腟のかゆみおよび分泌物

執筆者:David H. Barad, MD, MS, Center for Human Reproduction
レビュー/改訂 2020年 3月
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腟のかゆみ(そう痒)や分泌物(帯下)は,腟粘膜の感染性または非感染性の炎症(腟炎)により生じ,しばしば外陰の炎症(外陰腟炎)を伴う。症状としては,過敏性,灼熱感,発赤,ときに排尿困難や性交痛などがある。腟炎の症状は最も頻度の高い婦人科的愁訴の1つである。

病態生理

腟分泌物(帯下)は正常である場合もある(特にエストロゲン値が高い場合)。エストロゲン値は以下の状況で高値となる:

  • 排卵の数日前

  • 生後2週間(出生前に母体のエストロゲンが移行するため)

  • 初経の数カ月前と妊娠中(エストロゲン産生が増加する)

  • エストロゲンを含有する薬剤またはエストロゲン産生を増加させる薬剤(例,一部の排卵誘発薬)の使用時

しかしながら,過敏性,灼熱感,およびそう痒が正常であることはない。

妊娠可能年齢の女性では一般に,乳酸桿菌(Lactobacillus)属が正常な腟内細菌叢の主たる構成菌である。これら細菌の常在により腟内のpHが正常範囲(3.8~4.2)に保たれることで,病原性細菌の過剰増殖が阻止される。さらに,高濃度のエストロゲンにより腟の厚さが維持され,局所的防御機構が強化される。

腟内の病原細菌が過剰に増殖しやすくなる要因として以下のものがある:

  • 抗菌薬の使用(乳酸桿菌を減少させることがある)

  • 月経血,精液,または乳酸桿菌の減少による腟pHのアルカリ化

  • 衛生状態の不良

  • 頻繁な腟洗浄

  • 妊娠

  • 糖尿病

  • 腟内異物(例,取り忘れたタンポンまたはペッサリー)

病因

腟のかゆみおよび分泌物の最も一般的な原因は患者の年齢によって異なる(腟のそう痒および分泌物の主な原因の表を参照)。

小児

小児では,一般的な原因に腟炎があり,通常は腸内細菌叢による感染症による(非特異的な外陰腟炎)。2~6歳の女児における一般的な寄与因子として,会陰部の不衛生が挙げられる(例,排便後に後ろから前へ拭く,排便後に手を洗わない)。

入浴剤や石鹸の化学物質が外陰の炎症やそう痒を引き起こすことがあり,しばしば再発する。

異物が非特異的腟炎を引き起こすことがあり,しばしば少量の血性分泌物を伴う。

頻度は低いものの,小児での帯下は性的虐待に起因する。

妊娠可能年齢の女性

妊娠可能年齢の女性では腟炎も一般的な原因である;通常は感染性である。最も頻度の高い病型は以下のものである:

他の感染(例,淋菌感染症クラミジア感染症)により分泌物が生じることもある。これらの感染症はしばしば骨盤内炎症性疾患も起こす。

性器ヘルペスはときに腟のかゆみを引き起こすが,典型的には疼痛と潰瘍で発症する。

腟炎は異物(例,タンポンの取り忘れ)により起こる場合もある。炎症性の非感染性腟炎はまれである。

閉経後女性

閉経後女性では,萎縮性腟炎が一般的な原因である。

帯下が生じる他の原因としては,腟がん子宮頸癌子宮内膜癌のほか,失禁のある女性や寝たきりの女性でみられる化学性の外陰炎などがある。

全年齢の女性

年齢を問わず腟または外陰感染の素因となる状態としては以下のものがある:

  • 腸管と性器の間の瘻孔(これにより腸内細菌叢が性器に播種される)

  • 骨盤照射または骨盤内腫瘍(組織を破壊して正常な宿主防御機構を破綻させる)

瘻孔は通常産科的原因(経腟分娩時の外傷または会陰切開後の感染合併症)によるが,ときに炎症性腸疾患または骨盤内腫瘍によるものや,骨盤内手術(例,子宮摘出術,肛門手術)の合併症として生じることもある。

