状態)によるものです。大きな脳卒中の場合、脳の腫れは一般に脳卒中が始まってから約3日後に最も悪化します。通常は、水分が吸収されるにつれて、2~3日ほどで症状が治まります。とはいえ、頭蓋骨は広がらない構造になっているため、浮腫は非常に危険です。浮腫によって頭蓋内の圧力が高まると、たとえ脳卒中自体による損傷の範囲は拡大しなくても、脳の位置がずれることによって脳機能がさらに損なわれます。圧力が非常に高くなると、脳の各部分を仕切っている硬い構造の間を通って脳組織の一部が頭蓋骨中で側方または下方に押し出されます。この状態は脳ヘルニアと呼ばれ、死に至る可能性があります。

脳卒中の合併症

脳卒中が別の問題(合併症)を引き起こすこともあります。

  • 飲み込むのが困難になると、十分に食事がとれず、栄養不良や脱水状態になることがあります。

  • 食べもの、唾液、嘔吐物を肺に吸い込む(誤嚥する)と、誤嚥性肺炎が起こることがあります。

  • 長時間同じ姿勢でいると、床ずれができ、また、筋肉が失われます。

  • 脚を動かせないと、脚や鼠径部の奥にある静脈に血栓が生じ、深部静脈血栓症になることがあります。

  • この血栓が剥がれて、血流に乗って運ばれると、肺の動脈に詰まることがあります(この病気を肺塞栓症と呼びます)。

  • 睡眠が困難になることもあります。

脳卒中によって生じた様々な喪失や問題が原因で、抑うつ状態になる人もいます。

虚血性脳卒中の診断

  • 医師による評価

  • CT検査、ときにMRI検査

  • 臨床検査(血糖値の測定を含む)

医師は通常、状態の経過と身体診察の結果から虚血性脳卒中を診断できます。また通常は、脳のどの動脈が詰まっているかを症状から特定できます。例えば、左脚に筋力低下や麻痺がみられる場合は、左脚の筋肉の運動を制御している右側の脳領域に血液を供給している動脈が詰まったと考えられます。

脳の特定の領域が損傷すると…

脳の各領域は、それぞれ特定の機能を制御しています。そのため、損傷を受けた脳の部位によって、失われる機能が異なります。

通常、まず始めにCT検査が行われます。CT検査は、出血性脳卒中、脳腫瘍、膿瘍などの脳の構造的異常と虚血性脳卒中とを見分けるのに役立ちます。

低血糖でも虚血性脳卒中と似た症状が起こることがあるため、血糖値も測定して、低血糖の可能性を否定します。

次に、可能であれば、開始から数分以内の虚血性脳卒中を検出できる拡散強調MRI検査を行います。

また、医師はできるだけ早く画像検査(CT血管造影検査またはMRアンギオグラフィー検査)を行って、太い動脈に閉塞が起きていないかを確認することがあります。これらの閉塞を迅速に治療することで、ときに脳卒中による脳損傷を制限できる場合があります。

原因を特定するための検査

虚血性脳卒中の原因を正確に特定することは重要です。閉塞が血栓による場合は、基礎疾患を是正しない限り、脳卒中が再発する可能性があります。例えば、血栓の原因が不整脈なら、不整脈を治療することで新たな血栓の形成を防ぎ、脳卒中の再発を予防できます。

原因の検査としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 心電図検査により、不整脈がないかを確認します

  • 自宅または病院で行う心電図の連続記録により、心拍数と心拍リズムを24時間(またはそれ以上)記録し、予測できない不整脈や短時間しか起こらない不整脈を検出します

  • 心エコー検査により、心臓に血栓、拍動や構造的な異常、弁疾患がないかを確認します

  • カラードプラ超音波検査MRアンギオグラフィー検査CT血管造影検査、脳血管造影検査(動脈にカテーテルを挿入して行います)などの画像検査により、動脈、なかでも特に内頸動脈が詰まったり狭くなったりしていないかを調べます

  • 血液検査により、貧血、赤血球増多症、血液凝固障害、血管炎、一部の感染症(心臓の弁の感染症や梅毒など)の可能性について確認するとともに、コレステロール高値や糖尿病の危険因子がないかを調べます

