妊娠性絨毛性疾患

執筆者:Pedro T. Ramirez, MD, Houston Methodist Hospital;
Gloria Salvo, MD, MD Anderson Cancer Center
レビュー/改訂 2022年 7月
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妊娠性絨毛性疾患は,妊婦または最近まで妊娠していた女性におけるトロホブラストの増殖である。臨床像としては過度の子宮増大,嘔吐,性器出血,妊娠高血圧腎症などがあり,通常は妊娠早期に顕在化する。診断には,ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニットの測定,骨盤内超音波検査を含み,生検による確定を行う。腫瘍は吸引掻爬により除去する。疾患が除去後も継続する場合には,化学療法の適応となる。

妊娠性絨毛性疾患には,非腫瘍性の胞状奇胎から悪性の腫瘍性疾患まで一連の増殖性疾患が含まれる。これらの疾患は,胚盤胞を取り囲んで絨毛膜および羊膜へと発達する胎芽のトロホブラスト層から発生する(在胎約11週4日の胎盤および胎児の図を参照)。

妊娠性絨毛性疾患は,子宮内妊娠中や異所性妊娠中またはそれらの後に生じうる。生殖期間の両端にある女性の妊娠でリスクが増大し,特に45歳以上の女性で顕著となる。妊娠中には,典型的には自然流産,子癇,または胎児死亡に至る。

妊娠性絨毛性疾患は,胞状奇胎と妊娠性絨毛性腫瘍に分類される:

  • 胞状奇胎は,悪性化する可能性がある良性の胎盤腫瘍である。絨毛性トロホブラストの増殖で構成される。これらはさらに全奇胎と部分奇胎に分類される。

  • 妊娠性絨毛性腫瘍は悪性の胎盤腫瘍である。この種の腫瘍としては,奇胎後妊娠性絨毛性腫瘍(胞状奇胎妊娠の後に発生する妊娠性絨毛性腫瘍),胎盤部トロホブラスト腫瘍,類上皮性トロホブラスト腫瘍,絨毛癌,侵入奇胎などがある。

胞状奇胎は17歳未満または35歳以上の女性と妊娠性絨毛性疾患の既往がある女性に最も多くみられる。米国では,胞状奇胎は妊娠1000~1200件当たり1例,人工妊娠中絶600件当たり1例の頻度で発生する(1, 2)。通常は妊娠の前半に診断される。

胞状奇胎妊娠には以下の2つの病型がある:

  • 全奇胎:胎盤組織に異常がみられ,胎児組織は形成されない。全奇胎は二倍体である。大半は46XXで,1つの精子による受精後の複製によって生じる;卵子核は欠如しているか不活化されている。しかしながら,二精子受精に起因するものもあり,46XYとなりうる。

  • 部分奇胎:部分胞状奇胎妊娠では,異常な胎盤組織を伴って正常な胎盤組織が認められることがある。胎児が発育する場合があるが,生存はできず,通常は早期に流産となる。部分奇胎は三倍体であり,2つの精子または1つの二倍体精子による受精から生じる。

大半(> 80%)の胞状奇胎は良性である。部分奇胎または全奇胎の既往がある患者では,以降の妊娠における2回目の奇胎発生率は1~2%である。奇胎の既往がある患者では次の妊娠初期に超音波検査が必要であり,胎盤の病理学的評価を行うべきである。奇胎妊娠が連続する患者には,NLRP7およびKHDC3Lの変異に対する生殖細胞系列の遺伝子検査が必要である。

絨毛癌は胞状奇胎後2~3%に発生し,部分奇胎よりも全奇胎の後に多くみられる。全胞状奇胎後,約15~20%の患者が妊娠性絨毛性腫瘍の治療を受ける。15%の症例で侵入奇胎が生じ,5%で転移が起こる。部分奇胎後,最大3~5%の患者で局所浸潤が起こり,転移はまれである(3)。

妊娠性絨毛性腫瘍全体での発生率は妊娠約40,000件当たり1例である(4)。40歳以上の患者,除去前のhCG値が100,000mIU/mLを超える患者,過度の子宮増大がみられる患者,または6cmを超える莢膜黄体嚢胞(theca lutein cyst)がある患者では,奇胎後妊娠性絨毛性腫瘍のリスクが上昇する。

総論の参考文献

  1. 1.Seckl MJ, Sebire NJ, Berkowitz RS: Gestational trophoblastic disease.Lancet 376 (9742):717–729, 2010.doi: 10.1016/S0140-6736(10)60280-2 Epub 2010 Jul 29.

