乳がん

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レビュー/改訂 2022年 6月
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やさしくわかる病気事典

乳がんは、乳房の細胞が異常をきたし制御不能に分裂することで発生します。通常は、乳汁を作る乳腺(小葉)または乳腺から乳頭(乳首)へ乳汁を運ぶ乳管にがんが発生します。

  • 乳がんは、女性がかかるがんの中で発症数が最も多く、がんによる死亡の中では第2位を占めています。

  • 通常、最初に現れる症状は痛みのないしこりで、自分で気づくことがほとんどです。

  • 乳がんスクリーニングの推奨は様々で、定期的なマンモグラフィー、医師による乳房の診察、乳房自己検診などが含まれます。

  • 充実性のしこりが見つかった場合、医師は中空の針を使用して組織サンプルを採取するか、切開によりしこりの一部または全部を切除して、組織の顕微鏡検査を行います(生検)。

  • 乳がんでは、ほぼ常に手術が必要になるほか、ときに放射線療法、化学療法、その他の薬剤、これらの併用療法も用いられます。

  • 治療の結果を予測することは難しく、がんの特徴や広がりによっても異なります。

乳房の病気の概要も参照のこと。)

乳房の病気には、良性のもの(がんではない)もあれば、悪性(がん)のものもあります。ほとんどは良性で、生命を脅かすものではありません。多くは治療を必要としません。一方、乳がんの場合は乳房を失ったり、命を落としたりすることもあります。そのため多くの女性が乳がんを最も怖い病気だと考えています。しかしながら、以下の両方を実施することで、多くの場合、潜在的な問題を早期に発見することができます。

  • 主治医の診察を定期的に受ける

  • 推奨に従ってマンモグラフィーを受ける

女性は自分の乳房の正常な外観および感触をよく知っておくべきであり、男性も自分の乳頭とその周囲の変化に気づくようにしておくべきです。女性が変化に気づいた場合、乳房自己検診をしようと思うでしょう。どのような変化でも直ちに医療従事者に報告するべきです。ほとんどの医療機関は、がんの有無を調べるためのルーチンの方法として毎月または毎週行う乳房自己検診をもはや推奨していません。スクリーニングマンモグラフィーを受けている女性において、しこりやその他の変化がない状況で乳房自己検診を行っても、乳がんの早期発見にはつながりません。

乳がんの早期発見は、治療の成功のために大変重要です。

乳がんは、米国の女性にみられるがんの中で最も多く、ヒスパニック系女性では最も多い死因であり、他の人種の女性では2番目に多い死因(肺がんに次ぐ)です。2021年の米国では、女性において以下の事象が発生しました。

  • 約28万1550人の女性が浸潤性乳がんと診断された。

  • 4万9290人近くの女性が非浸潤性乳がんと診断された。

  • 4万3600人近くの女性が乳がんにより死亡した。

男性の乳がんは全乳がんのおよそ1%を占めます。2021年の米国では、男性において、2650例が新たに浸潤性乳がんと診断され、その内530例で死亡の原因となりました。

多くの女性が乳がんに恐怖を抱いており、その理由の1つは、乳がんがよくある病気であるということです。しかし、乳がんに対するおそれの一部は誤解に基づいています。例えば、よく引き合いに出される「女性の8人に1人は乳がんになる」という数字は、誤解を生みます。この数字は、女性が一生のうちに乳がんを発症するリスクの推定値です。つまり女性が8人いれば、そのうち1人は一生のうちに乳がんを発症するという理論上の値なのです。これに対し、40歳の女性が乳がんを10年以内に発症する確率はおよそ70分の1です。ただし、このリスクは年齢を重ねるにつれて上昇します。

乳がんの危険因子

乳がんの発生リスクに影響を与える要因は複数あります。したがって、リスクが平均を大幅に上回る女性もいれば、平均より低い女性もいます。年齢や特定の異常遺伝子など、リスクを増大させる要因の多くは、避けることができません。ただし、定期的な運動(特に青年期から若年成人期の)により、乳がんの発生リスクが低下する可能性はあります。

しかし乳がんの場合には危険因子の是正よりも、早期発見を常に心がけることの方がはるかに大切で、早期に診断と治療を行えば、治癒の可能性も高くなります。マンモグラフィーを定期的に行うことで、乳がんを早期発見できる可能性が高くなります。定期的な乳房自己検診も医師によっては推奨されていますが、これにより乳がんによる死亡リスクが低下することは示されていません。

年齢

加齢は乳がんの最も重要な危険因子です。乳がんのほとんどは50歳以上の女性に発生しています。75歳を過ぎると最もリスクが高くなります。

乳がんの既往歴

乳がんの既往がある場合には、乳がんのリスクが高くなります。がんができた方の乳房を切除した後に反対側の乳房にがんが発生するリスクは、1年当たり約0.5~1.0%です。

乳がんの家族歴

第1度近親者(母親、姉妹、娘)に乳がんの人がいる女性では乳がんの発生リスクが2~3倍になりますが、それよりも遠い近親者(祖母、おば、従姉妹)に乳がんの人がいる場合は、リスクはわずかに高くなる程度です。第1度近親者の中に乳がんの人が2人以上いる場合はリスクが5~6倍になります。

乳がん遺伝子の変異

2つの乳がん遺伝子(BRCA1およびBRCA2)の変異が特定されています。これらの遺伝子変異をもつ女性は1%未満です。乳がんの女性のおよそ5~10%はこれらの遺伝子変異の1つをもっています。これらの遺伝子変異のうちいずれか1つを女性の場合、乳がんの生涯発生リスクは50~85%です。80歳までに乳がんを発症するリスクは、BRCA1変異のある場合は約72%、BRCA2変異のある場合では約69%です。しかしこのような女性が乳がんを発症した場合、乳がんのために死亡する確率は、他の乳がんの女性と比べて必ずしも高いというわけではありません。

これらの変異は、アシュケナージ系ユダヤ人に最もよくみられます。

近親者(通常は第1度近親者)の少なくとも2人に乳がんまたは卵巣がんの人がいる女性の場合、これらの変異のうちの1つをもっている可能性が高くなります。このため、こうした家族歴がある女性を除いては、これらの変異の有無を調べるスクリーニング検査を必ず行う必要はないとみられます。

BRCA変異がある場合、卵巣がんのリスクも高くなります。BRCA1遺伝子変異をもつ女性の卵巣がんの生涯発生リスクは約40%です。BRCA2遺伝子変異をもつ女性では、リスクは約15%です。

BRCA遺伝子変異をもつ男性では、乳がんの生涯発生リスクは1~2%です。

これらの変異のうち1つの変異をもつ女性では、より頻回の検査やマンモグラフィーとMRIの両方を行うスクリーニング検査などにより、乳がんについてさらに綿密なモニタリングを行う必要があります。タモキシフェンまたはラロキシフェン(タモキシフェンの類似薬)を使用したり、ときに両側の乳房を切除する(両側乳房切除術と呼ばれます)ことで、がんの発症を予防する場合もあります。

乳房の良性の変化

乳房の変化により、乳がんのリスクがわずかに上昇する場合があるようです。具体的には以下のものがあります。

  • がんの可能性を否定するために生検が必要になるような乳房の変化

  • 複雑な線維腺腫、過形成(組織の異常増殖)、乳管または乳腺の異型過形成(異常な組織構造を伴う過形成)、硬化性腺症(乳腺組織の増殖)、乳頭腫(指状の突起がある良性腫瘍)など、乳房組織の構造を変化させたり、細胞の数を増加させたり、しこりなどの異常を引き起こしたりする病態

  • マンモグラフィーで高濃度乳房が認められる

高濃度乳房の場合、医師が乳がんを特定するのも難しくなります。高濃度乳房であるということは、線維腺組織(線維性の結合組織と腺で構成される)が多く、脂肪組織が少ないことを意味します。

このような変化が認められる場合でも、生検で組織の構造の異常が見つかったり、乳がんの家族歴がなければ、乳がんのリスクはわずかに高くなるだけです。

初潮、最初の妊娠、および閉経の年齢

初潮が早い(特に12歳まで)人ほど乳がんの発生リスクは高くなります。

また、最初の妊娠時の年齢が高いほど、また閉経が遅いほどリスクが高くなります。1度も出産していない場合には、乳がんの発生リスクが高くなります。ただし、最初の妊娠が30歳を過ぎていた女性では、1度も出産していない女性よりもリスクが高くなります。

これらの要因によってリスクが増大するのは、ある種のがんを増殖させる作用があるエストロゲンにさらされる期間が長くなるためと考えられています。(なお、妊娠はエストロゲンの血中濃度を上昇させるものの、乳がんのリスクを低下させるといわれています。)

経口避妊薬またはホルモン療法

一部の研究で経口避妊薬(ピル)を服用している女性は、乳がんのリスクがわずかに高いことが示されています。ピルを中止すれば、このリスクは約10年以内に正常に戻ると考えられています。

閉経後数年、あるいはもっと長い期間にわたって併用ホルモン療法(エストロゲンとプロゲスチンの併用)を受けると、乳がんのリスクが高くなります。エストロゲン単独の使用が乳がんのリスクを上昇させるとは考えられていません。

食事と肥満

食事が乳がんの発生または増殖に寄与する可能性はありますが、特定の食事(高脂肪食など)の影響に関しての科学的根拠はありません(食事とがんも参照)。

閉経後の肥満女性では、乳がんの発生リスクがやや高くなります。脂肪細胞はエストロゲンを分泌しますが、これがリスク上昇に寄与する可能性があります。しかし、高脂肪食が乳がんの発生に関係しているという証拠や、食生活を変えるとリスクが低くなるという証拠はありません。また、まだ月経がみられる肥満の女性は、むしろ乳がんが発生する可能性が低いことを示唆した研究もあります。

肥満とがんの関連性についての研究が進められています(米国国立がん研究所:肥満とがん発生リスクを関連付けるメカニズムの解明[the National Cancer Institute: Uncovering the Mechanisms Linking Obesity and Cancer Risk]も参照)。

生活習慣

喫煙と定期的な飲酒は乳がんのリスクを高める可能性があります。専門家は、女性はアルコール摂取を1日1ドリンクに制限することを推奨しています。ここでの1ドリンクとは、ビールなら約360ミリリットル、ワインなら約150ミリリットル、ウイスキーのようなさらにアルコール度数の高い酒類なら約45ミリリットルです。

放射線曝露

30歳未満で放射線を浴びた場合(がん治療のための放射線療法や、大量のX線曝露)、乳がんのリスクが増大します。

乳がんの種類

乳がんは通常、以下により分類されます。

  • がんが最初に発生した組織の種類

  • がんの広がりの範囲

  • がん細胞に発現する受容体のタイプ

組織の種類

乳房には様々な種類の組織があります。がんは以下を含む、それらの組織の大半に発生します。

  • 乳管(乳管がん)

  • 乳腺小葉(小葉がん)

  • 脂肪または結合組織(肉腫と呼ばれます):このタイプはまれです。

乳管がんは乳がん全体の約90%を占めます。

乳頭パジェット病は乳管がんの一種で、乳頭とその周辺の皮膚が侵されます。最初の症状は、乳頭がただれてかさぶた状やうろこ状になる、乳頭から分泌物が出るなどです。このがんのある女性の約半数では、乳房に触知できるしこりもみられます。乳頭パジェット病の女性は他のタイプの乳がんにもかかっている場合があり、これらのがんは触知できませんが、ほかにがんがないか調べるための画像検査(マンモグラフィー、MRI検査、超音波検査など)では確認できる可能性があります。不快感をほとんど生じないため、症状に気づいてからもなかなか医師の診察を受けず、1年以上放置してしまう人もいます。予後(経過の見通し)はがんの大きさ、周囲組織への浸潤度、リンパ節転移の有無によって決まります。

乳房の葉状腫瘍は比較的まれで、乳がん全体に占める割合は1%未満です。約10~25%が悪性(がん)です。乳管および乳腺の周囲にある乳房組織から発生します。腫瘍の他の部位への広がり(転移)は、約10~20%の患者でみられます。乳房への再発は、約20~35%の患者でみられます。腫瘍が転移していない限り、予後は良好です。

広がりの程度

乳がんは乳房内にとどまることもあれば、リンパ管や血流を介して体内の別の部位に転移することもあります。がん細胞は乳房内のリンパ管から移動する傾向があります。乳房のリンパ管はほとんどがわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)へ流れ込みます。リンパ節の機能の1つは、がん細胞などの異常細胞や外来細胞をろ過して捕らえ、破壊することです。がん細胞がこうしたリンパ節を通過してしまうと、体内の別の部位に転移する可能性があります。

乳がんは骨、脳、肺、肝臓、皮膚に広がる(転移する)傾向がありますが、どの部位にも転移する可能性があります。頭皮に広がることはまれです。乳がんが最初に診断されて治療を受けてから、数年後から数十年後にもなって初めて、これらの部位にがんの転移が見つかることもあります。ある部位でがんの転移が発見された場合には、その時点では検出されないとしても、おそらくは他の部位にも転移していると考えられます。

乳がんは以下に分類されます。

  • 非浸潤がん

  • 浸潤がん

非浸潤がんは、局所にとどまっているがんです。乳がんの最も初期の段階です。がんが大きい場合や、乳房内の大部分を占めるほど増大する場合もありますが、周囲の組織への浸潤や他の部位への転移はありません。

非浸潤性乳管がんは乳管内に限局したがんです。このがんは周囲の乳房組織には浸潤していませんが、乳管に沿って広がり、乳房内でかなり大きくなることもあります。このタイプは非浸潤がんの85%、乳がんの少なくとも半数を占めています。ほとんどの場合、マンモグラフィーで発見されます。浸潤がんになることもあります。

非浸潤性小葉がんは乳腺の内部(小葉)で発生します。両側の乳房の複数の部位に生じることもよくあります。非浸潤性小葉がんの女性では、罹患している乳房または反対側の乳房に浸潤がんが発生する確率は1年間で1~2%です。非浸潤性小葉がんは乳がんの1~2%を占めています。通常、非浸潤性小葉がんはマンモグラフィーでは発見できず、生検によってのみ発見されます。非浸潤性小葉がんには、古典型と多形型の2種類があります。古典型は浸潤性ではありませんが、発症している場合は、左右どちらの乳房においても浸潤がんが発生するリスクが高くなります。多形型は浸潤がんに進行します。発見されれば手術により切除します。

浸潤がんは以下のように分類されます。

  • 限局性のがん:乳房内にとどまっているがん

  • 周囲に広がったがん:胸壁やリンパ節など乳房付近の組織にも浸潤しているがん

  • 遠隔転移したがん:乳房から他の部位に転移したがん

浸潤性乳管がんは乳管内で発生しますが、管壁を越えて周囲の乳腺組織に浸潤したがんです。乳房以外の部位にも転移することがあります。このがんは浸潤性乳がんの約80%を占めています。

浸潤性小葉がんは乳腺内で発生して周囲の乳房組織に浸潤し、さらに乳房以外の部位にも広がります。他のタイプの乳がんと比べて、両側の乳房に発生する可能性が高くなります。このがんは残りの浸潤性乳がんのほとんどを占めています。

まれな浸潤性乳がんとして以下があります。

  • 髄様がん

  • 管状がん

  • 化生がん

  • 粘液がん

粘液がんは高齢の女性に発生しやすく、ゆっくりと増殖します。これらのまれな種類の乳がんの大半は、浸潤性乳がんの他の種類よりも予後がずっと良好です。しかしながら、化生がんの女性の予後は他の種類の乳管がんの女性よりも有意に悪くなっています。

腫瘍受容体

乳がんの細胞も含め、あらゆる細胞の表面には受容体と呼ばれる分子があります。受容体には特定の物質だけが結合できる構造をもった部分があり、ここにその物質が結合することで細胞の活動に影響を及ぼします。乳がん細胞が特定の受容体をもつかどうかが、転移の速さや治療法に影響します。

腫瘍受容体には以下のものがあります。

  • エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体:乳がん細胞の中にはエストロゲンに対する受容体をもつものがあります。エストロゲン受容体陽性のがんは、エストロゲンによって刺激されると増殖または転移します。このタイプのがんは若い女性よりも閉経後女性に多くみられます。閉経後女性のがんの約3分の2が、エストロゲン受容体陽性のがんです。また、プロゲステロンに対する受容体をもつ乳がん細胞もあります。プロゲステロン受容体陽性のがんは、プロゲステロンによって刺激されます。エストロゲン受容体が陽性の乳がん、そして可能性としてはプロゲステロン受容体が陽性の乳がんも、陰性の乳がんよりも増殖が遅く、予後も良好です。(エストロゲンとプロゲステロンは女性ホルモンです。)

  • HER2(HER2/neu)受容体:正常な乳腺細胞には、その増殖を助けるHER2受容体があります。(HERは、ヒト上皮成長因子受容体[human epithelial growth factor receptor]の略称で、この分子は細胞の増殖、生存、分化に関与します。)乳がん全体のおよそ20%に、HER2というタンパク質の過剰発現が認められます。このようながんは非常に速く増殖する傾向があります。

その他の特徴

がんはその他の特徴に基づいて分類されることもあります。

炎症性乳がんはその一例です。この名称は、がんが発生した組織ではなくがんの症状を指します。炎症性乳がんは増殖が速く特に侵攻性で、多くの場合、致死的です。がん細胞が乳房の皮膚のリンパ管を閉塞させるため、乳房が炎症を起こしたように赤く腫れて熱をもちます。通常、炎症性乳がんはわきの下のリンパ節に転移します。リンパ節に触れると硬いしこりが感じられます。ただし、このがんは乳房全体に分布するため、しばしば乳房自体にはしこりを触知しません。炎症性乳がんは乳がんのおよそ1%を占めています。

乳がんの症状

乳がんは最初のうちは無症状です。

乳がんの最初の症状として最も多いのはしこりで、通常は触れたときの感触が周囲の乳腺組織と明らかに異なります。多くの乳がん患者が、自分でしこりを発見しています。一方の乳房だけが硬く厚くなっている場合、しこりはがんの可能性があります。通常、しこりのようなものが散在している場合、特に乳房の外側上部にある場合は、がんではなく線維嚢胞性変化を示唆しています。

一部の乳がん患者で乳房痛がみられますが、乳房痛には多くの原因があり、通常は女性に乳がんがあることを意味しません。

早期がんでは、しこりを指で押すと皮膚の下で自由に動くことがあります。

進行すると、通常はしこりが胸壁や皮膚に癒着します。癒着を起こしたしこりはまったく動かなくなったり、皮膚と一緒であれば動いたりするようになります。鏡の前に立って腕を頭の上へ上げることで、胸壁や皮膚にたとえわずかでも癒着しているがんがあるかどうかが分かる場合があります。胸壁や皮膚に癒着したがんが乳房内にあると、この動作を行うことで皮膚にしわやくぼみができたり、片方の乳房がもう一方の乳房と違う様子に見えることがあります。

非常に進行したがんでは皮膚表面にしこりが突出したり、化膿したようなただれができることがあります。しこりの上の皮膚はへこみができて革のようになり、色以外はミカンの皮のような状態(橙皮状)になることもあります。

