性器出血

執筆者:David H. Barad, MD, MS, Center for Human Reproduction
レビュー/改訂 2022年 2月
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異常な性器出血または子宮出血としては以下のものがある:

  • 頻度(無月経,希発月経,頻発月経),量,または期間(過多月経,月経時の重い出血)が過剰な月経

  • 月経と月経の間に起こる出血(月経間期出血)または月経と関連がなく,不規則に起こる出血(不正子宮出血)

  • 初経前の出血

  • 閉経後出血(すなわち,最終の正常月経後12カ月以降に生じる)

妊娠初期または妊娠後期に性器出血が起こることもある。

性器出血の出血源は,外陰,腟,子宮頸部,子宮体部を含めた生殖器のあらゆる部位が考えられる。性器出血の出血源が子宮内にある場合は,異常子宮出血(AUB)と呼ぶ。

性器出血の病態生理

大半の異常性器出血には以下が関与する:

  • 視床下部-下垂体-卵巣系のホルモン異常

  • 器質的疾患(例,子宮筋腫)または炎症性疾患(例,慢性子宮内膜炎)

  • 婦人科がん

  • 出血性疾患(まれ)

ホルモンが原因の場合,排卵は起こらないか,または不規則である。無排卵周期では,黄体が形成されず,そのためプロゲステロンの正常な周期的分泌が生じない。プロゲステロンがない状態では,エストロゲンにより子宮内膜が増殖し続け,最終的には血液供給を上回る。子宮内膜はその後,不完全に,不規則に脱落および出血し,ときとして多量出血や長期出血を起こす。器質的疾患(例,子宮筋腫)は子宮筋(子宮筋層)の機能を阻害するため,異常出血を引き起こす可能性がある。

性器出血の病因

成人(成人女性における性器出血の主な原因の表を参照)および小児(小児における性器出血の一般的な原因の表を参照)における性器出血の原因は様々である。

妊娠可能年齢における性器出血の一般的な原因としては,以下のものがある:

  • 排卵障害

  • 診断されていない初期の妊娠の合併症

  • 粘膜下筋腫

  • 子宮内膜ポリープまたは子宮頸管ポリープ

  • 排卵に関連する中期出血

  • 経口避妊薬内服中の女性での破綻出血

妊娠可能年齢でみられる異常子宮出血(AUB)の最も一般的な原因は,排卵障害である。

妊娠していない妊娠可能年齢の女性におけるAUBの原因は,PALM-COEIN分類(1,2)において,構造的原因と非構造的原因に分類されている。PALM-COEINとは,構造的原因(PALM)と非構造的原因(COEIN)それぞれの頭文字を並べたものである。

初経前では,腟炎,異物,および外傷が性器出血の一般的な原因である。性的虐待およびがんは比較的まれな原因であるが,これらの病態を除外するために迅速な評価が必要である。

PALM-COEIN分類

表&コラム
表&コラム
表&コラム
表&コラム

病因論に関する参考文献

  1. 1.Practice bulletin no. 128: Diagnosis of abnormal uterine bleeding in reproductive-aged women.Obstet Gynecol 120 (1):197-206, 2012.doi: 10.1097/AOG.0b013e318262e320

  2. 2.Practice bulletin no. 136: Management of abnormal uterine bleeding associated with ovulatory dysfunction.Obstet Gynecol 122 (1):176-185, 2013.doi: 10.1097/01.AOG.0000431815.52679.bb

性器出血の評価

最優先すべきことは,患者に持続性の大出血またはそのリスク(例,異所性妊娠による)があるかどうかを判断することである。

妊娠中の性器出血の原因のなかには生命を脅かすもの(例,異所性妊娠)もあるため,妊娠可能年齢の女性では気づいていない妊娠を疑い診断すべきである。

病歴

現病歴には出血の量(例,1日または1時間に使う生理用ナプキンの数),期間,月経および性行為と出血の関係を含めるべきである。医師は以下について尋ねるべきである:

  • 月経歴:正常な最終月経の日付,初経および閉経の年齢(該当する場合),月経周期の長さおよび規則性,典型的な月経出血の量と期間,および月経困難症の頻度など

  • 過去の異常出血のエピソード:出血の頻度,期間,量,パターン(周期性)など

  • 性交歴:可能性のある性的暴行の経歴を含む

システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因の症状がないか検討すべきである:

