自閉スペクトラム症とは,社会的交流およびコミュニケーションの障害,反復常同的な行動様式,ならびにしばしば知的能力障害を伴う不均一な知的発達を特徴とする,神経発達症の1つである。症状は小児期早期に始まる。その原因は大半の患児で不明であるが,遺伝的要素の存在がエビデンスに支持されており,また一部の患者では,自閉症に何らかの内科的病態が関連していることがある。診断は発達歴および観察に基づく。治療は行動管理であり,ときに薬物療法も行われる。
自閉症スペクトラム症は,神経発達の正常標準との相違のうち,神経発達の病的異常と考えられる境界不明瞭な一定の範疇を指す。
神経発達症とは,小児期早期,典型的には就学前に現れる神経学的病態で,対人関係機能,社会的機能,学業能力,および/または職業的機能の発達が影響を受ける。一般的に,特定の技能または情報の獲得,保持,応用に困難を伴う。神経発達症は,注意,記憶,知覚,言語,問題解決,社会的交流などの機能障害を伴うことがある。その他のよくみられる神経発達症として,注意欠如多動症,学習症(例,ディスレクシア),知的能力障害などがある。
自閉スペクトラム症の最新の推定有病率は米国で1/54の範囲であり,他の国々でも同程度の範囲である。自閉症は男児において約4倍の頻度で発生する。近年,自閉スペクトラム症の診断は急速に進歩を遂げたが,これは特に診断基準の変更によるところが大きい。
自閉スペクトラム症の病因
自閉スペクトラム症症例の大半における具体的な原因はいまだ解明されていない。しかしながら,先天性風疹症候群,巨細胞封入体症,フェニルケトン尿症,結節性硬化症(tuberous sclerosis complex),または脆弱X症候群を合併する症例も存在する。
遺伝的要素の存在は強固なエビデンスによって裏付けられている。自閉スペクトラム症の子どもをもつ親の次子以降の児が自閉スペクトラム症を有するリスクは約3~10%である。患者が女児の場合,そのリスクはより高くなり(約7%),男児の場合は低くなる(約4%)。また自閉症は,一卵性双生児における一致率が高い。複数の家系を対象とした研究から標的遺伝子領域の候補がいくつか示唆されており,それらには神経伝達物質受容体(セロトニンおよびγ-アミノ酪酸[GABA])や中枢神経系の構造制御(HOX遺伝子)と関係する領域が含まれている。環境的な原因が疑われているが,証明されてはいない。ワクチン接種が自閉症の原因にならないことを示す強固なエビデンスがあり,この関連性を示唆していた主要研究も著者によるデータ改ざんを理由に撤回された(麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合(MMR)ワクチンも参照)。
自閉スペクトラム症の病因の大半には,その基礎に脳の構造面および機能面の相違があると考えられている。そうした相違点は小脳,扁桃体,海馬,前頭皮質,および脳幹核で同定されている(1)。
最近の研究では,自閉スペクトラム症の頻度は早産児の増加に伴い上昇していることが示唆されている(2)。
病因論に関する参考文献
1.Donovan APA, Basson MA: The neuroanatomy of autism—A developmental perspective.J Anat 230(1): 4–15, 2017.doi: 10.1111/joa.12542
2.Crump C, Sundquist J, Sundquist K: Preterm or early term birth and risk of autism.Pediatrics 148(3):e2020032300, 2021.doi: 10.1542/peds.2020-032300
自閉スペクトラム症の症状と徴候
自閉スペクトラム症は,生後1年以内に顕在化する可能性があるが,症状の程度によって,学齢期まで診断が明らかにならないことがある。
自閉スペクトラム症を特徴づける2つの主な特徴:
社会的コミュニケーションおよび交流における持続的障害
限定された様式の行動,興味,および/または活動の繰り返し
この両方の特徴が若年で認められ(その時点では認識されないこともあるが),家庭,学校,その他の状況で小児の機能を著しく妨げるほど重度であることが必要である。症状は,患児の発達水準および個々の文化における基準に照らして予測されるよりも甚だしいものでなければならない。
社会的コミュニケーションおよび交流における障害の例としては以下のものがある:
社会的および/または情緒的相互関係の障害(例,社会的交流または会話を開始できない,またはそれに反応できない,共感できない)
非言語性社会的コミュニケーションの障害(例,他者のボディランゲージ,ジェスチャー,および表情をうまく理解できない,表情やジェスチャー,アイコンタクトが乏しい)
対人関係の発達および維持(例,友人をつくる,様々な状況に適応した行動をとる)の障害
親が気付く最初の症状は,言語発達遅延,遠くの物の指差しの欠如,および親または一般的な遊戯に対する関心の欠如である。
限定的な行動,関心,および/または活動パターンの繰り返しの例として以下のものがある:
常同的または反復的な動作または話し方(例,繰り返し手をたたくまたは指をはじく,奇異な語句を繰り返すまたは聞いた言葉をすぐに反復する[反響言語],おもちゃを並べる)
日常動作および/または儀式的行動への融通の効かない執着(例,食事または衣服の小さな変化に過度のストレスを感じる,常同的な挨拶の儀式)
極めて限定的で,異常に強力な,固定された関心事がある(例,掃除機に固執する,児童では飛行機の運航スケジュールを書き出す)
感覚入力に対する過度の敏感性または鈍感性(例,特定の匂い,味,または触感への過度の嫌悪;痛みまたは温度に関心がない様子)
自傷行為を行う患児もある。約25%の患児は,それまでに獲得した技能の喪失(記録されているものに限る)を経験する。
自閉スペクトラム症の全ての患児において交流,行動,およびコミュニケーションに少なくともある程度の困難がみられるが,問題の重症度は大幅に異なる。
