常位胎盤早期剥離

執筆者:Antonette T. Dulay, MD, Main Line Health System
レビュー/改訂 2022年 10月 | 修正済み 2022年 12月
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常位胎盤早期剥離とは,胎盤が通常20週以降に子宮から時期尚早に分離することである。産科的緊急事態となりうる。症状としては,子宮の疼痛ならびに圧痛および性器出血で,出血性ショックおよび播種性血管内凝固症候群を伴いうる。常位胎盤早期剥離における出血源は母体である。診断は臨床的に行い,ときに超音波検査を用いる。治療は,母体または胎児の状態が不安定な場合および妊娠が満期に近い場合の速やかな分娩である。

常位胎盤早期剥離とその他の産科異常は,妊婦,胎児,または新生児の合併症または死亡のリスクを上昇させる。

常位胎盤早期剥離は全妊娠の0.4~1.5%に生じる;発生頻度は妊娠24~26週で最大である。

常位胎盤早期剥離は,数ミリの分離から完全な剥離までその程度も様々である。剥離は急性のことも,慢性のこともある。剥離により胎盤裏側(胎盤後方)の基底脱落膜への出血が起こる。ほとんどの場合,病因は明らかでない。

危険因子

常位胎盤早期剥離の危険因子としては以下のものがある:

合併症

常位胎盤早期剥離の合併症としては以下のものがある:

  • 血行動態の不安定(ショックを伴うことも伴わないこともある),および/または播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こすことのある母体失血

  • 胎児機能不全(例,胎児ジストレス,死亡),または常位胎盤早期剥離が慢性の場合は発育不全もしくは羊水過少

  • ときに胎児母体間輸血および同種免疫(例,Rh感作による)。

常位胎盤早期剥離の症状と徴候

常位胎盤早期剥離の症状および徴候の重症度は,剥離および失血の程度による。

急性の常位胎盤早期剥離は子宮出血を引き起こす可能性がある。血液は胎盤の裏側に貯留する場合もある(潜伏出血[concealed hemorrhage])。剥離が続くにつれ,子宮に,疼痛,圧痛,および触診過敏が生じうる。常位胎盤早期剥離が完全または部分的に内包型である場合,出血量と釣り合わないと思われる子宮の疼痛および圧痛が現れることがある。

DICの徴候や,出血性ショックが生じる場合がある。

慢性の常位胎盤早期剥離では,持続的または間欠的な暗褐色かつ少量の性器出血を伴うことがある。

一部の症例では,常位胎盤早期剥離の症候がみられないかわずかなこともある。

常位胎盤早期剥離の診断

  • 胎児心拍数モニタリング

  • ときに凝固検査

  • ときに超音波検査所見

常位胎盤早期剥離の診断は,第1トリメスター後に以下のいずれかが生じる場合に疑われる:

  • 性器出血

  • 子宮の疼痛および圧痛

  • 胎児ジストレスまたは死亡

  • 出血性ショック

  • DIC

腹部外傷を受けた女性でも常位胎盤早期剥離を考慮すべきである。もし妊娠中期または後期に出血が起これば,内診を行う前に,同様の症状を呈する前置胎盤を除外する必要がある;前置胎盤があれば,検査によって出血が増加することがある。

常位胎盤早期剥離の評価には以下を含める:

  • 胎児心拍数モニタリング

  • 血算

  • 血液型およびRh型判定

  • PT/PTT(プロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間)

  • 血清フィブリノーゲンおよびフィブリン分解物(最も感度の高い指標)

  • 骨盤内超音波検査

  • 患者の血液型がRh陰性の場合,Kleihauer-Betke試験(必要なRho(D)免疫グロブリン量を計算するため)

常位胎盤早期剥離における出血源は母体である。しかしながら,胎盤が子宮壁から部分的または完全に分離すると,胎児の酸素交換が障害される。胎児心拍数モニタリングでnonreassuring patternや胎児死亡が検出されることがある。

凝固検査または胎児心拍数モニタリングの結果の異常により診断が裏付けられる。

経腹超音波検査に基づき前置胎盤が疑われる場合には,経腟超音波検査が必要である。常位胎盤早期剥離の一部の症例は超音波検査で明らかになる。しかしながら,常位胎盤早期剥離では,いずれの方法による超音波検査でも正常と判定されることがある。

パール&ピットフォール

  • 超音波検査所見が正常でも常位胎盤早期剥離を除外できない。

常位胎盤早期剥離の治療

  • ときに早急な分娩と積極的な循環補助(例,満期妊娠の場合,母体の状態が不安定な場合,胎児の状態が不安定である可能性がある場合)

  • 満期まで期間があり,母体と胎児ともに状態が安定している場合,試験的な経過観察入院

常位胎盤早期剥離に加えて以下のいずれかに該当する場合,通常は緊急帝王切開の適応となる:

  • 母体の血行動態不安定

  • 胎児心拍数がnonreassuring pattern

  • 正期産期(37週以上);母体または胎児に重度合併症または死亡のリスクがある場合,早期分娩が必要になることがある

分娩が必要と判断されたら,以下の全てを満たす場合に経腟分娩を試みることができる:

  • 母体の血行動態が安定している。

  • 胎児心拍数パターンがreassuringである。

  • 経腟分娩の禁忌(例,前置胎盤または前置血管による)がない。

陣痛は注意深く誘発ないし促進する(例,オキシトシンおよび/または人工破膜を用いる)。分娩後異常出血に対する準備を行うべきである。

以下の全てを満たす場合は入院と経過観察を勧める:

  • 出血が母体または胎児の生命を脅かさない。

  • 胎児心拍数パターンがreassuringである。

  • 早産期である(< 37週)。

このアプローチにより母体と胎児を注意深くモニタリングし,必要であれば早急に治療できる。女性には性交を控えるよう助言すべきである。

在胎期間が34週未満であれば,コルチコステロイド投与を考慮すべきである(胎児の肺成熟を促進するため)。コルチコステロイドは,以下の全てを満たす場合にも投与することができる:

  • 後期早産期である(34~36週)。

  • 母親は今回の妊娠中にコルチコステロイドの投与を受けたことがなく,禁忌がない。

  • 後期早産期に分娩となるリスクが高い(1)。

出血が止まり,母体および胎児の状態が安定していれば,歩行および通常は退院が許可される。出血が持続する,または状態が悪化する場合には緊急帝王切開が適応となる場合がある。

常位胎盤早期剥離の合併症(例,ショック,DIC)は血液および血液製剤の積極的な輸血で管理する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Gyamfi-Bannerman C, Thom EA, Blackwell SC, et al: Antenatal betamethasone for women at risk for late preterm delivery.N Engl J Med 374 (14):1311–1320, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1516783

要点

  • 常位胎盤早期剥離とは,胎盤が子宮から時期尚早に分離することであり,産科的緊急事態となりうる。

  • 典型的には子宮出血と子宮の疼痛または圧痛として現れ,出血の量と急性度は様々で,剥離が内包型の場合は出血がないこともある。

  • 特徴的な症状と徴候に基づいて診断する。

  • 常位胎盤早期剥離のなかには超音波検査で明らかになるものもあり,凝固検査または胎児心拍数モニタリングの結果の異常により診断が裏付けられる。

  • 母体または胎児の安定が脅かされている場合,または妊娠が満期の場合には緊急帝王切開で管理する。

  • 母体および胎児が安定し妊娠が満期の場合には経腟分娩を考慮する。

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