既往歴の聴取では最近の自然もしくは人工流産または器質的疾患(例,子宮筋腫,頸管ポリープまたは子宮内膜ポリープ)を含む,性器出血の原因として知られている疾患を同定すべきである。医師は以下の危険因子を同定すべきである:子宮内膜がん(肥満,糖尿病,プロゲスチンを併用しないエストロゲンの長期使用など),子宮頸癌(異常または不十分な子宮頸癌スクリーニング,免疫抑制など),および多嚢胞性卵巣症候群

薬歴には,ホルモン避妊薬,その他のホルモン剤,およびAUBを引き起こす可能性のあるその他の薬剤(例,抗凝固薬,非ステロイド系抗炎症薬)の使用に関する具体的な質問を含めるべきである。

出血の問題または婦人科がんの家族歴について尋ねるべきである。

小児の性的虐待が疑われる場合には,National Institute of Child Health and Human Development (NICHD) Protocolに基づく法医学的な構造化面接を用いることができる。これは経験した出来事に関する情報を小児が報告する助けとなり,得られる情報の質を改善する。

身体診察

バイタルサインを評価して,循環血液量減少の徴候(例,頻脈,低血圧)がないか確認する。

全身状態を観察する際に,貧血の徴候(例,結膜蒼白)や可能性のある異常子宮出血の原因の所見がないか確認すべきであり,具体的には以下のものがある:

  • 男性型多毛症,ざ瘡,肥満,および卵巣腫大:多嚢胞性卵巣症候群

  • 温かく湿ったまたは乾燥した皮膚,眼の異常,振戦,反射異常,または甲状腺腫:甲状腺疾患

  • 乳頭分泌物:高プロラクチン血症

  • BMI低値:視床下部性無排卵の可能性

  • 肝腫大,黄疸,手首の羽ばたき振戦,または脾腫:肝疾患

  • 紫斑ができやすい,点状出血,紫斑または粘膜(例,歯肉)出血が起きやすい:出血性疾患

  • 腹部腫瘤または腹水:がん,婦人科がんを含む

  • 典型的な思春期の年齢より若い小児における乳房の発達および陰毛や腋毛の存在:早発思春期

  • 小児における歩行または座位の困難;性器,肛門,また口の周囲の挫傷または裂傷;腟分泌物またはそう痒:性的虐待

腹部を診察して,膨隆,圧痛,腫瘤(特に増大した子宮)がないか確認する。

内診を行う。外部の視診と腟鏡診は外陰,腟,子宮頸部,および尿道に生じた病変を同定するのに役立つ。子宮の大きさと卵巣腫大を評価するために双合診を行う。腹部診察で妊娠後期であることが示唆される場合,子宮頸部の指診は胎盤の位置が確定するまでは禁忌である。腟内に血液を認めない場合は,直腸診を行って,出血が消化管由来のものか否かを確認する。

小児が内診に耐えられない場合や出血源が不明な場合には,内診を始める前に小児麻酔薬を投与してもよい;腟と子宮頸部を診察するのに必要な場合には,vaginoscopyを行う。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 過度の出血

  • 血行動態不安定(頻脈,低血圧)

  • 初経前または閉経後の性器出血

  • 妊婦の性器出血

  • 小児では,歩行または座位の困難;性器,肛門,または口の周囲の挫傷または裂傷;性的虐待を示唆する腟分泌物またはそう痒

所見の解釈

異所性妊娠の破裂または,まれに卵巣嚢胞の破裂を除いて,著明な循環血液量減少または出血性ショックの可能性は低い。

小児における典型的な思春期の年齢範囲より前の乳房の発達,および陰毛や腋毛は,早発思春期および早発月経を示唆する。これらの所見を認めない場合は,説明のつく病変や異物が明らかではない限り,性的虐待の可能性を調べるべきである。