しこりは痛みを伴うことがありますが、痛みはがんの徴候としてはあまりあてになりません。痛みだけでしこりがない場合には、がんであることはめったにありません。

がんが広がっている場合、わきの下(特に乳がんがある側)のリンパ節が硬く小さなしこりとして触れることがあります。複数のリンパ節が融合したり、皮膚や胸壁に張り付いていることもあります。リンパ節自体は痛みませんが、軽い圧痛がみられることはあります。

ときに、がんが他の臓器に転移して初めて最初の症状が現れることがあります。例えばがんが骨に転移すれば、骨が痛んだり弱くなったりし、骨折を引き起こすことがあります。肺に転移した場合は、せきや呼吸困難が起こることがあります。

乳頭パジェット病では、最初の症状は、乳頭がただれてかさぶた状やうろこ状になる、乳頭から分泌物が出るなどです。このような変化は害がないように見えることがあるため、患者は医療従事者の診察を受ける必要はないと考える可能性があります。このがんの患者の多くでは、乳房にしこりもみられます。

炎症性乳がんでは、乳房が赤く腫れて熱をもち、まるで感染を起こしたような状態になります(実際に感染しているわけではありません)。皮膚は毛穴がへこんで革のようになり、ミカンの皮のような状態になったり、すじ状の隆起が生じることがあります。乳頭が陥没することもあります。乳頭からの分泌物もよくみられる症状です。多くの場合、乳房にしこりは認められませんが、乳房全体が大きくなります。

乳がんのスクリーニング

乳がんは早期に自覚症状が出ることがまれで、早期に治療すれば治癒する可能性が高くなることから、スクリーニングが重要になります。スクリーニングとは、症状が現れる前に病気を探し出すことです。

乳がんのスクリーニングには以下のものがあります。

  • 医療従事者による毎年の乳房の診察

  • マンモグラフィー

  • 乳がんのリスクが高い場合、MRI検査

乳がんのスクリーニングに関する懸念事項

マンモグラフィーの開始時期など、乳がんのスクリーニングに関する最新の推奨事項を常に把握しておくことは難しい場合があります。また、医学団体が時間の経過とともに推奨内容を変更したり、医学団体によって推奨内容が異なることもあります。

多くの検査を行えばよいと考える人もいますが、検査にはデメリットもあります。例えば、ときに乳がんのスクリーニング検査では、がんがないにもかかわらずがんの存在が示唆されることがあります(偽陽性と呼ばれます)。スクリーニング検査の結果が陽性である場合、乳房生検が通常行われます。偽陽性の結果のために、必要のない生検を行い、必要のない不安、痛み、費用を被ることになります。このような潜在的な問題があるため、一部の人についてはスクリーニング検査が推奨されていません。この対象となるのは特定の年齢以下か、特定の年齢以上の人です(コラム「乳がん:スクリーニングマンモグラフィーを開始すべき時期」を参照)。患者は最新の推奨事項や自身のリスクおよび優先順位について医療従事者と話し合い、あるとすればどのようなスクリーニングが適しているかを一緒に判断すべきです。

マンモグラフィー

マンモグラフィーは、乳がんの早期発見に最も適した方法の1つです。がんのおそれがある病変を早期の段階で検出できるよう設計された高感度の検査法であり、ときには触知可能となる何年も前に発見することが可能です。マンモグラフィーは非常に感度が高いため、実際にはがんがないのにがんの疑いが示されることもあります(偽陽性)。スクリーニング(何も症状やしこりがない女性を対象とする)で検出される異常の約85~90%はがんではありません。マンモグラフィーの結果が陽性であった場合には、確認のためさらに詳しい検査(通常は乳房生検)が行われます。マンモグラフィーで乳がんが見落とされる確率は最大15%といわれています。高濃度乳房の女性では、精度が下がります。このため、このような女性では、乳房超音波検査、3次元マンモグラフィー(トモシンセシス)、MRI検査などの別の検査が必要になります。

マンモグラフィーではX線を用いて、乳房に異常のある領域がないかを調べます。放射線技師はフィルム台の上に乳房を乗せます。合成樹脂製の板の高さを調整して乳房を上からしっかり押さえます。乳房を平らに圧迫することで、組織を最大限に撮影して調べることができます。乳房の上から下に向けてX線を照射し、乳房のX線写真をとります。それぞれの乳房について、この状態での撮影を2回行います。続いてフィルム台を縦に回転させて乳房の両側に置き、横からX線を照射します。この位置で乳房の側面像を撮影します。

マンモグラフィーの際に乳房トモシンセシス(3次元マンモグラフィー)を用いると、高解像度で鮮明な乳房の3次元画像が得られます。この方法によって、がんの検出がいくらか容易になります(特に高濃度乳房の女性において)。しかしこのタイプのマンモグラフィーは、従来のマンモグラフィーと比べて曝露する放射線量が多くなります。

マンモグラフィーによる定期的なスクリーニングについての推奨は様々です。専門家の意見は以下の点で分かれています。

  • いつ開始すべきか

  • どのくらいの頻度で行うべきか

  • いつ止めるべきか、または止めるべきか否か

定期的なマンモグラフィーをいつ開始するかについての専門家の推奨は分かれています。スクリーニングマンモグラフィーはすべての女性に50歳から推奨されますが、一部の専門家は40歳または45歳から推奨しています。

マンモグラフィーは50歳以上の女性ほど正確になるため、50歳からスクリーニングを開始することを勧める専門家もいます。その理由は、加齢に伴い、乳房の線維腺組織が脂肪組織に置き換わるためです。脂肪組織に隣接する異常はマンモグラフィーでより検出しやすくなります。

40~49歳の女性では、スクリーニングの有益性はそれほど明らかではありません。専門家はまた、放射線への曝露が増えるため、スクリーニングの開始が早すぎることや、スクリーニングを頻繁に行いすぎることも懸念しています。

乳がんの危険因子がある女性は、マンモグラフィーを50歳より前から開始するメリットの方が大きいでしょう。スクリーニングマンモグラフィーのリスクと便益について、主治医と話し合うべきです。

開始年齢にかかわらず、マンモグラフィーはその後1~2年毎に繰り返します。

女性の期待余命や、スクリーニング継続希望の有無により、定期的なマンモグラフィーは75歳で止めてよいでしょう。

マンモグラフィーに使用する放射線の量は極めて少なく、安全とされています。

撮影時に多少の不快感を伴うことがありますが、不快感が続くのはほんの数秒です。マンモグラフィーは、乳房の圧痛が比較的少ない月経の期間中に受けるとよいでしょう。

制汗用の消臭剤やパウダー(デオドラント剤)はマンモグラフィーの画像に影響することがあるため、検査の日は使わないようにします。検査全体にかかる時間は約15分です。

マンモグラフィー:乳がんのスクリーニング

知っていますか?

  • マンモグラフィーによる定期的なスクリーニングで検出される異常のうち、がんであるのはわずか10~15%程度です。

乳がん:スクリーニングマンモグラフィーを開始すべき時期

マンモグラフィーによる定期的なスクリーニングを開始すべき時期について専門家の意見が分かれることがあります。スクリーニングはがんを見つけるためのもので、がんは致死的になりうることから、遅い時期(50歳)ではなく早い時期(40歳)から始めるべきだと考える人もいるかもしれません。しかし、スクリーニングにはデメリットもあり、若い女性にとってのメリットは、高齢の女性にとってのメリットほど明らかではありません。

以下は、意見が分かれる理由の一部です。

  • スクリーニングは特に若い女性で、がんではない可能性のある異常を検出します。異常が発見されるとしばしば、生検を行い、異常を詳しく確認することになります。このようにスクリーニングにより乳房生検の実施が増え、ときに不必要な不安や費用を被るだけでなく、検査のために乳房内に組織の瘢痕化が起こる可能性もあります。

  • 非浸潤性乳がん(まだ広がっていないがん)など、一部の乳がんは致死的ではありません。成長が遅く、生涯を通じて死亡の原因になることがない乳がんもあります。しかし、増殖し続け、他の組織に浸潤する乳がんもあります。スクリーニングで見つかったがんのどれだけが、最終的に死亡につながるのかは明らかではありません。しかし現在のところ医療従事者は、どのがんは治療すべきで、どのがんは治療すべきでないかを判断するための十分な科学的根拠をもっていないため、見つかったがんはすべて治療されます。

  • マンモグラフィーは年齢が若いと、精度が下がります。このためスクリーニングで、死に至る可能性があるものも含め、がんが見落とされることがあります。マンモグラフィーは50歳以上の女性ほど正確ですが、その理由の1つに、加齢とともに乳房の線維腺組織(線維性結合組織と腺で構成される)が脂肪組織に置き換わる傾向があるためです。脂肪組織に隣接する異常はマンモグラフィーでより検出しやすくなります。

  • 1つの命を救うために、たくさんの女性をスクリーニングしなければなりません。女性が高齢になると、1つの命を救うためにスクリーニングする必要のある女性の数は減ります。50歳以上の女性では、スクリーニングで多くの命を救うことができるため、推奨されます。

ブレスト・アウェアネス(乳房自己認識)

女性は自分の乳房の正常な外観および感触をよく知っておくべきであり、男性も自分の乳頭とその周囲の変化に気づくようにしておくべきです。女性が変化に気づいた場合、乳房自己検診をしようと思うでしょう。どのような変化でも直ちに医療従事者に報告するべきです。以前は多くの医師が、乳房自己検診を毎月行い、しこりがないか確認することを推奨していました。ほとんどの医療機関は、がんの有無を調べるためのルーチンの方法として毎月または毎週行う乳房自己検診をもはや推奨していません。スクリーニングマンモグラフィーを受けている女性において、しこりやその他の変化がない状況で乳房自己検診を行っても、乳がんの早期発見にはつながりません。

