タバコ使用は、個人的および公衆的に重大な健康問題となっています。タバコ使用は体のほぼすべての臓器に有害です。
タバコはニコチンの作用を得るために使用されます。ニコチンは肺の中に吸い込まれることで、依存性が非常に高くなります。喫煙は、タバコの使用形態の中で最も有害ですが、成人で最も一般的な使用形態です。電子タバコは10代の若者の間で最も一般的にタバコ使用の形態です。葉巻またはパイプ(水タバコを含みます)で使用する人は少数です。噛みタバコやディップタバコなどの経口のタバコ製品を使用する人もいます。
喫煙は、心臓発作、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの病気のリスクを高めます。
ニコチンはタバコに含まれる依存性の強い物質です。
ニコチンの使用をやめた人は、離脱期間中イライラし、不安で、悲しく、落ち着きのない状態になることがあります。
喫煙をすると、ニコチンは速やかに(10秒以内)脳に到達し、非常に高い依存性を示します。タバコには、ニコチンに加えて、タールや一酸化炭素のほか、4000種近くの成分が含まれていて、その多くが有害です。それらのタバコ成分は、疾患および死亡の重大なリスクの原因となります。
米国でも世界でも、喫煙は依然として予防可能な病気および死亡の主要な原因となっています。長期にわたって喫煙している人の約3人に2人が、喫煙を原因とする疾患のために早期死亡に至ります。米国では毎年50万人以上がタバコ関連の病気で死亡していて、これはつまり、米国では5人に1人の死亡が喫煙に関連しているということになります。喫煙をすると、がんや心疾患、肺疾患の原因物質を含めた数百もの物質を吸い込むことになるため、喫煙は致命的な行為です。無煙タバコ製品も、毒性物質が含まれているため、喫煙の安全な代替品ではありません。
大半のニコチン曝露は喫煙によるものですが、小児が誤ってニコチンを摂取することもあります(通常は紙巻きタバコや灰皿に残った吸い殻、ときにニコチンガム、ニコチンパッチ、電子タバコ用リキッドの誤飲によります)。
さらに米国では、喫煙は意図しない住宅火災の最も一般的な原因です。米国連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency:FEMA)の推定によると、喫煙が関係する住宅火災が毎年約7800件発生しており、それにより約275人の死亡、750人の負傷、および3億6100万ドルの資産損失が生じています。(FEMA:喫煙による住宅火災の傾向[2012~2021年][FEMA: Residential Building Smoking Fire Trends [2012-2021]]を参照のこと。)
米国におけるタバコの使用量は過去50年にわたって減少しています。しかし、人口の増加により、米国における喫煙者の絶対数は約4600万人で、以前とほとんど変わっていません。タバコは青年や成人に、主に店頭で激しく売り込まれています。毎日、約1600人の18歳未満の若者が初めての喫煙を行い、約200人の若者が毎日喫煙をするようになります。
妊婦および小児
妊娠中の喫煙は、発育中の胎児から酸素を奪い、低出生体重、早産、胎児の死亡を引き起こすことがあります。妊娠中の喫煙はまた、乳児突然死症候群(SIDS)のリスクを高めます。喫煙習慣のある成人の10人中9人は、脳が最も発達する時期である18歳未満で喫煙を始めていることから、喫煙は小児科疾患とみなされています。
タバコ使用の症状
喫煙は体のほぼすべての臓器に害を及ぼします。
即時作用
ニコチンは、脳の快楽中枢を活性化させる刺激物質です。喫煙で体内に入ったニコチンは、活力と集中力を増加させたり、食欲を減退させたりします。依存症の人では、喫煙によりニコチンの離脱症状が軽減され、リラックス感が得られることがあります。ニコチンに慣れていない人では、吐き気や紅潮がみられることがあります。
大量のタバコの葉を素手で扱う人は、皮膚からニコチンを吸収し、吐き気、嘔吐、下痢、発汗、脱力感が現れる場合があります。この病気はグリーンタバコ病と呼ばれています。
小児がタバコ製品やニコチンガムを食べたり、電子タバコ用リキッドを摂取したりすると、紙巻タバコ1本ほどの少量でも、興奮や錯乱に加えて、吐き気や嘔吐、下痢、発汗、脱力感が現れることがあります。しかし、嘔吐により胃内容物が出てしまうということからも、小児で重度または致死的な毒性が現れることはあまりありません。(米国中毒情報センター協会:電子タバコおよびニコチン[American Association of Poison Control Centers: E-cigarettes and Nicotine]も参照のこと。)
長期的な影響
副流煙
喫煙者でない人でも、燃焼しているタバコや近くにいる人が吸っているタバコの煙にさらされた場合(受動喫煙または間接喫煙)、喫煙者と同じ病気を発症することがあり、特に繰り返し持続的にさらされた場合、その可能性が高くなります。米国公衆衛生局は、受動喫煙に安全なレベルはないと結論づけています。
