結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)

執筆者:M. Cristina Victorio, MD, Akron Children's Hospital
レビュー/改訂 2021年 8月
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結節性硬化症は,複数の臓器に腫瘍(通常は過誤腫)が発生する顕性遺伝(優性遺伝)疾患である。診断には,特異的な臨床基準の評価と病変がある臓器の画像検査が必要である。治療は対症療法か,中枢神経系腫瘍が増大している場合は,シロリムスまたはエベロリムスによる薬物療法である。合併症を検出するためにモニタリングを定期的に行わなければならない。

結節性硬化症(TSC)は,6000人に1人の小児で発生する神経皮膚症候群であり,85%の症例ではハマルチンの産生を制御するTSC1遺伝子(9q34)またはチュベリンの産生を制御するTSC2遺伝子(16p13.3)の変異が関与している。これらのタンパク質には増殖抑制作用がある。片方の親が本疾患を有する場合,児のリスクは50%である。しかしながら,症例の3分の2は新たな変異によって発生する。

TSCの患者には,様々な年齢で以下のような複数の臓器に腫瘍または異常が生じる:

  • 心臓

  • 腎臓

  • 皮膚

中枢神経系の結節が神経回路を遮断することにより,発達遅滞および認知障害が生じるほか,点頭てんかんなどの痙攣発作が発生することもある。ときに結節が増大して側脳室からの髄液流が閉塞することにより,片側性水頭症が引き起こされる。ときに結節が悪性化して神経膠腫(特に上衣下巨細胞性星細胞腫[SEGA])となる。

心臓横紋筋腫が出生前に発生することがあり,ときに新生児期に心不全を引き起こす。それらの横紋筋腫は時間の経過とともに消失する傾向があり,通常は以降の小児期や成人期には症状を引き起こさない。

腎腫瘍(血管脂肪腫)が成人期に,また多発性嚢胞腎があらゆる年齢で発生することがある。腎疾患によって高血圧を来すこともある。

リンパ脈管筋腫症などの肺病変が発生することもあり,特に青年期の女子でよくみられる。

TSCの症状と徴候

臨床像の重症度は非常に多様である。典型的には皮膚病変がみられる。

中枢神経系病変のある乳児は,点頭てんかんと呼ばれる痙攣発作を呈することもある。患児は他の種類の痙攣発作,知的障害自閉症学習症,または行動面の問題を有することがある。

網膜無色素斑と網膜過誤腫がよくみられ,眼底検査で観察できることがある。

永久歯のエナメル質の小腔もよくみられる。

皮膚所見として以下のものがある:

  • 初期は淡い灰色を呈する葉状白斑,乳児期または小児期早期に発生する

  • 顔面の血管線維腫(脂腺腫),小児期後期に発生する

  • 先天性の粒起革様皮(オレンジの皮に似た隆起性病変),通常は背部に出現する

  • 皮下結節

  • カフェオレ斑

  • 爪下線維腫,小児期または成人期早期のあらゆる時点で発生しうる

結節性硬化症の皮膚症状
結節性硬化症における灰白色の葉状白斑
結節性硬化症における灰白色の葉状白斑

灰白色の葉状白斑は,結節性硬化症(tuberous sclerosis complex)患者の90%以上にみられる色素脱失斑である。長さは1~3cmで紫外線下(ウッド灯)で確認しやすい。

By permission of the publisher. From Puduvalli V: Atlas of Cancer.Edited by M Markman and R Gilbert. Philadelphia, Current Medicine, 2002.

結節性硬化症における脂腺腫
結節性硬化症における脂腺腫

この画像には,結節性硬化症(tuberous sclerosis complex)患者の顔面に生じた複数の血管線維腫(脂腺腫)が写っている。

Image courtesy of Karen McKoy, MD.

