神経線維腫症

執筆者:M. Cristina Victorio, MD, Akron Children's Hospital
レビュー/改訂 2021年 8月
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神経線維腫症とは,互いに臨床像に重複がみられるが遺伝学的原因は明確に異なることが判明している,いくつかの関連疾患を総称する用語である。中枢または末梢神経を侵す様々な種類の良性または悪性腫瘍が発生し,しばしば皮膚の色素沈着斑がみられ,ときにその他の臨床像を呈する。診断は臨床的に行う。特異的な治療法はないが,良性腫瘍は外科的に切除することができ,悪性腫瘍(頻度は比較的低い)は放射線療法または化学療法で治療できる。

神経線維腫症は,神経皮膚症候群(神経系と皮膚に異常が生じる症候群)の1つである。

神経線維腫症の病型

神経線維腫症には,いくつかの病型が存在する。

神経線維腫症I型(NF1,フォン・レックリングハウゼン病)は,最も有病率が高く,2500~3000人に1人の頻度で発生する。神経および皮膚のほか,ときに軟部組織や骨にも症候が生じる。NF1の責任遺伝子は17q11.2に位置し,ニューロフィブロミンの合成をコードしており,1000を超える突然変異が同定されている。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患であるが,20~50%の症例では生殖細胞系列のde novo変異が原因である。

神経線維腫症II型(NF2)は,全症例の10%を占め,約35,000人に1人の頻度で発生する。主に先天性の両側性聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)として発症する。NF2の責任遺伝子は22q11に位置し,腫瘍抑制因子マーリンの合成をコードしており,200の突然変異が同定されている。NF2症例の大半は一方の親からの遺伝である。

神経鞘腫症は,まれな疾患であり,神経線維腫症の3型に分類されている。15%の症例では,この病型は家族性であり,22q11.23に位置するがん抑制遺伝子SMARCB1NF2遺伝子に近接する)の生殖細胞系列変異が関連している。残りの症例については,遺伝学的背景が十分に解明されていないものの,一部の患者から採取された組織では同じ遺伝子の別の変異が認められている。複数の神経鞘腫が脊髄神経および末梢神経に発生し,ときに疼痛がかなり強くなるが,聴神経腫瘍は発生しない。神経鞘腫症とNF2のいずれにも複数の神経鞘腫がみられることから,神経鞘腫症はかつてNF2の一病型と考えられていたが,それぞれ臨床像に差があり,関与する遺伝子も異なる。

末梢性および中枢性の腫瘍

腫瘍は末梢と中枢のいずれにも生じうる。

末梢性の腫瘍は,NF1で頻度が高く,末梢神経の走行に沿った部位であればどこにでも発生する。腫瘍は神経鞘から発生する神経線維腫であり,シュワン細胞,線維芽細胞,神経細胞,および肥満細胞で構成される。大半が青年期に発症する。ときに,形質転換を起こして悪性末梢神経鞘腫になることがある。複数の病型がある:

  • 皮膚神経線維腫(cutaneous neurofibroma)は軟らかく肉質である。

  • 皮下神経線維腫(subcutaneous neurofibroma)は硬く結節性である。

  • 結節性蔓状神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma)は脊髄神経根を侵すことがあり,典型的には椎間孔を通って増殖して脊柱内外に腫瘤(ダンベル腫瘍)を形成する。脊柱管内の部分が脊髄を圧迫することがある。

  • びまん性蔓状神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)(皮下結節または下床の骨やシュワン細胞の不定形な過形成)は,醜形につながる可能性があり,神経線維腫より遠位の部位に機能障害に起こしうる。蔓状神経線維腫は悪性化する可能性があり,NF1患者における悪性末梢神経鞘腫瘍の最もよくみられる前駆病変とみられている。

  • 神経鞘腫は,シュワン細胞由来の腫瘍で,まれに悪性化し,あらゆる部位の末梢神経に発生しうる。

中枢性の腫瘍には,いくつかの病型がある:

  • 視神経膠腫:低悪性度の毛様細胞性星細胞腫であり,無症状に経過する場合もあれば,視神経を圧迫して失明を来すほど進行する場合もある。若年の小児に発生し,通常は5歳までに同定可能となり,10歳以降の発症はまれである。NF1で発生する。

  • 聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫):第8脳神経の圧迫による浮動性めまい,運動失調,難聴,および耳鳴を来し,ときに隣接する第7脳神経の圧迫による顔面筋の筋力低下を来すこともある。これはNF2の重要な特徴である。

  • 髄膜腫この種の腫瘍は一部の患者,特にNF2患者で発生する。

神経線維腫症の症状と徴候

神経線維腫症I型(NF1)

NF1患者の大半は無症状である。一部は神経症状または骨変形で発症する。90%以上では,特徴的な皮膚病変が出生時から明らかであるか,乳児期に出現する。

カフェオレ斑は,そばかすに似たやや薄い褐色(カフェオレ色)の斑状皮疹で,体幹,骨盤,ならびに肘および膝関節の屈曲面に最も多く分布する。神経線維腫症に罹患していない小児にも2~3個のカフェオレ斑がみられることがあるが,NF1患児にはカフェオレ斑が6個以上みられ,それ以上の数が出現する場合も多い。このような斑状皮疹の長径は,思春期前の患児では5mmを超え,思春期以降の患児では15mmを超える(神経線維腫症の診断の表を参照)。