タバコの煙にさらされている小児では、さらされていない小児と比べて学校の病欠日数が多くなります。
無煙タバコ
電子タバコ
電子タバコまたはベイプペンとは、バッテリーと、液体(しばしばニコチンを含む)を加熱するアトマイザーが入ったカートリッジから構成される装置です。電子タバコの長期リスクは不明です。
その他の影響
喫煙は薬剤と相互作用を起こすことがあります。その影響の大部分は肝臓に影響を及ぼすタール(喫煙の副産物)によるもので、ニコチンによるものではありません。そのため、大半の影響はニコチン代替療法(NRT)ではみられません。喫煙により、皮膚が乾燥したりしわができたりし、髪の毛が薄くなったり、歯や指が黄色くなったりもします。喫煙者では、喫煙しなかった場合と比べて4.5キログラムほど体重が軽くなる傾向がありますが、禁煙するとすべての人で体重が増加するわけではありません。また、喫煙の有害作用は、体重増加のリスクを大幅に上回ります。雇用主にとって、喫煙する従業員は、喫煙しない従業員より平均して毎年5000ドル以上余分に費用がかかります。医療費が高く、仕事の欠勤が多くなるためです。喫煙により失業のリスクが高くなり、再就職先を見つけるのが難しくなります。
離脱症状
ニコチンからの離脱により、ニコチンへの渇望、易刺激性、不安、集中力の低下、落ち着きのなさ、振戦、抑うつ気分、体重増加、頭痛、眠気、胃の不調などの多くの不快な症状が現れることがあります。重度の依存症の人では、離脱は大変厄介です。ニコチンの離脱症状は最初の3日間でピークを迎え、2~4週間で治まりますが、一部の症状(渇望など)はより長く続く場合があります。
タバコ使用の診断
医療専門職による問診
医療専門職には、すべての人に対してタバコ使用に関する問診をするように推奨されています。多くの人にとって喫煙は、治療を必要とする依存症となっています。使用する量(1日当たりの喫煙本数[現在および過去])と、起床してからどれくらい早く喫煙するか(30分以内が有用な尺度)の評価は、タバコへの依存とニコチン嗜癖の重症度を示す指標となります。回答から、禁煙のための薬剤や投与量を選択する上での指針も得られます。
ニコチン中毒は見過ごされることがあります。例えば、見えないところで小児がタバコやニコチンガムを飲み込む場合があります。小児がタバコを口に入れているのを目撃した場合でも、実際にどれくらい飲み込んだのか判断するのが難しいことがあります。グリーンタバコ病の患者は、自分の症状がタバコを素手で扱うことと関連しているとは思わないかもしれません。
タバコ使用の治療
症状に対する治療
禁煙
小児がニコチンを含む製品を食べた場合を除き、緊急の治療が必要なことはほとんどありません。医師はときに、消化管に残っているニコチンを吸着させるために、患者に活性炭を飲ませます。興奮が激しい小児には、ロラゼパムなどの鎮静薬が投与されることがあります。
禁煙は非常に難しいことが多く、再発は一般的です。禁煙に成功するためには、通常、何度も挑戦しなければなりません。科学的根拠に基づいた治療は、長期的な成功の可能性を2倍以上に高めます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国がん協会:タバコを吸わないようにするには(American Cancer Society: Stay Away from Tobacco):タバコ製品のリスクと禁煙方法に関する情報を提供しています。
米国肺協会:禁煙(American Lung Association: Quit Smoking):喫煙者やその愛する人たちのために、禁煙の助けとなるツール、ヒント、サポートを提供しています。
Cancer.Net:がん診断後の禁煙(Cancer.Net: Stopping Tobacco Use After a Cancer Diagnosis):がんと診断された後にタバコをやめる助けとなる情報を提供しています。
米国疾病予防管理センター:元喫煙者からのヒント(Centers for Disease Control and Prevention: Tips from Former Smokers):喫煙関連疾患とともに生きる人々からの体験談および喫煙者の禁煙を支援するための情報を提供しています。
米国疾病予防管理センター:若者の喫煙を予防する(Centers for Disease Control and Prevention: Youth Tobacco Prevention):教師、コーチ、親、その他若者に禁煙を促す教育に携わっている人向けのファクトシートやインフォグラフィックなどの情報を提供しています。
Smokefree.gov:禁煙情報、個人に合わせた禁煙プラン、テキストベースのサポート、携帯電話用の禁煙アプリケーション(アプリ)など、特に特定の集団を対象に米国の喫煙率低下を促進することを目的とした米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)の情報源を提供しています。