医療従事者による乳房の診察

乳房の診察は、女性の定期的な身体診察の一部として行われることがあります。ただし、乳房自己検診と同様、医師の診察でもがんが見逃される可能性があります。女性にスクリーニングが必要であるか、本人が希望する場合には、医師による診察で異常が発見されていないとしても、より感度の高い検査であるマンモグラフィーなどを行うべきです。多くの医師や医療機関は、もはや医師による毎年の乳房の診察については必須としていません。

診察では、医師は乳房が不規則な形をしていないか、皮膚のへこみやひきつりがないか、しこりや分泌物がみられないかを観察します。次に、平らに広げた手のひらで左右の乳房を触診し、ほとんどの乳がんが最初に浸潤するわきの下のリンパ節や、鎖骨の上のリンパ節が腫れていないか調べます。正常なリンパ節は皮膚の上から触知できることはないため、この方法で触知できるリンパ節は腫大していると判断されます。ただし、リンパ節腫大はがん以外の良性疾患でもみられることがあります。リンパ節が触知された場合は、それが異常であるかどうかを確認します。

MRI検査

BRCA変異をもつなど、乳がんのリスクが高い女性のスクリーニングには通常、MRI検査が用いられます。これらの女性では、スクリーニングにマンモグラフィーと医療従事者による乳房の診察も含めるべきです。高濃度乳房の女性には、リスク評価を含む総合的な評価の一環としてMRI検査が推奨される場合があります。

乳がんの診断

  • マンモグラフィー

  • 乳房の診察

  • 生検

  • ときに超音波検査

身体診察で乳房の変化(乳頭からの分泌物やしこりなど)が認められた場合は、通常は超音波検査を行います。検査の結果がはっきりしない場合は、マンモグラフィーを行います。

マンモグラフィーは、採取して顕微鏡下で検査(生検)すべき組織を特定するのに役立てることもできます。

医師が身体診察の結果に基づき進行がんを疑う場合、生検がまず行われます(乳房のしこりの評価も参照)。

液体で満たされた嚢胞と充実性のしこりを判別するため、超音波検査を行うこともあります。嚢胞は通常は悪性(がん)ではないため、両者の判別は重要です。嚢胞の場合は特に治療せずにモニタリングするか、あるいは中にたまった液体を細い針の付いたシリンジで抜き取ります(吸引)。以下いずれかの場合にのみ、嚢胞から吸引した液体にがん細胞が含まれていないかを検査します。

  • 液体に血が混じっている、または濁っている

  • ほとんど液体が抜き取れない

  • 液体を抜き取った後もしこりが残る

これらがなければ、数週間後に再度受診します。このときに嚢胞が触知できなければ、良性と考えられます。また嚢胞ができていれば再度液体を抜き取り、顕微鏡で検査します。3回目に嚢胞がまたできている場合、または吸引してもなくならない場合は、生検を行う場合があります。まれですが、がんが疑われる場合には嚢胞を手術で切除します。

乳房生検

がんが示唆されるすべての異常に対し、生検が行われます。

医師は以下のタイプの生検のうち1つを行います。

  • コア針生検:先端が特殊な中空の太い針を使用して、乳房組織のサンプルを採取します。

  • 直視下(外科的)生検:医師が皮膚および乳房組織を小さく切開し、しこりの一部または全部を切除します。このタイプの生検は、針生検ができない場合に行われます。針生検でがんが検出されなかった後に、針生検でがんを見逃していないことを確かめるために行われる場合もあります。

医師が生検の針を刺す位置を決めるため、生検の際にはしばしば画像検査が行われます。画像ガイド下の生検により、コア針生検の精度が向上します。例えば腫瘤(触知できるかマンモグラフィーで示されるかは問わず)に対しては、異常組織を正確に標的とするため、コア針生検の際に超音波検査を用います。生検の際に画像ガイドを用いて針を刺す場合、その位置にマーク付けるため、クリップが一般に使用されます。

MRI検査でのみ異常が認められる場合、MRI画像を頼りに位置を確認しながら生検の針を挿入します。

定位コア針生検は乳房に異常なパターンの小さなカルシウム沈着(微小石灰化と呼ばれます)がある場合に有用です。このタイプの生検は医師が異常組織の位置を正確にとらえてサンプルを採取するのに役立ちます。定位生検では、医師は2つの角度からマンモグラフィーを撮影し、それらの2次元画像をコンピュータに送ります。コンピュータが画像を比較して異常組織の正確な位置を3次元で計算します。異常な微小石灰化のみられるサンプルを確実に採取できるよう、定位コア針生検で採取する乳房組織をX線撮影します。

ほとんどの場合、これらの検査のために入院する必要はありません。通常は、局所麻酔のみで行われます。

生検では、採取した組織を病理医が顕微鏡で観察してがん細胞の有無を判断します。一般に、マンモグラフィーで異常が見つかった人のうち、生検によってがんと確定されるのは、ほんのわずかです。

がん診断後の評価

がんと診断された場合、外科医、腫瘍内科医(がん薬物療法の専門医)、放射線腫瘍医などのがん専門医(腫瘍医)の診察を受けることになります。これらの医師が、行うべき検査について決定し、治療を計画します。

がん細胞が検出された場合、生検サンプルを分析し、以下のようながん細胞の特徴を調べます。

  • 乳がん細胞の中にホルモン(エストロゲンまたはプロゲステロン)に対する受容体があるかどうか

  • HER2受容体の数

  • がん細胞の分裂速度

  • 一部の種類の乳がんについては、がん細胞の遺伝子検査(多遺伝子パネル検査)

これらの情報は、がんが広がる速さや、どの治療法がより有効になりそうかを医師が推定するのに役立ちます。

乳がんと診断された後、以下の検査を行う場合があります。

遺伝子検査では、医師は患者に遺伝カウンセラーを紹介する場合があり、遺伝カウンセラーは詳細な家族歴(がんにかかったことのあるすべての近親者を含む)を記録し、最も適切な検査を選択し、結果の解釈を助けることができます。

乳がんの病期診断

がんと診断された場合は、病期を決定します。病期は0からIVまでの数字で示され(下位分類が文字で示されることもあります)、がんの程度と進行度を反映しています。

  • 非浸潤性乳管がんなどの非浸潤性乳がんは0期に分類されます。非浸潤性とは、局所にとどまっているがんを意味します。周囲の組織に浸潤したり、体の別の部位に広がったり(転移)していないがんのことです。

  • 乳房内または乳房付近の組織に広がったがん(限局性乳がんまたは所属リンパ節転移を起こした乳がん)はI~III期に分類されます。

  • 転移性乳がん(乳房とわきの下のリンパ節から体の他の部位に転移したがん)はIV期に分類されます。

がんの病期診断は、医師が適切な治療法を決定し、予後を予測する上で役立ちます。

乳がんの病期の決定には、以下のような多くの要素が関係します。

  • がんの大きさ

  • がんのリンパ節転移の有無

  • 肺や脳などの他の器官にがんが広がっている(転移している)かどうか

その他の重要な病期診断の要素としては、以下のものがあります。

  • グレード:顕微鏡下でのがん細胞の異常の程度、1~3で示される

  • ホルモン受容体の状態:がん細胞の中にエストロゲンプロゲステロンまたはHER2に対する受容体があるかどうか

  • がんの遺伝子検査(Oncotype DX検査など):一部の乳がんで、がんにどの異常遺伝子がいくつ存在するか

すべてのがん細胞は異常にみえますが、そのなかでも一部のがん細胞は他のがん細胞よりもさらに異常にみえるため、グレードは一様ではありません。がん細胞が正常な細胞と大きく異なっていないようにみえる場合、がんは高分化型とみなされます。がん細胞が極めて異常に見える場合、それらは未分化型または低分化型であるとみなされます。高分化型のがんは、未分化型または低分化型のがんよりもゆっくりと成長し、広がる傾向があります。顕微鏡下で観察されたこのような違いに基づいて、医師はほとんどのがんのグレードを決定します。

がん細胞内に存在するホルモン受容体遺伝子変異が、がんが様々な治療にどのように反応するか、また予後がどうなるかに影響します。

乳がんの予後(経過の見通し)

一般的に、予後は以下によって決まります。

  • がんの大きさ

  • がんのタイプ

  • リンパ節または他の器官への転移の有無

(米国国立がん研究所のSEER[サーベイランス、疫学、および最終結果]プログラム[Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER) Program]も参照のこと。)

がん細胞が存在するリンパ節の数および位置は、がんが治癒可能かどうか、そうでない場合に女性がどれくらい生存できるかを決定する主な要因の1つです。

乳がんの5年生存率(診断から5年後に生存している女性の割合)は以下の通りです。

  • がんが最初にできた部位にとどまっている場合(限局性)は99%

  • がんが付近のリンパ節に転移しているが、それ以上の広がりはない場合(周囲に広がったがん)は86%

  • がんが遠く離れた場所に転移している場合(転移性)は29%

  • 十分な評価が行われておらず、がんの病期分類も行われていない場合は58%

以下の場合に乳がんの女性の予後は悪くなる傾向にあります。

  • 20代や30代で乳がんと診断される

  • 腫瘍が大きい

  • がん細胞の分裂が速い(明確な境界がない腫瘍や乳房全体に分布しているがんなど)

  • 腫瘍にエストロゲンまたはプロゲステロンに対する受容体がない

  • 腫瘍にHER2受容体の過剰発現が認められる

  • BRCA1遺伝子変異がある

米国では、非ヒスパニック系の黒人女性は、非ヒスパニック系の白人女性よりも乳がんによる死亡率が高いです。

BRCA2遺伝子変異のために、今あるがんが悪い結果につながることはおそらくありませんが、BRCA遺伝子変異のいずれかをもっていることで、乳がんの再発リスクが上昇します。