細い末梢神経に沿って発生する皮膚神経線維腫がよくみられる。小児期後期には,皮膚常色で様々な大きさと形状を呈するこれらの皮膚腫瘍が数個から数千個単位で出現する。通常は無症状である。

蔓状神経線維腫が生じることがあり,これは増殖して大きくなる傾向があり,不規則に肥厚して歪んだ構造物となり,ときにグロテスクな変形を伴い,神経や他の構造に悪影響を与える可能性がある。蔓状神経線維腫は脳神経を侵すこともあり,その場合は一般に第5,第9,および第10神経が侵される。

神経症状は様々であるが,神経線維腫の発生部位と数に依存する。比較的大きな神経線維腫は,発生部位の神経を圧迫し,みられる症状は障害された神経の機能により異なるが,遠位部の錯感覚,疼痛,感覚消失または筋力低下を引き起こす可能性がある。脊髄神経根に沿って形成される神経線維腫は,特に神経根が骨に内包されている箇所では,神経根を圧迫して,その神経の分布域に根性痛,筋力低下,または広範な感覚消失を引き起こすことがある。脳神経を圧迫する蔓状神経線維腫は,その神経に特有の障害を引き起こす。

神経線維腫症I型の皮膚症状
神経線維腫とカフェオレ斑(黒)
神経線維腫とカフェオレ斑(黒)

この写真には,神経線維腫症患者の背部に生じた多発性の神経線維腫(隆起した褐色の結節)とカフェオレ斑(平坦な褐色の斑)が写っている。

DR HAROUT TANIELIAN/SCIENCE PHOTO LIBRARY

神経線維腫とカフェオレ斑
神経線維腫とカフェオレ斑

この写真には,神経線維腫症患者の体表に生じた複数の神経線維腫(隆起した褐色の結節)とカフェオレ斑(平坦な褐色の斑)が写っている。

Image courtesy of Karen McKoy, MD.

神経線維腫症(カフェオレ斑および神経線維腫)
神経線維腫症(カフェオレ斑および神経線維腫)

この神経線維腫症I型患者では,カフェオレ斑(円形の色素沈着斑)と神経線維腫(隆起性結節)が複数認められる。

© Springer Science+Business Media

神経線維腫症I型(NF1)の皮膚症状
神経線維腫症I型(NF1)の皮膚症状

この写真には,NF1でみられた腋窩のそばかす様の斑が写っている。

© Springer Science+Business Media

神経線維腫症(カフェオレ斑)
神経線維腫症(カフェオレ斑)

カフェオレ斑は,神経線維腫症I型(NF1)の大半の症例でみられる境界明瞭な淡褐色斑である。

By permission of the publisher. From Oster A, Rosa R: Atlas of Ophthalmology.Edited by R Parrish II and HW Flynn Jr.Philadelphia, Current Medicine, 2000.

神経線維腫症(神経線維腫)
神経線維腫症(神経線維腫)

69歳男性の背部および腕が多数の小さな神経線維腫で覆われており,右肩甲骨のすぐ内側にカフェオレ斑を認める。

By permission of the publisher. From Bird T, Sumi S: Atlas of Clinical Neurology.Edited by RN Rosenberg.Philadelphia, Current Medicine, 2002.

骨異常としては以下のものがある:

神経線維腫症(骨格異常)
詳細を非表示
患者の左腕には,上腕骨近位の三角筋粗面から手掌に至る叢状神経線維腫を認める。上腕骨には,骨皮質の菲薄化に関連して生じた多発性の骨幹中央部骨折と偽関節を認める。さらに脊柱側弯症と低身長も認めるほか,前方への髄膜瘤による腰部脊柱管の拡大も生じている。
By permission of the publisher. From Kotagal S, Bicknese A, Eswara M: Atlas of Clinical Neurology.Edited by RN Rosenberg.Philadelphia, Current Medicine, 2002.

一部の患児には視神経膠腫および虹彩小結節(虹彩過誤腫)が発生する。視神経膠腫は一般に無症状であり,進行性に増大しない限り,治療の必要はない。

NF1患者には,もやもや症候群(小さな側副動脈の形成を伴うウィリス動脈輪内およびその周囲の動脈の狭窄または閉塞)または頭蓋内動脈瘤につながりうる動脈壁の変化がみられることもある。一部の患児は,学習面に問題を抱え,頭部がわずかに大きめになる。

神経線維腫症(虹彩小結節)
詳細を非表示
虹彩小結節は,色素沈着を起こした黒色過誤腫である。
By permission of the publisher. From Kotagal S, Bicknese A, Eswara M: Atlas of Clinical Neurology.Edited by RN Rosenberg.Philadelphia, Current Medicine, 2002.

