慢性閉塞性肺疾患は、気道が狭くなる状態(閉塞)が持続する病気で、肺気腫や慢性閉塞性気管支炎、またはその両方に伴って発生します。
この病気の原因として最も重要なのは、紙巻タバコの喫煙です。
この病気になると、せきが出て、やがて息切れが現れます。
診断は、胸部X線検査と肺機能検査によって下されます。
禁煙とともに、気道の開口を保つ効果がある薬剤を服用することが重要です。
病状が重い患者は、他の薬剤を追加したり、酸素を使用したり、呼吸リハビリテーションを受けたり、まれに肺容量減少手術を受けたりする必要があります。
米国には、約1600万人の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者がいます。よくみられる死亡原因でもあり、米国におけるこの病気による死亡者数は、毎年15万人以上にのぼります。
COPDの患者数は世界的に増えつつあります。COPDに寄与する因子として、多くの国で喫煙率が上昇していること、また世界的にみると、木材や草などのバイオマス燃料に含まれる毒素への曝露が挙げられます。医療が行き届いていない国では死亡率が上昇している可能性があります。2030年までに、COPDは世界における死因の第3位になると予想されています。
COPDがあると、息を吐くとき(呼気時)に、肺から空気が吐き出される速度が低下した状態が続きますが、これを慢性の気流閉塞と呼びます。COPDには、慢性閉塞性気管支炎と肺気腫の診断が含まれます。両方の病気がみられる患者も多くいます。
慢性気管支炎の定義は、連続した2年間で、たんがからんだせきが少なくとも3カ月間みられることとされています。慢性気管支炎に伴って気流閉塞が起こると、慢性閉塞性気管支炎とみなされます。
肺気腫の定義は、肺胞壁(肺を構成している空気の袋[肺胞]を支えている細胞)が広範囲かつ不可逆的に破壊され、肺胞の拡大が数多くみられます。
慢性喘息性気管支炎は慢性気管支炎と似た病態です。たんを伴うせきに加え、喘鳴や部分的に可逆的な気流閉塞がみられます。主に、喘息のある喫煙者が発症します。一部の症例では、慢性閉塞性気管支炎と慢性喘息性気管支炎の区別は不明瞭であり、そのためこの病態は喘息-COPDオーバーラップと呼ばれることがあります。
肺の細い気道(細気管支)には平滑筋があり、肺胞壁と連結しているため、通常は気道が開いた状態に保たれます。肺気腫になると、肺胞壁との連結が破壊されるため、息を吐く際に細気管支がつぶれ、永久的かつ不可逆的に気流が閉塞します。慢性気管支炎では、肺の太い気道(気管支)の内面を覆っている粘液腺が腫れて、粘液の分泌量が増加します。細気管支に炎症が起こると、肺の組織にある平滑筋が収縮し、気流の閉塞がさらに進行します。炎症により、気道が腫れ、気道内部への分泌物が増加するため、気流がさらに制限されるようになります。最終的に、肺内の細い気道は狭くなり、破壊されます。気流の閉塞は喘息の特徴でもあります。しかしCOPDによる気流の閉塞と異なり、喘息における気流閉塞は、ほとんどの場合、自然にまたは治療を行うことによって元に戻ります。
COPDで気流閉塞が起こると、完全に息を吐き出したと思っても、肺の中に空気が残るようになり、呼吸するのにますます努力が必要になります。また、COPDでは、肺胞壁にある毛細血管の数が減少します。このような異常によって、肺胞と血液との間で行われる酸素と二酸化炭素の交換が妨げられます。COPDの初期段階では、血液中の酸素レベルが低下している場合がありますが、二酸化炭素レベルは正常のままです。病気が進行した段階になると、二酸化炭素レベルが上昇して、酸素レベルがさらに低下します。
COVID-19のパンデミックによって、COPDの患者は特にリスクにさらされています。COPDがあると、COVID-19による入院や死亡のリスクが高まります。しかし、全体的に見て、COPDの患者は、COVID-19パンデミック中に以前より入院する頻度が低くなりました。呼吸器感染症に対する予防策(例えば、マスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保)を講じる機会が増えたことが、COPD患者の入院が減った理由と考えられています。また、COPDの急性増悪などの症状のある人は、COVID-19に感染することを恐れて、地域の救急医療機関に行くのを控えていた可能性もあります。