乳がんの予防

以下の女性には、乳がんのリスクを低下させる薬剤(化学予防)の使用が勧められることがあります。

  • 年齢が35歳以上で非浸潤性小葉がん、または乳管や乳腺の異常な組織構造(異型過形成)の既往がある女性

  • BRCA1もしくはBRCA2、またはその他の高リスクの遺伝子変異がある女性

  • 35歳~59歳の女性で、現在の年齢、月経開始(初潮)年齢、初産年齢、第1度近親者に乳がんの人がいる場合のその数、およびこれまでの乳房生検の結果から、乳がんの発生リスクが高い女性

乳がんの予防には、乳房組織のエストロゲン受容体を阻害する薬剤を使用することができます。具体的には以下のものがあります。

  • タモキシフェン

  • ラロキシフェン

患者はこれらの薬剤の使用を始める前に、起こりうる副作用について主治医に質問すべきです。

タモキシフェンのリスクには以下があります。

これらのリスクは、高齢になるほど高くなります。

ラロキシフェンは、閉経後女性にはタモキシフェンと同じ程度の効果があり、子宮内膜がんや血栓、白内障のリスクはより低いと考えられています。

どちらの薬剤も骨密度を増加させるため、骨粗しょう症の女性には有益です。

乳がんの治療

  • 手術

  • 通常は放射線療法

  • ホルモン遮断薬(内分泌療法)、化学療法、またはその両方

乳がんの治療は、患者の病状が十分に評価された後に開始されます。

治療の方法は乳がんの病期と種類、がんがもつ受容体によって異なります。がんの種類によって増殖の速さ、転移のしやすさ、様々な治療に対する反応などの特徴が大きく異なるため、治療方法は複雑です。また、乳がんには未解明の部分が多くあります。結果として、ある患者への最適な治療法について医師の間でも意見が分かれることがあります。

患者と主治医の考え方も、治療上の意思決定を左右します。患者は、乳がんに関してどんな事実が判明しているか、未解明のことは何か、また選択可能な治療法としてどのような方法があるかを、はっきりと分かりやすく説明してもらうべきです。そうすれば、様々な治療法の利点と欠点を考慮したり、勧められた治療法を受け入れる、あるいは断ることができるようになります。

医師はときに、乳がん患者に、新しい治療法の研究への参加を求めることもあります。新しい治療法は、生存率や生活の質を改善することを目的としています。研究への参加にはどのようなリスクが伴い、どのような有益性が期待できるのか、主治医によく説明を聞き、十分に情報を得た上で参加するかどうかを決定すべきです。

乳がんの治療では通常手術が行われ、放射線療法や化学療法またはホルモン遮断薬による治療などもしばしば行われます。ときに、手術で片側または両側の乳房を切除するか、また乳房の一部あるいは全部を切除するかどうかを患者が選択できる場合もあります。手術では、がんの切除と乳房再建を同じ手術で行うことができる形成外科または再建外科医に紹介される場合があります。

手術

手術では悪性腫瘍(がん)といくらかの周辺組織を切除します。腫瘍の切除には主に2つの選択肢があります。

  • 乳房温存術と放射線療法の併用療法

  • 乳房切除術

浸潤がん(I期以上)では、乳房温存術で腫瘍全体を切除できさえすれば、乳房温存術と放射線療法の併用療法より乳房切除術の方が有効だとはいえません。乳房温存術では、腫瘍に加え、がんを含む可能性がある組織が残るリスクを抑えるために周囲の正常な組織の一部も切除します。

腫瘍を切除する前に、腫瘍を縮小させるために化学療法を行うこともあります。この方法を用いれば、乳房切除術ではなく乳房温存術が選択できるようになる場合もあります。

乳房温存術

乳房温存術では、乳房のできるだけ多くの部分をそのまま残します。手術の種類を検討する際、医師にとって重要なのは、がんを含む組織を残すリスクを冒さず、がんをすべて確実に切除することです。

乳房温存術では、医師はまず、腫瘍の大きさおよび切除が必要な周囲の組織の範囲(断端と呼ばれます)を判断します。断端の大きさは、乳房に対する腫瘍の大きさに基づきます。手術により断端とともに腫瘍を切除します。断端の組織は顕微鏡で検査し、腫瘍の外に広がったがん細胞がないか調べます。このような所見は、さらなる治療が必要かどうかを医師が決定するのに役立ちます。

切除する乳房組織の範囲を説明するのに、様々な用語(例えば、腫瘤摘出術、乳房円状部分切除術、乳房扇状部分切除術)が用いられます。

通常、乳房温存術後には放射線療法を行います。

乳房温存術の主な利点は、乳房組織の温存および術後の乳房の外観が保たれる可能性があることです。乳房に対して腫瘍が大きい場合には、このタイプの手術はあまり有用ではないと考えられます。このような例では、腫瘍と周辺の正常組織を切除するだけでも、結局は乳房の大部分を切除することになります。乳房温存術は腫瘍が小さい場合により適しています。乳房温存術を受ける女性の約15%では周辺組織の切除範囲が少なくて済むため、治療していない乳房と比べても形や大きさにほとんど違いが生じません。しかし、大部分の女性では治療した乳房がいくぶん縮むため、形が変わる可能性があります。

乳房温存手術または乳房切除術のいずれかが選択肢である場合、女性はそれぞれの選択肢を考慮すべきです。乳房を失うことが精神的経験としても身体的経験としても非常に辛いものであると感じ、乳房温存手術であれば自分の体に対するイメージ(身体像)を保てると感じることから、乳房温存手術を好む女性もいます。一方で、乳房組織をすべて切除した方がより安心だと感じたり、乳房切除術を施行すれば放射線療法を受ける必要がなくなる可能性があるという理由から、乳房切除術を希望する女性もいます。

腫瘍を切除する前に腫瘍を縮小させるために化学療法を行うことで、乳房切除術ではなく乳房温存術が選択できるようになる場合もあります。

乳房切除術

もう1つの手術の主な選択肢として乳房切除術があります。乳房切除術にはいくつかの種類があります。どの種類でも乳房の組織はすべて切除しますが、切除する他の組織、およびそれをどの程度切除するか、あるいは残すかの程度が異なります。

  • 皮下乳腺全摘術では、乳房の下の筋肉と傷を覆うだけの皮膚を残します。これらの組織を残すことで、乳房の再建が非常に容易になります。わきの下のリンパ節は切除しません。

  • 乳頭乳輪温存乳房切除術は皮下乳腺全摘術と同様であり、加えて乳頭と乳頭の周囲の色素に富んだ皮膚(乳輪)を温存します。

  • 単純乳房切除術では、乳房の下の筋肉(胸筋)およびわきの下のリンパ節を残します。

  • 非定型的乳房切除術では、わきの下のリンパ節の一部を切除しますが、乳房の下の筋肉は残します。

  • 定型的乳房切除術では、わきの下のリンパ節、乳房の下の筋肉をすべて切除します。この方法は乳房の下の筋肉にがんが浸潤していない限り、現在ではほとんど行われません。

リンパ節の評価

医師はリンパ節を評価し、がんのわきの下のリンパ節への転移を判断します。リンパ節内でがんが検出された場合は、他の部位にも転移している可能性が高くなります。この場合、異なる治療が必要になることがあります。

乳腺組織(や体の他の部位)からのリンパ液は、リンパ管とリンパ節のネットワーク(リンパ系)を通じて排出されます。リンパ液に含まれている可能性のある異物や異常細胞(細菌やがん細胞など)はリンパ節で捕らえられます。したがって、乳がん細胞はわきの下などの乳房付近のリンパ節に行き着くことがよくあります。通常は、その際に外来細胞や異常な細胞が破壊されます。しかし、ときにがん細胞はリンパ節内で成長し続けるか、またはリンパ節を通り抜けてリンパ管に入り、体内の他の部位に転移することがあります。

医師はまず、わきの下を触診して、リンパ節の腫れがないか調べます。所見によって、以下の1つ以上を行うことがあります。

  • 超音波検査で腫大しているリンパ節がないか調べる

  • 生検(リンパ節を切除するか超音波の画像で針の位置を確認しながら針で組織サンプルを採取する)

  • 腋窩リンパ節郭清:わきの下の多くのリンパ節(一般的に10~20)を切除する

  • センチネルリンパ節郭清術:がんが転移している可能性の高いリンパ節(1つまたは複数)だけを切除する

医師がわきの下のリンパ節腫大を触知した場合やリンパ節が腫れているか分からない場合には、超音波検査を行います。リンパ節の腫れが見つかれば針を挿入し、組織のサンプルを採取して検査します(穿刺吸引細胞診またはコア針生検)。超音波の画像を見ながら、針を目的の位置まで進めます。

生検でがんが検出されれば、手術によりわきの下のリンパ節の切除(腋窩リンパ節郭清)が必要となる可能性があります。わきの下からリンパ節を多数切除することは、たとえリンパ節にがんがあったとしても、がんの治癒には役立ちません。しかし、医師が治療法を決定するのには役立ちます。手術前に化学療法(術前化学療法と呼ばれます)を行った後、腋窩リンパ節を再評価します。

超音波検査後の生検でがんが見つからないときには、センチネルリンパ節生検が行われますが、これは生検サンプルにがん細胞が含まれていなくても、リンパ節の他の部分にがん細胞が存在する可能性があるためです。センチネルリンパ節生検は通常、腫瘤摘出術や乳房切除術など、がんの切除を目的とする手術の一環として行われます。これにより医師は、乳がんに関連する最も重要なリンパ節を同定して調べることができます。そのリンパ節ががんでなければ、すべての腋窩リンパ節を切除するためのさらなる広範囲にわたる手術は必要ありません。

