IgG4関連疾患(IgG4-RD)は,免疫が介在する慢性の線維炎症性疾患であり,しばしば複数臓器の腫瘍様腫瘤および/または無痛性腫大を呈する。血清IgG4が高値となることが多いが,必ずしもそうなるわけではない。症状は,侵される臓器により異なる。診断には一般に生検を要する。治療はコルチコステロイドのほか,ときにリツキシマブによる。
IgG4はIgGの4つのサブタイプの中で最も少ない。その機能は状況によって異なる可能性が高く,アレルギー疾患では,アレルゲンに対するアナフィラキシー反応の予防において免疫を抑制する役割があると考えられている。自己免疫および悪性腫瘍においても役割があると報告されているが,これらの状況における機能は十分に確立されていない。IgG4-RDには幅広い臨床像があり,どの臓器が侵されているかによって異なり,また,病理組織学的所見および治療に対する反応によりまとめられる。
大半の患者は中年から高齢の男性であるが,本疾患はあらゆる年齢および性別で発生しうる。
IgG4関連疾患の病態生理
IgG4-RDの臨床像は通常,腫瘍様腫瘤または臓器腫大であり,これは免疫細胞による高密度の組織浸潤と細胞外基質の拡張に起因する。単一または複数の臓器が侵され,IgG4-RDで典型的とみなされている11の臓器は,膵臓,胆管,涙腺,眼窩組織,唾液腺,肺,腎臓,後腹膜組織,大動脈,髄膜,および甲状腺である。
大半の患者は,診断時点で複数臓器が侵されているが,1つの優勢な表現型を有する傾向がある。ある研究により,以下の臨床表現型がほぼ等しい比率で同定された(1)。
膵肝胆道疾患(pancreato-hepato-biliary disease)
後腹膜線維症および/または大動脈炎(retroperitoneal fibrosis and/or aortitis)
IgG4-RDは,特発性後腹膜線維症の大半の症例で原因となっている可能性が高い。線維化は通常,大動脈の周囲に全周性にみられる(大動脈周囲炎)か,前外側部のみにみられる。線維化は下方に伸展し腸骨血管に至ることもある。主な合併症は,水腎症を引き起こす尿管圧迫である。
さらに,IgG4-RDは胸部または腹部大動脈の非感染性大動脈炎を引き起こす可能性があり,これは画像検査で全周性の大動脈壁の肥厚または造影効果を認めることにより後腹膜線維症と鑑別される。発熱と白血球増多の両方がないこと,および急性ではなく潜行性(しばしば偶然発見される)であることは,IgG4関連大動脈炎を感染性大動脈炎と鑑別する上で役立つ。大動脈炎はときに大動脈瘤を合併する。
頭頸部限局疾患(head- and neck-limited disease)
大唾液腺(例,耳下腺および/または顎下腺)および涙腺が侵されることが多い。腺は痛みを伴わず両側性に腫大するが,通常その機能は障害されない。IgG4高値,特徴的な病理組織学的所見,および潜行性の疾患進行は,これらの臓器のIgG4-RDをシェーグレン症候群やサルコイドーシスなどの疾患と鑑別するために役立つ。IgG4-RDでは,突然の発症や唾液腺または涙腺の間欠的な腫大はみられない。特異的な血清学的検査(抗Ro/SSA抗体,抗La/SSB抗体)が耳下腺,顎下腺,および涙腺の著明な腫脹を呈するシェーグレン症候群患者の鑑別に役立つことがある。また,明瞭な構造を示す(well-formed)非乾酪性肉芽腫や,巨大な肺門リンパ節腫脹,前部ぶどう膜炎,炎症性関節炎,結節性紅斑など,特定の臓器が侵される臨床像は,サルコイドーシスをIgG4-RDと鑑別するのに役立つ可能性がある。
眼窩が侵されることもある。IgG4-RDは炎症性眼窩疾患(以前は眼窩偽腫瘍と呼ばれていた)の症例の約25~50%を占め,これは多発血管炎性肉芽腫症および悪性腫瘍と鑑別する必要がある。また,IgG4-RDは眼窩筋炎を引き起こす可能性もある。
全身症状を伴う古典的ミクリッツ症候群(classic Mikulicz syndrome with systemic involvement)
IgG4関連ミクリッツ症候群では,涙腺,耳下腺,および顎下腺の異常が合併し,典型的には各腺で両側性に病変がみられる。それらの所見を血清IgG4値の著明な上昇と合わせれば,実質的にIgG4-RDの診断に至るが,IgG4関連のミクリッツ症候群では,血清IgG4値が常に上昇するわけではない。
その他の表現型
肺および胸膜が侵されることがあり,サルコイドーシスに類似しうる肺門リンパ節腫脹および肺結節を伴う場合がある。これらの疾患の鑑別には病理組織学的検査が不可欠である。間質性肺疾患が生じて肺機能が有意に悪化することがあるが,間質性肺疾患のない患者ではまれである。
腎臓が侵されると,たいていは尿細管間質性腎炎として顕在化するが,通常は無症候性の腎機能障害を呈し,ときに透析が必要になる;しばしば多発性の腎腫瘤および低補体血症がみられる。随伴する糸球体症を反映してタンパク尿(ときにネフローゼレベル)が生じることがあるが,細胞円柱および/または血尿はまれである。
