医療専門職には、合理的な手順で相手の要望に沿って個人の医療情報の秘密を守る義務があります。例えば、通常は医師と患者が行う医療上の話し合いは内密に行われ、患者は医師からの電話を自宅ではなく自身の携帯電話で受けたいと望むことがあります。仲のよい家族に対してさえ、当人の病状に関する情報が必ずしも開示されるとは限りません。(医療における法的問題と倫理的問題の概要も参照のこと。)
すべての人には個人情報を内密に扱われる権利がありますが、患者が情報開示を認めた場合はこの限りではありません。医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act:HIPAA)と呼ばれる連邦法が大半の医療専門職に適用されます(米国保健福祉省:消費者向け:HIPAAの下でのあなたの権利[U.S. Department of Health and Human Services: For Consumers: Your Rights Under HIPAA]を参照)。HIPAAの規制にはプライバシールールとして知られる条項が含まれていて、そこでは個人を特定できる健康情報(保護対象保険情報と呼ばれます)のプライバシー、アクセス、開示に関する詳細な規則が定められています。例えば、HIPAAの規定として以下のものがあります。
通常、患者は自分の診療記録を閲覧し、その写しを入手することができ、誤りを発見した場合は訂正を要求できます。
医療に関する決定を行う能力を欠いている患者のために、そうした決定を行う法的な権限が与えられている人は、患者と同等に患者の個人的な医療情報を入手する権利をもちます。
医療専門職は、患者の医療情報のプライバシーに関する自身の手順を普段から開示していなければなりません。
医療専門職は患者の医療情報を共有することができますが、その共有は医療専門職の間だけに限定し、かつ医療の提供または治療費の支払いに必要な範囲にとどめなければなりません。
患者の医療情報はマーケティング目的のためには開示できません。
医療専門職は、患者と交わすコミュニケーションの機密性を確保するために妥当な対策を講じなければなりません。
患者は医療専門職のプライバシー保護の取り組みに関して苦情を申し立てることができます(直接その医療専門職に対して、HIPAAに従い医療機関が指名したプライバシーコンプライアンスオフィサーに対して、または米国保健福祉省の公民権局に対して―公民権局への苦情申し立て方法[How To File a Complaint with the Office for Civil Rights]を参照)。
なお、HIPAAのプライバシールールは、患者を担当する他の医療専門職や患者の家族や友人に対する通常のコミュニケーションを妨げるものではありません。この法律では、配偶者や家族、友人、患者が指名した人の関与に直接関係してくる情報を医師やその他の医療専門職が共有することが認められています。医療に関する決定能力が患者にある場合は、患者が同意すれば、または患者が反対できる状況で反対しなければ、医師はこうした情報について、家族などの前で説明することができます。患者がその場にいない場合や、患者の許可を得ることが現実的に困難な場合(緊急事態が生じた場合や、患者に判断能力がない場合)でも、医師は、専門的な観点から患者の利益につながると判断すれば、こうした情報を家族や友人に提供することができます。
ときに、法律により医療専門職が特定の情報を開示することが求められますが、それは通常、患者の状態が原因で他者に危険が及ぶ可能性がある場合です。HIPAAはそのような開示を許可しています。例えば、COVID-19やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症、梅毒、結核などの一部の感染症は、州当局や地域の公衆衛生当局に報告しなければなりません【訳注:日本でも保健所に報告しなければならない感染症が法律で決まっています】。小児、成人、高齢者の虐待またはネグレクトの医学的徴候に気づいた医療専門職には、そのことを保護局に報告する義務があります。米国の一部の州では、認知症やけいれん発作など、自動車運転の能力が大きく低下する病気を陸運局に報告することが義務づけられています。医療専門職はまた、COVID-19パンデミックなどの発生時に公衆衛生上の目的で医療情報交換制度や公衆衛生当局に情報を開示することも許可されています。