  • 尿中薬物スクリーニングにより、コカインまたはアンフェタミン類が検出されないかを調べます

画像検査では、頸動脈がどれくらい狭くなっているのかを知ることができるため、次の脳卒中やTIAのリスクを予測できます。このような情報は、どの治療が必要かを決めるのに役立ちます。

脳血管造影検査では、カテーテル(細く柔軟なチューブ)を動脈(通常は鼠径部の動脈)に挿入し、大動脈を経由して首の動脈まで到達させます。そして、動脈の輪郭が描出されるようにするために、造影剤(X線画像に写る物質)を注入します。そのため、この検査は、脳への血液供給の状態を撮影する他の検査より体への負担が大きくなりますが、より多くの情報が得られます。脳血管造影検査は、アテロームを頸部から手術(頸動脈内膜剥離術)で切除する前や、カテーテルを用いた血管内手術で動脈の閉塞または狭窄を治療する前に行います。脳血管造影検査は、血管炎が疑われる場合にも行われます。

CT血管造影検査の方が体への負担が小さいことから、カテーテルを用いた脳血管造影検査は今ではあまり行われなくなっています。例外は血管内手術(機械的血栓除去術またはステントの留置など)を行う場合です。

虚血性脳卒中の予後(経過の見通し)

血栓を分解する薬剤(血栓溶解薬)による治療の開始が早いほど、脳の損傷は軽度にとどまり、回復する可能性が高くなります。

虚血性脳卒中が起こってから最初の数日間は、病状が改善するか悪化するか、医師にも予測がつきません。若い人や、急速に改善が始まった人は完全に回復する確率が高くなります。

体の片側に麻痺がある人の約50%と、それより症状が軽い人のほとんどが、退院時までに一部の機能を回復して、最終的には必要な基本的動作を自分で行えるようになります。障害の残った腕や脚の動きは限られていても、明晰に考えることや十分に歩くことはできます。多くの場合は、脚より腕の動きの方が大きく制限されます。

虚血性脳卒中を起こした人の約10%が正常時の機能をほぼ完全に取り戻します。

その一方で、身体的にも精神的にも損失が大きく、動くことも、しゃべることも、食べることも正常に行えなくなる人もいます。

虚血性脳卒中を起こした人の約20%は、入院中に死亡しています。死亡率は高齢者でより高くなります。最初の脳卒中から回復した人の約25%で、5年以内に別の脳卒中が起こります。脳卒中が再発すると、機能がさらに損なわれます。

12カ月経っても残っている障害の大半は、永続的なものとなります。

虚血性脳卒中の治療

  • 呼吸などの生命維持に必要な機能を補助する対策

  • 血栓を分解する、または血栓をできにくくする薬

  • ときに閉塞を除去する手術、またはステントによる血管形成術

  • 脳卒中が引き起こす問題(嚥下困難など)を管理する対策

  • 脚に血栓ができないようにする対策

  • リハビリテーション

脳卒中が起こると、一分一分が非常に重要になります。脳への血流が減少または停止している時間が長いほど、脳の損傷が大きくなります。虚血性脳卒中を示唆する症状が出現した人は、直ちに緊急通報用電話(米国では911番、日本の場合は119番)にかけ、救急医療機関を受診するべきです。血栓を除去または分解する治療は、できる限り早く行った場合に最も効果が得られます。このような薬物療法の効果を得るには、脳卒中の開始から4.5時間以内に開始しなければなりません。カテーテルを介して血栓を除去する処置(機械的血栓除去術)は、脳卒中が始まってから6時間後まで有効で、場合によっては6時間以上経過後でも効果が得られることがあります。脳への血流の回復が早いほど、脳の損傷が少なくなり、回復の可能性が高まるため、できるだけ早く治療を開始することが極めて重要です。そのため、医師は脳卒中がいつ始まったのかを迅速に判定し、別の治療が必要になる出血性脳卒中ではなく虚血性脳卒中であることを確認するよう努めます。

同じくらい重要なのが、呼吸、心拍、血圧(低い場合)、体温を正常に戻すことです。必要なときに薬剤や水分を注入するための静脈ラインが確保されます。体温が高いと脳の損傷もひどくなるため、患者に発熱があるときは、熱を下げるためにアセトアミノフェン、イブプロフェン、冷感ブランケットなどが使用されます。