  2. 2.Lurain JR: Gestational trophoblastic disease I: Epidemiology, pathology, clinical presentation and diagnosis of gestational trophoblastic disease, and management of hydatidiform mole.Am J Obstet Gynecol 203 (6):531–539, 2010.doi: 10.1016/j.ajog.2010.06.073 Epub 2010 Aug 21.

  3. 3.Goldstein DP, Berkowitz RS: Current management of gestational trophoblastic neoplasia.Hematol Oncol Clin North Am 26 (1):111–131, 2012.doi: 10.1016/j.hoc.2011.10.007

  4. 4.Smith HO: Gestational trophoblastic disease epidemiology and trends.Clin Obstet Gynecol (3):541–556, 2003.doi: 10.1097/00003081-200309000-00006

妊娠性絨毛性疾患の症状と徴候

胞状奇胎の最初の症状は妊娠初期を示唆するものであるが,妊娠10~16週以内に子宮が通常より大きくなることが多い。一般的に,女性は妊娠検査陽性で性器出血と重度の悪心および嘔吐を認め(妊娠悪阻),胎児の動きおよび胎児心音が欠如している。ブドウ状組織の腟からの排出は診断を強く示唆する。

以下のような合併症が起こることがある:

比較的まれな合併症としては,子宮感染症敗血症などがある。

胎盤部トロホブラスト腫瘍は出血を起こしやすい。

絨毛癌は通常,肺,肝,または脳転移による症状で明らかになる。

甲状腺機能亢進症は,妊娠性絨毛性疾患がない女性よりある女性でより頻度が高い。症状としては,頻脈,皮膚の熱感,発汗,耐暑性低下(heat intolerance),軽度の振戦などがある。

妊娠性絨毛性疾患は以降の妊孕性を損なったり,以降の妊娠における出生前または周産期の合併症(例,先天性形成異常,自然流産)の素因となったりはしない。

妊娠性絨毛性疾患の診断

  • 血清ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG)測定

  • 骨盤内超音波検査

  • 除去した子宮内容物の病理評価または子宮内膜生検

妊娠性絨毛性疾患は,妊娠検査陽性の女性で以下のいずれかが認められる場合に疑われる:

  • 妊娠検査中の予想外に高いβ-hCG値(胎盤部トロホブラスト腫瘍と類上皮性トロホブラスト腫瘍は例外で,これらではβ-hCGは低値となる)

  • 子宮が妊娠週数に比して非常に大きい

  • 第1または第2トリメスターで妊娠高血圧腎症の症状または徴候がみられる

  • ブドウ状組織の腟からの排出がある

  • 妊娠評価のための超音波検査で本疾患を示唆する所見(例,複数の嚢胞を含んでいる腫瘤,胎児および羊水の欠如)を認める

  • 妊娠可能年齢の女性で原発部位不明の転移性腫瘍を認める

奇胎後妊娠性絨毛性腫瘍(postmolar gestational trophoblastic neoplasia)は,hCG値に基づいて診断されることが最も多く,妊娠後に異常子宮出血がみられる場合は除外すべきである。

パール&ピットフォール

  • 子宮が妊娠週数に比してはるかに大きい場合,β-hCG値が予想外に高い場合,または妊娠高血圧腎症の症状や徴候を認める場合には妊娠初期に超音波検査を行う。

妊娠性絨毛性疾患が疑われる場合には,検査として血清β-hCG値の測定を含み,過去に行われていなければ,骨盤内超音波検査を行う。何らかの所見(例,非常に高いβ-hCG値,古典的な超音波検査所見)により本疾患の診断が示唆されることがあるが,診断は除去された子宮内容物または子宮内膜生検の病理評価により,組織学的に確定しなければならない。典型的には,β-hCG値は侵入奇胎または絨毛癌の患者で高く,胎盤部トロホブラスト腫瘍または類上皮性トロホブラスト腫瘍の患者で低い。