非感染性外陰炎は外陰腟炎症例の最大30%を占める。女性用衛生スプレーや香水,生理用ナプキン,洗濯洗剤,漂白剤,衣類の柔軟剤,およびときに,殺精子剤,腟クリームや潤滑剤,ラテックス製コンドーム,腟内避妊リングやペッサリーなど様々な物質への過敏性または刺激反応により生じることがある。

表&コラム

評価

病歴

現病歴には症状の性質(例,そう痒,灼熱感,痛み,分泌物),期間,強さを含める。帯下がみられる場合は,分泌物の色と臭い,増悪および軽減する因子(特に月経と性交に関係するもの)について尋ねるべきである。女性用衛生スプレーや香水,殺精子剤,腟クリームや潤滑剤,ラテックス性コンドーム,腟用避妊リングおよびペッサリーの使用についても尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因を示唆する症状がないか検討すべきである:

  • 発熱または悪寒と腹痛または恥骨上部痛:骨盤内炎症性疾患(PID)または膀胱炎

  • 多尿および多飲:初発の糖尿病

既往歴の聴取では,以下の危険因子に注意すべきである:

  • カンジダ感染症(例,最近の抗菌薬の使用,糖尿病,HIV感染,他の免疫抑制疾患)

  • 瘻孔(例,クローン病,泌尿生殖器癌または消化器癌,骨盤または直腸手術,分娩中の裂傷)

  • 性感染症(例,無防備な性交,複数のパートナー)

小児の性的虐待が疑われる場合には,National Institute of Child Health and Human Development (NICHD) Protocolに基づく法医学的な構造化面接を用いることができる。これは経験した出来事に関する情報を小児が報告する助けとなり,得られる情報の質を改善する。

身体診察

身体診察は内診に焦点を置く。

外性器を診察して,発赤,表皮剥離,および腫脹がないか確認する。水で滑りやすくした腟鏡を用いて腟壁を観察し,発赤,分泌物,瘻孔がないか確認する。子宮頸部を視診して,炎症(例,トリコモナス症)および分泌物がないか確認する。腟pHを測定し,検査のために分泌物の検体を採取する。双合診を行い,頸部移動痛および付属器,子宮の圧痛(骨盤内炎症性疾患を示唆する)を調べる。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 小児でのトリコモナス腟炎(性的虐待を示唆する)

  • 便の排出(見えなくても瘻孔を示唆する)

  • 発熱または骨盤痛

  • 閉経後女性の血性分泌物

所見の解釈

しばしば,病歴と身体診察が診断に役立つ(腟のそう痒および分泌物の主な原因の表を参照)が,重複する部分が多いことがある。

小児では,帯下の存在は腟内の異物を示唆する。小児で異物が存在せず,トリコモナス腟炎を認める場合,性的虐待の可能性が高い。原因不明の帯下がみられる場合には,性感染症により生じることがある子宮頸管炎を考えるべきである。非特異的な外陰腟炎は除外診断である。

妊娠可能年齢の女性では,腟炎による分泌物を正常な分泌物と識別する必要がある:

  • 正常な腟分泌物は一般的に乳白色または粘液様で,無臭,非刺激性である;下着を湿らせるほど腟を湿潤させることもある。

  • 細菌性腟症は,水っぽく灰色で魚のような臭いを伴う分泌物を産生する。

  • トリコモナス感染症では,泡状で黄緑色の分泌物が産生され,外陰や腟に疼痛が生じる。

  • カンジダ腟炎はカッテージチーズ様の白色の分泌物を産生し,月経前の週に増加する;性交後に症状が悪化する。

接触による刺激やアレルギー反応は著明な過敏と炎症をもたらし,分泌物は比較的少量である。

子宮頸管炎による分泌物(例,骨盤内炎症性疾患による)は腟炎によるものと似ていることがある。腹痛,頸部移動痛,または頸部の炎症は骨盤内炎症性疾患を示唆する。

全年齢の女性において,腟のそう痒および分泌物は,皮膚疾患(例,乾癬硬化性苔癬癜風)により起こる場合があり,通常病歴や皮膚所見により鑑別しうる。

水様性,血性,またはその両方が混在する分泌物は,外陰がん腟がん,または子宮頸癌に起因する可能性があり,がんは診察と生検で腟炎と鑑別できる。

萎縮性腟炎では,分泌物の量は少なく,その性状は水様性のことがあり,粘稠度は低い場合もあれば高い場合もあり,色は黄色調のことがある。性交痛がよくみられ,腟組織は外観上菲薄化し,乾燥している。