COPDの原因
COPDの最も重要な原因は以下のものです。
喫煙
COPDを発症するのは喫煙者の約15%のみです。紙巻タバコの喫煙者の中でもこの病気にかかりやすい素因がある人では、非喫煙者に比べて、加齢に伴う肺機能の低下が急速に進みます。禁煙しても、肺機能は少ししか改善しません。ただし禁煙すると、加齢による肺機能の低下速度が非喫煙者と同程度に戻るため、症状の発生や進行が遅くなります。パイプや葉巻を吸う人は、非喫煙者よりCOPDの発生率が高いものの、紙巻タバコを吸う人ほど高くはありません。マリファナを吸うとCOPDになりやすいかどうかははっきりしていません。
化学物質の煙霧や粉塵、または屋内での調理による大量の煙にさらされる環境で働いていると、COPDのリスクが高まる可能性があります(環境性肺疾患の概要を参照)。大気汚染にさらされた場合や近くでタバコを吸っている人の煙を吸い込んだ場合(間接喫煙または受動喫煙)は、COPDが急性増悪することがありますが、COPDが引き起こされること自体はないと考えられています。
一部の家系ではCOPDが高い頻度で発生するため、一部の人には遺伝的な傾向があると考えられます。
まれなCOPDの原因として、アルファ1-アンチトリプシンというタンパク質が体内で十分な量がつくられない遺伝性疾患があります。このタンパク質の主な機能は、特定の白血球がもつ好中球エラスターゼという酵素が肺胞に傷害を与えないように保護することです。そのため、重度のアルファ1-アンチトリプシン欠乏症(アルファ1-アンチプロテアーゼ欠乏症とも呼ばれます)の患者は、中年になるまでに肺気腫を発症し、喫煙者の場合はさらにリスクが高まります。
COPDの症状
COPDは数年かけて発生し、進行します。
初期のCOPD
COPDの進行
中年から60代後半になるまでに、運動に伴う息切れはさらにひどくなり、患者が喫煙を続けている場合は特にその傾向が強くなります。
また、肺炎などの肺感染症が頻繁に発生します。感染によって、安静時にもひどい息切れが生じるようになり、入院が必要になる場合もあります。肺の感染症から回復した後も、トイレ、入浴、着替え、性生活などの日常的な動作をする際に息切れが続くことがあります。
重度のCOPD患者の約3分の1では、体重の大幅な減少がみられます。体重減少の原因ははっきりしていませんが、人によって異なる可能性があります。考えられる原因として、息切れのために食事をとるのが困難なこと、血液中の腫瘍壊死因子と呼ばれる物質の濃度が上昇することなどが挙げられます。
COPDの患者では、喀血が間欠的にみられることがあり、これは通常、気管支の炎症によるものですが、肺がんの心配が常に付きまといます。
睡眠中は呼吸が少なくなるため、血液中の二酸化炭素レベルが上昇し、酸素レベルが低下して、起床時に頭痛が起こる場合があります。
COPDが進行するにつれ、特に肺気腫がある患者では、特殊な呼吸パターンがみられるようになります。口をすぼめて息を吐く人もいれば、立ち姿勢で両腕を伸ばし、テーブルに手や肘をついて体を支える人もおり、こうすることで一部の呼吸筋の働きがよくなり、呼吸が楽に感じられることがあります。
やがて、空気が肺にたまり続けるために肺が膨張し、胸がたる状に大きくなる現象(樽状胸)が多くの患者でみられるようになります。また、血液中の酸素レベルが低下することにより、皮膚が青っぽい色に変化することがあります(チアノーゼ)。ばち状指がみられることはまれですが、これがあると肺がんまたはその他の肺疾患の疑いが強くなります。
肺のもろくなった部分が破裂し、肺から胸腔へ空気が漏れ出すことがあり、この状態を気胸と呼びます。この状態になると、しばしば痛みや息切れが突然現れ、胸腔から空気を抜くために医師による緊急処置が必要になります。
