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DNR指示(蘇生処置拒否指示)

執筆者:Thaddeus Mason Pope, JD, PhD, Mitchell Hamline School of Law
レビュー/改訂 2023年 10月 | 修正済み 2023年 11月
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本ページのリソース

医師によってDNR(蘇生処置拒否)指示が患者の診療記録に記載されると、心肺蘇生を試みてはならないことが医療スタッフにもわかるようになります。心肺蘇生が行われないため、後続の蘇生処置(心臓への電気ショックや挿管しての人工呼吸など)も行われません。この指示は、終末期において必要がなく、望ましくなく、体に負担をかける治療を回避するのに役立ってきました。終末期の心肺蘇生の成功率は極めて低いです。(医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。)

重篤な患者に対するケア計画の一環として、本人とその主治医は、直近の病状に照らした心停止(心臓が止まり、呼吸も停止すること)の可能性、心肺蘇生処置と予想される結果、そして治療に関する希望について話し合っておくべきです。本人が心肺蘇生に関する意思決定を下せない場合は、権限をもつ代理人が決定を行うことがあります。

DNR指示は「治療の拒否」ではなく、心肺蘇生を試みないという意味です。それ以外の延命治療(抗菌薬の投与、輸血、透析、人工呼吸器の使用など)は行われることがあります。患者の状態にもよりますが、通常はこうしたほかの治療の方が心肺蘇生より成功する可能性が高くなっています。痛みや不快感を和らげる治療(緩和ケア)は、必ず行われます。

米国のすべての州では、病院以外の場所、つまり地域社会のあらゆる場所で有効な特別なDNR指示についても規定しています。このようなDNR指示を院外DNR指示、安楽ケア指示(患者を惨めでない状態または苦痛がない状態にするためのケアのみを行うよう指示したもの)、No CPR(心肺蘇生拒否)指示などといいます。通常、こうした特別なDNR指示には、医師と患者(または患者の代理人)の署名が必要です。この場合には、一目ではっきりとDNR指示を行ったことが分かる表示やブレスレット、ネックレスが患者に提供されるため、救急隊員はそれを見て事情を了解できます。こうしたDNR指示は、地域社会で生活する終末期患者のうち、安楽ケアだけを希望し、心臓や呼吸が停止したときの蘇生を望まない人にとって特に重要です。一般に、緊急事態が生じた場合には、リビングウィルや医療判断代理委任状は有効ではありません。また、有効なDNR指示が出されていない限り、最初の対応者はほぼ常に生命維持措置を開始する必要があります。多くの州では、生命維持治療に関する医療提供者からの指示書と呼ばれる携帯医療指示書にDNR指示の情報が組み込まれています。

延命治療に関する医学用語

心肺蘇生:心停止(心臓が止まった状態)、呼吸停止(呼吸が止まった状態)、または心肺停止(心臓と呼吸が止まった状態)に陥った患者を蘇生させるための処置。

コード:心停止、呼吸停止、または心肺停止に陥った患者を蘇生させるために心肺蘇生の訓練を受けた専門家を招集すること。

ノーコード:心肺蘇生を試みるべきでないことを明示した、本人の主治医による署名を伴った指示(DNR[蘇生処置拒否]指示とも呼ばれる)。

不可逆的昏睡:回復の見込みのない昏睡状態または遷延性植物状態。

遷延性植物状態:本人に意識はないが、眼を開く、正常に眠ったり起きたりする、吸ったり噛んだりする、せき、えずき、飲み込みの動作がみられるなど、意識があるかのように見える特定の特徴が認められる状態。

終末期:治癒の見込みがなく、死が近い状態。

延命治療:末期状態にある人の生存を一定期間だけ維持することができるが、その病気を治癒させることはできない医学的処置、投薬、または医療技術。

緩和ケア診断とは無関係に、患者を重篤な病気による痛みやストレスから解放することに焦点を置き、患者と家族、双方の生活の質を改善することを目的とする専門化された医学的ケア。

携帯医療指示書

携帯医療指示書は、進行した病気がある人の終末期ケアに関する意思決定を伝達するものです。米国では、携帯医療指示書プログラムが州レベルで導入されていて、最も一般的には生命維持治療に関する医療提供者からの指示書(Provider Orders for Life-Sustaining Treatment:POLST)と呼ばれています。このようなプログラムの名称としては、ほかにも延命治療に関する医療指示書(Medical Orders for Life-Sustaining Treatment:MOLST)、治療範囲に関する医師指示書(Physician Orders for Scope of Treatment:POST)、治療範囲に関する医療指示書(Medical Orders for Scope of Treatment:MOST)、生命維持治療に関する臨床指示書(Clinical Orders for Life-Sustaining Treatment:COLST)、患者の希望に関する携帯医師指示書(Transportable Physician Orders for Patient Preferences:TPOPP)などもあります。

これらのプログラムでは、進行した病気や末期の病気をもつ人との話し合いを医療専門職が主導して行い、共同での意思決定のプロセスを進めます。その結果、患者本人が考えるケアの目標に合わせて携帯可能な一連の医療指示書が作成され、その内容としては、心肺蘇生を受けるかどうか、希望する医療介入の全体的なレベル(例えば、最大限の治療、緩和ケアのみ、その中間)、入院を希望するか避けたいかなどが記載されます。大半の携帯医療指示書プログラムでは、人工栄養と輸液にも言及されます。一部の州では、医学的に危険な状況で使用される可能性のある人工呼吸器や抗菌薬の使用など、その他の考慮事項にも言及されます。これらのプログラムは、すべての医療状況に適用されます。医学的に危険な状況では、救急救命士やその他の医療専門職はまず、POLSTやその他同様の指示書に従う必要があります。本人の状態が大きく変化したときや、ケアを受ける場所が変わったとき、または希望する内容を変更したいと本人が望むときは、急を要する状況でなければ、本人を交えて指示の再検討を行うべきです。本人が意思決定能力を欠いている場合は、権限を与えられた代理人が代わりに対応することができます。POLSTのような携帯医療指示書が事前指示書と異なる点は、進行した病気の患者のみを対象とすること、緊急時の決定に関する医療指示の形で治療計画を提示すること、本人の将来的に予想される状態ではなく、現在の状態に注目することです。

米国ではPOLSTや同様のプログラムがすべての州に存在し、全国的なPOLST組織がwww.polst.orgでクリアリングハウスを提供しています。

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