原発開放隅角緑内障

執筆者:Douglas J. Rhee, MD, University Hospitals/Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2023年 4月
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原発開放隅角緑内障は,前房隅角の開放に関連する視神経損傷の症候群であり,眼圧は高値またはときに正常である。症状は視野欠損によるものである。診断は眼底検査,隅角鏡検査,視野検査,ならびに角膜中心厚および眼圧の測定による。治療法としてはレーザー手術および/または点眼薬(例,プロスタグランジン誘導体,β遮断薬)などがあり,しばしば房水排出を促すために観血的手術が必要になる。

緑内障の概要も参照のこと。)

原発開放隅角緑内障の病因

開放隅角緑内障には多くの原因がありうるが(開放隅角緑内障:流出路閉塞の機序に基づく分類の表を参照),米国の症例の60~70%では原因が同定できず,原発開放隅角緑内障と呼ばれる。通常,両眼が罹患するが,典型的には程度に差がある。

原発開放隅角緑内障の危険因子には以下のものがある:

黒人では,緑内障はより重症でより若年で発生し,失明する可能性が6~8倍高い。

原発開放隅角緑内障の病態生理

眼圧は高値のこともあれば平均範囲内のこともありうる。

原発開放隅角緑内障では,線維柱帯のうちシュレム管と接する部分(傍シュレム管結合組織と呼ばれる)に,老化現象と同様に,細胞外基質の異常が認められる;線維柱帯の細胞密度が減少することもある。

高眼圧緑内障

緑内障患者の3分の2は眼圧が高い(> 21mmHg)。毛様体での房水産生は正常であるが,排出が不十分である。同定可能な機序は認められない(すなわち,続発性開放隅角緑内障ではない)。続発性の機序としては,発達異常,外傷または感染による瘢痕,剥離した虹彩色素(例,色素散乱症候群)または異常タンパク質沈着(例,偽落屑症候群)による排出管の閉塞などがある。

正常眼圧緑内障または低眼圧緑内障

緑内障患者の少なくとも3分の1では,眼圧は正常範囲内であるにもかかわらず,緑内障に典型的な視神経損傷および視野欠損を認める。これらの患者は一般集団よりも血管攣縮性疾患(例,片頭痛,レイノー症候群)の発生率が高く,視神経への血流を低下させる血管疾患が何らかの役割を果たしうることを示唆している。正常眼圧で発生する緑内障はアジア人患者により多くみられる。

原発開放隅角緑内障の症状と徴候

早期の原発開放隅角緑内障に症状がみられることはまれである。通常,患者は視神経萎縮が顕著になって初めて視野欠損に気づく;典型的な視野欠損は左右非対称であるため,認識が遅れる。しかしながら,中には疾患の早い段階で,下方視野が欠損している場合に階段を踏み外す,読書中に文の一部が見えないことに気づく,または運転に支障を来すといった症状を訴える患者もいる。

検査所見には,隅角鏡検査で閉塞を認めない開放隅角,ならびに特徴的な視神経所見および視野欠損などがある。眼圧は正常または高値であるが,ほとんどの場合,視神経損傷が強い方の眼が高値である。

視神経所見

視神経頭部(すなわち,乳頭)は,正常であれば垂直方向にわずかに長い楕円形で,中心に陥凹と呼ばれるくぼみがある。リムとは,陥凹外縁と乳頭境界の間の組織で,網膜から伸びる神経節細胞軸索から成る。

特徴的な視神経の変化としては以下のものがある:

  • 陥凹乳頭径比の増大(特に時間経過に伴う比の増大)

  • リム幅の菲薄化

  • リムの穿孔またはノッチ形成

  • 乳頭縁を横切る神経線維層出血(すなわち,Drance出血または線状出血)

  • 陥凹の垂直方向への楕円化

  • 血管の屈曲(すなわち,血管が陥凹から出る部分での角度の急峻化[bayonetingと呼ばれる])

