自殺行動

執筆者:Christine Moutier, MD, American Foundation For Suicide Prevention
レビュー/改訂 2021年 7月
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やさしくわかる病気事典

自殺とは、死に至るように計画した、自身に害をなす、意図的な行為によって命を経つことです。自殺行動には、自殺既遂、自殺企図(自殺未遂のこと)、および希死念慮が含まれます。

  • 自殺は多くの要因の相互作用の結果として生じるのが通常で、その中でもうつ病が最も一般的かつ重大ですが、これだけが自殺の危険因子というわけではありません。

  • 自殺の方法には、銃器の使用など死に至る確率が高いものもありますが、致死率の低い方法を選択したからといって、必ずしも自殺の意図が強くなかったことを意味するわけではありません。

  • 自殺念慮の表明や自殺企図は、真剣に受け止めなければならず、助けを差し伸べるべきです。

  • 危機的な状況にある人や自殺を考えている人は、全米自殺予防ライフライン(1-800-273-TALK、米国のみ)やクライシステキストライン(741741、テキストメッセージでの相談)を利用できます【訳注:日本では、こころの健康相談統一ダイヤル[0570-064-556 ナビダイヤル:電話をかけた所在地の公的な相談機関につながります]、厚生労働省のホームページ「まもろうよこころ」https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ を参照してください。または、#いのちSOS 0120-061-338[特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク]、子どもの場合は、24時間子どもSOSダイヤル[0120-0-78310]などがあります】。

小児と青年における自殺行動も参照のこと。)

自殺について用いられる用語は、自殺行動に関する科学的研究での進展、自殺の犠牲者や生存者に対する擁護の高まり、ならびに自殺に関連する偏見の減少を反映する形で、時間とともに進化してきました。

自殺行動には以下のものが含まれます。

  • 自殺既遂:自身に害をなす意図的な行為で、実際に死に至ったもの。

  • 自殺企図:死に至ることを意図した自身に害をなす行為で、結果として死に至らなかったもの。自殺企図ではけがが生じることもあれば、生じないこともあります。

  • 希死念慮:自殺について考えたり、計画したり、準備をしたりすること。

非自殺的な自傷行為とは、自身に害をなす行為のうち、死に至ることを意図していないもののことです。このような行為としては、腕にひっかき傷や切り傷をつける、タバコで自分の体を焼く、ビタミン剤を過剰摂取するなどがあります。身体的な痛みは精神的な痛みを軽減する場合があることから、非自殺的な自傷行為は緊張を緩和するための手段である場合があります。また、まだ生きることを望んでいる人の助けを求める訴えである場合もあります。非自殺的な自傷行為をしたことがある人は、長期的に見て自殺のリスクが高いことから、これらの行為を軽く扱ってはいけません。

自殺の頻度に関する情報源は、主に死亡証明書や調査報告であるため、おそらくは実際の自殺率よりも低く見積もられています。それでも、自殺行動はよくみられる健康上の問題です。自殺行動は、性別、年齢、人種、信条、収入、教育水準、性的指向を問わず、あらゆる人々でみられます。自殺をしやすい人の典型的なパターンといえるものはないですが、中年以上の男性、アメリカンインディアンの若者、LGBTQの人々など(これがすべてではありません)、一部の集団では自殺のリスクが他の集団より高くなっています。

世界における自殺者数

世界全体で毎年およそ800,000人が自殺により死亡しています。

米国では、自殺は10~34歳の人々で死因の第2位でした。

研究データから、自殺を試みる人の数は実際に自殺する人の数よりもはるかに多いとみられています。その比率は国、宗教、性別、年齢、方法によって異なります。

米国における自殺者数

米国では、2019年に48,000人近くの人が自殺しました。平均すると、毎日132件の自殺が発生していることになります。

2019年の統計では、45~64歳の人で自殺率が最も高いという結果でした。その明確な理由は誰にもわかりませんが、以下の要因が関与している可能性があります。

  • この集団では、若い頃のうつ病や自殺企図の発生率が高かった。

  • この集団は、致死的な手段が取りやすくなったこと、オピオイド危機、経済状況の変化、精神障害について他者の支援を得ることに対する以前から続く偏見、これら複数の要因の組合せに特に強く影響を受けた可能性がある。