一般的には、血圧が220/120 mmHgを超えていなければ、すぐには高血圧の治療は行われません。これは、動脈が狭くなっている場合、そこを通って脳に十分な血液を送るためには血圧が通常より高くなければならないからです。しかし、極端な高血圧は、心臓、腎臓、眼に損傷を与えるため、下げなければなりません。

脳卒中が非常に重度で、脳の広い領域に影響が及んでいる場合には、脳の腫れを抑えて上昇した頭蓋内圧を下げるために、マンニトールなどの薬剤が投与されます。十分な呼吸を確保するために人工呼吸器が必要になる場合もあります。

脳卒中そのものに対する治療としては、血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)、血栓をできにくくする薬(抗血小板薬と抗凝固薬)などがあり、いずれの治療後にもリハビリテーションを行います。一部の専門施設では、血栓を物理的に除去する処置(機械的血栓除去術)も行われています。

脚の血栓や床ずれなど、脳卒中が引き起こしうる問題の予防策が講じられます。次回の脳卒中を予防する対策としては、危険因子(高血圧、糖尿病、コレステロール高値など)のコントロール、血栓をできにくくする薬のほか、ときに詰まった動脈を開通させる手術または血管形成術なども行われます。

血栓溶解薬

特定の状況下では、血栓を溶かして、脳への血流を回復させるために、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)と呼ばれる薬剤を静脈内投与します。

tPAは脳などで出血を引き起こすおそれがあるため、以下のような人には通常は使用できません。

  • 過去に出血性脳卒中、脳内の出血、または脳腫瘍があった

  • 脳内の出血または非常に広範囲に及ぶ脳組織の死滅がCTまたはMRI検査で検出される

  • 出血性脳卒中が疑われる(たとえCT検査でその証拠が見つからなくても)

  • 出血しやすい傾向(血小板数の減少または他の血液検査の異常な結果によって示される)

  • 過去21日以内に、消化管に出血があった

  • 最近(過去3カ月以内)の脳卒中または頭部外傷

  • 血糖値が極端に低い

  • 心臓の感染症(細菌性心内膜炎など)

  • 過去24時間以内の抗凝固薬(ワルファリンやヘパリンなど)の使用

  • 虚血性脳卒中の範囲が大きい

  • 降圧薬で治療した後も血圧が高いままである

  • 過去3カ月以内の脳または脊髄の手術

  • ときに、急速に症状が改善している場合

  • ときに、脳卒中が始まったときにけいれん発作が起こった場合

  • ときに、過去14日以内に大手術を受けたり重傷を負ったりした場合

  • ときに、過去21日以内に尿路からの出血があった場合

  • ときに、妊娠している場合

  • ときに、過去3カ月以内に心臓発作があった場合

  • 場合によっては、過去7日以内の動脈への注射(出血を止めるためにその動脈を圧迫することができない場合)

tPAを投与する前に、脳内の出血がないことを確認するためにCT検査を行います。tPAを効果的かつ安全に使用するためには、虚血性脳卒中が起こってから3時間以内に静脈内投与を開始しなければなりません。虚血性脳卒中が起こってから最長4.5時間までtPAの使用を勧める専門家もいます。

ただし、投与時期が発症後3時間から4.5時間までの間である場合には、追加の条件に該当するとtPAを使用できないことがあります。具体的には以下のものがあります。

  • 80歳以上である

  • 抗凝固薬を内服している(凝固への影響は問わない)

  • 重度の脳卒中により機能が大幅に失われている

  • 脳卒中と糖尿病両方の既往がある

4.5時間以上経過してからtPAを静脈内投与しても効果はありません。

脳卒中が始まった時間を正確に判断するのは困難な場合があります。したがって医師は、患者が元気だった最後の時刻を脳卒中が始まった時刻とみなします。例えば、目が覚めたときに脳卒中の症状があった場合は、患者が元気に起きていた最後の時刻を脳卒中が始まった時刻とみなします。そのような理由により、tPAを使用できる人は脳卒中患者のごく少数に限られます。

大きな動脈の閉塞による脳卒中は、発生から最大6時間(ときには最大24時間)経過してから病院に着いた場合でも、tPAを投与することがあり、さらに追加の侵襲的治療を併用することがあります。このような状況では、閉塞した動脈にカテーテルを介して薬剤または器具を直接投与または留置する必要があります。この治療(血栓除去術)を行う場合、皮膚(通常は鼠径部)に切り込みを作り、そこから動脈にカテーテルを挿入します。カテーテルは、大動脈などの動脈を経由して、血栓がある場所まで進められます。カテーテルのワイヤーで血栓をある程度くずしてから、tPAを注入することがあります。この治療は、通常は脳卒中の専門施設でしか受けられません。

