先天性多発性関節拘縮症(arthrogryposis multiplex congenita)とは,出生時に多発性の関節拘縮がみられることを特徴とする一群のまれな先天性疾患を指す。これらの疾患は,子宮内で関節運動が制限されることにより生じる。知能も障害される疾患または症候群の部分症として関節拘縮症が生じる場合を除けば,知能は典型的に正常である。診断は臨床的に行う。治療は関節の徒手整復およびギプス固定のほか,ときに手術による。
(頭蓋顔面部および筋骨格系の先天異常に関する序論も参照のこと。)
関節拘縮症(arthrogryposis)は,具体的な診断名ではなく,先天性拘縮の臨床所見であり,300を超える疾患でみられる。有病率は研究によって異なるが,出生約3000~12,000人当たり1例である。一部の基礎疾患では周産期死亡率が32%と高いため,予後および遺伝カウンセリングには具体的な診断の確定が重要である。
先天性多発性関節拘縮症(AMC)には2つの主要な病型がある:
筋形成不全症(古典型関節拘縮症):多発性の対称性拘縮が四肢に発生する。侵された筋肉は形成不全で線維性変性および脂肪性変性がみられる。通常,知能は正常である。約10%の患者には,筋形成の欠如による腹部の異常(例,腹壁破裂,腸閉鎖)がある。ほぼ全例が散発性である。
遠位型関節拘縮症:手と足が侵されるが,大関節は典型的には侵されない。遠位関節拘縮症は不均一な疾患群であり,多くは収縮機構の構成要素をコードするいくつかの遺伝子の1つにおける特定の遺伝子異常が関連している。多くの遠位関節拘縮症は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患として遺伝するが,X連鎖性の突然変異も知られている。
先天性多発性関節拘縮症の病因
胎生期の関節形成過程またはその直後に胎児の四肢が固定される多くの病的過程がAMCの原因になる可能性がある。AMCは,胎児の神経・筋の機能および発達が障害された場合に発生する。
3週間以上にわたり子宮内運動を妨げる状態は全てAMCの原因となりうる。原因としては以下のものが考えられる:
胎児無動/運動低下症候群(fetal akinesia/hypokinesia syndrome)(ペナー-ショッカー[Pena-Shokeir]症候群)につながる物理的な運動制限(例,子宮形成異常,多胎妊娠,または羊水過少),しばしば肺低形成を合併する
母体の疾患(例,多発性硬化症,子宮血管分布障害)
35を超える具体的な遺伝性疾患(例,I型脊髄性筋萎縮症,18トリソミー)にAMCとの連鎖が報告されている。
先天性多発性関節拘縮症の症状と徴候
出生時から著明な変形が認められる。AMC自体は進行性ではないが,その原因となる病態(例,筋ジストロフィー)が進行性である場合がある。
侵された関節は屈曲または伸展の際に収縮を起こす。古典的なAMCでは,肩関節が傾斜,内転,内旋し,肘関節は伸展,手関節および指関節は屈曲する。股関節は脱臼することがあり,通常は軽度に屈曲する。肘関節は伸展し,足はしばしば内反尖足位をとる。脚筋は通常形成不全を呈し,四肢は管状で皺がないことが多い。ときに,屈曲拘縮した関節の屈側に翼状の軟部組織をみられる。脊柱側弯症を認めることもある。長管骨が細長いという点を除けば,骨格はX線上正常である。身体障害は重度となることがある。一部の患児には中枢神経系の原発性機能障害がみられるものの,知能障害は通常みられない。
顎は小さく動かないため,手術の際に気管挿管が困難となることがある。
その他まれに関節拘縮症に合併する異常として,小頭症,口蓋裂,停留精巣,心形成異常,尿路異常などがあり,これらの所見を認める場合は,基礎疾患として染色体異常または遺伝性症候群の存在が疑われる。
先天性多発性関節拘縮症の診断
臨床的評価
原因検索のための検査
新生児に多発性の拘縮がみられる場合は,最初の評価として,その病態が筋形成不全,遠位型関節拘縮症,あるいは多発性拘縮に無関係の先天異常および/または代謝性疾患が合併する別の症候群であるかを明らかにすべきである。可能であれば,臨床遺伝専門医が評価および管理を調整すべきであり,典型的には様々な分野の専門家が関与する。発達遅滞および/または他の先天異常がみられる場合は,症候群性(症候群の部分症として)のAMCが疑われ,そのような患者には,中枢神経系疾患の評価を行い,進行性の神経症状がないかモニタリングすべきである。
また評価の際には,合併する身体異常,染色体異常,および遺伝子異常に対しても詳細な評価を行う必要がある。検索すべき具体的な疾患としては,フリーマン-シェルドン(Freeman-Sheldon)症候群,ホルト-オーラム(Holt-Oram)症候群,ラーセン(Larsen)症候群,ミラー(Miller)症候群,多発性翼状片症候群,ディジョージ症候群(22q11欠失症候群)などがある。典型的な検査手順としては,まず染色体マイクロアレイ解析が行われた後,特定遺伝子の解析が個別に,あるいは多くの遺伝子検査室の標準パネルとして行われる(1)。神経原性および筋原性疾患の診断には筋電図および筋生検が有用である。古典的なAMCでは,典型的には筋生検で筋形成不全が認められ,脂肪および線維組織による置換も確認される。
125人の罹患者を対象とした研究では,43%に筋形成不全,27%に遠位型関節拘縮症,30%にその他の病型が認められた(2)。臨床的評価に加えて,次世代シークエンシング技術を用いる新生児用のAMC特異的遺伝子パネル検査を用いることで,早期の診断と健康アウトカムの改善が可能になる場合がある。これらのアプローチにより,66%の症例で病因を確定することができる(3)。
他の検査で確定診断が得られない場合,特に家族性の症例では,全エクソーム配列決定を考慮すべきである(4)。
診断に関する参考文献
1.Todd EJ, Yau KS, Ong R, et al: Next generation sequencing in a large cohort of patients presenting with neuromuscular disease before or at birth.Orphanet J Rare Dis 10:148, 2015.doi: 10.1186/s13023-015-0364-0
2.Le Tanno P, Latypova X, Rendu J, et al: Diagnostic workup in children with arthrogryposis: Description of practices from a single reference centre, comparison with literature and suggestion of recommendations.J Med Genet jmedgenet-2021-107823, 2021.doi: 10.1136/jmedgenet-2021-107823
3.Pollazzon M, Caraffi SG, Faccioli S, et al: Clinical and genetic findings in a series of eight families with arthrogryposis.Genes (Basel) 13(1):29, 2022.doi: 10.3390/genes13010029
4.Hunter JM, Ahearn ME, Balak CD, et al: Novel pathogenic variants and genes for myopathies identified by whole exome sequencing.Mol Genet Genomic Med 3(4):283–301, 2015.doi: 10.1002/mgg3.142
先天性多発性関節拘縮症の治療
関節の徒手整復およびギプス固定
ときに外科手術
早期の整形外科的検査および理学療法的評価が必要である。生後数カ月のうちに関節の徒手整復とギプス固定を行えば,相当の改善が得られる。装具が役立つこともある。
強直によるアライメント異常の矯正のために後に手術が必要になる場合があるが,それにより歩行能力が向上することはまれである。筋移行術(例,肘関節の屈曲を可能にするために三頭筋を外科的に移行する)で機能を改善できることがある。
多くの患児は予後良好であり,治療後は3分の2が歩行可能となる。