検査

全ての患者で以下の院内検査が必要である:

  • pH

  • ウェットマウント

  • KOH(水酸化カリウム)法

淋菌およびクラミジア感染症の検査は非感染性の原因(例,アレルギー,異物)が明らかな場合を除いて,一般的に行われる。

腟分泌物はpH紙を使用してpHを4.0~6.0まで0.2間隔で検査する。次に,綿棒を用いて2枚のスライドガラスに分泌物を塗布し,1枚は0.9%塩化ナトリウム溶液で分泌物を希釈し(生理食塩水のウェットマウント),もう1枚は10% KOH溶液で希釈する(KOH法)。

KOH標本では,トリコモナス腟炎や細菌性腟症で産生されるアミンから生じる魚のような臭いを調べる(臭気テスト)。スライドガラスは顕微鏡を用いて検査する;KOHは酵母菌糸を除くほとんどの細胞物質を溶解し,同定を容易にする。

運動するトリコモナス原虫を検出するため,生理食塩水を滴下したらできるだけ早急に顕微鏡を用いて調べる(トリコモナス原虫はスライドガラス作成後数分以内に運動を停止する可能性があり,そうなると確認はより困難になる)。

臨床基準および院内検査結果が確定的ではない場合には,分泌物の真菌およびトリコモナド培養を行うことがある。

治療

かゆみまたは分泌物に具体的な原因があれば治療する。

外陰はできる限り清潔に保つべきである。石鹸および不必要な局所製剤(例,女性用衛生スプレー)は避けるべきである。石鹸が必要な場合は,低アレルギー性の石鹸を用いるべきである。氷嚢や坐浴(重曹を入れてもよい)の間欠的使用により,痛みやそう痒が軽減することがある。陰部をぬるま湯で洗い流すことで,症状を緩和できることもある。慢性的な外陰の炎症が寝たきりまたは失禁によるものである場合,外陰をより清潔にすることが有用である。

女性には腟洗浄器を使用しないよう助言すべきである。

症状が中等度または重度である場合,もしくは他の治療に反応しない場合には,薬物が必要なことがある。そう痒に対しては,外用コルチコステロイド(例,外用1%ヒドロコルチゾン,1日2回,必要時)を外陰に塗布してもよいが,腟内には使用しない。経口の抗ヒスタミン薬はそう痒を減らし眠気を催すため,患者の睡眠を助ける。

思春期前の女児には,望ましい会陰部の衛生について教えるべきである(例,排便および排尿後は前から後ろへ拭くこと,手を洗うこと,会陰部を指で触らないこと)。

老年医学的重要事項

閉経後女性では,エストロゲンが著明に低下することにより腟は薄くなり(萎縮性腟炎),感染および炎症への脆弱性が高まる。高齢女性におけるエストロゲン 減少の他の一般的な原因としては,卵巣摘出術,骨盤への放射線照射,特定の化学療法薬などがある。

萎縮性腟炎では,炎症により異常な分泌物が生じるが,その量は少なく,性状は水様性のことがあり,粘稠度は低い場合もあれば高い場合もあり,色は黄色調のことがある。性交痛がよくみられ,腟組織は外観上菲薄化し,乾燥している。

不衛生(例,失禁や寝たきりの患者における)は,尿もしくは便による化学刺激により,慢性的な外陰の炎症を引き起こしうる。

細菌性腟症,カンジダ腟炎,およびトリコモナス腟炎は閉経後女性ではまれであるが,危険因子を有する女性で生じることがある。

閉経後はがんリスクが上昇し,血性または水様性帯下はがんが原因である可能性がより高くなる;そのため閉経後女性にみられる帯下は全て速やかに評価すべきである。

要点

  • かゆみおよび/または分泌物に関連する腟の症状はしばしば非特異的である。

  • 腟のかゆみの原因は患者の年齢に応じて様々である。

  • 大半の患者では腟pHを測定し,顕微鏡による観察および検査のために分泌物を採取する;必要に応じて,性行為で感染する微生物の培養を行う。

  • 閉経後女性では,いかなる帯下も速やかに評価すべきである。

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