急性視力障害

執筆者:Christopher J. Brady, MD, Larner College of Medicine, University of Vermont
レビュー/改訂 2021年 5月
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数分から2日以内に発生する視力障害は通常急性とみなされる。片眼のみのこともあれば両眼のこともあり,視野全体に及ぶこともあれば一部に限局することもある。小さな視野欠損(例,小さな網膜剥離による)のある患者は,自身の症状を「目がかすむ」と表現することがある。

急性視力障害の病態生理

急性視力障害の一般的原因には以下の3つがある:

  • 光が網膜に達する経路にあり,正常であれば透明な組織(例,角膜,硝子体)の混濁

  • 網膜異常

  • 視神経または視路を侵す異常

急性視力障害の病因

急性視力障害で最も一般的な原因は以下のものである:

加えて,視力障害の存在に患者が突然気がつくこともある(偽性突発性視力障害)。例えば,長期にわたる片眼の視力低下(おそらく重度の白内障による)がある患者が,健側の眼を覆ったときに突然病側の視力低下に気づく場合などである。

痛みの有無が,視力障害の分類に役立つ(急性視力障害の主な原因の表を参照)。

病変が眼全体に及んだ場合に完全な視力障害を引き起こす疾患の多くは,眼の一部のみを侵し,視野欠損しか引き起こさないこともある(例,網膜動脈または網膜静脈分枝閉塞症,局所的網膜剥離)。

急性視力障害の比較的まれな原因としては以下のものがある:

  • 前部ぶどう膜炎(頻度の高い疾患であるが,通常は重度の眼痛を引き起こすため,視力低下を来す前に受診する契機となる)。

  • 激しい網膜炎

  • 特定の薬物(例,メタノール,サリチル酸系,麦角アルカロイド,キニーネ)

表&コラム
表&コラム

急性視力障害の評価

病歴

現病歴の聴取では,視力障害の発症,持続,進行,および位置(片眼性か両眼性か,および視野全体に及ぶのか特定の部位に限定されるのか,限定される場合はどの部位か)を尋ねるべきである。重要な関連眼症状として,飛蚊症,閃光,光輪,色覚異常,およびジグザグ様またはモザイクパターン(閃輝暗点)がある。眼痛があるかどうか,ある場合は持続的かまたは眼球運動時のみかを患者に尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,可能性のある原因の眼外症状を評価すべきであり,例として顎または舌跛行,側頭痛,近位筋の筋肉痛および硬直(巨細胞性動脈炎);ならびに頭痛(眼性片頭痛)がある。

既往歴の聴取では,眼疾患の既知の危険因子(例,コンタクトレンズの使用,高度近視,最近の眼手術または外傷),血管疾患の危険因子(例,糖尿病高血圧),および血液疾患の危険因子(例,鎌状赤血球貧血または過粘稠度症候群を引き起こしうるワルデンシュトレームマクログロブリン血症または多発性骨髄腫のような疾患)がないか探索すべきである。

家族歴の聴取では,片頭痛の家族歴がないか注意すべきである。

身体診察

体温などのバイタルサインを測定する。

一過性脳虚血発作の診断が考慮される場合は,神経学的診察を一通り行う。側頭部を触診して,側頭動脈の分布域の拍動,圧痛,または硬結を調べる。しかしながら,診察の大部分は眼に焦点を置いて行う。

眼科診察には以下のものがある:

  • 視力を測定する。

  • 周辺視野を対座検査にて評価する。

  • 中心視野をAmslerグリッドによって評価する。

  • 直接および間接対光反射を交互点滅対光反射試験によって調べる。

  • 眼球運動を評価する。

  • 色覚検査表により色覚を検査する。

  • 可能であれば細隙灯顕微鏡を用いて眼瞼,強膜,および結膜を調べる。

  • フルオレセイン染色を用いて角膜を調べる。

  • 眼痛または結膜充血のある患者では前房を調べ細胞およびフレアがないか評価する。

  • 直像検眼鏡,細隙灯顕微鏡,またはその両方を用いて水晶体に白内障がないか調べる。

  • 眼圧を測定する。

  • 眼底検査を行い,できれば実施前に交感神経刺激薬(例,2.5%フェニレフリン),調節麻痺薬(例,1%シクロペントラートまたは1%トロピカミド),またはその両方の点眼による散瞳が望ましい;瞳孔径は点眼後約20分でほぼ最大となる。網膜,黄斑,視神経陥凹,血管,ならびに視神経乳頭およびその周囲を含む眼底全体を調べる。