皮膚,前立腺,髄膜,副鼻腔など,他の多くの組織が侵されることがある。脳,消化管内腔,脾臓,骨髄,または末梢神経が侵されることを示すエビデンスは限られている。
病態生理に関する参考文献
Wallace ZS, Zhang Y, Perugino CA, et al: Clinical phenotypes of IgG4-related disease: an analysis of two international cross-sectional cohorts.Ann Rheum Dis 78(3):406-412, 2019.doi:10.1136/annrheumdis-2018-214603
IgG4関連疾患の病因
IgG4-RDの原因は不明であるが,その慢性で潜行性の性質,抗体による自己タンパク質の標的化,および免疫抑制に対する反応性から,自己免疫が関与すると考えられている(1)。
病因論に関する参考文献
Perugino CA, Stone JH: IgG4-related disease: an update on pathophysiology and implications for clinical care.Nat Rev Rheumatol 16(12):702-714, 2020.doi: 10.1038/s41584-020-0500-7
IgG4関連疾患の病理
IgG4-RDは,CD3陽性T細胞,活性化B細胞,およびIgG4を発現する過剰な数の形質細胞(通常,全てのIgG発現細胞の40%を超える)で構成される高密度なリンパ形質細胞浸潤を特徴とする(1)。古典的には,炎症が特徴的な「花むしろ状」または渦巻き状の配列を示す線維化へと,時間の経過とともに進行する。さらなる特徴としては,閉塞性静脈炎および軽度の好酸球浸潤がある。重要な点として,好酸球成分がリンパ形質細胞の浸潤よりも顕著であってはならない。病理組織学的所見は組織間でわずかに異なることがあり,例えば,典型的な花筵状線維化は涙腺,耳下腺,および肺の生検ではあまり観察されない。
病理に関する参考文献
Deshpande V, Zen Y, Chan JK, et al: Consensus statement on the pathology of IgG4-related disease. Mod Pathol 25(9):1181-1192, 2012.doi:10.1038/modpathol.2012.72
IgG4関連疾患の症状と徴候
IgG4-RDの一般的な全身症状としては,リンパ節腫脹や体重減少などがある。体重減少は,膵外分泌機能不全を来した患者で特に顕著な症状となる。発熱はIgG4-RDでは非常にまれであり,発熱がある場合は別の診断を考慮すべきである。
その他の症状は侵された臓器に特異的なものである。
膵が侵された場合,疼痛を伴わないこともあれば(ときに閉塞性の膵腫瘤がある場合に黄疸を伴う),急性膵炎がある場合に腹痛および悪心を引き起こすこともある。一部の患者(おそらくは報告値よりはるかに多い)は,比較的くすぶり型で潜行性の慢性膵炎と膵外分泌機能不全の症状(例,鼓腸,腹部膨隆,脂肪便,低栄養,体重減少),および/または膵内分泌機能不全(例,無症候性の高血糖または顕性糖尿病)を呈する。
後腹膜線維症は,側腹部痛または背部痛として現れることが最も多いが,しばしば症状を伴わず腹部画像検査で偶然同定される。
大動脈炎および大動脈周囲炎は通常は無症状で,画像検査で偶然発見されるか,動脈瘤を処置するための大動脈切除後に同定される。胸部大動脈の方が腹部大動脈より侵されやすい(1)。
唾液腺および涙腺が侵された場合は,通常,痛みを伴わない両側性の腫大を引き起こすが,非対称性のこともある。口腔乾燥および/またはドライアイはまれである。
眼窩が侵されると,眼球突出,眼窩痛,眼窩周囲浮腫,または外眼筋運動に伴う疼痛が引き起こされることがある。
肺が侵された場合,無症状のこともあれば,咳嗽,呼吸困難,または胸膜炎が引き起こされることもある。
症状と徴候に関する参考文献
1.Nikiphorou E, Galloway J, Fragoulis GE: Overview of IgG4-related aortitis and periaortitis.A decade since their first description. Autoimmun Rev 19(12):102694, 2020.doi:10.1016/j.autrev.2020.102694
IgG4関連疾患の診断
生検
血清IgG4値
血清補体値(C3およびC4)
選択的な画像検査
IgG4-RDの診断は,前述の臨床表現型のいずれかを呈する患者で疑う。以下に示す,類似の臨床像を呈する他の原因を考慮しなければならない:
