閉塞隅角緑内障

(閉塞隅角緑内障)

執筆者:Douglas J. Rhee, MD, University Hospitals/Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2023年 4月
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閉塞隅角緑内障は前房隅角の物理的閉塞を伴う緑内障で,慢性のこともあればまれに急性のこともある。急性閉塞隅角緑内障の症状は,重度の眼痛および充血,視力低下,虹暈,頭痛,悪心,および嘔吐である。眼圧は上昇する。急性期では,永久的な視力障害を予防するために,複数の点眼薬および全身性薬物による緊急治療を行う必要があり,その後根治的治療である虹彩切開術を行う。

緑内障の概要も参照のこと。)

閉塞隅角緑内障は米国における緑内障全体の約10%を占める。

閉塞隅角緑内障の病因

閉塞隅角緑内障は,虹彩が隅角(すなわち,前房辺縁部の虹彩と角膜の接合部)へ引き上げられるか,または押し上げられるかのいずれかの要因により生じ,房水排出が物理的に妨げられて眼圧が上昇する(閉塞隅角緑内障の表を参照)。眼圧上昇により視神経が障害される。

閉塞隅角緑内障の病態生理

閉塞隅角緑内障には原発のもの(原因不明)または他の疾患に続発するものがあり,また急性,亜急性(間欠性),または慢性のものがありうる。

原発閉塞隅角緑内障

若年者に狭隅角は認められない。加齢に伴って眼の水晶体は厚くなり続ける。全てではないが一部の人では,厚くなった水晶体が虹彩を前方へ押し,隅角を狭小化する。狭隅角の危険因子として,家族歴,高齢,民族などがあり,アジア系とイヌイットの集団ではリスクが高く,欧州系およびアフリカ系集団ではリスクが低い。

狭隅角の人では,瞳孔の虹彩と水晶体との間の距離も非常に狭くなっている。散瞳すると,虹彩を求心方向および後方へ引っ張る力が働いて虹彩と水晶体の接触部分が増大するため,水晶体と虹彩の間を通り,瞳孔をくぐって前房に入る房水の流れが遮断される(この機序は瞳孔ブロックと呼ばれる)。毛様体から後房へ分泌され続ける房水の圧力により,虹彩周辺部が前方に押され(前方に弯曲した虹彩を膨隆虹彩と呼ぶ),隅角を閉塞する。これにより房水流出が遮断されると,急速(数時間以内)かつ重度の眼圧上昇(> 40mmHg)が生じる。瞳孔が関わらない閉塞機序としては,プラトー虹彩症候群などがあり,この疾患では前房中心部は深いが毛様体が異常に前に位置するために前房辺縁部が浅くなっている。

急性閉塞隅角緑内障では,視力障害が急激に進行し,永久に持続する恐れがあるため,即座に診断して直ちに治療を開始する必要がある。

間欠性閉塞隅角緑内障では,瞳孔ブロックのエピソードが,発症後数時間経過後(通常仰臥位で寝た後)に自然寛解する。

慢性閉塞隅角緑内障では,徐々に隅角が狭まり虹彩周辺部と線維柱帯との間に瘢痕化が生じる;眼圧は徐々に上昇する。

隅角が狭い人では,瞳孔の散大(散瞳)により虹彩が隅角へ押され,突然,急性閉塞隅角緑内障を起こす可能性がある。

続発性閉塞隅角緑内障

隅角の機械的閉塞は,増殖性糖尿病網膜症(PDR),虚血性網膜中心静脈閉塞ぶどう膜炎,または眼内上皮下方増殖などの併発疾患による。新生血管膜の収縮(例,PDR),または炎症後の瘢痕により虹彩が隅角へ牽引されることがある。

閉塞隅角緑内障の症状と徴候

急性閉塞隅角緑内障

患者は,重度の眼痛および充血,視力低下,虹暈,頭痛,悪心,および嘔吐を自覚する。全身愁訴があまりにも重度なために,神経疾患または消化器系疾患と誤診されることがある。診察では,典型的に結膜充血,角膜混濁,中等度に散瞳し固定した瞳孔,および前房の炎症が認められる。視力は低下する。眼圧は通常40~80mmHgである。角膜浮腫により視神経は観察困難であり,苦痛があるため視野検査は行わない。閉塞隅角の基本的メカニズム(例,瞳孔ブロックおよびプラトー虹彩)については,非患眼の検査によって診断が示唆されうる。

パール&ピットフォール

  • 突然の頭痛,悪心,および嘔吐のある患者では,眼を診察する。

慢性閉塞隅角緑内障

この病型の緑内障は開放隅角緑内障に似た所見を示す。一部の患者では,眼の充血,不快感,霧視,または頭痛がみられるが,睡眠により軽減する(おそらく眠ることによって縮瞳し,水晶体が重力で後方移動するため)。隅角鏡検査では,隅角は狭く,周辺虹彩と隅角構造の癒着により線維柱帯および/または毛様体表面に閉塞を生じる周辺虹彩前癒着(PAS)を認めることがある。眼圧は正常の場合もあるが,通常患眼の方が高い。