機械的血栓除去術

機械的血栓除去術では、医師は器具を用いて血栓を物理的に除去します。しばしば、重度の脳卒中がある人、tPAの静脈内またはカテーテルによる投与で効果がなかった人に行われます。新しい科学的証拠によると、機械的血栓除去術は、重症度にかかわらず、脳卒中の患者を効果的に治療できることが示唆されています。

機械的血栓除去術は通常、症状が現れてから6時間以内に行われます。画像検査で損傷していない脳組織が認められれば、症状が現れてから最長で24時間以内であれば手術を行うことができます。そのため、一部の脳卒中専門施設では、時間だけで厳格に判断するのではなく、特殊なMRI(灌流MRI)などの画像検査を利用して脳卒中の進行度を判断する方針が採られるようになってきています。それらの画像検査により、血流がどれだけ減少しているかが分かり、どれくらいの脳組織を救えるかを判断することができます。このアプローチ(時間ではなく脳組織の状態に基づいて判断する方法)は、脳卒中が始まった時間が分からない場合(例えば、朝起きたときに脳卒中の症状があった場合)に特に有用です。画像検査で血流の減少がわずかであることが分かった場合には、症状の開始から最長24時間後まででも、機械的血栓除去術で脳組織を救える可能性があります。しかし、血流が大幅に減少したり停止したりしている場合は、1時間後に治療しても脳組織を救えないことがあります。

使用される器具にはいくつかの種類があります。例えば、ステントリトリーバーなどが使用されます。これはワイヤーでできた小さなケージです。これをカテーテルに取り付け、そのカテーテルを切開部(鼠径部に作ることが多い)から血管に挿入して、血栓がある位置まで進めます。そこでケージを開いてから、血栓を取り囲むようにして閉じ、そのケージを血栓ごとカテーテルの中を通して引き抜きます。脳卒中の開始から6時間以内に行われた場合、ステントリトリーバーによる機械的血栓除去術は、大きな閉塞がある患者の予後(経過の見通し)を劇的に改善することができます。こうした器具により、90~100%の人で血流を回復させることができます。

機械的血栓除去術は脳卒中の専門施設だけで行われています。

抗血小板薬と抗凝固薬

血栓溶解薬を使えない場合は、ほとんどの人に、病院到着後すぐにアスピリン(抗血小板薬)が投与されます。抗血小板薬は、血小板が集まって血栓を作るのを妨げます。(血小板は、血液中にある細胞のような微細な粒子で、血管の損傷時に血液がかたまるのを助けます)。

他の治療を行っても症状が悪化していると思われる場合は、ヘパリンやワルファリンなどの抗凝固薬が使用されます。これらは、特定の種類の脳卒中(脳内の静脈にできた血栓、心房細動、または首の動脈の解離によるものなど)の治療に使用されることもあります。抗凝固薬は、血液がかたまるのを助ける血液中のタンパク質(凝固因子)を阻害します。

血栓溶解薬を使用している場合は、少なくとも24時間待ってから抗血小板薬または抗凝固薬を開始するのが通常です。これは、血栓溶解薬によってすでに高くなっている脳での出血リスクが、これらの薬剤によってさらに上昇するのを防ぐためです。抗凝固薬は、コントロール不良の高血圧がある人や、出血性脳卒中を起こした人には使用されません。

脳卒中の長期治療では通常、血栓ができるリスク(ひいては次の脳卒中が起こるリスク)を抑えるために、アスピリンやその他の抗血小板薬が使用されます。アスピリンにアレルギーがある患者には、アスピリンの代わりにクロピドグレル(別の抗血小板薬)が使用されます。軽微な脳卒中にはクロピドグレルとアスピリンが併用されることがあります。発症から24時間以内にこれらの薬剤を併用すると、アスピリンを単独で使用する場合と比べて、さらなる脳卒中のリスクが低下するようですが、その効果は脳卒中後最初の3カ月間だけに限られます。それ以降は、アスピリン単独と比べて、これらを併用することの利点はなくなります。また、クロピドグレルとアスピリンを併用すると、出血のリスクがわずかに高まります。

抗血小板薬は、心臓の血栓を予防することはできないと考えられているため、心房細動や心臓弁膜症がある人には、抗血小板薬ではなく抗凝固薬(ワルファリンなど)が投与されます。ときとして、脳卒中が再発するリスクが高い人に、アスピリンと抗凝固薬の両方が投与されることがあります。

ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバンは、ときにワルファリンの代わりに使用される新しい抗凝固薬です。これらの新しい抗凝固薬は、ワルファリンとは異なり、血液検査(血液が凝固するまでの時間を調べる)による定期的なモニタリングを行う必要がないため、より簡便に使用できます。また、これらの薬は食事の影響を受けず、ほかの薬と相互作用を起こす可能性も低くなっています。これらの抗凝固薬にも短所があります。ダビガトランとアピキサバンは1日2回の服用が必要です。(ワルファリンは1日1回です。)さらに、これらの新しい薬剤の効果を得るためには、一度でも服用を忘れてはならず、また、これらの薬はワルファリンよりもかなり高価です。

手術

虚血性脳卒中の発作が終わった後に、内頸動脈内の動脈硬化による脂肪沈着物(アテロームあるいはプラーク)または血栓を取り除く手術(頸動脈内膜剥離術)が行われることがあります(図「脳への血液供給」を参照)。頸動脈内膜剥離術と呼ばれるこの手術は、以下のすべてに当てはまる人に有用です。

  • 頸動脈が70%以上狭窄したために脳卒中が起こった(あるいは60%以上狭窄したために一過性脳虚血発作が起こった)。

  • 原因になった動脈から血液の供給を受けている脳組織は、脳卒中後も一部が機能している。

  • 患者の期待余命が5年以上である。

このような人では、頸動脈内膜剥離術によって、それ以降の脳卒中のリスクが低下する可能性があります。この手術によって、梗塞が起こった領域への血液供給は回復しますが、一部の脳組織はすでに死んでいるため、失われた機能を回復させることはできません。

頸動脈内膜剥離術では、全身麻酔が用いられます。この手術では、詰まっている首の動脈の上の皮膚に切開を加え、続いて問題の動脈に切開を加えます。そして詰まりを取り除いたら、切開部を閉じます。その後2~3日間は首が痛み、食べものや飲みものを飲み込むのが困難なことがあります。多くの人は1~2日間で退院します。術後3週間ほどは重い物を持ち上げるのを控えるべきです。数週間で通常の生活に戻ることができます。

ただし、頸動脈内膜剥離術では手術中に血栓などが剥がれて、それが血流に乗って移動して動脈を詰まらせることがあるため、この手術によって脳卒中が起こる可能性もあります。しかし手術後は、薬物療法を行った場合と比べて脳卒中のリスクが低く、このリスクが低い状態は数年にわたって続きます。この手術を受けた人は冠動脈疾患の危険因子をもつことが多いため、この手術によって心臓発作が起こることがあります。

動脈内膜剥離術を受ける人は、この手術の経験が豊富で、術後の重篤な合併症(心臓発作、脳卒中、死亡など)の発生率が低い外科医を探すべきです。そのような外科医を見つけることができない場合、頸動脈内膜剥離術は、期待される有益性よりリスクの方が大きくなるかもしれません。

ステント

動脈内膜剥離術のリスクが高すぎる場合や、動脈の解剖学的構造が原因で行うことができない場合は、より体への負担が小さい治療法を選択することも可能です。部分的に閉塞した頸動脈に対しては、先端に傘の骨組みのような形状のフィルターが付いたステント(網目状のワイヤーでできた筒)をカテーテルを用いて留置する方法があります。ステントを留置したら、ステントを開いて動脈が開通した状態を維持させます。フィルターにより、処置中に破片が発生しても、補足することができます。このフィルターは、ステントを留置した後に取り出します。

局所麻酔を施した後、鼠径部の近くまたは腕にある太い動脈に小さな切り込みを作り、この切り込みからカテーテルを挿入し、その先端を首にある内頸動脈まで進めます。続いて、造影剤(X線画像に写る物質)を注射してからX線撮影を行い、狭窄の部位を特定します。ステントを留置したら、フィルターとカテーテルを抜き取ります。この手技は患者が覚醒した状態で行われ、通常は1~2時間で終わります。

ステントの留置は、頸動脈内膜剥離術と比べて同程度に安全で、脳卒中や死亡を予防する効果も同等とみられています。

他のタイプの大きな閉塞した動脈に対しても、同様の処置を行うことができます(図「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について理解する」を参照)。

脳卒中の長期的治療

脳卒中の長期治療では、以下のような対策を行います。

  • 脳卒中の影響を悪化させる問題のコントロール

  • 脳卒中によって生じる問題の予防または治療

  • 将来の脳卒中の予防

  • 同時に存在する他の病気の治療

回復期には、高血糖(血糖値が高いこと)と発熱が脳卒中後の脳損傷を悪化させることがあります。血糖値や熱を下げると損傷が抑えられ、機能が向上します。

脳卒中を起こした人が食べたり飲んだり、薬を内服したりし始める前に、飲み込みに問題がないかを確認します。飲み込みに問題があると、誤嚥性肺炎につながる可能性があります。この問題を予防するための対策は、早期に開始されます。問題が認められたら、療法士が患者に安全に飲み込む方法を教えます。ときにチューブを介して栄養を与えなければならないことがあります(経管栄養)。

患者が自分で動けない、または動くのが難しい場合は、脚の血栓(深部静脈血栓症)や床ずれができるリスクがあります。血栓ができるのを防ぐために、圧縮した空気で脚を圧迫するストッキングを使うことがあります。これは、電気ポンプの力で繰り返しふくらはぎを圧迫し、血液を静脈から心臓に向けて流すというものです。また、血栓ができるリスクが高い患者には、ヘパリンなどの抗凝固薬を腹部または腕の皮膚の下に注射することもあります。ときに、抗凝固薬の内服薬が処方されます。

床ずれを予防するための対策は、早期に開始されます。例えば、スタッフが定期的にベッドでの体位(姿勢)を変えて床ずれができないように努め、床ずれができかけているところはないか、皮膚を詳しく調べます。

脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病、喫煙、過度の飲酒、コレステロール高値、肥満など)をコントロールまたは治療することは、将来の脳卒中の予防に役立ちます。

スタチン系薬剤(アトルバスタチンなど)は、コレステロールやその他の脂肪(脂質)の血中濃度を下げる薬です。動脈に脂肪性の沈着物がたまって脳卒中が起こった場合、この薬剤が投与されます(動脈硬化)。この治療は、脳卒中の再発予防に役立ちます。

動脈硬化による脳卒中を予防するために、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)が内服で使用されることがあります。この種の薬剤としては、アスピリン、低用量アスピリンとジピリダモールの配合剤、クロピドグレル、クロピドグレルとアスピリンの併用などがあります。アスピリンにアレルギーがある人には、クロピドグレルが使用できます。

クロピドグレルとアスピリンを併用すると、アスピリンを単独で使用する場合と比べて、さらなる脳卒中のリスクが低下するようですが、その効果は脳卒中後最初の3カ月間だけに限られます。それ以降は、アスピリン単独と比べて、これらを併用することの利点はなくなります。また、クロピドグレルとアスピリンを長期間併用すると、出血のリスクがわずかに高まります。抗血小板薬は出血のリスクを高めることから、通常は、ワルファリンを服用している人に抗血小板薬は処方されません。ただし、ときに例外もあります。

血栓による脳卒中を予防するために、抗凝固薬(ワルファリンなど)の内服が用いられることがあります。ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバンは、ときにワルファリンの代わりに使用される比較的新しい抗凝固薬です。これらの新しい抗凝固薬は、ワルファリンとは異なり、血液検査(血液が凝固するまでの時間を測定する)による定期的なモニタリングを行う必要がないため、より簡便に使用できます。また、これらの薬は食事の影響を受けず、ほかの薬と相互作用を起こす可能性も低くなっています。しかしこれらの抗凝固薬にも短所があります。ダビガトランとアピキサバンは1日2回の服用が必要です。(ワルファリンは1日1回です。)さらに、これらの新しい薬剤の効果を得るためには、一度でも服用を忘れてはなりません。また、これらの薬はワルファリンよりもはるかに高価です。

心不全、不整脈、肺感染症など他の病気があれば、それに対する治療も必要になります。

脳卒中は、気分の変動、特に抑うつの原因になることが多いため、患者が抑うつ状態にあるように見える場合、家族や友人は医師に知らせるべきです。抑うつは抗うつ薬精神療法で治療できます。

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