自殺の発生率が2番目に高かったのは75歳以上の人々で、これはおそらく孤独感、孤立、健康不良のためだったと考えられます。

自殺は米国における死因の第10位を一般的に占めていますが、COVID-19パンデミックによる死亡者数の多さから、2020年には第11位まで低下しました。

どの年齢層でも、自殺で亡くなる人の数は4:1ほどの比率で男性の方が女性より多くなっています。その理由は不明ですが、以下の要因が関係していると考えられています。

  • 男性は自殺を試みる際に、より積極的で致死率の高い方法を用いる傾向がある。

  • 男性は問題に直面しても我慢するように教えられてきたことから、昔からの傾向として、友人や医療従事者に助けを求める可能性が低い。

  • 自殺行動に寄与する飲酒物質使用障害が女性より男性で多くみられる。

  • 男性の自殺者数には軍人と退役軍人の自殺が含まれている。どちらの集団も女性より男性の占める割合が高い。

2019年の人種・民族別の自殺率は、ヒスパニック系以外の白人で最も高く、アメリカンインディアンとアラスカ先住民が次いで高くなっていました。自殺に関する最新の統計については、米国自殺予防財団が収集したデータを参照してください。

知っていますか?

  • 自殺は若年層における主な死因の1つになっていますが、年代別の自殺既遂率は45~64歳が最も高く、75歳以上が2番目に高くなっています。

  • 男女別の自殺率は男性の方が女性より4倍以上高いです。

  • 自殺で亡くなる人よりもはるかに多くの人が自殺を試みています。

米国における自殺未遂者数

2019年の米国では、推定140万人の成人が自殺を試みました。自殺を試みる人の数は実際に自殺する人の数の25倍と推定されています。多くの人が繰り返し自殺を試みます。しかし、自殺を試みた人で最終的に自殺により死亡するのは5~10%のみです。自殺企図は青年期の女子で特に多くみられます。15~19歳の女子では、自殺1件当たり100件の比率で自殺企図が起きています。全年齢層でみると、女性の自殺企図の割合は男性の2~3倍ですが、実際に死に至る可能性は男性の方が4倍高くなっています。高齢者では、自殺1件当たり4件の比率で自殺企図が起きています。

原因

自殺する人のおよそ6人に1人が遺書を残し、ときに自殺の理由を知る手がかりになります。理由としては、精神障害、絶望感、周囲の人の負担になっていると感じること、様々な生活上のストレスに対処できないことなどが挙げられます。

研究により、自殺既遂者の多くが死亡時に複数の危険因子を有していたことが示されています。自殺により死亡する人の約85~95%は、死亡する時点で診断可能な精神障害をもっています。

自殺行動につながる要因として最も多くみられるのは以下のものです。

うつ病双極性障害の一部としてのうつ病を含みます)は、自殺企図の約半数に関係していて、自殺既遂での割合はさらに高くなっています。うつ病は、思いがけず突然に起こる場合もあれば、最近体験した喪失や悲惨な出来事が誘因になる場合や、複数の要因が組み合わさって起こる場合もあります。うつ病の人では、夫婦間の問題、最近の逮捕や法律上のトラブル、恋愛上のトラブルや破局、親との確執やいじめ(青年の場合)、愛する人の喪失(特に高齢者の場合)などが、自殺企図のきっかけになります。うつ病の人に強い不安もみられる場合は、自殺のリスクがより高くなります。

高齢者の自殺の約20%には、身体疾患(特に痛みを伴う慢性疾患)が寄与しています。糖尿病、多発性硬化症、がん、感染症など、診断されて間もない身体疾患も自殺リスクを高める可能性があります。エイズ側頭葉てんかん頭部外傷などの一部の病態は、脳の機能に直接影響を及ぼす可能性があり、それゆえ自殺リスクを高めます。

小児期のトラウマ体験(特に身体的虐待や性的虐待)は、自殺企図のリスクを高めます。

飲酒は、うつ病を悪化させることがあり、それにより自殺行動の可能性を高めます。また、アルコールは自制心を弱め、衝動性を高めます。自殺を試みる人の約30%が事前に飲酒をしており、その約半数の人は酩酊した状態で自殺を試みます。飲酒、特に大量の飲酒は、酔いが覚めたときにしばしば深い自責の念を引き起こすため、不健康な飲酒をしている人は自殺のリスクがより高くなります。

その他のほぼすべての精神障害も自殺のリスクを高めます。

統合失調症などの精神病性障害があると、対処不能な妄想(固定された誤った思い込み)が生じたり、自殺を命じる幻聴(聴覚性の幻覚)が聞こえたりすることがあります。また、統合失調症の人はうつ病になりやすい傾向があります。結果として、一般集団と比べて自殺による死亡率がはるかに(10%)高くなっています。

境界性パーソナリティ障害反社会性パーソナリティ障害の人、特に過去に衝動的、攻撃的、または暴力的な行動がみられた人でも、自殺のリスクが高くなります。これらのパーソナリティ障害の人は、フラストレーションにうまく対処できない傾向があり、ストレスに対して衝動的に反応しやすく、ときに自傷行為や攻撃的な行動をとってしまうことがあります。

孤立は自殺行動のリスクを高めます。離別、離婚、配偶者との死別などを経験した人では、自殺既遂の可能性が高くなります。安定的な人間関係の中で暮らしている人では、一人暮らしの人と比べて、自殺が少なくなっています。

自殺行動の危険因子

  • 攻撃的または衝動的な行動

  • アメリカンインディアン、アラスカ先住民、または男性であること

  • 死別または喪失

  • いじめ(例えば、ネットいじめ、社会的拒絶、差別、侮辱)

  • うつ病(特に不安を伴う場合、双極性障害の一部である場合、または最近の入院に関連している場合)およびその他の精神障害

  • 薬物またはアルコール使用障害

  • 悲しみまたは絶望感(長く続く場合)

  • 経済不況、借金、または不完全雇用に由来する金銭的ストレス

  • 一人暮らし

  • 身体疾患、特に痛みを伴ったり生活に支障を来したりする疾患や脳を侵す疾患

  • 人間関係の対立

  • 自殺のことばかり考えている、詳細な自殺の計画を立てている、自殺の家族歴がある、自殺未遂の経験があるなど

  • 小児期のトラウマ体験(身体的または性的虐待を含む)

  • キャリアの破綻(失業など)や移行期間(例えば、現役の軍人から退役軍人への移行、退職)

抗うつ薬と自殺のリスク

自殺企図のリスクは、抗うつ薬治療を開始する前の1カ月間で最も高く、抗うつ薬の使用を開始してからは、それまでと比べて自殺による死亡リスクが低くなります。ただし、小児、青年、若年者では、抗うつ薬の使用により、ときに自殺念慮や自殺行動の頻度が若干高まることがあります(自殺既遂の頻度は高まりません)。そのため、使用する小児や青年の親にはこのリスクについて警告すべきであり、特に服用開始後最初の数週間は、以下の副作用が起きていないか、小児および青年を注意深く見守るべきです。

  • 不安の増大

  • 興奮

  • 不穏(落ち着かなくなる)

  • 易怒性

  • 怒り

また、軽躁病への移行(活力にあふれ愉快な気持ちであるが、怒りやすくなったり、集中できなくなったり、興奮したりすることが多くなる)も注意すべき重要な副作用です。

医師と患者および家族は、自殺傾向がうつ病の中核的な特徴の一つであることを認識しておくべきです。うつ病を軽減する治療により、自殺のリスクは低下します。

抗うつ薬の服用が自殺リスクの上昇と関連している可能性があるという公衆衛生上の警告を受けて、医師たちはうつ病の診断を下すことを減らし、小児や若年者に対して抗うつ薬を処方することを30%以上減らしました。しかし、これと同じ時期に、若年者の自殺率は一時的に14%増加しました。したがって、うつ病の薬物療法を控えさせるこの警告は、結果的に自殺による死亡者数の減少ではなく、逆に増加につながってしまった可能性があります。