生検所見から侵襲的疾患が示唆される場合や,胞状奇胎の治療後にβ-hCG値が予想より高い水準にとどまる場合は,侵入奇胎または絨毛癌が疑われる(以下参照)。

β-hCG値が100,000mIU/mL(100,000IU/L)を超える場合には,甲状腺機能亢進症の可能性を調べるために甲状腺機能検査を行う。

妊娠性絨毛性腫瘍と診断された場合は,転移の有無を確認すべきである。胸部,腹部,および骨盤部のCTを施行すべきである。子宮の腫瘍を詳細に観察する必要がある場合や,卵巣に莢膜黄体嚢胞がある場合は,骨盤内超音波検査またはMRIが役立つことがある。他の部位への転移は通常,肺への転移が完成した後にしか起こらない。

進行期分類

妊娠性絨毛性疾患の治療を開始する前に以下を判定する:

どちらも臨床予後と相関し,治療不成功のリスクがある患者を同定することができる。

表&コラム
表&コラム

妊娠性絨毛性疾患の予後

転移例については,転移性妊娠性絨毛性疾患に関する世界保健機関(World Health Organization:WHO)の予後スコアリングシステムが,死亡リスクを含む予後予測に役立つ可能性がある(転移性妊娠性絨毛性疾患に関するWHOスコアリングシステムの表を参照)。WHOリスクスコアが6以下の場合は低リスクに分類され,6を超える場合は高リスクに分類される。

表&コラム
表&コラム

予後不良は以下によっても示唆される(米国国立衛生研究所[National Institutes of Health:NIH]基準):

  • hCGの24時間尿中排泄 >100,000IU

  • 潜伏期 > 4カ月(前の妊娠からの間隔)

  • 脳または肝への転移

  • 満期妊娠後に発症

  • 血清hCG > 40,000mIU/mL

  • 以前の化学療法が無効

  • WHOスコア > 6

妊娠性絨毛性疾患の治療

  • 吸引掻爬による腫瘍除去または子宮摘出術(妊孕性を望んでいない場合で,特に40歳以上の女性)

  • 存続絨毛症および腫瘍の拡がりについてのさらなる評価

  • 存続絨毛症に対して化学療法

  • 存続絨毛症に対して治療後の避妊

National Comprehensive Cancer Network (NCCN): NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Gestational Trophoblastic Neoplasiaも参照のこと。)

通常,どの種類の妊娠性絨毛性疾患でも,診断および治療に成功し妊孕性を温存することが可能である。妊娠性絨毛性疾患の治療を計画する際には,妊孕性温存の希望について話し合うべきである。

胞状奇胎,侵入奇胎,胎盤部トロホブラスト腫瘍,および類上皮性トロホブラスト腫瘍は吸引掻爬により除去する。出産の予定がない場合には,代わりに子宮摘出術を実施することがある。

胸部X線を施行する。血清β-hCGを連続的に測定する。hCGのモニタリング中は,効果的な避妊法を推奨する。β-hCGレベルが10週間以内に正常に戻らない場合には,疾患は存続性と分類される。存続絨毛症の場合,頭部,胸部,腹部,および骨盤CTが必要である。結果によって,その疾患が非転移性か転移性かの分類が決まる。

存続絨毛症には通常,化学療法による治療を行う。血清β-hCGを1週間間隔で測定し,少なくとも連続3回正常であれば,治療は奏効していると判断する。妊娠はβ-hCG値を上昇させ,治療が奏効したかどうかの判断を困難にするため,治療後6カ月間,妊娠を防ぐべきである。典型的には,経口避妊薬を6カ月間投与する;または,効果的な避妊法を用いる。

大半の種類の妊娠性絨毛性腫瘍では,化学療法が初回治療である。

低リスクの転移性疾患は,しばしば単剤の化学療法薬(例,メトトレキサート,アクチノマイシンD)により治癒できる。多剤併用化学療法は許容可能な代替法である。これらのレジメンの初回治療寛解率は以下の通りである:

  • アクチノマイシンDレジメン:69~94%

  • 5日間のメトトレキサートレジメン:87~94%

  • 8日間のメトトレキサート-葉酸レジメン:74~93%

National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは,メトトレキサートまたはメトトレキサート/葉酸の複数日投与レジメンが推奨されている。メトトレキサートレジメンの禁忌がある場合は,アクチノマイシンDレジメンが推奨される。化学療法の施行中とhCG値の正常化後も血清hCG値をモニタリングする。通常は追加サイクルで地固め療法を行う。

