血便がよくみられる症状ですが、がんによって腸がふさがれ、けいれん性の腹痛や嘔吐が生じることがあります。
診断は、ゾンデ法による小腸造影検査、内視鏡検査、バリウムX線検査など様々な腸の観察方法の結果に基づいて下されます。
手術による切除が最善の治療法です。
小腸の悪性腫瘍(がん)は非常にまれで、米国での1年間の発症者数は約11,110人、死亡者数は1700人です。小腸のがんで最も一般的な種類は腺がんです。腺がんは小腸粘膜の腺細胞に生じるがんです。小腸にクローン病がある場合は、腺がんが発生する可能性が高まります。
まれなタイプの小腸がん
カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍とも呼ばれます)は、小腸の粘膜を構成する腺細胞から発生します。カルチノイド腫瘍は、しばしばホルモンを分泌して下痢や皮膚の紅潮(体や顔が赤くなる)を引き起こします。一部の腫瘍は手術で摘出することができます。ほかの部位に広がった腫瘍は、ソマトスタチンやエベロリムスなどの薬剤か、放射性ソマトスタチンアナログを静脈から投与する治療法(ペプチド受容体放射性核種療法[PRRT]と呼ばれます)でコントロールすることができます。化学療法や他の薬剤がカルチノイド腫瘍による症状のコントロールに役立つことがあります。
リンパ腫(リンパ系のがん)は、小腸の中間部(空腸)または下部(回腸)に発生します。リンパ腫が発生するとその部分が硬く、長くなることがあります。セリアック病がありその治療を受けていない場合に、このがんが多くみられます。化学療法と放射線療法は、症状のコントロールと、ときに生存期間の延長に役立ちます。
平滑筋肉腫(平滑筋の細胞から発生するがん)は、小腸壁にできることがあります。手術で平滑筋肉腫を切除した後に化学療法を行うと、生存期間がわずかに延びることがあります。
カポジ肉腫は、内臓を侵すことがある皮膚がんの一種で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染に起因するエイズ患者に発生することがあります。カポジ肉腫は消化管のあらゆる部位で発生しますが、通常は胃、小腸、または結腸に発生します。このがんが消化管に症状を引き起こすことは通常ありませんが、出血、下痢、腸重積(スライドさせて伸ばす望遠鏡のように、腸の一部が別の部分の中にすべり込んだ状態)が発生することがあります。カポジ肉腫の治療法は、がんの部位によって異なりますが、手術、化学療法、放射線療法などが行われます。
小腸がんの症状
腺がんによって、腸管内出血が起こり血便として現れたり、腸管が閉塞することがあり、閉塞するとけいれん性の腹痛、腹部のふくらみ(膨隆)、嘔吐が生じることがあります。小腸のがんによって、ときに腸重積が起こります。
小腸がんの診断
ゾンデ法による小腸造影検査
内視鏡検査
ビデオカプセル内視鏡検査
一般的に、ゾンデ法による小腸造影検査が行われます。この検査では、鼻から挿入したチューブを通して大量のバリウム液を流し込み、それが消化管を通る様子をX線撮影します。ときには単純X線撮影の代わりにCTを用いてこの検査を行う場合もあり、その場合は鼻からチューブを挿入せず、バリウムを飲むだけで済みます。
内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器― see page 内視鏡検査)を口から挿入して十二指腸と空腸の一部(小腸の上部と中央部)まで移動させて腫瘍の位置を確認し、生検(組織サンプルを採取して顕微鏡で調べる検査)を行うことがあります。大腸内視鏡(下部消化管の観察と治療に使用される内視鏡)を肛門から挿入して、大腸を通って回腸まで移動させることで、回腸(小腸の下部)の腫瘍を発見できることもあります。
1つまたは2つの小さなカメラを搭載したワイヤレスかつバッテリー駆動のカプセル(ビデオカプセル内視鏡)を飲み込んで小腸の腫瘍を撮影することもできます。
ときには、小腸内の腫瘍を特定するために試験開腹が必要になることもあります。
小腸がんの治療
手術による摘出
ほとんどのタイプの小腸がんで、最良の治療は手術による腫瘍の切除です。
内視鏡で腫瘍が確認できる場合は、腫瘍に電流を流したり(電気焼灼術[しょうしゃくじゅつ])、熱を加えたり、高エネルギーの光線を照射したり(レーザー光線療法)して除去することもできます。
手術後に化学療法と放射線療法を行っても生存期間は延長できません。