COPDの急性増悪
COPDの急性増悪とは、通常、せき、たんの増加、息切れなどの症状が悪化することです。たんの色は、黄色または緑色に変わることが多く、発熱や全身の痛みが現れることもあります。安静時にも息切れをきたすことがあり、重症の場合は入院が必要になることもあります。ひどい大気汚染、一般的なアレルゲン、ウイルスや細菌感染などが、急性増悪を引き起こします。
重度の急性増悪が起こると、急性呼吸不全という生命を脅かす状態に陥ることがあります。その場合にみられる可能性のある症状として、激しい息切れ(「溺れているような」とたとえられる感覚)、重度の不安、発汗、チアノーゼ、錯乱などがあります。
COPDの合併症
酸素の投与によって酸素レベルの低下を治療しなければ、合併症が起こる可能性があります。血液中の酸素レベルが低下しても治療せずに放置しておくと、骨髄が刺激され、より多くの赤血球が血液中へ放出されるようになり、二次性赤血球増多症と呼ばれる状態になります。血液中の酸素レベルが低下すると、右心室から肺へと続く血管も収縮し、その結果これらの血管の圧が上昇します。この圧の上昇を肺高血圧と呼び、その結果、右心室が機能しなくなることがあります(この状態は肺性心と呼ばれます)。右心不全のある患者では、脚にむくみが生じます。
二酸化炭素濃度の上昇によって、血液が酸性になります(呼吸性アシドーシス)。患者には眠気が生じ、問題が是正されなければ、昏睡に陥ったり、死に至ることがあります。
さらに、COPDの患者では、心臓のリズム異常(不整脈)がみられるリスクも高くなります。COPDの患者が喫煙している場合、同じ量を喫煙していてもCOPDがない患者に比べて、肺がんになるリスクが高まります。COPDの患者では、ほかにも骨粗しょう症、うつ病、冠動脈疾患、筋萎縮、胃食道逆流症などになるリスクが高いようです。しかし、リスクの上昇がCOPDによるものなのか他の因子によるものなのかは不明です。
COPDの診断
胸部X線検査
肺機能検査
慢性気管支炎は、慢性のせきの他の原因を除外したうえで、連続した2年間でたんがからんだせきが少なくとも3カ月間続いていることに基づいて診断されます。
肺気腫は、身体診察での所見と肺機能検査の結果に基づいて診断が下されます。しかし、医師がこれらの異常に気づく頃には、肺気腫は中程度まで進行しています。胸部X線または胸部CT検査の所見も、肺気腫の診断に役立ち、ときに慢性気管支炎の診断にも役立つことがあります。医師にとって慢性気管支炎と肺気腫を鑑別することは重要ではなく、1人の患者が慢性気管支炎と肺気腫を併発していることもよくあります。患者の体調や身体機能を決定する最も重要な因子は、気流閉塞の重症度です。
軽度のCOPDでは、身体診察で異常な所見が認められない場合があります。病気が進行するにつれ、胸の音を聴診器で聞くと喘鳴が聞こえたり、正常な呼吸の音が弱くなっていること(呼吸音の減弱)が分かるようになります。吸い込んだ息を吐き出すのに、より時間がかかるようになる現象(呼気の延長)もみられます。呼吸をするときに胸部があまり動かなくなり、首や肩の筋肉を使うようになります。
軽度のCOPDでは、通常、胸部X線検査の結果は正常です。COPDが悪化するにつれ、胸部X線検査で肺に過剰な空気がたまっているのを認めるようになります(肺の過膨張)。肺の過膨張、細くなった血管、または肺内の嚢胞(ブラと呼ばれます)があれば、肺気腫が疑われます。
肺機能検査
スパイロメーターで努力呼気を測定すること(肺からどれくらいの量の空気をどれくらいの速さで吐き出すことができるかを測定する検査)により、気流閉塞の程度を調べることができます(肺機能検査を参照)。気流閉塞を証明して診断を下すには、患者が1秒間に吐き出すことのできる空気の最大量(1秒量[FEV1])が減少していることに加え、できる限り深く息を吸った後に肺から吐き出すことができる空気の量(努力肺活量[FVC])に対するFEV1の比率が減少している必要があります。
