乳がん

執筆者:Lydia Choi, MD, Karmanos Cancer Center
レビュー/改訂 2023年 10月 | 修正済み 2023年 12月
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やさしくわかる病気事典

乳がんは、乳房の細胞が異常をきたし、際限なく細胞分裂を繰り返すことで発生します。通常は、乳汁を作る乳腺(小葉)または乳腺から乳頭(乳首)へ乳汁を運ぶ乳管にがんが発生します。

  • 女性では、乳がんは最も一般的ながんの1つです。

  • 典型的には、最初に現れる症状は痛みのないしこりで、通常は患者が自分で気づきます。

  • 充実性のしこりが見つかった場合、医師は中空の針を使用して組織サンプルを採取するか、切開によりしこりの一部または全部を切除して、組織の顕微鏡検査を行います(生検)。

  • がんでは、ほぼ常に手術が必要になるほか、ときに放射線療法、化学療法、その他の薬剤、これらの併用療法も用いられます。

  • 予後はがんの種類、大きさ、広がりの程度などの要因によって異なります。

乳房の病気の概要も参照のこと。)

乳房の病気には、良性のもの(がんではない)もあれば、悪性(がん)のものもあります。大半が良性です。多くは治療を必要としません。一方、乳がんの場合は、乳房を失うことになったり、生命が脅かされたりすることもあります。しかし、以下を受けることで、多くの場合、潜在的な問題を早期に発見することができます。

  • 主治医による定期的な身体診察

  • 推奨に従ったマンモグラフィー

女性は自分の乳房の正常な外観と感触をよく把握しておくべきです。乳がんは男性にも発生することがあるため、男性は自分の乳頭やその周囲の変化に注意しておくべきです。女性が変化に気づいた場合は、乳房自己検診を行ってもよいでしょう。変化がみられた場合は、どのようなものでも直ちに医師に報告するべきです。大半の医療機関は、がんの有無を調べるための日常的な方法として乳房自己検診を毎月または毎週行うことを、もはや推奨していません。定期的にスクリーニングマンモグラフィーを受けている女性において、しこりやその他の変化がない状況で乳房自己検診を行っても、乳がんの早期発見にはつながりません。

乳がんの治療を成功させるには、早期の発見が極めて重要になる場合があります。

米国では、乳がんは女性で2番目に多いがんとなっています(最も多いのは皮膚がんです)。乳がんは、すべての女性で見ると、がんによる死亡原因の第2位ですが(最も多いのは肺がんです)、黒人の女性では、がんによる死亡原因の第1位となっています。黒人の女性は、乳がんで死亡する可能性が他のどの人種または民族の女性より高い一方、アジア系と太平洋諸島系の女性は、乳がんによる死亡率が最も低いです。(米国がん協会:乳がんに関する重要な統計[American Cancer Society: Key Statistics for Breast Cancer]も参照のこと。)

2023年には、米国の女性について以下の数字が推定されています。

2023年には、米国の男性で2800例の浸潤性乳がんが新たに発生し、それにより530例の死亡が発生すると推定されています。

乳がんの危険因子

乳がんの発生リスクに影響を与える要因は複数あります。したがって、リスクが平均を大幅に上回る女性もいれば、平均より低い女性もいます。年齢や特定の異常遺伝子など、リスクを増大させる要因の大半は変えることができません。例えば、8人に1人の女性が生涯に一度は乳がんを発症します。しかし、若年女性ではリスクが低いため、40歳の女性が10年以内に乳がんを発症する可能性はおよそ70分の1です。ただし、このリスクは年齢を重ねるにつれて上昇します。

定期的な運動によって、特に青年期から若年成人期に行った場合、乳がんの発生リスクが低下する可能性があります。

女性の健康へのリスクを最小限に抑える最も重要な方法は、乳がんの早期発見を常に心がけることで、そうすれば早期の診断と治療が可能になり、根治を得られる可能性が高くなります。マンモグラフィーを定期的に行うことで、乳がんを早期発見できる可能性が高くなります。

年齢

米国における乳がんの発生率は、65~74歳の女性で最も高くなっています。診断時の年齢の中央値は、全体で63歳ですが、黒人女性(60歳)では白人女性(63歳)と比較してわずかに低くなっています。

人種および民族

黒人女性は他の人種や民族の女性と比較して、乳がんによる死亡率が最も高いです。黒人、ヒスパニック系、アメリカンインディアン、およびアラスカ先住民の女性は、白人、アジア人、および太平洋諸島系の女性と比べて、診断時にすでに乳がんが転移している可能性が高いです。

