心房中隔欠損症と心室中隔欠損症

(ASD、VSD)

執筆者:Lee B. Beerman, MD, Children's Hospital of Pittsburgh of the University of Pittsburgh School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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やさしくわかる病気事典

心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。

  • その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。

  • 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。

  • 診断は、典型的な心雑音(狭窄もしくは漏れのある心臓弁または異常な心臓の構造を通る血液の乱流によって生じる音)に基づいて疑われ、心エコー検査によって確定されます。

  • 自然に閉じない中隔欠損症は、カテーテルで栓または他の特殊なデバイスを挿入するか、手術によって閉鎖しなければならないことがあります。

心臓の異常の概要も参照のこと。)

心房中隔欠損症と心室中隔欠損症は、最も一般的な心臓の先天異常の1つです。

心房中隔欠損症の欠損孔は、左右2つの心房(心臓の外から戻ってきた血液が流れ込む心臓の上部の心腔)の間に生じます。

心室中隔欠損症の欠損孔は、左右2つの心室(血液を心臓外に送り出す心臓下部の心腔)の間に生じます。

これらの孔は典型的には、血液の左右短絡を引き起こしますが、これはつまり、すでに肺で酸素を取り込んだ血液の一部がその孔を通って再び肺に戻ってしまうことを意味します。この短絡は非効率的で、肺への血流量が過剰になることで症状を引き起こす場合があります。

心房中隔欠損症の中には、卵円孔(出生前に存在する上の心腔間の正常な孔)が伸びているだけのものもあります。これらの異常(卵円孔開存)の大半は、生後3年以内に自然に閉鎖しますが、成人期まで持続することもあります。成人の約25%で卵円孔が開いたままになっています。通常、心房間に本当に孔が開いている場合(真の心房中隔欠損)は、閉鎖しません。

心室中隔欠損症は、下の心腔間を隔てる壁の様々な位置に発生します。自然に閉鎖する可能性が高い場合(例えば、筋性部心室中隔欠損症と呼ばれるもの)もあれば、そうでない場合もあります。

中隔欠損症:心臓の壁の孔

中隔欠損症とは、心臓を左側と右側に隔てている壁(中隔)に孔が開いている状態です。心房中隔欠損症は、心臓の上側にある左右2つの部屋(心房)の間に孔が開いている状態です。心室中隔欠損症は、心臓の下側にある左右2つの部屋(心室)の間に孔が開いている状態です。いずれのタイプでも、全身に送り出されるはずだった酸素の豊富な血液の一部が短絡路に流れてしまいます。これらの血液は全身に送り出されずに肺に戻ってしまうのです。

心房中隔欠損症と心室中隔欠損症の症状

心房中隔欠損症

通常、心房中隔欠損症の乳児や小児に症状が現れることはありません。まれに、心房中隔欠損症の小児では成長に遅れがみられます。

しかし、成人期早期または中年期になると、治療されていない心房中隔欠損症(特に大きいもの)は不整脈(心房粗動または心房細動)、心不全による運動耐容能低下の症状、脳卒中、肺の高血圧(肺高血圧症)などにつながる可能性があります。心臓の左側部分が自然に硬くなり、より多くの血液を孔から押し出して肺に戻すようになるため、比較的小さな心房中隔欠損症でさえ、時間が経つにつれ重篤化する可能性があります。

心室中隔欠損症

心室中隔の欠損孔の大きさは様々で、心雑音が聴取されるものの症状は伴わない小さな孔から、早期に症状を引き起こす大きな孔まであります。比較的大きな心室中隔欠損症による症状は通常、生後6~8週で現れ、速い呼吸、哺乳困難、哺乳や食事中の発汗、体重増加の遅れなどがみられます。このような症状がみられれば、小児が心不全(図「心不全:拡張機能障害と収縮機能障害」を参照)を起こしている可能性があります。

大きな異常を治療しないでいると、繰り返す肺の感染症や肺血管の圧力上昇(肺高血圧症)が生じるようになり、肺高血圧症はやがて生涯に続くものになり、多くの合併症と余命の短縮につながります。

ときに、大動脈弁に影響を与えるほど大動脈弁の近くに心室中隔欠損がみられることがあります。影響を受けた大動脈弁からは、血液が漏れ始めることがあります(大動脈弁逆流症と呼ばれます)。大動脈弁逆流症があると、全身に向けて送り出された血液の一部が心臓に戻ってしまいます。大動脈弁逆流症は、治療しないと心不全を引き起こすおそれがあります。たとえ比較的小さな心室中隔欠損でも、大動脈弁逆流を増大させている場合は閉鎖すべきです。

心房中隔欠損症と心室中隔欠損症の診断

  • 心エコー検査

しばしば、聴診で特定の種類の心雑音が聞こえた場合に中隔欠損症が疑われます。心雑音とは、狭窄もしくは漏れのある心臓弁または異常な心臓の構造を通る血液の乱流によって生じる音です。

心房中隔欠損症および心室中隔欠損症のいずれも、心エコー検査(心臓の超音波検査)を行って診断を確定し、欠損孔の大きさと位置、それに伴う心腔の拡大の有無を判定します。心エコー検査では、他の心臓の異常が存在するかどうかも分かります。

典型的に、乳児の場合でも心電図検査が行われます。心電図検査では、1つまたは複数の心腔が拡大している徴候が認められることがあります。胸部X線では心臓の拡大が認められることがあります。

心房中隔欠損症と心室中隔欠損症の治療

  • ときに薬剤、カテーテルによる栓もしくはその他の特殊なデバイスの挿入、または手術

治療は欠損孔の種類や大きさ、また症状があるかどうかによって異なります。

心房中隔欠損症

心房中隔欠損症は通常は症状を引き起こさないため、薬剤の使用は通常必要ありません。欠損孔が2~3歳を過ぎても残っている場合は、欠損孔が小さく心臓の右側部分の増大を引き起こしていないのであれば、通常は合併症を予防するために欠損孔の閉鎖が推奨されます。上の心腔間を隔てる壁の中心に位置する欠損孔は、しばしば心臓カテーテル室で行われる処置で閉じることができます。この処置では、長く細いチューブ(カテーテル)を鼠径部にある太い静脈に挿入し、血管内を慎重に進めて心臓に到達させます。カテーテルが適切な位置に配置されたら、閉鎖用デバイスをカテーテルに通してカテーテルの先端から出し、デバイスを拡張して孔をふさぎます。

心房中隔欠損症の孔が非常に大きいか心房中隔の端にある場合は、通常は手術によりパッチで閉じる必要があります。

心房中隔欠損症がある小児は、欠損孔を閉鎖してから6カ月間は、歯科受診や特定の手術(呼吸器の手術など)の前に抗菌薬を服用する必要があります。それらの抗菌薬は、心内膜炎と呼ばれる重篤な心臓の感染症を予防するために使用されます。6カ月以降は、これらの処置や手術の前に抗菌薬を服用する必要はなくなります。

心室中隔欠損症

通常、小さな心室中隔欠損症の小児は治療を必要としません。しかし、比較的小さな欠損孔が大動脈弁の近くにあると、弁から血液が漏れることがあります(大動脈弁逆流症)。小児に大動脈弁逆流症がある場合、医師は通常、手術により心室中隔の欠損孔を閉鎖し、ときには大動脈弁を修復または置換します。

中程度または大きな心室中隔欠損症に関連する症状がみられる乳児では、フロセミド(体から余分な水分を除去する利尿薬)、ジゴキシン(心臓が血液を送り出す力を強くする薬)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(血管を弛緩させ、心臓が血液を送り出しやすくする薬)などの薬剤によりまず治療されることがあります。これらの薬剤は症状の軽減に役立ち、薬剤で治療している間に欠損孔が自然に閉じることがあります。それでも症状がなくならない場合や、欠損孔が小さくならない場合は、医師は通常、手術を行って心室中隔の欠損孔を閉鎖します。

特定の種類の心室中隔欠損症は、ときにカテーテルデバイスで欠損孔を閉鎖することが可能ですが、心房中隔欠損症の場合と比べて、この方法による閉鎖が適切になることは少ないです。

心室中隔欠損症がある小児は、欠損孔を閉鎖してから6カ月間は、歯科受診や特定の手術(呼吸器の手術など)の前に抗菌薬を服用する必要があります。しかし、欠損孔が残っている場合は、これらの状況での抗菌薬使用を無期限に継続するべきです。それらの抗菌薬は、心内膜炎と呼ばれる重篤な心臓の感染症を予防するために使用されます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国心臓協会:一般的な心臓の異常(American Heart Association: Common Heart Defects):親と養育者に向けて一般的な心臓の先天異常の概要を提供している

  2. 米国心臓協会:感染性心内膜炎(American Heart Association: Infective Endocarditis):親と養育者に向けて感染性心内膜炎の概要(抗菌薬使用の要約を含む)を提示している

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