閉塞隅角緑内障の診断

  • 急性:眼圧測定および臨床所見

  • 慢性:隅角鏡検査における周辺虹彩前癒着,ならびに特徴的な視神経および視野の異常

急性閉塞隅角緑内障の診断は,臨床所見および眼圧測定による。患眼では角膜が混濁し角膜上皮がもろくなっているため,隅角鏡検査の実施が困難なことがある。しかしながら,他方の眼を診察すると,隅角が狭い,または閉塞の恐れがあることがわかる。他方の眼の隅角が広い場合は,原発閉塞隅角緑内障以外の診断を考慮すべきである。瞳孔ブロックの機序は,隅角と瞳孔の間で虹彩が前方に弯曲ないし弓状になる膨隆虹彩(iris bombe)として認識される。

慢性閉塞隅角緑内障の診断は,隅角鏡検査における周辺虹彩前癒着の存在,ならびに特徴的な視神経および視野の変化に基づいて行う(原発開放隅角緑内障の症状と徴候を参照)。

散瞳点眼薬(リスクのある患者では急性閉塞隅角緑内障を誘発する可能性がある)を投与または処方する前に,前房深度を評価すべきである。隅角鏡検査が利用できない場合は,細隙灯顕微鏡またはペンライトを用いて,眼房の深さを大まかに評価できる;ペンライトは眼の耳側の横に持ち,光線を虹彩と平行にする。鼻側の虹彩に影を落とした場合は,耳側の虹彩が前方に弯曲して光を遮っているためであり,おそらく狭隅角である。

閉塞隅角緑内障の治療

  • 急性:チモロール,ピロカルピン,およびブリモニジンの点眼,アセタゾラミド経口投与および浸透圧性薬剤の全身投与に続き,レーザー虹彩周辺切開を行う。

  • 慢性:原発開放隅角緑内障とほぼ同じであるが,例外として,隅角の機械的閉塞を遅らせる可能性があると眼科医が判断した場合は,レーザー虹彩周辺切開を行うべきである。白内障の摘出は慢性閉塞隅角緑内障の進行を遅らせるのに役立つ。

リスクのある患者での散瞳は避けるべきであり,このことは,散瞳点眼薬を診察(例,シクロペントラート,フェニレフリン)もしくは治療(例,ホマトロピン)のために投与する場合,または瞳孔を散大させる可能性のある薬剤(例,スコポラミン,一般に尿失禁に用いられるαアドレナリン作動薬,抗コリン作用のある薬剤)を全身投与する場合に,注意を要する。

急性閉塞隅角緑内障

視力障害が急激に進行し,永久に持続する恐れがあるため,直ちに治療を開始しなければならない。一度に複数の薬物を投与すべきである。推奨されるレジメンは,0.5%チモロール1滴を30分毎に2回;2~4%ピロカルピン1滴を15分毎に2回;0.15%または0.2%ブリモニジン1滴を15分毎に2回;アセタゾラミドを初回に500mg経口投与し(悪心がある場合は静注),その後6時間毎に250mgを経口投与;以下のいずれかの高浸透圧薬,すなわちグリセロール1mL/kgを同量の冷水で希釈したものを経口投与,マンニトール1.0~1.5mg/kgの静注,またはイソソルビド100gの経口投与(45%溶液を220mL)などである。(注:この形態のイソソルビドは硝酸イソソルビドではない。)眼圧測定により反応を評価する。眼圧が40または50mmHgを超える場合は,瞳孔括約筋が無酸素状態であるため,一般的に縮瞳薬(例,ピロカルピン)は効果がない。

根治的治療はレーザー周辺虹彩切開術(LPI)により行い,瞳孔ブロックに穴をあけて後房から前房へ房水が流れるもう1つの流出路を作る。角膜が明瞭化し,炎症が治まると同時にこれを直ちに行う。なかには,眼圧が下がってから数時間で角膜が明瞭化する症例もある一方,1~2日を要する場合もある。他方の眼で急性発作が生じる可能性は80%であるため,LPIは両眼に行う。

LPIに伴う合併症のリスクは,その有益性に比べて極めて低い。煩わしいグレアが起こりうる。

慢性閉塞隅角緑内障

慢性,亜急性,または間欠性の閉塞隅角緑内障患者に対してもLPIを施行すべきである。また,隅角が狭い患者では,たとえ症状がなくても,閉塞隅角緑内障を予防するために速やかにLPIを施行すべきである。白内障が存在する場合は,白内障の摘出により慢性閉塞隅角緑内障の進行を劇的に遅らせることができる。

閉塞隅角緑内障に用いられる薬剤および全層切開による外科的治療は,開放隅角緑内障に用いられるものと同じである。なお,隅角があまりにも狭く,レーザーを照射してもさらに周辺虹彩前癒着を形成する恐れのある場合は,レーザー線維柱帯形成術の相対的禁忌である。通常は,分層手技の適応はない。

要点

  • 閉塞隅角緑内障は急性,間欠性,または慢性として発症する。

  • 急性閉塞隅角緑内障は,臨床所見に基づいて疑い,眼圧測定によって診断を確定する。

  • 慢性閉塞隅角緑内障は,周辺虹彩前癒着と視神経所見および視野変化により診断を確定する。

  • 急性閉塞隅角緑内障は,救急疾患として治療する。

  • 閉塞隅角緑内障の患者については,レーザー周辺虹彩切開術を手配するため,全例で眼科医へのコンサルテーションを行う。

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