うつ病の人に抗うつ薬を投与する場合、医師は自殺行動のリスクを低下させる以下のような一定の予防策を講じます。

  • 抗うつ薬の用量を患者の死亡を招かないであろう量にする。

  • 治療を初めて開始する際には、より頻繁な受診スケジュールを設定する。

  • 症状の悪化や興奮、不眠症、希死念慮がみられないか注意する必要があることを患者とその家族、大事な人に明確に警告する。

  • 症状が悪化した場合や自殺念慮が生じた場合は、すぐに抗うつ薬を処方した医師に連絡するか、別の形で医療を求めるよう患者とその家族、大事な人に指示する。

知っていますか?

  • 24歳未満での抗うつ薬の服用は自殺念慮や自殺企図のリスクの増大と結び付けられていますが、適切な治療(薬物治療や精神療法が含まれる可能性があります)でうつ病に対処しないでいると、自殺のリスクがさらに大きくなる可能性があります。

  • 家庭環境を安全にすることが、自殺のリスクを効果的に低下させる重要な方法の1つです。銃器、薬物、および毒物を安全に保管して致死的な手段をとらせないようにすることが、命を救うことにつながる場合があります。

群発自殺

群発自殺とは、ある人の自殺が地域社会、学校、または職場における別の人の自殺につながるように見える現象のことです。大々的に報道された自殺は極めて広範な影響を及ぼす可能性があります。青年と若い成人は特に伝染の影響を受けやすいです。よく知っている人が自殺を試みたり自殺で亡くなったりしたことで、直接影響を受ける場合もあります。また、有名人の死が映像メディアで四六時中センセーショナルに報道されることで、間接的に影響を受ける場合もあります。逆に、メディアが自殺についてポジティブなメッセージを伝えることで、影響を受けやすい若者に群発自殺に広がるリスクを低下させることができます。ポジティブなメッセージとは、典型的にはコミュニティのメンバーの悲劇的な喪失を明確に伝え、続いて悲嘆にくれている人々への支援を表明することです。メッセージの中では、精神的な苦悩が人生の一部であることを示すとともに、助けや治療を求めることについて偏見がないことを指摘するべきです。精神衛生と自殺についてこのように説明することで、影響を受けやすい視聴者を危険にさらさずに、公衆衛生にプラスの影響を及ぼせる可能性があります。

群発自殺は、青年期の自殺全体の1~5%に関係している可能性があると推定されています。学校の管理者、精神医療の専門家、その他のコミュニティのリーダーは、メディアやソーシャルプラットフォームを利用して群発自殺の拡大を阻止する方法を学ぶことができます。慎重な報告と学校や職場へのポストベンション(自殺発生後に実施する介入のこと)ガイドラインの導入は、さらなる自殺を防止するための2つの戦略です。

その他の類型の自殺

以上のほかに、自殺には極めてまれな類型がいくつか存在します。

  • 集団自殺

  • 拡大自殺

  • 「警官を利用した自殺」(警察官などの法執行官を故意に挑発して致死的な力を行使させる場合)

方法

自殺方法の選択は、しばしば文化的要因や致死的な手段(例えば銃器)の利用しやすさに影響を受けます。自殺方法は、意図の真剣さを反映していることもあれば、していないこともあります。生存の可能性が低い方法(高層ビルから飛び降りるなど)もあれば、救命の可能性が高い方法(薬物の過剰摂取など)もあります。ただし、致死的でない方法を選んだ人でも、致死的な方法を選んだ人と同じくらい本気で死のうとしていた可能性があります。

自殺企図で最も頻繁に用いられる方法は、薬物の過剰摂取と服毒です。銃や首つりなどの暴力的な方法は、選択するとほぼ確実に死に至るため、自殺企図ではあまり多くみられません。

米国では自殺既遂の約50%で銃が使用されています。男性は女性よりこの方法をよく選択します。その他の方法としては、首つり、服毒、飛び降り、刃物の使用などがあります。