現在の一般的な仮説の1つでは,自閉スペクトラム症における基本的な問題は「精神的盲目(mind blindness)」,すなわち他者の考えを想像することができない状態であるとされている。この問題により交流関係の異常が生じ,さらに言語発達の異常に至ると考えられる。最も早期に確認でき,最も感度の高い自閉症の指標の1つに,コミュニケーションとして遠くにある物体を指差す行為が1歳時点でできないというものがある。それらの小児は指し示されている物を他者が理解するということを想像できないと考えられており,その代わりに,欲しい物に実際に触れるか大人の手を道具として使用することによって,欲しい物を明示しようとする。最近の研究では,感覚処理における違いが自閉スペクトラム症の幼児に認められる社会的交流およびコミュニケーションの違いの基礎にあることも示唆されている。
併存症がよくみられ,特に知的能力障害および学習症が多い。非局所的な神経学的所見として,協調不良の歩行や常同運動などがみられる。これらの小児の20~40%で痙攣発作が発生する(特にIQ 50未満の患児)。
自閉スペクトラム症の診断
臨床的評価
自閉スペクトラム症の診断はDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の基準に基づいて臨床的に行われ,通常は社会的交流およびコミュニケーションの障害を示す所見に加え,2つ以上の限定的な常同行動または興味の存在が必要とされる(自閉スペクトラム症の症状と徴候に記載されている)。自閉スペクトラム症の症候は,その範囲および重症度に大きな幅があるが,アスペルガー症候群,小児期崩壊性障害,および広汎性発達症などの以前の分類は自閉スペクトラム症に包含され,もはや鑑別されない。
スクリーニング検査のツールとしては,年長小児用のSocial Communication Questionnaire(1)や,Modified Checklist for Autism in Toddlers, Revised, with Follow-Up (M-CHAT-R/F) (2)などがある。(American Academy of Pediatricsの2020年の臨床レポート:Identification, Evaluation, and Management of Children with Autism Spectrum Disorderも参照のこと。)
通常はDSM-5の基準に基づくAutism Diagnostic Observation Schedule-Second Edition(ADOS-2)などの正式な標準的診断検査が,心理士または発達行動面の問題を専門とする小児科医によって行われる。一般的に用いられる別のツールとしてChildhood Autism Rating Scale-Second Edition(CARS2)があり(3),より機能の高い人を対象とするバージョンも存在する。自閉スペクトラム症の小児の検査は困難であるが,IQ検査では言語性項目よりも動作性項目の成績が良好となることが多く,大半の領域で認知機能障害があるにもかかわらず年齢相応の成績を示すことがある。とはいえ,自閉スペクトラム症の信頼性の高い診断がより年少の段階で可能となってきている。熟練の検者が施行したIQ検査からは,しばしば転帰を予測するのに有用な情報を得ることができる。
標準化された検査に加えて,遺伝性代謝疾患や脆弱X症候群などの治療可能な疾患や遺伝性疾患の同定に役立てるため,代謝検査および遺伝子検査が推奨される。
診断に関する参考文献
1.Chandler S, Charman T, Baird G, et al: Validation of the social communication questionnaire in a population cohort of children with autism spectrum disorders.J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 46(10):1324-1332, 2007.doi: 10.1097/chi.0b013e31812f7d8d
2.Robins DL, Casagrande K, Barton M, et al: Validation of the modified checklist for Autism in toddlers, revised with follow-up (M-CHAT-R/F).Pediatrics 133(1):37–45, 2014. doi: 10.1542/peds.2013-1813
3.McConachie H, Parr JR, Glod M, et al: Systematic review of tools to measure outcomes for young children with autism spectrum disorder.Health Technol Assess 19(41):1–506, 2015. doi: 10.3310/hta19410
自閉スペクトラム症の治療
応用行動分析
言語療法
ときに理学療法および作業療法
薬物療法
自閉スペクトラム症の治療では通常,集学的治療が行われるが,交流と意味のあるコミュニケーションを奨励する集中的な行動ベースのアプローチで測定可能な効果が得られることが研究結果から示されている。心理士および教育者は,典型例ではまず行動分析に重点を置き,続いて家庭および学校でみられる具体的な行動上の問題に応じて,行動管理の戦略を決定していく。See also the American Academy of Pediatrics' 2020 clinical report Identification, Evaluation, and Management of Children with Autism Spectrum Disorder.