  • 対光反射が正常で機能的視力障害(まれ)が疑われる場合,視運動性眼振を調べる。視運動性眼振誘発ドラムがない場合は,患者の眼の近くに鏡をかざし,ゆっくり動かす。もし患者に視力があれば,通常鏡の動きを目が追う(視運動性眼振があるとみなされる)。

警戒すべき事項(Red Flag)

急性視力障害はそれ自体がレッドフラグサインである;大半の原因は重篤である。

所見の解釈

急性の視力障害の診断は系統的に開始できる。具体的な視野欠損パターンが原因特定に役立つ。その他の臨床所見も急性視力障害の原因特定に役立つ:

  • 眼底検査中に赤色反射を見ることが困難な場合,中間透光体の混濁が示唆される(例,角膜潰瘍,硝子体出血,または重症眼内炎による)。

  • 急性視力障害を引き起こすほど重症の網膜の異常は,特に瞳孔が拡大している場合は,眼底検査中に発見される。網膜剥離により網膜ひだがみられることがある;網膜静脈閉塞症により著明な網膜出血がみられることがある;また網膜動脈閉塞症があればcherry-red spotを伴う網膜の蒼白化がみられることがある。

  • 瞳孔求心路障害があり(直接対光反射の異常を認めるが間接対光反射は正常),その他の検査結果が(ときに視神経乳頭の異常がみられることを除いて)正常である場合は,視神経または網膜(すなわち,視交叉より前方)の異常が示唆される。

さらに,以下のような所見が役立つ可能性がある:

  • 片眼症状は視交叉の手前の病変を示唆する。

  • 両側性で対称性(同名)の視野欠損は視交叉より後ろの病変を示唆する。

  • 持続的な眼痛は角膜病変(潰瘍または上皮剥離),前房炎症,または眼圧上昇を示唆し,一方で眼球運動に伴う眼痛は視神経炎を示唆する。

  • 側頭痛は巨細胞性動脈炎または片頭痛を示唆する。

検査

視神経または網膜の虚血を示唆する症状(例,側頭痛,顎跛行,近位筋の筋肉痛または硬直)または徴候(例,側頭動脈の圧痛または硬結,網膜蒼白化,乳頭浮腫)を有する全ての患者に対し,巨細胞性動脈炎を除外するため,赤血球沈降速度(赤沈),C反応性タンパク(CRP),および血小板数の検査を行う。

その他の検査は急性視力障害の主な原因の表に挙げている。以下の事項は特に重要である:

  • 散瞳によっても眼底がよく見えない場合は,超音波検査を行い,また眼科医による倒像眼底検査を行う。

  • 眼球運動に伴う眼痛または瞳孔求心路障害のある患者,特に眼底検査で視神経腫脹を認める患者には,多発性硬化症を診断するために脳および眼窩のガドリニウム造影MRIを施行する。

急性視力障害の治療

原因疾患を治療する。原因が治療可能であれば,通常直ちに治療を始めるべきである。多くの場合(例,血管疾患),治療によって患眼の視力を回復させられる可能性は低いが,同様の病態が健眼に起こるリスクまた同様の病態による合併症(例,虚血性脳卒中)リスクを減らすことができる。

要点

  • 診断および治療は可能な限り早く行うべきである。

  • 瞳孔求心路障害を伴う急性の片眼性視力障害は,眼病変または視交叉より前方の視神経病変を示唆する。

  • 眼痛を伴わずに急性の片眼性視力障害または瞳孔求心路障害がある患者や,眼底検査での視神経の異常の有無にかかわらず,眼科検査で視神経以外の異常を伴わない場合には,視神経病変,特に虚血性のものを考慮する。

  • 急性の片眼性視力障害,眼痛,および結膜充血のある患者では,角膜潰瘍,急性閉塞隅角緑内障眼内炎,または重症前部ぶどう膜炎を考慮する。

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