眼圧または視野とは無関係に,リム(視神経または網膜神経線維層)の経時的な菲薄化単独で緑内障と診断でき,これは40~60%の症例において損傷の初期徴候である。その他の症例においては,損傷の初期徴候は何らかの視野変化である。

網膜神経線維層欠損を反映した楔形の暗い領域が生じることがある。

視野欠損

視神経の病変によって引き起こされる視野変化としては以下のものがある:

  • 鼻側階段状欠損(これは水平子午線―視野の上部と下部をわける仮想の水平腺―を超えない)

  • 盲点から鼻側に伸びる弓状暗点

  • 耳側楔形欠損

  • 傍中心暗点

対照的に,より中枢側の視覚伝導路(すなわち,外側膝状核から後頭葉まで)の障害では,四半盲または半盲となり,そのため障害は垂直子午線を超えない。

原発開放隅角緑内障の診断

  • 視野検査

  • 眼底検査

  • 角膜中心厚および眼圧の測定

  • その他の視神経症の除外

原発開放隅角緑内障の診断は診察により示唆されるが,同様の所見はその他の視神経症(例,虚血,サイトメガロウイルス感染症,ビタミンB12欠乏症)によって生じる可能性もある。

正常眼圧緑内障の診断を確定する前に,以下の要因を除外する必要がある:

  • 不正確な眼圧測定値

  • 大幅な日内変動(間欠的に正常値を呈する)

  • 治癒した緑内障(例,コルチコステロイドまたはぶどう膜炎による眼圧亢進の既往)による視神経損傷

  • 間欠性閉塞隅角緑内障

  • 同様の視野欠損を引き起こすその他の眼疾患または神経疾患

角膜中心厚を測定し,眼圧測定値の解釈に役立てる。

視神経乳頭の写真撮影および詳細なスケッチは,将来比較する上で役に立つ。フォローアップのための診察の頻度は,患者の信頼性,緑内障の重症度,および治療への反応に応じて数週間から数カ月まで様々である。

原発開放隅角緑内障の治療

  • 20~40%の眼圧降下

  • まずは薬物療法(例,ラタノプロストまたはタフルプロストなどのプロスタグランジン誘導体,チモロールなどのβ遮断薬)

  • ときに,レーザー線維柱帯形成術や強膜弁を作製する濾過手術などの手術

緑内障による視力障害は回復できない。治療目的は,眼圧を下げることで視神経および視野障害の進行を予防することである。目標は治療前の眼圧または損傷の発生を認めた時点の眼圧から20~40%下降させることである。一般に,緑内障によって引き起こされた障害が大きければ大きいほど,さらなる障害を予防するため,眼圧を低くしなければならない。障害が進行する場合は,目標眼圧をさらに低くし,追加の治療を開始する。

これまでの初期治療は薬物療法であり,目標眼圧が達成されない場合は,レーザー治療,次いで観血的手術へと進んでいた;しかし,その後のエビデンスによると,レーザー線維柱帯形成術による初期治療は,薬物療法と比較して,視野を保護し,その後の緑内障の観血的手術の頻度を減少させることが示唆されている(1)。眼圧が極めて高い場合,患者が薬物療法を希望しないもしくは薬物療法の遵守に問題がある場合,または初診時に重大な視野欠損がある場合は,手術が初期治療となることもある。

薬物療法

多数の薬物が利用可能である(緑内障治療薬の表を参照)。点眼薬が好ましい。最も一般的な点眼薬はプロスタグランジン誘導体,次いでβ遮断薬(特にチモロール)である。その他の薬物には,選択的α2作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬,Rhoキナーゼ阻害薬,およびコリン作動薬などがある。炭酸脱水酵素阻害薬の経口投与は効果的であるが,有害作用のために使用が限られる。