妊娠可能年齢の女性では,診察によって原因となる婦人科病変や原因を示唆する他の所見が明らかになることがある。ホルモン避妊薬を使用している若年患者で,診察中に明らかな異常がなく出血が少量である場合は,出血はホルモン療法に関連している可能性がある。過多月経のみが問題である場合は,子宮疾患または出血性素因を考慮すべきである。遺伝性出血性疾患は,初経開始時や青年期に過多月経として初めて明らかになる場合がある。

閉経後女性では,婦人科がんを疑うべきである。

検査

妊娠可能年齢の全ての患者で以下の検査が必要である:

  • 尿妊娠検査または血液妊娠検査

妊娠初期(5週未満)では,尿妊娠検査は感度が不十分なことがある。尿検体での妊娠検査が陰性ながら妊娠が疑われる場合は,血清検体でのヒト絨毛性ゴナドトロピンβ(β-hCG)の定量検査を行うべきである。

妊娠中の性器出血には特有のアプローチが必要となる(妊娠初期における性器出血および妊娠後期における性器出血を参照)。

血液検査では,出血が異常に多い(例,1時間に1個を超えるナプキンまたはタンポン)か,7日間を超えて持続している場合,または貧血や循環血液量減少を示唆する所見がある場合に血算も行う。貧血が確認され,鉄欠乏症(例,小球性,低色素性を示す赤血球検査値に基づく)によるものか明らかでない場合には,鉄の検査を実施する。

甲状腺刺激ホルモンおよびプロラクチンの値は,乳汁漏出がない場合でも,通常測定する。

出血性疾患が疑われる場合には,フォン・ヴィレブランド因子,血小板数,プロトロンビン時間(PT)および部分トロンボプラスチン時間(PTT)を測定する。

多嚢胞性卵巣症候群が疑われる場合は,テストステロンおよびデヒドロエピアンドロステロン硫酸(DHEAS)の値を測定する。

画像検査には,以下のいずれかの場合には経腟超音波検査を含める:

超音波検査によるスクリーニングで検出された子宮内膜の限局性肥厚は,小さな子宮腫瘤(例,子宮内膜ポリープ,粘膜下筋腫)を同定するために,子宮鏡検査または生理食塩水を注入して行うソノヒステログラフィーを必要とする可能性がある。

その他の検査として,以下のいずれかに該当する患者において診察と超音波検査で診断を確定できない場合に行う子宮内膜採取がある:

  • 年齢45歳以上

  • 黄体ホルモン拮抗のないエストロゲン曝露(BMI[body mass index]高値や多嚢胞性卵巣症候群の女性に生じるもの)

  • 婦人科がんの危険因子

  • 閉経後患者における4mmを超える子宮内膜の肥厚

検体の採取は,子宮内膜生検または子宮口の拡張が必要な場合は頸管拡張・内膜掻爬(D&C)により行う。

性器出血の治療

出血性ショックは直ちに治療が必要であり,治療はしばしば腹腔鏡下または開腹下による。鉄欠乏性貧血には経口による鉄補充が必要になることがある。

性器出血の根治的治療は原因に対して行う。典型的には,ホルモン製剤(通常は経口避妊薬)が排卵障害による異常子宮出血に対する一次治療となる。

老年医学的重要事項

閉経後出血(最後の月経から12カ月以上経過してからの出血)は異常であり,外因性ホルモンの投与中止によるものであることが明らかな場合を除き,がんを除外するためにさらなる評価が必要である。

外因性ホルモンの投与を受けていない女性の場合,閉経後出血の原因で最も頻度が高いのは子宮内膜の萎縮であるが,それでも子宮内膜の病態を除外すべきである。

一部の高齢女性では,エストロゲン減少により腟粘膜の脆弱性が高まったり,腟狭窄や,ときに腟の癒着がおこるため,腟の物理的診察が困難な場合がある。これらの患者では,小児用の腟鏡を用いることで,苦痛が少なくなることがある。

要点

  • 妊娠可能年齢の女性では,病歴から示唆されなくても妊娠を除外しなければならない。

  • 妊娠可能年齢でみられる異常子宮出血の最も一般的な原因は,排卵障害である。

  • 初経前では,腟炎,異物,および外傷が性器出血の一般的な原因である;性的虐待は比較的まれな原因であるが,疑われる場合には迅速な評価が必要である。

  • 閉経後の性器出血は,がんを除外するためにさらなる評価が必要である。

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