薬の有害反応の概要

(薬の副作用、薬の有害作用)

執筆者:Daphne E. Smith Marsh, PharmD, BC-ADM, CDCES, University of Illinois at Chicago College of Pharmacy
レビュー/改訂 2023年 3月
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薬の有害反応(有害作用)とは、薬物や薬剤の望ましくない作用のことです。

19世紀初頭のドイツの科学者パウル・エールリヒは、理想的な薬を「魔法の弾丸(magic bullet)」と表現しました。これは、病気が起きている部位を正確に狙い撃ちでき、正常な組織には害を及ぼさない薬という意味でした。新薬の多くは従来の薬剤より狙いの精度が向上しているものの、現在のところ標的だけを狙い撃てる薬は実現していません。

大半の薬剤にはいくつかの作用がありますが、病気の治療で期待されるのは通常、1つの作用、すなわち治療効果だけです。本質的に有害であるかどうかにかかわらず、それ以外の作用は望ましくないものとみなされます。例えば、ある種の抗ヒスタミン薬は、アレルギー症状を抑える一方で、眠気を生じさせます。抗ヒスタミン薬を含んでいる市販の睡眠補助薬を服用する場合、眠気は治療効果とみなされます。しかし、アレルギー症状を抑えるために日中に抗ヒスタミン薬を服用する場合には、眠気は望ましくない困った作用とみなされます。

医療従事者を含めた大半の人は、望ましくない作用を副作用と呼んでいますが、ほかに有害作用という用語も用いられます。しかしながら、薬の作用のうち望ましくないもの、不快なもの、 毒性があるもの、有害となる可能性があるものを表す専門用語としては、薬の有害反応の方がより適切です。

有害反応の頻度

薬の有害反応はよくみられますが、これは驚くべきことではありません。薬の有害反応の大半は比較的軽度で済み、多くは薬剤の使用を中止するか投与量を減らすことで治まります。体が薬に慣れてくると徐々に消失するものもあります。より重篤でより長く続く有害反応もあります。全米電子健康被害サーベイランスシステム -協力的薬物有害事象サーベイランスプロジェクト(National Electronic Injury Surveillance System–Cooperative Adverse Drug Event Surveillance Project:NEISS-CADES)の調査によると、2017年から2019年までの期間中の薬剤による害を理由とした救急受診件数は年間1000人当たり6件という結果でした。それらの受診の約39%が入院に至りました。米国での過去の推計では、全入院の3~7%が薬の有害反応の治療を目的とするものでした。薬の有害反応は入院した人の10~20%で起こり、そのうちの約10~20%は重度です。これらの統計には、介護施設やその他の医療施設に住んでいる人に起きた薬の有害反応は含まれていません。

薬の有害反応の正確な発生件数は不明ですが、これらの統計には、しばしば予防可能である重大な公衆衛生上の問題が明確に反映されています。

世界保健機関によると、薬の有害反応による死亡は主に75歳以上の人で発生しています。処方の誤りと処方薬を指示通りに正しく服用できないまたは服用しないことの両方が、薬の有害反応の発生につながっています。

知っていますか?

  • 米国では全入院のうち3~7%が薬の有害反応の治療のためのものです。

一般的な有害反応

大半の薬物や薬剤は口から摂取されて消化管を通過するため、薬の有害反応としては、食欲不振、吐き気、腹部膨満感、便秘、下痢といった消化器系の障害が特によくみられます。しかし、影響が生じる可能性はほぼすべての器官系にあります。高齢者では(加齢と薬を参照)脳が影響を受ける可能性が高く、眠気が生じたり錯乱に陥ることがよくあります。

有害反応の特定と報告

薬の有害反応の多くは、米国食品医薬品局(FDA)への承認申請がなされる前に薬の試験が行われる段階で特定されます。一方で、販売開始から長期間が経過して多くの人々に使用されて初めて明らかになる有害反応もあり、それらは一般的にまれにしか発生しないものです。そのため医療従事者には、薬の有害反応が起きた可能性が疑われる症例をFDAに報告することが求められています。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国中毒情報センター協会(American Association of Poison Control Centers):様々な毒物に関する情報、緊急ヘルプライン(1-800-222-1222)【訳注:日本では、大阪中毒110番072-727-2499、または、つくば中毒110番029-852-9999】、予防に関する助言を提供しています。

  2. FDA有害事象報告システム(FAERS)(FDA Adverse Event Reporting System (FAERS)):FDAの有害事象報告システム(FAERS)に関するQ&Aを参照できます。

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