センチネルリンパ節生検では、青い色素や放射性物質を乳房に注入します。これらの物質が通過する経路により、乳房から最初にたどり着くわきの下のリンパ節(複数の場合もあります)を特定できます。それからわきの下を小さく切開し、青色をしているか、放射線(手持ち式の装置で検出)を発しているリンパ節を探します。このリンパ節が、がんが転移した可能性が最も高いもので、がんの広がりを最初に警告するリンパ節であることから、センチネルリンパ節と呼ばれます(「センチネル」とは見張りという意味です)。医師はこのリンパ節を切除し、検査室に送ってがんがないかを調べます。複数のリンパ節が青色をしているか、放射線を発していることがあり、この場合は複数のリンパ節がセンチネルリンパ節とみなされる可能性があります。

センチネルリンパ節にがん細胞が検出されなかった場合は、それ以上リンパ節を切除することはありません。

センチネルリンパ節にがんがあれば、以下のような要因によっては腋窩リンパ節郭清が行われることがあります。

  • 乳房切除術の計画があるかどうか

  • センチネルリンパ節がいくつあるか、またがんがそれらの外に広がっているかどうか

ときに腫瘍の切除手術中に、がんがリンパ節に広がっており、腋窩リンパ節郭清が必要であることが判明する場合があります。患者は手術の前に、もしがんがリンパ節に転移していれば、外科医がより広範囲にわたる手術を行ってもよいかを尋ねられるかもしれません。そうでなければ、必要であれば後から2回目の手術が行われます。

リンパ節を切除すると組織内の水分の排出に影響を与えるため、多くの場合、問題が起こります。腕や手に水分がたまって慢性的なむくみを生じることがあります(リンパ浮腫)。手術後、リンパ浮腫が発生するリスクは生涯続きます。腕や肩の動きが制限されることもあり、理学療法が必要になります。切除するリンパ節の数が多いほど、リンパ浮腫がひどくなります。センチネルリンパ節生検では腋窩リンパ節郭清よりもリンパ浮腫が生じにくくなります。

リンパ浮腫は特別な訓練を受けた療法士が治療します。療法士から、たまった液体の排出をうながすマッサージの方法や、液体が再びたまらないよう包帯を巻く方法を教えてもらいます。浮腫が生じている腕は、重い物を持ち上げるときは浮腫がないほうの腕を使う以外は、できる限り普段通りに使うようにします。指導通りに毎日、浮腫が生じている腕の運動を行い、夜はずっと包帯を巻くようにします。

リンパ節を切除した場合、患者は、医療従事者に切除した側の腕の静脈にカテーテルや針を入れないよう、また血圧を測定しないよう頼んだ方がよいと勧められることがあります。これらの手技により、リンパ浮腫が生じやすくなったり、悪化したりする可能性が高くなります。また、手術した側の手や腕を引っかいたりけがをしたりする可能性のある仕事をするときには、常に手袋をつけることも勧められます。けがおよび感染を避けることは、リンパ浮腫の発生リスク低下に役立ちます。

リンパ節切除後に起こりうる他の問題として、一時的あるいは慢性的なしびれ、慢性的な灼熱感、感染症などがみられることもあります。

センチネルリンパ節とは

乳腺組織からのリンパ液は、リンパ管とリンパ節のネットワークを通じて排出されます。リンパ節はリンパ液に含まれている異物や異常細胞(細菌やがん細胞など)を捕らえる働きをしています。ときに、がん細胞がリンパ節を通り抜けてリンパ管に入り、体内の他の部位に転移することがあります。

乳腺組織からのリンパ液はやがては多くのリンパ節にたどり着きますが、最初に流れ込むのは通常1つか数個の近くのリンパ節です。これらのリンパ節は、がんの広がりを最初に警告するリンパ節であることから、センチネルリンパ節と呼ばれます(「センチネル」とは見張りという意味です)。

乳房再建術

乳房再建術は乳房切除術と同時に行われることも、後から行われることもあります。

乳房再建術を計画するために、患者は治療中の早い時期に形成外科医に相談すべきです。再建を行う時期は患者の希望だけでなく、ほかに必要な治療によっても決まってきます。例えば再建術の前に放射線療法が行われる場合、再建術の選択肢は限られます。乳房オンコプラスティックサージャリー(がん[腫瘍]の手術と形成手術を組み合わせた手術)も選択肢の1つです。このタイプの手術は、乳房からがんをすべて切除し、乳房の自然な外観を維持または再建するためのものです。

ほとんどの場合、手術は以下により行われます。

  • インプラント(シリコンまたは生理食塩水でできている)の挿入

  • 患者の体の別の部位から採取した組織を使用した乳房の再建

外科医はしばしば下腹部の筋肉から乳房再建のための組織を採取します。あるいは、下腹部の皮膚と脂肪組織(筋肉ではなく)を用いて乳房を再建することもできます。

インプラントの挿入前に、医師はティッシュ・エキスパンダーを使用します。これは風船のようなもので、残っている胸の皮膚と筋肉を伸ばし、乳房インプラントのためのスペースを作ります。ティッシュ・エキスパンダーは乳房切除術中に胸筋の下に入れます。エキスパンダーには医療従事者が皮膚に針を刺してアクセスする小さな弁が付いています。入れてからの数週間、生理食塩水をこの弁から定期的に注入し、エキスパンダーを一度に少しずつ拡張していきます。拡張が完了すると、手術によりエキスパンダーを取り出し、インプラントを挿入します。

ほかには、患者の体の他の部分の組織(皮膚の下の筋肉や組織など)を再建に使用することもできます。これらの組織は、腹部、背中、殿部などから採取し、乳房を形づくるように胸部に移植します。

乳頭と周囲の皮膚は通常、後で行われる別の手術で再建されます。様々な手法が用いられます。例えば体の他の部位の組織や刺青が使用されます。

左右の乳房が釣り合うように反対側の乳房に何らかの手術を施す(豊胸、縮小、挙上)こともあります。

乳房の再建

外科医が乳がんと乳腺組織の切除(乳房切除術)を終えた後に、形成外科医が乳房を再建します。シリコンか生理食塩水の入った乳房インプラントが使用されます。より複雑な手術になりますが、腹部、殿部あるいは背中など体の別の部分から組織を移植する場合があります。

乳房再建を乳房切除術と同時に行う場合は麻酔時間が長くなり、後から行う場合は麻酔を再びかけることになります。

乳頭と周辺組織の再建は後で、しばしば診療所の外来で行われます。全身麻酔は必要ありません。

一般に、放射線療法で治療した乳房よりも再建した乳房の方が見た目には自然で、腫瘍が大きかった場合には特にその傾向があります。

シリコンや生理食塩水の入ったインプラントを使用し、残された皮膚で表面を十分に覆うことができる場合は、インプラント上の皮膚の感覚は比較的正常に保たれます。ただし、どちらのインプラントも触れたときの感覚は乳房とは異なります。体の他の部分から採取された皮膚で乳房を覆う場合は、感覚がかなり失われます。しかし、体の他の部位から採取された組織を用いれば、シリコンまたは生理食塩水の入った乳房インプラントよりも乳房組織に近い感触が得られます。

シリコンのインプラントではときに、中身のシリコンが漏れ出すことがあります。その結果、インプラントが硬くなって不快感を生じたり、外観が損なわれることがあります。また、シリコンが血流に入ることもあります。

漏れ出したシリコンによって体の他の部位にがんが発生したり、全身性エリテマトーデスなどのまれな病気にかかるのではないかと心配する人もいます。シリコンの漏出がこのような深刻な影響を及ぼすことを示す科学的根拠はほとんどありませんが、その可能性を完全に否定することもできないため、シリコン製インプラントの使用は減る傾向にあり、特に乳がんにかかっていない女性が美容整形のために使うことは少なくなってきています。

がんのない乳房の切除

特定の乳がんの女性は、反対側の乳房(がんのない方の乳房)にがんが発生するリスクが高くなります。医師は、反対側の乳房にがんが発生する前に反対側の乳房を切除するよう勧める場合があります。この手術は、予防的対側乳房切除術と呼ばれます。この予防的手術は、次のいずれかに該当する女性に適しています。

  • 乳がんの発生リスクを高める遺伝子変異(BRCA1またはBRCA2変異など)を受け継いでいる

  • 乳がんまたは卵巣がんを患ったことのある近親者(通常は第1度近親者)が少なくとも2人いる

  • 胸部に対する放射線療法を30歳未満で受けた

  • 非浸潤性小葉がん(非侵襲型)がある

片方の乳房に非浸潤性小葉がんがある女性では、どちらかの乳房に浸潤性乳がんが発生する可能性が同程度あります。したがって、このような場合に乳がんのリスクを排除する唯一の方法は、両方の乳房を切除することです。一部の女性、特に浸潤性乳がんの発生リスクが高い女性では、この治療法を選ぶこともあります。