カフェオレ斑
カフェオレ斑

カフェオレ斑は色素沈着(褐色またはコーヒー色)した黄斑である。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

結節性硬化症におけるKoenen腫瘍
結節性硬化症におけるKoenen腫瘍

Koenen腫瘍は,結節性硬化症(tuberous sclerosis complex)患者の爪囲または爪下に生じる線維腫(爪郭から発生する紅色から皮膚常色の丘疹)である。

© Springer Science+Business Media

TSCの診断

  • 臨床基準

  • 皮膚病変の同定

  • 罹患臓器の画像検査

  • 分子遺伝学的検査

2012年のInternational Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conferenceでは,TSCの確定診断または暫定診断に関する大基準および小基準が定義された(1International Tuberous Sclerosis Complex (TSC) Consensus ConferenceによるTSC診断基準の表を参照)。

これらの基準によりTSCの確定診断を下すには,以下のいずれかが必要である:

  • 分子遺伝学的検査によるTSC1またはTSC2いずれかの病的変異の同定

  • 2つの大症状または1つの大症状 + 2つ以上の小症状

これらの基準によりTSCの暫定診断を下すには,以下が必要である:

  • 1つの大症状または2つ以上の小症状

表&コラム
表&コラム

身体診察を行って典型的な皮膚病変を検索する。網膜無色素斑の有無を確認するために眼底検査を行うべきである。

胎児超音波検査で心臓横紋筋腫が検出された場合,または点頭てんかんが発生した場合は,TSCが疑われる。

心臓または頭部の症候がルーチンの出生前超音波検査で描出されることがある。確定診断には罹患臓器のMRIまたは超音波検査が必要である。

特異的な遺伝子検査が利用できる。

診断に関する参考文献

  1. 1.Northrup H, D Krueger D, and on behalf of the International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Group: Tuberous sclerosis complex diagnostic criteria update: Recommendations of the 2012 International Tuberous Sclerosis Complex Consensus Conference.Pediatr Neurol 49(4):243–254, 2013.doi: 10.1016/j.pediatrneurol.2013.08.001

TSCの予後

予後は症状の重症度に依存する。軽度の症状がみられる乳児は,一般に予後良好で,生産的な人生を長く送るが,重度の症状がみられる乳児には重篤な機能障害が生じることがある。

重症度にかかわらず,大半の患児で持続的な発達の進行がみられる。

TSCの治療

  • 対症療法

  • シロリムスまたはエベロリムス

TSCの治療は対症療法と特異的治療の両方による:

  • 痙攣発作:抗てんかん薬(特に点頭てんかんにはビガバトリン)またはときにてんかん手術

  • 皮膚病変:削皮術またはレーザー療法

  • 神経行動異常:行動管理法または薬剤

  • 腎障害による高血圧:降圧薬または増殖する腫瘍の切除手術

  • 発達遅滞:特殊学級または作業療法

  • 悪性腫瘍および一部の良性腫瘍:エベロリムスまたはシロリムス

現在のところ,シロリムスとその誘導体であるエベロリムスの経口薬は上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)の治療にのみ承認されているが,TSCの大半の合併症の予防および治療に使用できることを示唆するエビデンスが増えている。これらの薬剤は,一部の患者で脳の結節,大きすぎて切除できない心臓横紋筋腫,および顔面の病変を縮小させ,痙攣発作を軽減することが証明されている。顔面の血管線維腫の治療には,シロリムスの外用薬が有用となることがある(1)。これらをはじめとするTSCの合併症を対象として,これらの薬剤を検討している研究が進行中である。

青年および妊娠可能年齢の成人には遺伝カウンセリングが適応となる。

合併症のスクリーニング

TSCの合併症を早期発見するため,定期的なスクリーニングを全ての患者に行うべきである。

典型的には以下を行う:

  • 頭蓋内合併症(例,SEGA)を検出するための頭部MRI,少なくとも3年毎

  • 腎腫瘍を検出するための腎超音波検査または腹部MRI,学齢期は3年毎,成人期は生涯にわたり1~2年毎

  • 18歳以上の女子では,労作時呼吸困難および息切れのスクリーニングを年1回,リンパ脈管筋腫症のスクリーニングのための高分解能CTを5~10年に1回

  • 学校での支援および行動面での介入計画に役立つ,小児への定期的な神経心理学的検査および行動学的スクリーニング

  • 心臓横紋筋腫がある無症状の小児および青年には,少なくとも3年毎の心エコー検査

定期的なモニタリングは,心臓横紋筋腫が退縮するまで継続する必要がある。

臨床的なモニタリングも重要であり,ときにより頻回の検査が必要になる。頭痛,技能の喪失,または新たな種類の痙攣発作の発生は,中枢神経系に生じた結節の悪性化または増大が原因である可能性があり,神経画像検査の適応である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Darling T: Topical sirolimus to treat tuberous sclerosis complex (TSC).JAMA Dermatol 154(7):761–762, 2018.doi: 10.1001/jamadermatol.2018.0465

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