応用行動分析(ABA)は,小児に具体的な認知技能,社会的技能,または行動技能を段階的に教示していく治療アプローチである。ASDを有する小児の具体的な行動を改善,変容,または発達させるために,小さな改善を強化して漸進的に積み重ねていく。その対象には社会的技能,言語技能,コミュニケーション技能,読書,学業などのほか,セルフケア(例,シャワーを浴びる,身繕いをする),日常生活技能,時間遵守,職業適性といった習得済みの技能も含まれる。この治療法はまた,進歩を妨げる可能性のある行動(例,攻撃性)を最小限に抑える補助的手段としても用いられる。応用行動分析療法は,個々の小児のニーズに合わせて個別化され,典型的には行動分析の資格を有する専門家によって設計および監督される。米国では,ABAが個別教育計画(Individualized Educational Plan:IEP)の一環として学校を通じて利用可能となっており,一部の州では健康保険が適用される。Developmental, Individual-differences, Relationship-based(DIR®)モデル(Floortimeとも呼ばれる)もまた集中的な行動ベースのアプローチである。DIR®では,小児の興味や好きな活動を利用することで,社会的交流の技能やその他の技能の習得を支援する。現在のところ,DIR/Floortimeを支持するエビデンスはABAより少ないが,どちらの治療法も効果的である可能性がある。
言語療法は早期に開始すべきであり,サイン,絵カード交換,コミュニケーション補助機器(小児がタブレット端末またはその他の携帯型デバイス上で選択した記号に基づいて会話を生成するものなど),および話し言葉などの様々な媒体を使用する。理学療法士と作業療法士は,運動機能,運動計画能力,および感覚処理における個々の障害を患者が代償する助けとなる戦略を立て,実行する。
薬物療法が症状の軽減に有用となることがある。非定型抗精神病薬(例,リスペリドン,アリピプラゾール)が儀式的行動,自傷行動,攻撃的行動などの行動問題の緩和に役立つというエビデンスがある。他の薬剤もときに特異的症状の管理に使用され,儀式的行動には選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),自傷行為および爆発的行動には気分安定薬(例,バルプロ酸),不注意,衝動性,および多動性には精神刺激薬および他のADHD薬などが使用される。
ビタミンサプリメントやグルテン除去食,カゼイン除去食などの食事介入は,推奨するほど助けにならないが,多くの家庭がその使用を選択するため,栄養不足や過多に対するモニタリングが必要である。治療に対する他の補完的および研究的アプローチ(例,コミュニケーションの促進,キレート療法,聴覚統合訓練,高気圧酸素治療)の効果は示されていない。
要点
自閉症児では,社会的交流およびコミュニケーションの障害,常同的な行動様式,ならびに知的能力障害を伴うことの多いむらのある知的発達が様々な組合せで認められる。
原因は通常不明であるが,遺伝的要素の存在が想定されている;ワクチン接種は原因とならない。
スクリーニング検査のツールとしては,Modified Checklist for Autism in Toddlers, Revised, with Follow-Up(M-CHAT-R/F)や年長小児用のSocial Communication Questionnaireなどがある。
正式な診断検査は通常,心理士または発達行動面の問題を専門とする小児科医によって行われる。
集学的治療が行われるのが通常であり,相互交渉およびコミュニケーションを促進する行動療法に基づく集中的なアプローチが用いられる。
重度の行動異常(例,自傷,攻撃性)には薬剤(例,非定型抗精神病薬)が役立つ可能性がある。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Modified Checklist for Autism in Toddlers, Revised, with Follow-Up (M-CHAT-R/F)
American Academy of Pediatrics: Identification, Evaluation, and Management of Children With Autism Spectrum Disorder (2020)
Learning Disabilities Association of America (LDA): An organization providing educational, support, and advocacy resources for people with learning disabilities
These organizations provide support, community, and educational resources for people with autism and their caregivers: