COVID-19は、2019年に初めて確認された新型コロナウイルス感染症で、重篤化することのある呼吸器疾患です。この病気は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染することで引き起こされます。
COVID-19に感染するリスクは、妊婦とその他の成人で同様であるとみられています。
医師は症状と感染の可能性からCOVID-19を疑いますが、診断を確定するには検査が必要です。
いったん症状が現れると、特にその妊婦に特定の疾患(糖尿病や心疾患など)がある場合は、妊娠していない人と比べて、COVID-19が重症化する可能性が高くなります。
COVID-19の症状が中等度または重度の場合には、妊娠中に問題(切迫早産、早産、妊娠高血圧腎症など)が起きるリスクが高まります。
COVID-19が妊婦から胎児に感染したり、分娩時に新生児に感染したりするリスクは非常に低いとみられています。しかし、ひとたび生まれると、人から人への感染が起きる可能性があります。
妊娠中のCOVID-19の症状
COVID-19に感染した人の大半は無症状か軽症で済みますが、なかには重症化して死亡する人もいます。症状としては発熱、せき、息切れなどがみられます。ときに、嗅覚または味覚の喪失が最初の症状になることもあります。
COVID-19の症状がいったん始まると、妊婦はそうでない人に比べて重症化する可能性が高くなり、特に特定の病気(糖尿病や心疾患など)がある場合にその可能性が高くなります。重症の場合は、入院、集中治療、または人工呼吸器が必要になることがあります。ただし、COVID-19による重症化および死亡の全体的なリスクは、妊婦では依然として低い状態です。
妊娠中のCOVID-19の診断
医師による評価
ウイルスを特定する検査
妊婦におけるCOVID-19の診断は、妊娠していない人でのCOVID-19の診断と同様です。COVID-19は、発熱、せき、突然の嗅覚または味覚の喪失、呼吸困難のいずれかがみられ、その人が新型ウイルスにさらされた可能性がある場合に疑われます。
診断を確定するため、医師が呼吸器から検査用に体液のサンプルを採取することがあります。検査がすぐに行えない場合や、症状が軽度の場合には、症状と感染の可能性(判断できる場合)に基づいて診断することもあります。
必要な場合には、胸部のX線検査やCT検査を行います。
妊娠中のCOVID-19の治療
発熱と筋肉痛を緩和するためのアセトアミノフェン
ときに、ニルマトレルビルとリトナビルの併用
COVID-19の治療は、妊娠中の女性とそれ以外の患者で同様です。
発熱と筋肉痛などの痛みを軽減するために、アセトアミノフェンを使用することがあります。
軽症から中等症のCOVID-19の症状が現れて数日以内であれば、医師は罹病期間を短縮して症状を緩和するために、ニルマトレルビルとリトナビルの併用による妊婦の治療を考慮することがあります。ある小規模な研究では、妊娠中の患者にこの治療による重篤な副作用は発生せず、薬剤関連の合併症もなかったことが明らかにされました。
COVID-19に感染した妊婦は、自分が感染していることを分娩の前に病院に知らせておくべきです。そうすれば、病院スタッフがウイルスの拡大を防止するための必要な措置を講じることが可能になります。
妊娠中のCOVID-19の予防
COVID-19を予防する最善の方法は、ウイルスにさらされるのを避けることですが、自分が感染していることを知らない感染者もいるために、こうした対策は困難である可能性があります。米国疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention [CDC])がCOVID-19の感染拡大を防止するための勧告を公表しています。それらの推奨事項はすべての人々に適用されます(COVID-19の予防を参照)。
感染している可能性がある妊婦の場合、新生児への感染を防ぐため、分娩後に新生児を母親の下から離す措置が必要になることがあります。
COVID-19ワクチン
CDCは、COVID-19ワクチン接種に適格であり、妊婦、授乳中の人、現在妊娠しようとしている人、将来妊娠する可能性のある人すべてに接種を推奨しています。COVID-19のワクチン接種を受けることによる便益は、妊娠中のワクチン接種の既知のリスクや予想されるリスクを上回ります。(CDC:妊娠中または授乳中のCOVID-19ワクチン[CDC: COVID-19 Vaccines While Pregnant or Breastfeeding]も参照のこと)
母乳栄養であれば、ワクチン接種によってその乳児にも予防効果がもたらされる可能性があります。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が支援した研究により、ワクチン接種後またはCOVID-19感染後に妊婦が新型コロナウイルスに対する抗体を保有していた場合、その抗体が母乳を介して乳児に移行する可能性があることが明らかにされました。この抗体は、乳児がCOVID-19から身を守るための免疫を獲得するのに役立ちます。
母乳哺育
このウイルスが母乳を介して乳児に感染する可能性は、あるとしても低いです。(CDC:COVID-19と母乳哺育[COVID-19 and Breastfeeding]も参照のこと。)
新型コロナウイルス感染が判明している女性が直接授乳することを選択する場合は、マスクを着用し、手指衛生を適切に行うべきです。
搾乳する場合は、搾乳前に女性はマスクを着用し、手、ポンプの部品、哺乳びん、哺乳びんの乳首を徹底的に洗浄する必要があります。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国産科婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists):コロナウイルス(COVID-19)、妊娠、母乳哺育:患者へのメッセージ:このウェブサイトでは、COVID-19が妊婦と胎児にどのように影響するか、妊婦はCOVID-19ワクチンを接種すべきかどうか、新型コロナウイルスを避ける方法、妊婦がCOVID-19にかかっていると思った場合やかかった場合の対処法、COVID-19が陣痛と分娩の計画に与える影響について説明しています。母乳哺育とCOVID-19についても説明しています。
米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention[CDC]):コロナウイルス(COVID-19):このウェブサイトには、COVID-19ワクチンに関する情報(どこでワクチンを接種できるかなども含む)へのリンクや、米国での症例数や発生場所(COVID-19の感染者、死亡、傾向を追跡するための地図や表など)に関する情報、学校や職場で安全に過ごすための推奨事項などを提供しています。