予防接種の概要

執筆者:Margot L. Savoy, MD, MPH, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2023年 7月
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免疫は以下の形で付与することができる:

  • 抗原を用いる能動免疫(例,ワクチン,トキソイド)

  • 抗体を用いる受動免疫(例,免疫グロブリン,抗毒素)

トキソイドは,無害でありながらも抗体産生を刺激できるように修飾が加えられた細菌毒素である。

ワクチンは,病原性を示さないように作製された完全な細菌またはウイルス(生または不活化ワクチン)あるいは細菌またはウイルスの断片を懸濁液としたものである。

ワクチン接種は,世界中で重篤な疾患の予防と健康の増進に極めて高い効果を上げている。ワクチンにより,かつては発生率や致死率が非常に高かった感染症(例,天然痘ポリオジフテリア)が現在ではまれになり,根絶されたものもある。しかしながら,天然痘を除き,それらの感染症は世界の医療サービスの提供が十分でない地域で現在も発生している。

以下を含む多くの重要な感染症では,いまだ効果的なワクチンが実用化されていない:

2021年10月6日,世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,サハラ以南アフリカをはじめとする,熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)によるマラリアの感染率が中程度から高い水準にある地域の小児を対象として,マラリアワクチンRTS,S/AS01(RTS,S)の広範な使用を推奨した(WHO: Malaria vaccine implementation programmeを参照)。

個々のワクチンの成分(添加剤を含む)については,各ワクチンの添付文書を参照のこと。

米国におけるワクチン

米国における定期予防接種に関する最新の勧告は,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)ウェブサイトのChild and Adolescent Immunization Schedule by AgeおよびAdult Immunization Schedule by Ageで参照可能であり,また無料のモバイルアプリとしても入手できる。2023年の成人向け予防接種スケジュールに加えられた変更点の概要については,Advisory Committee on Immunization PracticesのRecommended Adult Immunization Schedule, United States, 2023: Changes to the 2023 Adult Immunization Scheduleを参照のこと。(米国で使用可能なワクチンの表も参照)。

臨床ガイドラインにもかかわらず,推奨されているワクチンの接種を受けていない成人もいる。例えば2019年には,過去10年間に破傷風トキソイドを含有するワクチンの接種を受けたことがあると報告した成人の割合は62.9%で,2018年と同程度であった(CDC: Vaccination Coverage among Adults in the United States, National Health Interview Survey, 2019–2020を参照)。白人以外の成人では,非ヒスパニック系白人の成人と比べて,ワクチン接種率が低い傾向がある(1)。

特定のワクチンは,接種歴がなく,感染歴の証拠もない特定の年齢範囲の全ての成人に対して,ルーチンに推奨されている。その他のワクチン(例,狂犬病ワクチン,BCG,腸チフスワクチン,黄熱ワクチン)はルーチンには接種されないが,特定の集団および状況のみを対象に推奨されている。

2023年5月には,RSウイルス(RSV)による下気道疾患の予防を適応として,2つのRSVワクチン(RSVPreF3とRSVpreF)が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の承認を受けた。CDCは,60歳以上の成人を対象に,かかりつけの医療従事者との話し合いに基づく共同での臨床的意思決定を前提とするRSVワクチンの単回接種を推奨している(CDC: CDC Recommends RSV Vaccine For Older Adultsを参照)。

表&コラム
表&コラム

総論の参考文献

  1. 1.Lu PJ, Hung MC, Srivastav A, et al: Surveillance of Vaccination Coverage Among Adult Populations - United States, 2018. MMWR Surveill Summ 70(3):1-26, 2021.Published 2021 May 14.doi:10.15585/mmwr.ss7003a1

ワクチンの接種

ワクチンは,添付文書の推奨に厳密に従って接種すべきである。コンプライアンス不良やその他の因子により個人の予防接種スケジュールを変更することになる場合もあるが,大半のワクチンでは,効力を失うことなく接種間隔を延長することができる。患者が一連の予防接種(例,B型肝炎またはヒトパピローマウイルス)を中断した場合,推奨される接種間隔が過ぎていれば,医療従事者はその患者が次回来院した際に,推奨される次回分の接種を行うべきである。一連の接種を最初(すなわち1回目)からやり直してはならない。