血液中の酸素レベルを測定するために、パルスオキシメーターと呼ばれるセンサーを指または耳たぶに取り付けるか、動脈から血液を採取(動脈血ガス分析)します。COPDの患者では、酸素レベルが低下している傾向にあります。病気がさらに進行すると、動脈血の二酸化炭素レベルが高くなります。
若いときにCOPDを発症した人で、特にCOPDの家族歴がある場合は、血液中のアルファ1-アンチトリプシンの量を測定し、アルファ1-アンチトリプシン欠乏症かどうかを判定します。喫煙歴のない人がCOPDを発症した場合にも、この遺伝性疾患が疑われます。
その他の検査
COPD急性増悪時の検査
COPDの急性増悪時には、しばしば血液ガスを測定し、血液中に酸素と二酸化炭素がどれぐらい含まれているかを調べます。胸部X線検査で肺感染症の証拠がないか調べることもあります。肺の感染症が疑われる場合、特に急性増悪で入院が必要になるほど重度の場合には、急性増悪の原因になっているウイルスや細菌を特定するためにさらなる検査を行います。これは、どの微生物が原因かによって治療法を決定するためです。
COPDの治療
禁煙
症状の緩和(例えば、薬を用いる)
支持療法(例えば、呼吸リハビリテーション、栄養価の高い食事)
COPDに対する最も重要な治療は、禁煙です。気流の閉塞が軽度から中程度のときに禁煙することで、多くの場合、せきの回数が減り、たんの量も減少し、息切れが現れるのが遅くなります。病気のどの時点で禁煙をしても、ある程度の効果は期待できます。同時に複数の禁煙方法を試みることで、禁煙できる可能性が最も高くなります。禁煙方法としては、禁煙日を宣言する、行動変容を促す措置をとる(例えば、入手を困難にしてタバコを遠ざける、次第に禁煙期間を長くし、それに対して自身に褒美を与えるなど)、グループカウンセリングやサポートセッションを受ける、ニコチン代替療法を行う(例えば、ニコチンガムをかむ、皮膚にニコチンパッチを貼る、ニコチン吸入器、ニコチントローチ、ニコチン鼻腔スプレーを利用する)などがあります。バレニクリンやブプロピオンといった薬剤もタバコを吸いたいという欲求を和らげるのに役立つことがあります。しかし、最も効果的な方法を用いたとしても、1年後に禁煙できている人は半数に達しません。
また、喫煙するだけでなく、受動喫煙や大気汚染などにより、空気中に浮遊する刺激物質を吸い込まないようにすべきです。
インフルエンザにかかったり、肺炎を発症したりすると、COPDが著しく悪化することがあります。このため、すべてのCOPD患者は、毎年インフルエンザワクチンを接種する必要があります。肺炎球菌多糖体ワクチンおよび肺炎球菌結合型ワクチンの両方を接種する肺炎球菌ワクチンの接種もおそらく有用です。COVID-19に対するワクチン接種も役立ちます。
COPDにより著しく体重が減少することがあるため、患者はバランスのとれた栄養価の高い食事をとる必要があります。
症状に対する治療
喘鳴や息切れは、気流の閉塞が軽減すれば減少します。肺気腫による気流の閉塞は元に戻りませんが、気管支の平滑筋のけいれん、炎症、分泌物の増加は、すべて回復する可能性があります。
吸入気管支拡張薬は、定量噴霧式吸入器やドライパウダー吸入器などを用いて投与しますが、これらの器具を用いることで、常に一定の量の薬剤を、口やのどから気道に散布できます。吸入気管支拡張薬には以下のものがあります。
抗コリン薬
ベータ作動薬
抗コリン薬もベータ作動薬も細気管支の周りの筋肉を弛緩させます。
抗コリン薬の具体例として、イプラトロピウム、ウメクリジニウム、アクリジニウム、レベフェナシン(revefenacin)、チオトロピウムなどがあります。イプラトロピウムは1日に4回ほど吸入し、アクリジニウムは1日2回、チオトロピウム、レベフェナシン(revefenacin)とウメクリジニウムは1日に1回吸入します。