肺の異常:サルコイドーシス,多発血管炎性肉芽腫症,特発性肺線維症,悪性腫瘍,結核
大動脈の異常:巨細胞性動脈炎,特発性大動脈炎
後腹膜の異常:リンパ腫,肉腫,多発血管炎性肉芽腫症,エルドハイム-チェスター病
リンパ節腫脹:サルコイドーシス,リンパ腫,Rosai-Dorfman病,エルドハイム-チェスター病
2019年に公表されたIgG4-RDの分類基準には,鑑別診断に役立つ可能性がある32の除外基準が含まれている(1)。これらの基準は診断目的で設計されたものではないが,推奨される検査および結果の解釈など,本疾患について考えるための枠組みを提供する。
一部の患者では,適切な臨床状況(例,ミクリッツ症候群)で血清IgG4高値を伴えば生検なしでIgG4-RDの診断を下せるが,通常は,IgG4-RDを腫瘍様病変および/またはリンパ節腫脹の他の原因と鑑別するために生検が必要となる。IgG4およびIgGによる免疫染色法は,高密度のリンパ形質細胞浸潤,花筵状線維化(storiform fibrosis),および閉塞性静脈炎という3つの病理組織学的所見のうち少なくとも2つが認められる場合にのみ行うべきである。生検でIgG4陽性形質細胞数の増加が認められる場合,たとえ高値でもそれ自体は非特異的であるため,IgG4-RDを診断するには他の所見を組み合わせる必要がある。IgG4-RDの組織学的診断には,生検でのIgG4/IgG陽性細胞比が40%を超えることが必須とされているが,強拡大視野当たりの診断可能なIgG4陽性細胞数は臓器および生検の種類によって異なる(2)。例えば,適切な状況において,顎下腺および膵臓のコア生検で強拡大視野当たりそれぞれ100個以上と10個以上のIgG4陽性細胞がみられれば,IgG4-RDが強く示唆される。
臨床的な患部(例,眼窩,胸部,腹部,骨盤)の断層撮影の画像検査(例,CT,MRI)を施行すべきである。無症状の病態(例,後腹膜線維症)をスクリーニングするため,しばしば他の部位の画像検査も施行される。
IgG4-RD患者の80~90%で血清IgG4が高値となるが(3),その程度は軽度の上昇(正常上限の1~2倍)から著明な上昇(正常上限の5倍を超える)まで幅がある(4)。しかしながら,上昇は診断の決め手とはならず,他の臨床データを踏まえて解釈する必要がある。多くの患者,特に1つの臓器のみが侵されている(例,後腹膜線維症のみ)患者で正常値となり,また血清IgG4高値はIgG4-RDに特異的な所見ではない。例えば,血清IgG4の軽度高値(正常上限の2倍未満)は慢性アレルギー疾患が原因である場合が多い。
役立つ可能性があるその他の検査には以下のものがある:
腎機能を評価するための尿検査および血清クレアチニン値の測定。IgG4関連の腎障害ではタンパク尿が認められることがあるが,血尿,赤血球円柱,および変形赤血球は別の診断(例,多発血管炎性肉芽腫症)を示唆する。
膵臓が侵される活動性疾患では血清アミラーゼ値およびリパーゼ値が上昇することがある一方,膵臓に傷害および機能障害がある患者では,ヘモグロビンA1cが上昇し,便中エラスターゼ,血清プレアルブミン,ならびにビタミンA,E,およびDが減少することがある。
IgG4関連尿細管間質性腎炎およびその他のいくつかの表現型では,血清補体値(C3およびC4)が低値である場合がある。
総IgGおよび総IgE値は高値となることが多く,将来の再発の可能性を予測し,疾患活動性を確認するのに役立つ。
赤血球沈降速度(赤沈)は高ガンマグロブリン血症に続発してしばしば上昇するが,C反応性タンパク(CRP)値は通常正常である。
抗好中球細胞質抗体(ANCA),抗核抗体(ANA),ならびに抗Ro/SSAおよび抗La/SSB抗体の検査は,患者にみられる具体的な症状(例,頭頸部症状,肺症状)に応じて他疾患を除外するのに役立つ可能性がある。
総IgG高値(高ガンマグロブリン血症)またはグロブリン・アルブミン比高値は,IgG4-RDに典型的であるが特異的ではない,抗体分泌細胞の活性化を示す。総IgG高値は自己抗体の蓄積を反映している可能性が高い。IgG4-RD患者では,総IgE値の著高(しばしば正常上限の5~10倍)がよくみられる。これらの値は,喘息または慢性アトピー性疾患患者のIgE値より著しく高くなることも多い。総IgE高値はIgG4-RD再発の独立した予測因子であるが(5),病変組織にはIgEを発現するB細胞および形質細胞がほとんど存在しないことから,血清IgE高値はそれ自体が病的というより,本疾患に付随する免疫学的現象である可能性が高いことが示唆される。
診断に関する参考文献
1.Wallace ZS, Naden RP, Chari S, et al: The 2019 American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism Classification Criteria for IgG4-Related Disease. Arthritis Rheumatol 72(1):7-19, 2020.doi:10.1002/art.41120