NF1の小児および青年には,小児期慢性骨髄単球性白血病(若年性骨髄単球性白血病)および横紋筋肉腫がみられることがある。褐色細胞腫があらゆる年齢で発生しうる。

悪性腫瘍の頻度ははるかに低いが,一般集団と比べれば高く,具体的にはテント上または脳幹神経膠腫や,蔓状神経線維腫の悪性末梢神経鞘腫瘍への形質転換などがみられる。これらの腫瘍はあらゆる年齢で生じうる。

神経線維腫症II型(NF2)

NF2では,両側性聴神経腫瘍が発生し,小児期または成人期早期に症状が現れる。腫瘍により難聴および聴覚の不安定感が生じ,ときに頭痛や顔面筋の筋力低下もみられる。両側性に第8脳神経(内耳神経)の腫瘤がみられることがある。家族内に神経膠腫,髄膜腫,または神経鞘腫の患者がいる場合もある。

神経鞘腫症

神経鞘腫症では,頭蓋内,脊髄,および末梢神経に複数の神経鞘腫が発生する。聴神経腫瘍は発生せず,患者は難聴を来さない。また,神経皮膚症候群でときにみられる他の種類の腫瘍も発生しない。

通常,神経鞘腫症の初発症状は疼痛であり,その疼痛は慢性化および重症化することがある。神経鞘腫の位置によって,その他の症状が現れることもある。

神経線維腫症の診断

  • 臨床的評価

  • 脳MRIまたは頭部CT

大半のNF1型患者は無症状で,ルーチンの診察,美容上の愁訴に対する診察,または家族歴の存在に対する評価の過程で同定される。(United Kingdom Neurofibromatosis Association Clinical Advisory BoardのGuidelines for the diagnosis and management of individuals with NF1,専門家の協力によるGuidelines for the health supervision of children with NF1,American College of Medical Genetics and GenomicsのClinical practice guidelines for the care of adults with NF1も参照のこと。)

3つの病型全てにおいて,診断は臨床的に下され( see table 神経線維腫症の診断),具体的には皮膚,骨格,および神経系に的を絞った詳細な身体診察に基づく。NF1の他の特徴または家族歴がなくても,複数のカフェオレ斑がある小児ではNF1を疑ってモニタリングすべきである。

神経系の症候がみられる患者,ならびに詳細な視覚検査が不可能な状況でNF1の臨床基準を満たし視神経膠腫を有する可能性がある若年の小児には,脳MRIを施行する。NF1では,MRIのT2強調画像により視神経の肥厚または捻れおよび経時的に変化して小嚢胞構造と相関する実質の高信号病変が描出されることがある;NF2では,MRIは聴神経腫瘍または髄膜腫の同定に役立つことがある。聴神経腫瘍が疑われる場合は,錐体稜のCTを施行することができ,典型的には耳道の開大が示される。

これらの疾患では,全ての突然変異が判明しているわけではなく,臨床基準が明確であることから,一般的に遺伝子検査は行われない。

表&コラム
表&コラム

神経線維腫症の治療

  • 症状のある神経線維腫には,ときに手術またはレーザーもしくは電気焼灼による除去

  • 悪性腫瘍には,化学療法

神経線維腫症には全身治療は行えない。

重度の症状を引き起こしている神経線維腫には外科的切除,または小さければレーザーもしくは電気焼灼による切除が必要になることがある。蔓状神経線維腫の外科的切除により,罹患神経の機能が喪失することがあり,また神経線維腫は切除部位で再発する傾向がある。シロリムスの使用など,蔓状神経線維腫および脊髄神経線維腫に対するいくつかの内科的治療について,臨床試験が進行中である。

大半の視神経膠腫は無症状であり,進行のモニタリングのみで十分である。進行性の視神経膠腫および悪性化した中枢神経系病変には,いずれも化学療法が第1選択の治療法である。

遺伝カウンセリングの実施が望ましい。片方の親が神経線維腫症である場合の児のリスクは50%であるが,両親とも罹患していない場合のリスクについては,新規の突然変異が(特にNF1では)多く発生することから不明である。

要点

  • 神経線維腫症(NF)には3つの主要な病型(NF1,NF2,神経鞘腫症)があり,いずれも遺伝子変異により生じる。

  • NF1の典型例では皮膚,神経,および骨の異常が生じるが,全身のほぼ全ての部位に異常が生じる可能性がある。

  • NF2では,両側性聴神経腫瘍が生じる。

  • 神経鞘腫症では,皮内以外の神経鞘腫が多発するが,聴神経腫瘍は発生しない。

  • 臨床基準により診断し,神経学的異常がある場合は神経画像検査を行う。

  • 特異的な治療法はないが,重度の症状を引き起こしている神経線維腫は,外科的に切除する場合がある。

  • 悪性腫瘍には化学療法が必要である。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. United Kingdom Neurofibromatosis Association Clinical Advisory Board: Guidelines for the diagnosis and management of individuals with NF1

  2. Guidelines for the health supervision of children with NF1 from a collaboration of experts

  3. American College of Medical Genetics and Genomics: Clinical practice guidelines for the care of adults with NF1

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