サルブタモールなどの短時間作用型ベータ作動薬の吸入薬は、抗コリン薬より迅速に息切れを緩和するため、急性増悪時に最も有用である可能性があります。サルメテロール、ホルモテロール、アルホルモテロール(Arformoterol)、ビランテロール、オロダテロール、インダカテロールは、長時間作用型ベータ作動薬です。サルメテロール、アルホルモテロール(Arformoterol)、ホルモテロールは12時間毎に投与します。インダカテロール、オロダテロール、ビランテロールは1日1回投与します。ウメクリジニウムとビランテロールは、両剤を組み合わせた吸入薬が利用できます。オロダテロールも、チオトロピウムと組み合わせた薬剤として利用できます。長時間作用型ベータ作動薬は、一部の患者で症状を長時間(特に夜間)抑えるのに役立ちますが、急性の症状の緩和に使用すべきではありません。
抗コリン薬とベータ作動薬は組み合わせて使用できます。グリコピロニウムは、長時間作用型ベータ作動薬であるホルモテロールまたはインダカテロールと組み合わせて使用できる抗コリン薬です。
スペーサーと呼ばれる吸入補助具を用いて薬剤を吸入することで、多くの患者が定量噴霧式吸入器をより効果的に利用できるようになります(図「定量噴霧式吸入器の使い方」を参照)。吸入気管支拡張薬をネブライザーという器具を用いて吸入する場合もあります。この吸入方法は、病状が重い患者や定量噴霧式吸入器をうまく使えない患者のために使用すべきです。ネブライザーは薬剤を霧状にするため、薬剤の噴霧に合わせて息を吸い込む必要はありません。ネブライザーは携帯することができ、車のアクセサリーソケットに電源プラグを差しこんで使えるものもあります。
コルチコステロイドは、他の薬剤では症状を抑えられない中程度から重度のCOPD患者の多くや、他の薬剤を使用しても頻繁に急性増悪が起こる患者に役立ちます。コルチコステロイドの吸入薬では、長期にわたる肺機能の低下は防げません。それでも、この薬剤を使用することで、症状が軽減され、COPDの急性増悪が起こる頻度が少なくなります。コルチコステロイドの吸入薬は直接肺に届くため、通常用量であれば、経口薬に比べて副作用が少なくなります。しかし、コルチコステロイドを高用量で吸入すると、骨粗しょう症の悪化(特に高齢者における)など、全身に悪影響を及ぼす可能性があります。コルチコステロイドの経口薬は、主にCOPDの急性増悪の治療に限定されるか、定期的に急性増悪が起こる患者、気流の閉塞による症状が持続している患者、簡単な治療方法では効果がみられない患者に対して使用されます。
ロフルミラストなどのホスホジエステラーゼ4阻害薬は、炎症を軽減し、気道を広げます。COPDの急性増悪のリスクを低下させるため、ホスホジエステラーゼ4阻害薬と他の気管支拡張薬が併用されることもあります。ホスホジエステラーゼ4阻害薬の一般的な副作用には、吐き気、頭痛、体重減少などがありますが、使用し続けることでこれらの副作用は軽減していく可能性があります。
抗菌薬のアジスロマイシンやエリスロマイシンを長期間服用することで、COPDの急性増悪を予防する助けとなる可能性があり、特に頻回または重度の急性増悪が生じやすい人や、喫煙していない人でその傾向がみられます。
テオフィリンが使用されることはまれであり、他の薬剤で効果がみられない場合にのみ投与されます。テオフィリンの用量は医師による厳重な管理が必要で、場合によっては、血液中の薬物濃度を定期的に測定しなければなりません。長時間作用型のテオフィリンは、多くの場合、1日1回または1日2回服用するだけでよく、夜間における息切れの抑制に役立ちます。
分泌物を薄めて、せきによって吐き出しやすくするために、薬剤(去たん薬)が処方されていたこともありますが、このような薬剤が有効であるというはっきりとした科学的根拠はありません。しかし、脱水状態を避けることで、分泌物が濃くならないようにできる可能性はあります。経験則としていえるのは、朝起きて最初の尿は除いて、1日の尿の色を常に薄く保てるくらいの水分を十分にとることです。
症状のモニタリングには、しばしばパルスオキシメーターが用いられます。動脈または静脈から血液を採取して、血液中の酸素と二酸化炭素の量を測定することで、重症患者のモニタリングに有用な追加情報が得られます。
急性増悪の治療
急性増悪を起こした場合は、できるだけ早く治療を開始すべきです。細菌感染症が疑われる場合は、通常、7~10日間の抗菌薬による治療が行われます。抗菌薬を手元に置いておいて、COPDの急性増悪が起こったときにすぐに服用できるように、あらかじめ患者に渡しておく医師も多くいます。トリメトプリム/スルファメトキサゾール配合剤(ST合剤)、ドキシサイクリン、アモキシシリン/クラブラン酸、アンピシリンなど、経口で使用できる抗菌薬がいくつかあります。多くの場合、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、レボフロキサシンなどの抗菌薬は誰にでも使用されるわけではなく、より重度の肺感染症がある患者、従来の薬剤では効果がみられない患者、重度の症状がある患者、従来の薬剤で排除しにくい病原菌(耐性菌)による感染のリスクがある患者などのためにとっておかれます。耐性菌に感染する危険性が最も高いのは、免疫系が抑制されている患者や介護施設で暮らす人です。
重度の急性増悪を起こした場合は、入院して、短時間作用型のベータ作動薬とイプラトロピウム、コルチコステロイドの経口または静脈内投与、酸素投与などによる治療を行う必要があります。また、機械による呼吸の補助(人工呼吸器)が必要になったり、ときに気管内に呼吸用のチューブを挿入する必要がある場合もあります。
重症患者や頻繁に急性増悪がみられる患者の一部では、抗菌薬の長期使用が有益です。よく使用される抗菌薬としては、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシンなどがあります。しかし、抗菌薬を長期にわたって使用すると、厄介な副作用が生じたり、抗菌薬に耐性のある細菌の出現を招いたりすることがあるため、長期使用ができない、または推奨されないこともあります。
酸素療法
COPDの患者の中には、血液中の十分な酸素レベルを保つため、酸素投与を必要とする人がいます。酸素療法が短期間のみ必要になる場合もあり、これは例えばCOPDの急性増悪により入院し、その後退院した患者などに当てはまります。COPDが進行し、血液中の酸素レベルが著しく低下した患者では、酸素療法を長期的に行うことで、生存期間が長くなります。24時間連続で吸入するのが理想的ですが、1日12時間の酸素吸入でも、ある程度の効果は得られます。この治療を行うことで、血液中の酸素レベル低下による過剰な赤血球が減少し、COPDによる肺性心の緩和に役立ちます。酸素療法により、運動中の息切れも軽快します。
酸素療法には、様々な装置が利用できます。電源コンセントがあれば、電動の酸素濃縮器を使用できます。小さな酸素ボンベを使用すれば、2~6時間の外出も可能です。液化酸素装置は比較的高価ですが、酸素貯蔵装置から数時間離れることができるため、活動的な患者に適しています。他の選択肢としてバッテリー式の携帯用酸素濃縮器もあり、旅客機での移動中にも使用できます。酸素療法は、決して火やタバコの近くで行ってはなりません。
呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリテーションはCOPDの患者に役立つことがありますが、肺機能を改善させるわけではありません。このプログラムには、病気についての教育、運動訓練、栄養カウンセリング、心理カウンセリングなどが含まれます。こうしたプログラムにより、自立性や生活の質(QOL)が向上し、入院の頻度や期間が減少するとともに、運動能力が高まることが期待できます。運動プログラムは、病院の外来施設でも自宅でも行えます。脚の運動には、通常、歩行(場合によってはトレッドミル)による訓練が行われます。ときにはエルゴメータや階段昇りによる訓練が行われることもあります。腕の運動には、ウェイトリフティングによる訓練が行われます。多くの場合、運動中には酸素吸入が勧められます。運動プログラムの内容にかかわらず、運動訓練を止めてしまうと、せっかく改善した機能がすぐに失われてしまいます。また、料理、趣味の活動、性生活といった日常的な動作で息切れを起こさないための、特別な技術を学びます。