注射ワクチンは通常,大腿中外側部(乳幼児)または三角筋(学齢期の小児および成人)の筋肉内に接種される。一部のワクチンは皮下接種される。ワクチン接種の詳細については,Advisory Committee for Immunization Practices(ACIP)のGeneral Best Practice Guidelines for Vaccine Administration,Immunization Action CoalitionのAdministering Vaccines to Adults,およびCDC: Administer the Vaccine(s)を参照のこと。

上肢にリンパ浮腫がある患者(例,乳癌患者)については,対側の腕または上肢以外を接種部位とするのがベストプラクティスである。

肩の三角筋下の組織および構造に誤ってワクチンを接種してしまうことで,ワクチン接種に関連した肩の損傷(shoulder injury related to vaccine administration:SIRVA)が引き起こされることがある(1)。

臨床医は,ワクチンが推奨に従って接種されるように,受診のたびに患者の予防接種状況を確認するためのプロセスを整備するべきである。患者(または養育者)には,予防接種スケジュールから遅れが生じないように,自身の予防接種歴を(書面または電子媒体で)記録しておき,新しい医療専門職や医療機関にかかる場合はその情報を共有するよう奨励すべきである。

パール&ピットフォール

  • ルーチンに接種されるワクチンについては,患者が一連の予防接種を中断して,推奨される接種間隔が過ぎてしまっている場合は,患者が次回来院した際に,推奨される次回分の接種を行うべきであり,一連の接種を最初(すなわち1回目)からやり直してはならない。

表&コラム
表&コラム

複数のワクチンの同時接種

まれに例外はあるものの,複数ワクチンの同時接種は安全かつ効果的であると同時に,便利であり,小児でワクチン接種の機会を失う可能性がある場合や,成人が国際旅行前に複数のワクチンの接種を希望する場合には,特に推奨される。ただし,機能的または解剖学的無脾症の小児に対する肺炎球菌結合型ワクチンと髄膜炎菌結合型ワクチンMenACWY-D(Menactra)の同時接種は例外であり,これら両方のワクチンを1回の来院で一度に接種してはならず,4週間以上の間隔を空けるべきである。

同時接種では,混合ワクチン(米国で使用可能なワクチンの表を参照)のほか,1つまたは複数の単抗原ワクチンを使用することができる。2つ以上のワクチンを,それぞれ別の注射器を用いて,異なる注射部位に同時に接種することができる。

生ウイルスワクチン(例,水痘ワクチン,麻疹・ムンプス[流行性耳下腺炎]・風疹混合[MMR]ワクチン)を同時に接種しない場合は,4週間以上の間隔を空けるべきである。

ワクチン接種に関する参考文献

  1. 1.Barnes MG, Ledford C, Hogan K: A "needling" problem: Shoulder injury related to vaccine administration.J Am Board Fam Med 25(6):919–922, 2012.doi: 10.3122/jabfm.2012.06.110334

制限事項,注意事項,および高リスク群

制限事項および注意事項とは,ワクチンに対する有害反応のリスクが高まる,またはワクチンの免疫誘導能が損なわれる条件のことである。それらの条件は,通常は一時的なもので,時間が経てばそのワクチンを接種できることを意味する。ときに,注意事項に該当しながらも,ワクチンの防御効果がワクチンに対する有害反応のリスクを上回るために,ワクチン接種の適応となる場合もある。

禁忌は,重篤な有害反応のリスクを高まる病態である。禁忌がある場合は,ワクチンを接種してはならない。

アレルギー

多くのワクチンでは,ワクチンまたはその成分のいずれかに対する重篤なアレルギー反応(例,アナフィラキシー反応)が唯一の禁忌となっている。

卵アレルギーは米国ではよくみられる。大半のインフルエンザワクチンなど,細胞培養系で生産される一部のワクチンには卵抗原が微量に含まれるため,卵に対してアレルギーを有する患者にそれらのワクチンを使用することには懸念がある。インフルエンザワクチンに関するCDCのガイドライン(他の卵由来ワクチンにも一般化できると考えられる)では,軽度の反応が生じることはあるものの,重篤なアレルギー反応(すなわち,アナフィラキシー)はほとんど起こらないことから,不活化インフルエンザワクチンの禁忌は,患者に過去のインフルエンザワクチン接種後またはワクチン成分のいずれか(卵タンパク質など)に対してアナフィラキシーを起こしたことがある場合のみと記載されている。

卵アレルギーの既往がある患者には,ほかにも以下が推奨されている:

  • 卵への曝露後に蕁麻疹のみ:年齢に応じたインフルエンザワクチンを接種すべきである。

  • 卵に対するその他の反応(例,血管性浮腫,呼吸窮迫,ふらつき,繰り返す嘔吐,アドレナリンまたはその他の緊急治療を必要とする反応):年齢に応じたインフルエンザワクチンを接種してもよい。不活化インフルエンザワクチン(IIV)や弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)などの鶏卵ワクチンを使用する場合は,医療現場において,重度のアレルギー反応を認識して管理することができる医療従事者の監督下で接種すべきである。

注:インフルエンザワクチンに対する重度のアレルギー反応の既往は,疑われる原因成分にかかわりなく,以降のワクチン接種の禁忌となる。

ギラン-バレー症候群

インフルエンザまたはジフテリア・破傷風・無細胞百日咳(DTaP)ワクチンの接種後6週間以内にギラン-バレー症候群(GBS)を発症したことのある患者には,予防接種の有益性がリスクを上回ると考えられる場合,そのワクチンを接種してもよい。例えば,DTaPの接種後にこの症候群を発症した患者では,百日咳のアウトブレイクが発生した場合,臨床医はそのワクチンの接種を考慮してもよいが,そのような決断は感染症専門医とのコンサルテーションを経て下すべきである。

Advisory Committee on Immunization Practicesは,現在ではGBSの既往を髄膜炎菌結合型ワクチンの使用上の禁忌にも注意事項にも指定していないが,添付文書には現在も注意事項として記載されている(CDC: Meningococcal Vaccines Safety Informationを参照)。

発熱またはその他の急性疾患

著しい発熱(体温が39℃を超える場合)や発熱を伴わない重度の疾患がみられる場合には,ワクチン接種の延期が必要になることがあるが,感冒などの軽症の感染症では(たとえ微熱があっても)延期は必要ない。この注意事項は,基礎疾患の症状を発生しうるワクチンの有害作用と混同しないようにするためであると同時に,ワクチンの有害作用が基礎疾患を覆い隠してしまう事態を防止するものでもある。ワクチンの接種は,可能であれば問題の症状が解消されるまで延期する。

妊娠

妊娠は,麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合ワクチン,経鼻インフルエンザワクチン(生),水痘帯状疱疹ウイルスワクチン,その他の生ウイルスワクチンに対する禁忌である。

Advisory Committee on Immunization Practicesは,ヒトパピローマウイルス9価ワクチンおよび組換え帯状疱疹ワクチンの接種を妊娠終了まで遅らせることを推奨している。(Adult Immunization Schedule by Medical Condition and Other Indicationを参照のこと。)

易感染状態

易感染性患者には,重度または致死的な感染症を誘発する可能性があるため,一般に生ワクチンを接種してはならない。免疫抑制療法(例,高用量コルチコステロイド[プレドニゾン換算で20mg以上を2週間以上],代謝拮抗薬,免疫調節薬,アルキル化薬,放射線)によって易感染状態となっている場合は,治療後に免疫系が回復するまで,生ウイルスワクチンの接種は控えるべきである(その期間は用いられた治療法によって異なる)。皮膚疾患,消化管疾患,リウマチ性疾患,肺疾患など,様々な疾患に対して免疫抑制薬を使用している患者には,生ウイルスワクチンを接種してはならない。長期間の免疫抑制療法を受けている患者の場合,臨床医はワクチンの接種や再接種のリスクと有益性について,感染症専門医と話し合うべきである。

パール&ピットフォール

  • 生ウイルスワクチンは,免疫抑制療法を受けている患者を含め,易感染性患者に投与してはならない。

HIV感染症患者は一般に,ルーチンの推奨に従って,不活化ワクチン(例,ジフテリア・破傷風・無細胞百日咳[Tdap],ポリオ[IPV],Hib)の接種を受けるべきである。生ウイルスワクチンの接種は一般に警戒されているが,CD4陽性細胞数が200/μL以上の(すなわち,重度の易感染状態ではない)患者には,麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹(MMR)など一部の生ウイルスワクチンを接種することができる。結合型肺炎球菌ワクチンが未接種または接種歴不明のHIV感染患者には,PCV15またはPCV20を接種すべきであり,PCV15を接種する場合は,その接種から8週間以上が経過した後にPPSV23を接種すべきである。

無脾症

無脾症患者は菌血症を伴う重篤な感染症に陥りやすく,その原因菌としては肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)や髄膜炎菌(Neisseria meningitidis),インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型(Hib)など,莢膜を有する細菌が最も多い。無脾症の成人には以下のワクチンを接種すべきである(可能であれば脾臓摘出前):

  • Hib結合型ワクチン:接種は1回のみとし,追加接種は行わない。

  • 髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY):8週間以上の間隔を空けて2回接種し,5年毎に追加接種を行う。

  • B群髄膜炎菌ワクチン(MenB):MenB-4Cを1カ月以上の間隔を空けて2回接種するか,またはMenB-FHbpを0,1~2,および6カ月時点で3回接種する(1回目の6カ月以上後に2回目を接種した場合,3回目の接種は不要である;2回目の接種から4カ月未満で3回目を接種した場合は,4回目の接種は3回目から4カ月以上空けて行うべきである);MenB-4CとMenB-FHbpには互いに代用できない(一連の接種全てにどちらか同じ製品を使用する必要がある);初回接種終了から1年後にMenBの追加接種を1回行い,その後もリスクが残る場合は2~3年毎に接種を繰り返す。妊娠:リスクが高いために,ワクチン接種のベネフィットが潜在的リスクを上回るのでなければ,MenBの接種は妊娠後まで延期する。

  • 肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15およびPCV20)ならびに肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23):肺炎球菌結合型ワクチンの接種歴がないか,接種歴が不明の場合は,PCV20を1回またはPCV15を1回接種した後にPPSV23を1回接種する。易感染状態(先天性または後天性無脾症など)にあるか,人工内耳を使用している,または髄液漏がある成人では,PCV15からPPSV23までの接種間隔を最短で8週間にすることを考慮できる。

臨床判断に基づき,さらに追加の接種を行うこともできる。

移植

臓器移植施行前の患者には,適切なワクチンを全て接種すべきである。同種または自家造血幹細胞移植を受けた患者は,予防接種を受けなかったものとみなし,適切なワクチンを全て再度接種すべきである。これらの患者のケアは複雑であるため,このような患者に対するワクチン接種は,患者を担当する血液腫瘍医および感染症専門医とのコンサルテーションを経て決定すべきである。

血液製剤の使用

生ワクチンは,血液または血漿輸血や免疫グロブリンと同時に接種してはならず,これらの血液製剤は期待される抗体産生に干渉する可能性がある。生ワクチンは,理想的には免疫グロブリン投与の2週間前か6~12週間後に接種すべきである。

生ワクチンとしては以下のものがある:

  • BCG(カルメット-ゲラン桿菌)生(結核に対して)

  • コレラワクチン

  • エボラワクチン

  • インフルエンザワクチン(LAIV)

  • 麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合(MMR)ワクチン

  • 麻疹ウイルス・ムンプス(流行性耳下腺炎)ウイルス・風疹ウイルス・水痘ウイルスワクチン(MMRV)

  • ポリオワクチン(経口製剤のみ;米国ではもはや認可されておらず,入手できない)

  • ロタウイルスワクチン

  • 天然痘およびサル痘ワクチン,生,複製能なし

  • 腸チフスワクチン

  • 水痘帯状疱疹ウイルスワクチン(米国ではもはや入手できない)

  • 黄熱ワクチン

ワクチンの安全性

米国におけるワクチンの安全性は,2つのサーベイランスシステム(CDCおよび米国食品医薬品局[Food and Drug Administration:FDA]のVaccine Adverse Event Reporting System[VAERS]およびVaccine Safety Datalink[VSD])を通じて確保されている。

VAERSは,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)と米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が共同で主導している安全性プログラムで,最近の予防接種後に有害事象が起こったと考える患者個人からの報告を収集している。 医療専門職にも予防接種後に特定の事象が発生したらそれを報告する義務があり,たとえワクチンに関連した事象という確信がない場合も報告してよいことになっている。VAERSへの報告は米国全土から寄せられており,安全性上の懸念に対して迅速な評価を可能にしている。しかしながら,VAERSへの報告は予防接種と疑われる有害事象との時間的関連性を示しているだけで,因果関係を証明するものではない。そのため,他の方法を用いてVAERSへの報告をさらに評価する必要がある。そのような方法の1つがVSDであり,これは11の大規模医療機関から収集されたデータを利用している。そのデータには,予防接種の実施(通常診療の一環として診療記録に記載されたもの)と接種後の病歴(有害事象を含む)が記録されている。VAERSとは異なり,VSDには特定のワクチンの接種を受けた患者のほか,接種を受けなかった患者のデータも含まれている。そのためVSDは,予防接種後に偶然同時に発生した症状や疾患と実際の有害事象とを区別することで,有害事象の実際の発生率を明らかにするのに役立つ可能性がある。