2.Deshpande V, Zen Y, Chan JK, et al: Consensus statement on the pathology of IgG4-related disease. Mod Pathol 25(9):1181-1192, 2012.doi:10.1038/modpathol.2012.72
3.Wallace ZS, Zhang Y, Perugino CA, et al: Clinical phenotypes of IgG4-related disease: an analysis of two international cross-sectional cohorts. Ann Rheum Dis 78(3):406-412, 2019.doi:10.1136/annrheumdis-2018-214603
4.Baker MC, Cook C, Fu X, et al: The positive predictive value of a very high serum IgG4 concentration for the diagnosis of IgG4-related disease.J Rheumatol 50(3):408-412, 2023.doi:10.3899/jrheum.220423
5.Wallace ZS, Mattoo H, Mahajan VS, et al: Predictors of disease relapse in IgG4-related disease following rituximab. Rheumatology (Oxford) 55(6):1000-1008, 2016.doi:10.1093/rheumatology/kev438
IgG4関連疾患の治療
コルチコステロイド
リツキシマブによるB細胞標的療法
IgG4-RDの治療は,炎症を軽減し,寛解を導入し,臓器機能を温存することを目的とする。典型的には,腫瘍様腫瘤または臓器腫大は治療後に正常化するはずである。1~2カ月間の高用量コルチコステロイド投与に対する反応として,またはB細胞枯渇療法の3~4カ月後時点で臓器機能の正常化が認められない場合は,通常,不可逆的な線維化が示唆され,これは後腹膜線維症の患者,臓器障害が長期に及んだ患者,および不正確な診断を受けた患者でよくみられる。
初期治療は,経口コルチコステロイド(例,プレドニゾン30~40mg,1日1回)を2~4週間投与した後,2~3カ月かけて漸減する。リツキシマブは,患者がコルチコステロイド投与に不適切な場合(例,コントロール不良の糖尿病がある患者)に,コルチコステロイド節減の選択肢としてしばしば使用され,患者がコルチコステロイドの漸減に耐えられない場合,またはコルチコステロイド中止後12カ月以内に疾患が再発した場合は,寛解の導入または維持のために使用できる。リツキシマブは,活動性のIgG4-RDの治療にほぼ例外なく効果を示すが,ランダム化試験は実施されていない(1)。
一部の患者では,尿管または胆管の機械的閉塞を解除するために,ステント留置術などの外科的手技が必要となる。
血清IgG4値は一般に数カ月間の治療で低下するが,正常化しないことも多い。
治療に関する参考文献
Khosroshahi A, Wallace ZS, Crowe JL, et al: International consensus guidance statement on the management and treatment of IgG4-related disease.Arthritis Rheumatol 67(7):1688-99, 2015.doi: 10.1002/art.39132
IgG4関連疾患の予後
大半の免疫性疾患と同様に,IgG4-RDも治癒は得られないが,治療効果が大きく,回復は可能である。臓器損傷が発生する場合は,通常は診断の遅れと治療による寛解導入後の臓器障害の潜行性の発生がその原因である。
要点
IgG4関連疾患(IgG4-RD)は,慢性の免疫性疾患であり,しばしば複数臓器の異常および腫瘍様腫瘤を呈し,膵臓,胆管,涙腺,眼窩組織,唾液腺,肺,腎臓,後腹膜組織,大動脈,髄膜,および甲状腺を侵すことが最も多い。
IgG4-RDは発熱を引き起こさず,典型的には潜行性に発現する。
血清IgG4は通常高値を示すが,この所見は感度も特異度も高くない。
診断はほとんどの場合,臨床所見,放射線学的所見,病理組織学的所見,および免疫染色法での所見の組合せに基づき,組織検体の採取に重点を置く。
治療としてはコルチコステロイド,およびしばしばリツキシマブなどがある。