緑内障点眼薬を使用する患者には,全身への吸収およびそれに伴う有害作用を抑制するため,涙点を押さえてまぶたを閉じるように指導すべきであるが,この手技の有効性については議論のあるところである。直接結膜上に点眼するのが困難な患者は,内眼角のちょうど内側の鼻に一滴落とし,次いで点眼液が眼に入るような方向に頭を少し回転させてもよい。

典型的には,有効性を評価するために片眼のみで点眼を開始するか(片眼試験)または両眼に点眼する。

表&コラム
表&コラム

手術

原発開放隅角緑内障および正常眼圧緑内障に対する手術には,レーザー線維柱帯形成術,強膜弁を作製する濾過手術,および排出路の一部のみを拡張する手技などがある。

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)では,周波数を2倍化したパルス状Nd:YAGレーザーを用いる。SLTとアルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)は初期治療としては同等に効果的であるが,長期的な治療での有効性はSLTの方が高い。SLTは,新たに診断された患者に対する初期治療の標準治療として注目を集めている。

アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)が考慮されることもあるが,SLTの代わりに施行されることはまれである。レーザーエネルギーを線維柱帯に180°照射または360°照射し,房水排出を改善させる。約50%の患者では,2~5年以内に眼圧コントロールが不十分となり,薬物療法または手術の追加が必要となる。

強膜弁を作製する濾過手術は,最も頻用される濾過手術である。強角膜輪部に小孔を作り(線維柱帯切除),眼から結膜下腔への房水流出を制御する分層の強膜弁でこの孔を覆い,濾過胞を形成する。緑内障濾過手術の有害作用には,白内障悪化の加速,過剰な低眼圧,および周術期に一時的に上脈絡膜腔に液体が貯留すること(すなわち,脈絡膜滲出液)などがある。

線維柱帯切除術を受けた患者では細菌性眼内炎のリスクが高く,濾過胞感染(濾過胞炎)または眼内炎(例,視力悪化,結膜充血,疼痛)の症状または徴候が少しでも現れた場合は直ちに報告するよう指示すべきである。

分層手技は,房水流出を部分的にバイパスする方法で,前房と結膜下のスペースに直接房水を流出させる全層手技とは異なる。一般に,線維柱帯をバイパスする手技は線維柱帯切除術と比べて効果は低いものの,安全性は高いようである。

  • 外部アプローチ(眼外部からのアプローチ)には,ビスコカナロストミー,深部強膜切除術,およびシュレム管形成術などがあり,強膜路の98%を超える厚みを切除し,デスメ膜かつ/またはシュレム管の内壁および線維柱帯に窓を開ける。粘弾性溶液(ビスコカナロストミー)またはマイクロカテーテル(シュレム管形成術)を用いてシュレム管を拡張する。深部強膜切除術は,一般に結膜濾胞の形成を要とする。

  • 内部アプローチ(眼内部からのアプローチ)では,デバイスを用いて線維柱帯を除去(例,ab interno goniotomy または ab interno trabeculectomy)またはバイパスし(例,一部のステント手技),前房と集合管の直接交通路を形成する。濾過胞は形成しない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Gazzard G, Konstantakopoulou E, Garway-Heath D, et al: Laser in glaucoma and ocular hypertension (LiGHT) trial: Six-year results of primary selective laser trabeculoplasty versus eye drops for the treatment of glaucoma and ocular hypertension.Ophthalmology 130(2):139-151.doi: 10.1016/j.ophtha.2022.09.009

要点

  • 原発開放隅角緑内障は,通常は眼圧上昇を伴うが,眼圧が正常でも起こりうる。

  • 緑内障による視力障害は回復できない。

  • 診断目的の評価は,眼底検査,眼圧測定,および視野検査から開始する。

  • 眼圧を20~40%下げることを目標にする。

  • レーザー術および/または点眼薬(例,ラタノプロストまたはタフルプロストなどのプロスタグランジン誘導体,チモロールなどのβ遮断薬)にて治療を開始する。

  • レーザー手術および/または点眼薬が無効で視力障害が重度の場合,観血的手術を考慮する。

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