世界的には、殺虫剤による中毒死が自殺の大きな割合を占めていて、危険な殺虫剤が広く入手できるアジアで特に多くなっています。

予防

自殺企図や自殺既遂は、家族や友人に衝撃を与える事態になりますが、多くの人が警戒すべきサインを発しています。見つけておくべき苦痛や自殺念慮の徴候には、気分、行動、睡眠、活力の変化など、その人の通常の行動パターンにおけるあらゆる変化が含まれます。自殺傾向のある人の大半は自分の考えや苦痛を直接声に出さないことが多いため、ある人が絶望感を抱いている、何かに打ちのめされていたり、とらわれてたりしている、自分が他者の重荷になっているように感じているなどの可能性がその人の発言から示唆される場合には、それに留意することが重要です。行動の変化としては、普段の活動をやろうとしない、興奮する、怒りを爆発させる、怒りやすい、飲酒や薬物使用の量が増える、その他の奇妙な行動(別れの挨拶をする、所有物を手放すなど)をするなどがあります。自殺念慮についての発言(たとえそれが冗談でも)や明らかな自殺企図があった場合は、すべて真剣に受け止める必要があります。こうしたサインが無視されると、命が失われるおそれがあります。

人が今にも自殺を試みようとしている場合や、実際に自殺を試みてしまった場合は、できるだけ早く救急隊が派遣されるように、直ちに119番(米国では911番)に電話をするべきです。助けが来るまでの間は、その人と一緒にいて、冷静かつ支持的で決めつけをしない態度で話をしてください。

医師は自殺をほのめかす人や自殺企図をした人を入院させることができます。米国の大半の州では、自傷他害のリスクが高いと医師が判断すれば、本人の意思に反して、その人を入院させることが認められています。

自殺予防を目的とする新しい包括的な公衆衛生政策では、学校や職場での自殺予防訓練やピアカウンセラーの導入など、複数の方法が採用されています。精神医療へのアクセスの改善には、かかりつけ医の医療機関や病院の救急部門だけでなく、精神医療の場においても、自殺リスクを低下させる臨床的介入を提供することが含まれます。最近では、ソーシャルメディアのプラットフォーム上で稼働する人工知能の開発が、リスクのある個人を同定し、時宜を得た支援を提供するのに役立っています。致死的な手段の利用を困難にする公衆衛生政策も予防的な措置になります。

自殺への介入:全米自殺予防ライフライン(National Suicide Prevention Lifeline)

自殺を計画しようとしている人は危機的な状況にあります。全米自殺予防ライフライン(1-800-273-TALK、米国のみ)は、米国全土でそのような人に対して危機介入を行っています【訳注:日本では、こころの健康相談統一ダイヤル[0570-064-556 ナビダイヤル:電話をかけた所在地の公的な相談機関につながります]、厚生労働省のホームページ「まもろうよこころ」https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ を参照してください。または、#いのちSOS 0120-061-338[特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク]、子どもの場合は、24時間子どもSOSダイヤル[0120-0-78310]などがあります】。自殺予防センターでは、特別な訓練を受けたスタッフやボランティアがその任にあたっています。

自殺のおそれのある人がホットラインに電話をかけてきた場合、訓練を受けたカウンセラーが以下の対応を取ることがあります。

  • 支持的な信頼関係の確立を試みる

  • 会話を促すことで、自分の声を聞いてもらえたように感じさせ、非常に感情的な状態から、柔軟な対処戦略を再開できる冷静な状態に戻らせることができます

  • 自殺の危機をもたらした問題に対して建設的な助言をし、解決に向けて前向きに行動するよう励ます

  • フォローアップのために精神衛生の専門家やサービスを紹介する

  • 必要なときにだけ緊急に専門家と直に会って援助が受けられるように手配する。

管理

医療専門家はいかなる自殺行為も真剣に受け止めますが、安全確保および治療のための計画は個々の患者の状況に合わせて調整されます。

自殺を試みて重傷を負った人には、医師はその外傷に対する評価と治療を行い、通常はその人を入院させます。死に至る可能性がある薬を過剰摂取した場合は、体内への吸収を防ぎ、体外への排出を促す処置を直ちに行います。また、解毒剤が入手可能であればそれを投与し、呼吸用のチューブを挿入するなどの支持療法を行います。

初期評価が終わったら、自殺を試みた人を精神科医に紹介し、精神科医は自殺企図につながった問題を明らかにし、適切な治療計画を立てるよう努めます。

問題を特定するために、精神科医は以下のことをします。

  • 自殺企図や危機に至るまでの経緯や病歴に耳を傾ける

  • 根底にどのような自殺の危険因子があるか、具体的にどのような出来事が自殺未遂につながったのか、どこでどのようにして自殺未遂が起こったのかの特定を試みる

  • 自殺行動のリスクを高める可能性がある精神障害の症状について質問する

  • 何らかの精神障害に対する治療を受けているか(その治療のために何か薬を服用していないかを含む)、精神療法やその他の方法による治療を受けているかを質問する

  • その人の精神状態を評価し、うつ病、不安、興奮、パニック発作、精神病症状、重度の不眠症、その他の精神障害、アルコールまたは物質の使用などの徴候がないか調べる

  • 病歴と家族歴を徹底的に聴取する

  • 自殺企図やそのフォローアップ治療に関連することが多いため、個人的な関係や家族関係、ソーシャルネットワークについて尋ねる

  • 親しい家族や友人と話をして、飲酒やマリファナ、鎮痛薬、違法なオピオイド、その他のレクリエーショナルドラッグの使用について質問する

  • その人が自殺思考の引き金になる状況、出来事、場所、思考、感情状態を特定する手助けをし、その誘因に対処する手立てを計画するのを手伝う。

うつ病は自殺行動のリスクを高めることから、うつ病の人に対しては、医師は自殺行動や自殺念慮がないか注意深くモニタリングします。うつ病の人では、うつ病がより重度である期間中に自殺リスクが高まる可能性があり、ほかに危険因子がいくつか存在する場合も同様にリスクが高まります。うつ病は薬剤や精神療法を用いて効果的に治療することができ、それにより全体的な自殺リスクを低減できます。

自殺のリスクが高い人が気分障害の治療のためにリチウム、抗うつ薬、比較的新しい抗精神病薬を使用することで、自殺の件数が減少する可能性があることを示唆した研究結果もあります。クロザピンによる統合失調症の治療は、自殺のリスクを低下させます。

自殺のリスクは時間とともに変化し、最も深刻な急性リスクは数時間から数日続きます。しかし、自殺リスクに関する2018年の報告によると、大半の事例では、自殺者が自殺の前に様々な医療現場で評価を受けていたものの、そこで自殺リスクは検出されていませんでした。これらの知見は、このような人々の自殺リスクを低下させるための公衆衛生戦略を採用することの重要性を強調しています。例えば、医師は以下を行うべきです。

  • 自殺念慮や抑うつなど、苦痛の症状がみられないか患者を定期的にスクリーニングする

  • 支持的で決めつけをしない思いやりのある対応をする

  • 安全計画の利用や致死的な手段に関するカウンセリングなど、患者の安全を確保するための介入を提供する

  • 家族とコミュニケーションをとる

病院の救急部門や精神科施設からの退院後には自殺のリスクが高まることから、一部の国では現在、危機対応システムを改革して、救急部門への再受診や法執行官の介入に依存しない、より広範かつ強固なセーフティーネットを構築することを目的とした患者養護の取組みが実施されています。この新しい危機対応モデルを支援するために入院中や退院時に医師が取ることのできる有用な手段として、以下のものがあります。

  • 患者が危機対応のための資源を利用できるようにする

  • 致死的となりうる手段や物質を排除ないし安全に保管する方法について、患者にカウンセリングを行う

  • 資格をもった精神科医、精神療法家、その他の精神医療専門職に患者を紹介する

  • 外来受診の頻度を増やし、受診の合間も患者とより緊密にコミュニケーションをとる

リスクが非常に高い患者の自殺を減らすために医療システムで採用できる戦略が複数あります。そのような枠組みの1つにZero Suicideと呼ばれるものがあり、そこでは医療システムの全スタッフを対象とする自殺スクリーニングの普遍的な訓練、よりよい患者ケアを促進するための電子カルテの利用、ならびに上述の短期的な介入(安全計画、致死的な手段に関するカウンセリング、可能な場合の患者および家族との密接なコミュニケーション、適切な紹介とフォローアップ)の利用が提唱されています。

