患者が自分の医療に関する決定を下す能力を失った場合は、ほかの人(複数人も可)が意思決定を行わなければなりません。こうした役割を担う人を一般に代理意思決定者といいます。医療判断代理委任状が作成されておらず、医療上の決定を下す権限をもつ後見人や保佐人が裁判所によって任命されていない場合は、医療専門職は通常、既定の代理意思決定者として近親者や、ときに患者の親しい友人に頼ることになります。米国の大半の州では、既定の代理意思決定者が認められていて、通常は近親者が指定されますが、権限の厳密な範囲や許容される代理人の優先順位は州によって異なります。(医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。)
成人
大半の州では、成人に対する既定の代理意思決定者は通常、近親者であり、優先順が州法で定められています。一般に、本人の配偶者または同棲パートナー、成人した子ども、親、兄弟姉妹、その他の親族の順とされています。親しい友人をこうした場合の代理人として認める州も増えてきています。同じ順位の人が複数いる場合(成人した子どもが複数いる場合など)は、全員一致の合意が望まれますが、州によっては、医療専門職に対して多数決による意思決定に委ねたり、代表の意思決定者を1人選んでもらったりすることが許容されています。医師は、患者の病状を理解している人や、患者の利益に配慮しているように見える人の判断を受け入れる傾向があります。権限をもつ意思決定者間の対立は、決定のプロセスを大きく遅らせます。
家族や親しい友人がおらず、1人で入院している人では、裁判所が任命する後見人または保佐人を頼ることになる可能性が非常に高くなります。決断を下すべき人が明らかでない場合には、医師は病院の倫理委員会や弁護士に相談しなければならないこともあります。既定の代理人を定めた法律が存在しない州でも、医療専門職は通常であれば本人の近親者に意思決定を委ねますが、法律面の不確かな事項や家族間の意見の対立が治療の妨げになる場合があります。
小児
18歳未満の小児には、大半の州において医療上の同意に関する法的能力が認められていません。したがって、小児や未成年者に影響を及ぼす医療上の決定については、緊急事態を除くほとんどの場合、その医療行為を親または保護者の同意なしに行うことができません。親や後見人による決断は、小児のネグレクトや虐待にあたると裁判所が判定しない限り、無効とされません。主な例外が2つあります。第一に、親権から解放された未成年者は、すべての治療に対して自ら同意を与えることができます。第二に、大半の州では、一部の治療(例えば、性感染症の治療、避妊薬の処方、人工妊娠中絶、薬物および物質使用の治療、精神疾患の治療)について未成年者が親の許可なく同意することが認められています。法律の内容は州によって異なります。
医療に関する決定の法的基準
代理意思決定者は可能な限り、意思決定のプロセスに本人を参加させるべきです。すべての代理意思決定者は、本人から任命されたのか、裁判所に任命されたのか、既定の代理人であったのかを問わず、本人(成人の場合)が表明した希望に従うとともに、本人の価値観を把握している場合はそれを考慮する義務を負っています。医療専門職も本人の希望と価値観を尊重する責任を負っています。本人の希望と価値観が明らかでない場合は、代理意思決定者は常に、本人の利益が最大化する方針で取り計らう必要があります。
医療専門職には、一般に受け入れられている医療基準に反するものなど、医学的に不適切な治療を行うことは求められません。特定の治療法が医師の良心に反するものの、一般に受け入れられている医療基準の範囲内になる場合は、その医師はその希望をかなえる意思がある別の医師または病院に患者を移すよう努めるべきです(そして、大半の州ではそうすることが法的に義務づけられています)。
実際問題としては、代理人または代理意思決定者として治療に関する意思決定を行うには、まず診断、予後、代替の治療法に関するすべての事実を医療専門職から説明してもらうことが最初の一歩になります。治療に関する重大な意思決定に直面したら、代理人や代理意思決定者は次の質問を自問自答してみるべきです。
この治療または検査は重要か?どれくらい?
この治療の負担や害は便益を上回るか?
回復の見込みはあるか?もしあるなら、回復後の生活はどのようになるか?
この治療の目標は何か?それは患者の目標と一致しているか?