それでも依然として,多くの親たちが小児用ワクチンの安全性と有害作用の可能性(特に自閉症)に関して懸念を抱いている。こうした懸念から,推奨されている予防接種の一部または全部を子どもに受けさせない親が存在する(ワクチン忌避を参照)。その結果,予防接種によりまれになった疾患(例,麻疹,百日咳)のアウトブレイクが,北米や欧州の予防接種を受けていない小児の間で増加してきている。

親が抱く主な懸念の1つは,ワクチンが自閉症のリスクを高める可能性があるというものである。その理由としては,以下のようなものが挙げられる:

1998年にLancet誌に掲載された短い報告において,MMRワクチンに含まれる麻疹ウイルスと自閉症との関連性が提唱された。この報告は世界中のメディアから大きな注目を集め,多くの親たちがMMRワクチンの安全性に疑いをもつようになった。しかしながら,Lancet誌は科学的に深刻な問題があったとの理由で同報告の掲載を撤回した;その後に実施された多数の大規模研究でも,ワクチンの使用と自閉症のリスクとの関連を裏付ける証拠は示されなかった(1)。米国のInstitute of Medicine Immunization Safety Review Committeeは,麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合ワクチンおよびチメロサールを含有するワクチンが自閉症の原因となるか否かを明らかにし,そのような作用を引き起こしうる生物学的機序を同定するべく,疫学研究(発表済みおよび未発表の研究)のレビューを行った結果,同研究グループは,エビデンスに基づき,これらのワクチンと自閉症の間に因果関係はないと結論づけた(2)。

自閉症および小児期のワクチンに関する懸念の一部は,ワクチンの成分に関するものであった。それらの懸念の一部は保存剤であるチメロサールを対象としたものであったが,MMRワクチンにチメロサールが添加されたことは一度としてなかった。現在では,米国で小児に接種される事実上全てのワクチンがチメロサールを含有しないものとなっている。複数回使用バイアルのインフルエンザワクチンといくつかの成人用ワクチンには,現在でもチメロサールが少量使用されている。少量のチメロサールを含有するワクチンに関する情報については,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)のウェブサイト(Thimerosal and Vaccines)を参照のこと。チメロサールはリソースが不十分な国で使用されている多くのワクチンにも含有している。

あらゆる治療と同様に,臨床医は推奨されるワクチンの相対的なリスクと有益性について,患者に話をするべきである(3)。特に,麻疹,Hib感染症,百日咳といったワクチンで予防可能な小児疾患が及ぼしうる深刻な影響(死亡を含む)を患児の親に認識させる必要があり,さらに子供が受ける予防接種について親が抱きうる全ての懸念について話し合うべきである。この話し合いに利用できる情報源として,CDCのTalking with Parents about Vaccines for InfantsParents' Guide to Childhood Immunizationsなどがある。

ワクチンの安全性に関する参考文献

  1. 1.Gerber JS, Offit PA: Vaccines and autism: A tale of shifting hypotheses.Clin Infect Dis 48(4):456-461, 2009.doi: 10.1086/596476

  2. 2.Institute of Medicine Immunization Safety Review Committee: Immunization safety review: Vaccines and autism.Washington DC, National Academies Press, 2004.

  3. 3.Spencer JP, Trondsen Pawlowski RH, Thomas S: Vaccine adverse events: Separating myth from reality.Am Fam Physician 95(12):786–794, 2017.PMID: 28671426

旅行者に対する予防接種

感染症が流行している地域への旅行には予防接種が必要になる場合がある(国際旅行におけるワクチン接種の表を参照)。この点に関する情報はCDCから入手することができ,24時間体制の電話サービス(1-800-232-4636[CDC-INFO])とウェブサイト(Travelers' Health)が終日利用可能である。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention: Current immunization schedules

  2. Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP): Vaccine-Specific Recommendations

  3. ACIP: Recommended Adult Immunization Schedule, United States, 2023 including Changes to the 2023 Adult Immunization Schedule

  4. ACIP: General Best Practice Guidelines for Vaccine Administration

  5. Children's Hospital of Philadelphia: Vaccine Education Center

  6. European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC): Vaccine schedules in all countries in the EU/EEA

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