科学的根拠に基づく新しい介入により、高リスク者の自殺リスクを低減できる可能性があります。具体的には、認知行動療法(CBT)、弁証法的行動療法(DBT)、愛着に基づく家族療法などの一部の形態の家族療法があります。自殺のリスクがあると特定された人には、これらの治療法のいずれかを受け、個々のニーズに応じて調整された薬剤の服用を検討するように勧めるべきです。あらゆる健康状態と同様に、必要に応じて治療を調整し、フォローアップケアを提供していくことが、治療を最適化する重要な方法です。

影響

自殺による死は、すべての関係者に著しい感情的影響を与えます。家族、友人、医師は、自殺を防げなかったことに罪悪感を抱いたり、自責や後悔の念に駆られたりします。自殺した人に対して怒りを感じることもあります。最終的には、こうした複雑化した悲嘆の体験を乗り越え、喪失に対処することができます。

ときには、悲嘆に関するカウンセリングや支援グループが家族や友人の気持ちの整理に役立ち、罪悪感や悲しみに対処する助けになります。支援団体などに関する情報は、かかりつけ医や地域の精神保健サービスを通じて入手することができます。さらに、全米自殺防止財団(American Foundation for Suicide Prevention)などの全国的な機関でも、自殺で残された人を対象とする地域の支援団体のリストが管理されています。インターネット上で情報を得ることもできます。

自殺企図による影響も同様です。しかし、自殺企図の場合は、自殺のことや精神面の治療について、また、その人を支え、その声にこたえる方法について学ぶことで、家族や友人が気持ちの整理をつける機会があります。

医師による死の幇助(かつての自殺幇助)

医師による死の幇助とは、人生を終えたいと願う人を医師が手助けすることです。これについては、患者の生命を保つという医師の通常の目標と反対の行為であることから、大きく賛否が別れています。それでも、米国の10の州(カリフォルニア州、コロラド州、ハワイ州、メイン州、モンタナ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、オレゴン州、バーモント州、ワシントン州)とコロンビア特別区では、医師による死の幇助が合法となっています。現在は他の15以上の州でも検討がなされています。米国の上記以外の州では、医師は身体的・精神的苦痛を軽減するための治療を行うことはできますが、意図的に死を早める行為は認められていません。

医師による自殺幇助は、スイス、ベルギー、ドイツ、カナダのほか、その他いくつかの国でも合法となっています。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国自殺防止財団(American Foundation for Suicide Prevention):愛する人を自殺で失った人を含めて、自殺の影響に対処している人やその経験がある人に向けて、支援団体や相談窓口へのアクセスのほか、スクリーニングプログラムの導入、学校における予防プログラムの確立、および自殺予防のための提唱に関する情報を提供するとともに、有病率の統計から公共政策の優先事項に至るまでの自殺に関する事実を提示している。

  2. CDC:自殺予防(CDC: Suicide Prevention):ファクトシート、危険因子および防御因子に関する情報、予防戦略、その他の自殺防止機関へのアクセスを提供している。スペイン語でも提供している。

  3. クライシス・テキスト・ライン(Crisis Text Line): 米国、カナダ、英国、アイルランドの苦痛の中にいる人に向けて、チャット形式で24時間365日体制の支援を提供している。

  4. 全米自殺防止ライフライン(National Suicide Prevention Lifeline):苦痛の中にいる人に向けて24時間365日体制の支援を提供している。聴覚障害や難聴のある人向けにフォーマットされた情報を提供している。スペイン語でも利用できる。

  5. ナウ・マターズ・ナウ(Now Matters Now):自殺念慮を経験した人に向けてセルフケア戦略を提供している研究ベースのウェブサイト。

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