子宮摘出術は,低リスク患者において寛解に要する化学療法の期間短縮と減量を可能にする。子宮摘出後も,化学療法と血清hCG値のモニタリングが必要である。

治療が成功すれば,3サイクルの治療でhCG値が10%以上低下するはずである。有意な毒性がみられるか,hCG値が以下に当てはまる場合は,代替治療が必要である:

  • 期待通りに低下しない

  • 2サイクルで10%を超えて上昇する

以前にメトトレキサートの複数日投与レジメンによる治療を受けた患者には,5日間のアクチノマイシンD投与が推奨される。

高リスクの妊娠性絨毛性腫瘍(WHOリスクスコア > 6)患者は全て専門医に紹介すべきである。高リスクの転移例では,単剤では耐性が生じる可能性が高いため,積極的な多剤併用化学療法が必要である。EMA-COが最も広く用いられているレジメンである。このレジメンではエトポシド,メトトレキサート,およびアクチノマイシンD(EMA)とシクロホスファミド + ビンクリスチン(CO)を交互に併用する。手術および/または放射線療法はしばしば,初回治療の一部である。専門施設での生存率は86%を超える(1)。

初回化学療法に抵抗性を示す高リスクの妊娠性絨毛性腫瘍の治療は困難である。選択肢としては以下のものがある:

  • EMA/EP(エトポシド/メトトレキサート/アクチノマイシンD/エトポシド/シスプラチン)

  • パクリタキセル/エトポシドとシスプラチン/エトポシドを交互に併用

  • エトポシド/シスプラチンの複数日投与レジメン

  • 大量化学療法と造血幹細胞移植

妊娠性絨毛性疾患ではほぼ全ての病変でPD-1(programmed death 1)の発現がみられる。薬剤抵抗性の妊娠性絨毛性腫瘍患者の一部に対して免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ,アベルマブ)による治療が行われており,ある程度のベネフィットが認められている。

治癒率は以下の通りである:

  • 低リスク例:90~95%

  • 高リスク例:60~80%

進行のリスクと単剤化学療法に対する抵抗性は,FIGO進行期分類とWHOリスクスコアにより判定する。

以下のいずれかに該当する場合,妊娠性絨毛性疾患が低リスクと考えられる:

  • FIGO I期(β-hCG高値が持続する,および/または腫瘍が子宮に限局している)

  • FIGO II期またはIII期でWHOリスクスコアが6以下

以下のいずれかに該当する場合,妊娠性絨毛性疾患が高リスクと考えられる:

  • FIGO II期およびIII期でWHOリスクスコアが6を超える

  • FIGO IV期

妊娠性絨毛性腫瘍の寛解(hCG値の正常化)後,最初の3カ月間は2週間間隔で,その後少なくとも12カ月間は1カ月間隔でhCG値を測定すべきである。12カ月以降の再発リスクは1%未満である;高リスク例ではリスクがより高くなる。高リスク疾患の患者では,最初の12カ月の寛解期間の後,6~12カ月間隔でhCG値を測定すべきである。化学療法中および寛解後12カ月間は,経口避妊薬が推奨される。

治療に関する参考文献

  1. 1.Ngan HYS, Seckl MJ, Berkowitz RS, et al: Update on the diagnosis and management of gestational trophoblastic disease.Int J Gynecol Obstet 143:79–85, 2018.doi: 10.1002/ijgo.12615

要点

  • 妊娠初期に子宮が妊娠週数に比して非常に大きい場合,妊娠初期にβ-hCG値が予想以上に上昇している場合,妊娠高血圧腎症の症候が認められる場合,または超音波検査所見から本症が示唆される場合,妊娠性絨毛性疾患を疑う。

  • β-hCG値の測定と骨盤内超音波検査を行い,所見から妊娠性絨毛性疾患が示唆された場合は,除去された子宮内容物または子宮内膜生検の病理学的評価によって診断を確定する。

  • 腫瘍を除去し(例,吸引掻破による),臨床基準に基づき分類する。

  • 疾患が存続性であれば化学療法で治療を行い,12カ月間,避妊法を処方する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Cancer Institute: Gestational Trophoblastic Disease Treatment: This web site provides information about gestational trophoblastic disease, its classification, staging, and treatment of each type of gestational trophoblastic disease.

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