不妊症とは、妊娠できずにいる状態や妊娠を成功させるのに医学的な介入が必要になっている状態によって定義される病気です。
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世界保健機関(WHO)と米国生殖医学会(ASRM)は、不妊症を病気と定義しています。35歳未満の女性で自身とパートナーのどちらにも不妊症の原因が認められない場合は、12カ月にわたり定期的に避妊なしで性交を行ってみてから、医師による評価を受けるべきです。35歳以上の女性は6カ月後に評価を受けるべきです。
避妊なしで性交を頻繁に行う場合、通常は以下の割合で妊娠します。
3カ月以内に全カップルの70%
6カ月以内に全カップルの80%
1年以内に全カップルの90%
妊娠の可能性を最大限に高めるためには、排卵前の6日間(特に3日間)に頻繁に性交すべきです。排卵は通常、月経周期の半ば、つまり次の月経初日のおよそ14日前に起こります。
女性が排卵時期を予測するのには、以下に示す2つの一般的な方法を用いることができます。
排卵検査薬を使用する(おそらく最良の方法)
安静時の体温(基礎体温)を測定する
排卵検査薬は自宅で使用できる最も正確な方法ですが、その精度は100%ではないため、排卵を見逃す可能性があります。排卵検査薬は、尿中の黄体形成ホルモンの増加を検出するものです。(黄体形成ホルモンは卵巣を刺激し排卵を誘発します。)通常、排卵の24~36時間前にこの上昇が起こります。通常、検査は数日間連続で繰り返す必要があるため、排卵検査薬には一般的に5~7本のスティックが含まれています。排尿中にスティックに尿をかけるか、清潔な容器に入れた尿にスティックを浸します。
別の選択肢として基礎体温の測定があります。月経が規則的な場合は、毎日ベッドから出る前に体温を測定することが排卵時期の推定に役立つ可能性があります。体温が下がったことは、排卵が近いことを示唆しています。0.5℃以上の上昇は排卵がちょうど起こったことを示唆します。しかし、この方法は時間がかかり、信頼性も低く、正確ではありません。せいぜい排卵が起こって2日ほど経ってから排卵日を予測できる程度です。
排卵が起こる時期を推定すること(それにより性交に最適な時期を推定すること)は、定期的に性交をしていないカップルで特に助けになる場合があります。
不妊症の原因
不妊症の原因は、男性側にある場合もあれば、女性側にある場合もあり、両方にある場合もあります。原因としては病気のほか、以下のような生殖機能に関する問題が考えられます。
精子(20~35%のカップル)
排卵(20~25%)
卵巣内の健康な卵子の数(加齢とともに増加する原因)
子宮内膜症(最大40%)
卵管(最大65%)
子宮の異常(子宮筋腫など)または骨盤内のその他の異常(2%以上)
頸管粘液(約3%)
原因不明(15~25%)
多量のカフェインまたはアルコールの摂取や喫煙は、女性の妊よう性を低下させる可能性があるため、控えるべきです。
大半の研究では、45歳以上の男性は若年男性より妊よう性が低いと報告されています。
不妊症の診断
医師による評価
疑われる原因に応じた様々な検査
不妊症の診断には、パートナー双方の十分な評価が必要です。通常、評価は最低1年間妊娠を試みてから行われます。ただし、以下の場合はそれより早く行われます。
女性が35歳以上である(通常6カ月間妊娠を試みた後で評価)。
女性の月経回数が少ない。
女性に子宮、卵管、または卵巣のすでに特定された異常がある(例えば、卵巣が片方しかない)。
医師が男性に精子の問題を特定している、または問題の疑いがある。
原因を解明するために、通常はカップルの双方に対して検査を行います。具体的な検査としては以下のものがあります。
血液検査:排卵(卵巣からの卵子の放出)に関係する卵胞刺激ホルモンなど、ホルモンを測定する
超音波検査またはその他の画像検査:子宮または卵管の異常がないか調べる
精液検査:精子の異常がないか調べる
不妊症の治療
原因の治療
ときに薬剤
ときに生殖補助医療
禁煙など、危険因子の影響を除去または軽減するための生活習慣の改善
不妊症の具体的な原因が特定できなくても、妊娠を希望するカップルには治療が有益となることがあります。このような場合、複数の卵子を刺激して成熟させ、排卵を引き起こす薬剤である排卵誘発薬が投与されることがあります。例えばクロミフェン、レトロゾール、ヒトゴナドトロピンなどの薬剤があります。これらの薬剤は排卵の異常がある女性に最も役立ちます。
あるいは、生殖補助医療や以下のような処置を用いることもあります。
子宮内精子注入では最も運動性の良好な精子のみを選んで子宮内に直接注入します。
体外受精では、卵巣を刺激して成熟した卵子を採取し、それを培養皿の中(体外)で精子と受精させ、できた胚を培養液の中で発育させ、1つまたは複数の胚を女性の子宮に着床させます。
排卵誘発と生殖補助医療は、多胎妊娠(双子や三つ子など)につながる可能性があります。
不妊症の人には、特定の危険因子を最小限に抑えるため、生活習慣の改善に取り組んでもらうこともあります。例えば、喫煙者に対する禁煙、過体重の人に対する減量、禁酒または飲酒の制限、ならびにバランスのとれた食習慣(必要であればビタミン剤を含みます)が推奨されます。
不妊治療を受けている間は、カップルの一方または双方が欲求不満、精神的ストレス、無力感、罪悪感などを経験することがあります。希望を抱いては失望することを繰り返す可能性もあります。孤立感やコミュニケーションがうまくいかないもどかしさから、パートナーや家族、友人、医師に対して怒りや恨みといった感情を抱くこともあります。精神的ストレスから、疲労や不安、睡眠や摂食の障害、集中力の低下などが起こります。さらに、診断と治療に伴う経済的負担や時間的拘束によって、パートナ間の関係にストレスが生じる可能性もあります。
パートナーの双方がそのプロセスに関わり、治療プロセスに関する情報(所要期間を含みます)を得ることで、不妊治療によるストレスの管理を改善できる可能性があります。これから起こることと成功の可能性を知っておくことは、カップルがストレスに対処する助けになります。
治療前または治療中に尋ねておくべき質問として、以下のものがあります。
いつ治療をやめるべきか
いつセカンドオピニオンを求めるべきか
いつ養子縁組を検討すべきか
例えば、もし3年間妊娠を試み続けて妊娠しなければ、あるいは2年間不妊治療を受け続けて妊娠しなければ、妊娠の可能性は非常に低くなります。
様々な支援団体(米国ではRESOLVEやFamily Equalityなど)によるカウンセリングや心理的支援も利用することができます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
世界保健機関(WHO):不妊症(World Health Organization (WHO): Infertility):不妊症の定義と世界の推定有病率に関する情報
RESOLVE:全国不妊症協会(RESOLVE: The National Infertility Association):不妊症、考えられる治療法や解決策(養子縁組や代理出産)、経済的な問題に関する一般的な情報のほか、支援団体へのリンク、ストレスを管理する方法、友人や家族へのアドバイス、LGBTQ+ の人が子どもをもつことを支援するための情報
Family Equality:妊娠に関する情報(費用など)、養子縁組、子育て、およびLGBTQコミュニティに関連した法的問題に関する情報