その他の治療
市販のせき止め薬は、通常まったく役に立たないため勧められません。
重度のせきの発作や痛みを緩和するために、オピオイドが用いられることがありますが、眠気や便秘の原因となるほか、せきを抑えるために感染症の原因になったり悪化させることがあり、常用すると依存や嗜癖(しへき)につながる可能性もあるため、できれば使用を避けるべきです。
重度のアルファ1-アンチトリプシン欠乏症の患者には、この不足しているタンパク質を補充することがあります。治療するためには、毎週このタンパク質を静脈内に点滴する必要があります。
重度の肺気腫が肺の上側にある場合は、肺容量減少手術を行うことがあります。治療の目標は、運動能力と生活の質を改善することです。この手術では、肺の最も重症の部分を取り除くため、肺の残った部分や横隔膜の機能が改善します。改善した状態は、少なくとも数年間続きます。手術前には、少なくとも6カ月間の禁煙が必要です。また、この手術による死亡リスクは約5%にものぼるため、手術を受ける前に集中的なリハビリテーションプログラムを受けて、手術なしでも全体的な身体機能が大きく改善する可能性があるかを判定する必要があります。
気管支内に弁を留置して、閉塞させることもあります(気管支バルブと呼ばれます)。これは、一部のCOPD患者のみに有用と考えられます。気管支バルブの留置には、観察用の柔軟な管状の機器が用いられます。
肺移植は、片肺か両肺かを問わず、一般に65歳未満で、重度の気流閉塞がみられる特定の患者を対象に行われます。肺移植で必ずしも生存期間が延びるとは限らないため、肺移植は生活の質の改善を目標として行います。移植後は生涯にわたって免疫抑制が必要なため、感染リスクが高くなります。
予後(経過の見通し)と終末期の問題
気流の閉塞が軽いうちに禁煙すれば、COPD自体は、一般に死を招いたり、重度の症状を引き起こしたりすることはありません。しかし、喫煙を止めないと、ほぼ確実に症状は悪化します。中程度から重度の気流閉塞があると、予後は次第に悪くなります。
COPDが進行すると、治療の上でも、日常生活を送る上でも、かなりの介助が必要になる可能性があります。例えば、家の一階で暮らすようしたり、一度にたくさん食べないで少量の食事に何度かに分けて食べるようにしたり、靴ひもを結ぶような靴を避けたりといった工夫が求められます。
死因には、呼吸不全、肺がん、心疾患(例えば、心不全や不整脈)、肺炎、気胸、肺につながる動脈の閉塞(肺塞栓症)などがあります。
末期状態で急性増悪を起こした場合は、挿管や人工呼吸器が必要になる可能性があります。人工呼吸器をつけている期間が長くなることがあり、死亡するまで人工呼吸器から離れられない場合もあります。このような支持療法を望むかどうか、患者自身が医師や家族らと一緒によく考えること、さらに、それを急性増悪が起きる前にすませておくことが大切です。
この支持療法とは別の選択肢として、痛みの緩和に向けた治療(延命ではない)があります。長期の人工呼吸器管理を行うかどうかについて、患者の希望を確認する最善の方法は、事前指示書を用意しておくことや、医療代理人を指名しておくことです。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
COPD財団(COPD Foundation):COPDの診断と治療に関する情報のほか、COPDの患者や介護者の支援のためのツールに関する情報を提供しています。
米国肺協会:慢性閉塞性肺疾患(American Lung Association: Chronic Obstructive Pulmonary Disease[COPD]):COPDの危険因子、診断、治療に関する情報や、禁煙やCOPDとともに生きるために役立つツールについての情報を提供しています。