乳がんの家族歴

乳がんを発症した第1度近親者(母親、姉妹、娘)がいる女性は、乳がんを発症するリスクが通常より2倍高いです。乳がんの第1度近親者が2人以上いる場合、リスクは3~4倍高くなります。しかし、より遠い近親者(祖母、叔母、またはいとこ)に乳がんの発症者がいる場合のリスクは、平均よりわずかに高いだけです。

乳がん遺伝子の変異

いくつかの遺伝子変異は乳がんのリスクを高めます。BRCA1変異とBRCA2変異は、1%未満の小数の女性にみられます。これらの変異は、アシュケナージ系ユダヤ人を祖先にもつ人に最もよくみられます。乳がんの女性のおよそ5~10%はこれらの遺伝子変異の1つをもっています。これらの遺伝子変異のうちいずれか1つを女性の場合、乳がんの生涯発生リスクは50~85%です。80歳までに乳がんを発症するリスクは、BRCA1変異のある場合は約72%、BRCA2変異のある場合では約69%です。しかしこのような女性が乳がんを発症した場合、乳がんのために死亡する確率は、他の乳がんの女性と比べて必ずしも高いというわけではありません。

BRCA変異がある場合、卵巣がんのリスクも高くなります。BRCA1遺伝子変異をもつ女性の卵巣がんの生涯発生リスクは約40%です。BRCA2遺伝子変異をもつ女性では、リスクは約15%です。

BRCA遺伝子変異をもつ男性では、乳がんの生涯発生リスクは1~2%です。

これらの変異のうち1つをもつ女性は、より頻繁に検査を受けるか、マンモグラフィーとMRI検査の両方を行うスクリーニングを受けることで、乳がんについてより綿密なモニタリングを行っていく必要があります。あるいは、タモキシフェンを使用したり、両側の乳房を切除したりする(両側乳房切除術と呼ばれます)ことで、がんの発症を予防する必要がある場合もあります。

乳がんの既往歴

乳がんを発症したことがある人は、新たに乳がんを発症するリスクが高いです。乳房切除術を受けて片側の乳房を切除した女性では、反対側の乳房にがんが発生するリスクが1年当たり約0.4%あります。

初潮、最初の妊娠、および閉経の年齢

月経が始まる年齢が平均より低いか、閉経が始まる年齢が平均より高いことは、乳がんの発生リスクを高めます。最初の妊娠年齢が高くなるほど、リスクが高くなります。

乳房の良性疾患

乳房に特定の変化がみられた女性では、乳がんのリスクがわずかに高くなると考えられています。具体的には以下のものがあります。

  • がんの可能性を否定するために生検が必要になるような乳房の変化

  • 複雑な線維腺腫、過形成(組織の異常増殖)、乳管または乳腺の異型過形成(異常な組織構造を伴う過形成)、硬化性腺症(乳腺組織の増殖)、乳頭腫(指状の突起がある良性腫瘍)など、乳房組織の構造を変化させたり、細胞の数を増加させたり、しこりなどの異常を引き起こしたりする病態

このような変化が認められる場合でも、生検で組織の構造の異常が見つかったり、乳がんの家族歴がなければ、乳がんのリスクはわずかに高くなるだけです。

高濃度乳房

スクリーニングマンモグラフィーでみられる高濃度乳房には、乳がんリスクの上昇との関連が認められています。また高濃度乳房があると、医師がマンモグラフィーで乳がんを特定するのが難しくなります。高濃度乳房であるということは、線維腺組織(線維性の結合組織と腺で構成される)が多く、脂肪組織が少ないことを意味します。

経口避妊薬(ピル)

経口避妊薬の使用が乳がんのリスクを高めるかどうかは不明です。現在または最近の使用者でリスクがわずかに上昇したことを明らかにした研究もあります。

ホルモン療法

閉経後数年、あるいはもっと長い期間にわたって併用ホルモン療法(エストロゲンとプロゲスチンの併用)を受けると、乳がんのリスクが高くなります。エストロゲン単独の使用が乳がんのリスクを上昇させるとは考えられていません。選択的エストロゲン受容体モジュレータ(ラロキシフェンなど)の使用は、乳がんの発生リスクを低下させます。