予防的対側乳房切除術の利点は次の通りです。

  • リスクを上昇させる遺伝子変異がある乳がんの女性における生存期間の延長のほか、50歳未満で乳がんと診断された女性における生存期間延長の可能性がある

  • 治療後にフォローアップのための厄介な画像検査を受ける必要性が減少する

  • 一部の女性では、不安が減少する

この手術の欠点は次の通りです。

  • 合併症のリスクが2倍になる

予防的対側乳房切除術を行う代わりに、がんについて主治医に乳房を注意深く観察してもらうこと(例えば、画像検査によって)を選択する女性もいます。

放射線療法

放射線療法は、腫瘍の切除部位に残っているがん細胞や近接のリンパ節など周辺組織のがん細胞を殺す目的で行われます。

以下がみられる場合は、乳房切除術後の放射線療法を行います。

  • 腫瘍が5センチメートル以上である。

  • がんが1つまたは複数のリンパ節に広がっている。

このような場合には、乳房切除術後の放射線療法により、胸壁や周辺のリンパ節でのがんの再発が減少し、生存の可能性が高まります。

乳房温存術後の放射線療法により、原発腫瘍近くに、また付近のリンパ節における乳がんの再発率が大幅に低下し、全生存率が改善する可能性があります。しかし、女性が70歳以上で、腫瘤摘出術を受け、がんがエストロゲン受容体陽性である場合は、放射線療法により再発リスクが大幅に低下したり、生存率が向上したりすることはないため、放射線療法は不要となることがあります。

放射線療法の副作用として、乳房の腫れ、照射部位の皮膚の発赤や水疱、疲労などがあります。通常、これらの副作用は数カ月からおよそ1年以内に解消します。放射線療法を受けた女性の5%未満に、肋骨の骨折とそれに伴う軽い不快感が生じます。また約1%の女性に、放射線療法を終えて6~18カ月経ってから軽度の肺炎がみられます。肺の炎症に伴い空せきや運動時の息切れがみられ、この症状は最長で6週間ほど続きます。放射線療法後にリンパ浮腫が生じることがあります。

化学療法とホルモン遮断薬

化学療法やホルモン遮断薬による治療により、全身でがん細胞の増殖を抑えることができます。

化学療法による治療を行うかどうかを決定するために、医師は患者とその乳がんに関するいくつかの因子を評価し、リスクと便益について患者と話し合います。医師が考慮する因子としては以下のものがあります。

  • がんのリンパ節転移の有無

  • 女性が閉経前か閉経後か

  • エストロゲン受容体またはプロゲステロン受容体の検査結果

  • HER2(human epidermal growth factor 2[ヒト上皮増殖因子2])がん遺伝子の検査結果

  • がんの遺伝子検査(Oncotype DX検査など)

浸潤性乳がんの患者では、通常は化学療法やホルモン遮断薬が、手術直後から開始されます。これらの薬は数カ月から数年継続します。タモキシフェンなど一部の薬剤は最長5~10年間継続します。腫瘍が5cmを超える場合には、手術前から化学療法やホルモン遮断薬を開始することもあります。薬物療法はほとんどの患者でがんの再発を遅らせたり、予防したりする効果があり、一部の患者の生存期間を延ばします。

がんの遺伝物質を分析すると(予測遺伝子検査)、どのがんが化学療法やホルモン遮断薬に反応するかを予測するのに役立ちます。

乳がんがエストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体陽性かつHER2受容体陰性で、リンパ節転移もない女性の場合、化学療法は必要なく、ホルモン遮断薬による治療のみで十分な場合があります。

化学療法

化学療法は、がん細胞のように急速に増殖している細胞を殺したり、増殖を遅らせるために行われます。化学療法だけでは乳がんを完治させることはできません。手術や放射線療法と組み合わせる必要があります。化学療法薬は通常は静脈投与で、投与サイクルを何回か繰り返します。経口投与の場合もあります。1日投与したら2週間以上の回復期間をおく方法が典型的です。化学療法薬は単独で使用するよりも数種類を併用した方が効果的です。どの薬剤を使用するかは、近くのリンパ節からがん細胞が検出されたかどうかによってある程度決まります。

よく使用される薬剤には、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセルなどがあります(化学療法を参照)。

副作用(吐き気や嘔吐、脱毛、疲労など)は使用する薬剤によって異なります。化学療法薬は卵巣内にある卵細胞を破壊するため、不妊症や早期閉経の原因になる可能性があります。また化学療法によって骨髄での血球の増加が抑制されるために、貧血または出血を引き起こしたり、感染症のリスクが上昇します。そこで、骨髄を刺激して血球を増加させるために、フィルグラスチムやペグフィルグラスチムなどの薬剤が使用される場合があります。

ホルモン遮断薬

ホルモン遮断薬は、エストロゲンまたはプロゲステロンの作用を阻害することにより、エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体をもつがん細胞の増殖を抑えます。がん細胞にこれらの受容体がある場合に、ときに化学療法に代わってホルモン遮断薬が使用されます。ホルモン遮断薬によって得られる便益は、がん細胞の中にエストロゲンおよびプロゲステロンに対する受容体が両方ある場合に最も高く、エストロゲン受容体のみがある場合もほぼ同等です。プロゲステロン受容体のみがある場合には、便益は非常に低くなります。

ホルモン遮断薬には以下のものがあります。

  • タモキシフェン:タモキシフェンの内服薬は、選択的エストロゲン受容体モジュレーターの一種です。エストロゲン受容体に結合し、乳房組織の増殖を阻害します。エストロゲン受容体陽性のがんがある女性にタモキシフェンを5年間使用すると、生存率が約25%上昇します。10年間の治療ではさらに効果がある可能性があります。タモキシフェンはエストロゲンに関係があり、閉経後に行うエストロゲン療法の便益とリスクと同様の便益とリスクが一部みられます。例えば、反対側の乳房にがんが発生するリスクが低下します。タモキシフェンにより骨粗しょう症や骨折のリスクが低下する可能性があります。ただし、脚や肺に血栓が生じるリスクが高まります。また、子宮体がん(子宮内膜がん)が発生するリスクも高まります。タモキシフェンを服用中に少量の性器出血または性器出血があった場合には、主治医の診察を受ける必要があります。しかし、乳がん手術後の生存率向上という便益は、この子宮内膜がんの発生リスクを大幅に上回ります。タモキシフェンはエストロゲン療法とは異なり、閉経に伴う腟の乾燥やホットフラッシュ(ほてり)を悪化させることがあります。

  • アロマターゼ阻害薬:アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾールなどの薬剤はアロマターゼ(一部のホルモンをエストロゲンに転換させる酵素)の作用を阻害するため、エストロゲンの分泌量を減らす効果があります。閉経後女性には、タモキシフェンより効果があることもあります。アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンの代わりに投与するか、タモキシフェンでの治療が完了した後に投与します。アロマターゼ阻害薬は骨粗しょう症と骨折のリスクを上昇させることがあります。

モノクローナル抗体

モノクローナル抗体は、体の免疫系の一部を構成する天然の物質を人工的に複製したもの(またはやや修飾したもの)です。この薬剤はがんと闘う免疫系の能力を高めます。

非浸潤がん(0期)の治療

(表「タイプおよび病期別の乳がんの治療」も参照のこと。)

非浸潤性乳管がんの治療は通常、以下のいずれかになります。

  • 乳房切除術

  • 腫瘍とともに周辺の正常組織を広範囲に切除(乳房円状部分切除術)し、放射線療法を併用または非併用

非浸潤性乳管がんでは治療の一部としてホルモン遮断薬も投与される場合があります。

非浸潤性小葉がんの治療は通常、以下を含みます。

  • 古典型非浸潤性小葉がん:がんがないか調べるための外科的切除の後、がんが発見されなければ、注意深い経過観察および、ときに浸潤がんの発生リスクを軽減するためにタモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬

  • 多形型非浸潤性小葉がん:異常のある領域の外科的切除および、ときに浸潤がんの発生リスクを軽減するためにタモキシフェンまたはラロキシフェン

経過観察では、最初の5年間は身体診察を半年から1年に1回、以後は年1回行い、併せてマンモグラフィーを年1回行います。浸潤性の乳がんが発生する可能性はありますが、発生しても通常は増殖速度が遅く、多くの場合は効果的に治療できます。また、非浸潤性小葉がんの場合、浸潤性乳がんが反対側の乳房に生じる可能性も同程度にあり、そのリスクを排除するには左右の乳房を両方とも切除するしか方法がありません(両側乳房切除術)。一部の女性、特に浸潤性乳がんの発生リスクが高い女性では、この治療法を選ぶこともあります。

非浸潤性小葉がんの女性には多くの場合、ホルモン遮断薬であるタモキシフェンが5年間投与されます。これにより浸潤性乳がんの発生リスクは低下しますが、リスクを完全になくすことはできません。閉経後女性には代わりにラロキシフェンまたはときにアロマターゼ阻害薬が投与されることもあります。

トラスツズマブペルツズマブは抗HER2薬と呼ばれるモノクローナル抗体の一種です。これらはがん細胞に過剰な数のHER2がみられる場合にのみ、転移性乳がんに対して化学療法とともに使用されます。これらの薬剤には、HER2に結合することで、がん細胞の増殖を阻止する働きがあります。ときにこれら両方の薬剤が使用されます。トラスツズマブの投与は通常1年間です。どちらの薬剤によっても心筋が弱くなることがあります。そのため治療の間、心機能をモニタリングします。

早期浸潤がん(I期およびII期)の治療

乳房内にとどまっている乳がんでは、付近のリンパ節への広がりにかかわらず、ほとんどの場合、可能な限り腫瘍を切除する手術を行います。以下のいずれかが行われます。

  • 乳房温存術後、放射線療法

  • 乳房切除術単独または乳房切除術と乳房再建

最初の手術時に腋窩リンパ節郭清(わきの下から多くのリンパ節を切除する)またはセンチネルリンパ節生検(乳房に最も近い1つまたはいくつかのリンパ節を切除する)を行うことがあります。

手術前に化学療法が行われることもあります(術前化学療法)。腫瘍が胸壁に張り付いている場合、腫瘍の切除を可能にするために化学療法が役立ちます。化学療法は、乳がんが乳房の他の部分に比して大きい場合にも役立ちます。術前化学療法により、乳房温存術が選択できる可能性が高まります。腫瘍全体に加えて周囲の正常組織を切除しなければならないため、乳房温存術は腫瘍が大きすぎない場合にのみ実施します。腫瘍が大きくなると、腫瘍と周辺の正常組織を切除するだけでも、結局は乳房の大部分を切除することになります。

