ホスピスケアと緩和ケアはどちらも、命を脅かす重篤な病気を抱えた人を支える専門的なケアですが、その目的や意図は異なります。ホスピスケアは、終末期にある人の苦しみを最小限に抑え、健康と生活の質を改善することを目的に設計されたケアのコンセプトとプログラムです。緩和ケアは、重篤な病気がある人の症状や体験を改善することを目的とする専門的な医療ケアです。
ホスピスケア
ホスピスとは、死期を迎えた人とその家族の苦痛を最小限にすることを主な目的とするケアのプログラムであり、またその概念を意味します。米国では、ホスピスは、居住場所で重病患者を支援するために広く利用されている唯一の総合的プログラムです。ホスピスプログラムは症状の軽減を優先し、診断検査や延命治療をほとんど行いません。また、死期を迎えた人とその家族に対し、適切なケアと緩和ケアについての指導が行われます。ホスピスプログラムでは延命に重きは置かれませんが、良好なホスピスケアを行うことで、わずかながら余命が延びることがあります。これはおそらく、通常の治療でみられことがある手術の合併症や積極的な薬物療法による重篤な副作用を回避できるからでしょう。
ホスピスプログラムでは、主に症状の軽減、緩和ケア、患者と家族に対する精神面のサポートを行います。
ホスピスプログラムでは、診断のための検査や治癒を目指した治療、延命に重点を置きません。
通常のホスピスケアでは、重症患者が思考や判断を行うことが難しくなった場合に、家族や親しい友人が患者の意思決定を手伝うことがあります。ホスピススタッフは必要なだけ、毎日でも患者を訪問し、24時間体制で準備している人もいます。ホスピススタッフは症状の管理を補助し、精神面やスピリチュアルな面でのサポートや実践的な医療を提供するための訓練を受けています。
ホスピスには常に、医師、看護師、ソーシャルワーカー、介護人(ホームヘルパーなど)、さらには必要に応じて、言語療法士、理学療法士、作業療法士といった多様な専門家が関与します。また、薬剤師、栄養士、あるいは他の療法士がかかわることもあります。
ホスピスプログラムのスタッフは、自宅や介護施設で患者のケアを行います。ホスピスプログラムのスタッフが病院やリハビリセンターでケアを行うことは通常はありませんが、多くの病院はケアプログラムを設け、ホスピスと同様の観点で全体的な症状の治療と意思決定の支援(緩和ケアサービス)を提供しています。
ホスピスプログラムによって、すぐに提供できるサービスや対応している治療、装置は異なります。どのホスピスケアが最適かは、対象となる患者とその家族の必要性や要望、経済的状況、地域のプログラムの受入れ能力などに左右されます。
ホスピスケアでは必要な治療をほとんど提供することができ、さらに医師が常駐します。通常は看護師が薬剤投与、酸素療法、点滴(静脈ライン)、その他の特殊器具の使用を含めた、ケアの全般的な計画を監督します。また、ソーシャルワーカーやチャプレン(聖職者)、訓練を受けたボランティアの人などが、対人的、経済的、スピリチュアルな問題に対処するための支援を行います。グリーフカウンセラー(死別カウンセラー)は悲嘆に沈む人をサポートし、新たな認識を促します。ホスピスケア計画では、愛する人の死期に直面し、死の到来に対処することへの心構えとして、患者の家族に自身の役割や必要な支援を得る方法などを伝えます。
ホスピスを必要とするほど重い病状の患者は、ほとんどの場合、日常活動(着衣、入浴、食事の準備など)に多少の介助が必要で、完全な依存状態の場合もあります。家族や友人がそうした世話をしていることが多く、ホスピスや家族が有償の訪問介護を依頼する場合もあります。
一般にホスピスサービスはメディケアや保険の支払い対象になりますが、通常は、患者の病気が末期であり、余命が6カ月未満であることを医師が証明する必要があります。ホスピスの診断に関係しない病態は、通常の医療保険でカバーされます。ホスピスケアは、例えば、健康状態が改善した場合や、基礎疾患に対する有望な治療を試したくなった場合など、いつでも中止することができます。
緩和ケア
緩和ケアは、患者がケアの目標を定め、厄介な症状や心理社会的・精神的な苦痛を軽減するのを手助けすることにより、生活の質を改善することを目的としています。緩和ケアは根治または延命を目指す治療の多くと両立します。例えば、肝臓移植の待期リストに入っている肝不全の人では、ケアの緩和的な側面として、痛みやせん妄の治療が重視されます。しかし、ある人のケアの焦点が根治を目指す治療から支持療法に、あるいは治療から緩和に変わったと表現することは、複雑な意思決定プロセスを単純化しすぎているといえるでしょう。重篤な病気をもつ人の大半は、様々な病気や障害の影響を是正、予防、または軽減するために、複数の治療を組み合わせる必要があります。
緩和ケアは、個々の医療専門職と集学的チームとホスピスプログラムによって提供することができます。緩和ケアの専門医は、痛みなどの厄介な症状を認識して治療することに重点を置きます。緩和ケアの集学的チームは、様々な専門職(医師、看護師、ソーシャルワーカー、チャプレン[聖職者]など)で構成され、患者の主治医および専門医と協力して、身体的、心理社会的、精神的な苦痛を和らげます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
思いやりと選択(Compassionandchoices.org):終末期の計画のためのツールや終末期ケアの擁護に関する情報を提供しています。
米国ホスピス財団(Hospice Foundation of America, Inc.):ホスピスのサービス、費用、ホスピスの選択に関する詳細な情報が提供されているほか、悲嘆の対処に関する情報源が記載されています。
メディケア:ホスピスの比較(Medicare: Hospice Compare):特定の地域にサービスを提供するホスピスを見つけて比較するための検索ツールを提供しています。