術前化学療法は、エストロゲン、プロゲステロン、およびHER2の受容体がある乳がん(トリプルネガティブ乳がんと呼ばれます)やHER2受容体のみがある乳がんの治療にも考慮されます。

手術後、腫瘍の分析に応じて、化学療法、ホルモン遮断薬、抗HER2薬、またはこれらの併用療法が行われる場合があります。

局所進行がん(III期)の治療

より多くのリンパ節に転移している乳がんでは、以下が行われる場合があります。

  • 手術前に、腫瘍を縮小させる薬剤(通常は化学療法)の投与

  • 手術前に薬剤を投与することで腫瘍の切除が可能になる場合は、乳房温存術または乳房切除術

  • 手術後、通常は放射線療法

  • 手術後、化学療法、ホルモン遮断薬、またはその両方

手術後に放射線療法および/または化学療法、あるいはその他の薬を使用するかどうかは、以下のような多くの要因によって決まります。

  • 腫瘍の大きさ

  • 閉経しているか

  • 腫瘍にホルモン受容体があるか

  • がん細胞が検出されたリンパ節の数

転移したがん(IV期)の治療

リンパ節を越えて転移した乳がんの場合、完治することはまれですが、ほとんどの人が2年以上生きることができ、なかには10~20年生きる人もいます。治療による延命効果はわずかですが、症状を軽減し生活の質を改善することはできます。しかし、治療には深刻な副作用を伴うものもあります。このため、治療を行うかどうかの決断や、どの治療を選択するかは極めて個人的な問題になります。

治療の選択は以下によって決まってきます。

  • がんにエストロゲンまたはプロゲステロンに対する受容体があるかどうか

  • がんが広がる前の寛解期間の長さ

  • がんが広がっている臓器および体内の部位(転移した部位)の数

  • 女性が閉経後であるか、まだ月経があるか

がんが症状(痛みやその他の不快感)を引き起こしている場合は、通常、化学療法またはホルモン遮断薬による治療が行われます。痛みは鎮痛薬で治療します。症状を軽減するために他の薬剤も使用することがあります。化学療法薬やホルモン遮断薬は、症状を軽減し生活の質を改善することを目的に使用されます。

がんに以下の特徴がみられる場合、ホルモン遮断薬による治療の方が化学療法よりも適しています。

  • エストロゲン受容体陽性のがんである。

  • 診断と初期治療から2年以上がんが再発していない。

  • がんにさし当たり生命を脅かす危険性がない。

以下のように状況によって使用するホルモン遮断薬を選択します。

  • タモキシフェン:女性にまだ月経がある場合、タモキシフェンがしばしば最初に使用されるホルモン遮断薬です。

  • アロマターゼ阻害薬:閉経後女性でエストロゲン受容体陽性乳がんの場合は、タモキシフェンよりもアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンなど)の方が初回治療として有効とみられています。

  • プロゲスチン:メドロキシプロゲステロンやメゲストロール(megestrol)などの薬剤は、アロマターゼ阻害薬やタモキシフェンの効果が得られなくなった後に使用されることがあります。

  • フルベストラント:タモキシフェンで効果が得られなくなった場合に、この薬剤が使用されることがあります。この薬剤はがん細胞のエストロゲン受容体を破壊します。

あるいは、まだ月経のある女性ではエストロゲンの生成を止めるために、卵巣の摘出手術、卵巣を破壊する放射線療法、卵巣の機能を阻害する薬物療法(ブセレリン、ゴセレリン、リュープロレリンなど)などを行うこともあります。これらの治療法はタモキシフェンと併用されることがあります。

トラスツズマブ(抗HER2薬と呼ばれるモノクローナル抗体の一種)は、HER2受容体が過剰に発現しているがんや全身に広がっているがんの治療に使用できます。トラスツズマブの単剤療法か、トラスツズマブと化学療法薬(パクリタキセルなど)、ホルモン遮断薬、またはペルツズマブ(別の抗HER2薬)との併用療法を用いることができます。トラスツズマブ+化学療法+ペルツズマブを併用することで、HER2受容体が過剰に発現している乳がんの増殖を遅らせ、トラスツズマブ+化学療法の併用よりも生存期間が長くなります。エストロゲン受容体陽性乳がんの治療にも、トラスツズマブとホルモン遮断薬を併用することができます。

別のタイプの抗HER薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(ラパチニブやネラチニブ[neratinib]など)は、HER2の活性を阻害します。HER2受容体が過剰に発現しているがんに対しては、このような薬の使用が増えてきています。

場合によっては、薬物療法の代わりに、あるいは薬物療法の前に放射線療法を行うことがあります。例えば、1カ所だけにがんが見つかり、それが骨である場合には、骨への放射線照射だけを行う場合があります。放射線療法は骨に転移したがんに最も効果的な治療法で、増殖を数年間にわたって抑制できることもあります。脳に転移したがんに対しても、多くの場合、放射線療法が最も効果的な治療法です。

体の別の部位(脳など)にできた単独の腫瘍を摘出する手術を行う場合もあります。このような手術を行うことで症状を軽減できます。症状の緩和に役立てるために乳房切除術(乳房の切除)が行われることがあります。しかし、他の部位にがんが転移していて、それを治療しコントロールできている場合には、乳房の切除が延命に役立つのかどうかは明らかではありません。

パミドロン酸やゾレドロン酸などのビスホスホネート系薬剤(骨粗しょう症の治療薬)を投与することで、骨の痛みや骨量減少が軽減し、骨への転移が原因で起こる骨の問題を予防したり、遅らせることができる場合もあります。

特殊なタイプの乳がんの治療

炎症性乳がんの治療では通常、化学療法と放射線療法を併用し、乳房切除術を行います。

乳頭パジェット病の治療は、他のタイプの乳がんの治療と同様です。ほとんどの場合、単純乳房切除術または乳房温存術とリンパ節の切除を行います。通常、乳房温存術後には放射線療法を行います。これよりまれですが、乳頭のみを周囲の正常組織とともに切除することもあります。別のタイプの乳がんも存在する場合、治療はそのがんのタイプに基づきます。

葉状腫瘍の治療は通常、腫瘍とともに、「十分なマージン」と呼ばれる広範囲にわたる周辺の正常組織(腫瘍の周囲の最低1センチメートル)を切除します。腫瘍が乳房の他の部分に比べて大きい場合は、腫瘍とマージンを十分に切除するために単純乳房切除術を行うこともあります。葉状腫瘍が再発するかどうかは、がんが認められないマージンの幅や、葉状腫瘍が良性か悪性かによって異なります。悪性の葉状腫瘍は、肺、骨、脳などの遠く離れた場所に転移することがあります。葉状腫瘍が転移した場合の治療に対する推奨は整備されてきていますが、放射線療法や化学療法が有用になる場合があります。

妊よう性の温存

乳がんの治療を受けている間、女性は妊娠してはいけません。

治療後に出産(妊よう性の温存)を希望する場合、治療を開始する前に生殖内分泌科医に紹介されます。そして、様々な化学療法薬が妊よう性に及ぼす影響や、治療後の出産を可能とする方法について知ることができます。

妊よう性を温存するための選択肢として、卵巣刺激法や卵子または胚の凍結による生殖補助医療などがあります。

妊よう性温存のための方法の選択は以下によって決まります。

  • 乳がんの種類

  • 計画されている乳がんの治療の種類

  • 患者の希望

生殖補助医療ではホルモン剤を使用します。医師はエストロゲンまたはプロゲステロン受容体陽性のがんのある女性とこれらの治療を受けることのリスクと便益について話し合います。

治療後のフォローアップ

治療の第1段階の完了後は、乳房、胸部、首、わきの下の診察を含むフォローアップの身体診察を通常は毎年受けます。定期的なマンモグラフィーと乳房自己検診も重要です。以下の症状がみられたら、速やかに主治医に報告する必要があります。

  • 乳房のしこりやそのほかの変化(どのようなものでも)

  • 乳頭や分泌物の変化

  • 痛み(腕や脊椎など)

  • わきの下の腫れ

  • 食欲不振や体重減少

  • 胸痛

  • 慢性的な乾いたせき

  • 性器出血(月経に関連しない場合)

  • 重度の頭痛

  • かすみ目

  • めまいまたは平衡感覚の障害

  • しびれまたは筋力低下

  • その他異常と思われる症状や長く続く症状

胸部X線検査、血液検査、骨シンチグラフィー、CT検査といった診断のために行う検査は、がんの再発を疑わせる症状がみられない限り行う必要はありません。

乳がんの治療はその後の生活に様々な影響を及ぼすことがあります。家族や友人、支援団体による援助が支えとなります。カウンセリングも役に立つことがあります。

終末期の問題

転移性乳がんの女性では、生活の質が損なわれたり、さらなる治療を行っても生存期間が延長する可能性が低い場合があります。最終的には、延命を試みるより、快適な状態を保つことの方が重要になる場合もあります。

がんの痛みは、適切な薬剤を使用することで十分にコントロールできます。痛みがある場合は、和らげるための治療を行うよう主治医に頼むべきです。また、治療を行えば、便秘、呼吸困難、吐き気などの煩わしい症状も緩和されます。

心理カウンセリングや、スピリチュアルカウンセリングなども利用するとよいでしょう。

転移性乳がんの女性は、医療に関する意思決定ができなくなった場合に備えて、自分自身がどのような治療やケアを望むかをまとめた事前指示書をあらかじめ用意しておくようにします。また、遺言書を作成したり見直したりすることも重要です。

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