放射線曝露

45歳までの胸部への放射線曝露(がんに対する放射線療法など)はリスクを上昇させ、その上昇幅は10~14歳で曝露した人で最大になります。

食事

食事が乳がんの発生または増殖に関係している可能性はありますが、特定の食事(高脂肪食など)の影響を示した科学的根拠はありません(食事とがんも参照)。

肥満

閉経後に肥満になった女性では、乳がんの発生リスクがやや高くなります。

肥満とがんの関連性についての研究が進められています(米国国立がん研究所:肥満とがん発生リスクを関連付けるメカニズムの解明[the National Cancer Institute: Uncovering the Mechanisms Linking Obesity and Cancer Risk]も参照)。

喫煙および飲酒

喫煙と定期的な飲酒は乳がんのリスクを高める可能性があります。専門家は、女性はアルコール摂取を1日1ドリンクに制限することを推奨しています。ここでの1ドリンクとは、ビールなら約360ミリリットル、ワインなら約150ミリリットル、ウイスキーのようなさらにアルコール度数の高い酒類なら約45ミリリットルです。

乳がんの種類

乳がんは通常、以下により分類されます。

  • がんが最初に発生した組織の種類

  • がんが広がっている範囲

  • がん細胞に発現している受容体の種類

組織の種類

乳房には様々な種類の組織があります。がんは以下を含む、それらの組織の大半に発生します。

  • 乳管(乳管がん)

  • 乳腺小葉(小葉がん)

  • 脂肪または結合組織(肉腫と呼ばれます):このタイプはまれです。

乳管がんは乳がん全体の約90%を占めます。

乳房パジェット病は、乳頭とその周辺の皮膚を侵す乳管がんです。最初の症状は、乳頭がただれてかさぶた状やうろこ状になる、乳頭から分泌物が出るなどです。このがんのある女性の約半数では、乳房に触知できるしこりもみられます。乳頭パジェット病の女性は他のタイプの乳がんにもかかっている場合があり、これらのがんは触知できませんが、ほかにがんがないか調べるための画像検査(マンモグラフィー、MRI検査、超音波検査など)では確認できる可能性があります。不快感をほとんど生じないため、症状に気づいてからもなかなか医師の診察を受けず、1年以上放置してしまう人もいます。予後(経過の見通し)はがんの大きさ、周囲組織への浸潤度、リンパ節転移の有無によって決まります。

乳房の葉状腫瘍は比較的まれで、乳がん全体に占める割合は1%未満です。約10~25%が悪性(がん)です。乳管および乳腺の周囲にある乳房組織から発生します。腫瘍の他の部位への広がり(転移)は、約10~20%の患者でみられます。乳房への再発は、約20~35%の患者でみられます。腫瘍が転移していない限り、予後は良好です。

広がりの程度

乳がんは乳房内にとどまることもあれば、リンパ管や血流を介して体内の別の部位に転移することもあります。がん細胞は乳房内のリンパ管から移動する傾向があります。乳房のリンパ管はほとんどがわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)へ流れ込みます。リンパ節の機能の1つは、がん細胞などの異常細胞や外来細胞をろ過して捕らえ、破壊することです。がん細胞がこうしたリンパ節を通過してしまうと、体内の別の部位に転移する可能性があります。

乳がんは骨、脳、肺、肝臓、皮膚に広がる(転移する)傾向がありますが、どの部位にも転移する可能性があります。頭皮に広がることはまれです。乳がんが最初に診断されて治療を受けてから、数年後から数十年後にもなって初めて、これらの部位にがんの転移が見つかることもあります。ある部位でがんの転移が発見された場合には、その時点では検出されないとしても、おそらくは他の部位にも転移していると考えられます。

乳がんは以下に分類されます。

  • 非浸潤がん

  • 浸潤がん

非浸潤がんは、局所にとどまっているがんです。乳がんの最も初期の段階です。がんが大きい場合や、乳房内の大部分を占めるほど増大する場合もありますが、周囲の組織への浸潤や他の部位への転移はありません。

非浸潤性乳管がんは乳管内に限局したがんです。このがんは周囲の乳房組織には浸潤していませんが、乳管に沿って広がり、乳房内でかなり大きくなることもあります。このタイプは非浸潤がんの85%、乳がんの少なくとも半数を占めています。ほとんどの場合、マンモグラフィーで発見されます。浸潤がんになることもあります。

非浸潤性小葉がんは乳腺の内部(小葉)で発生します。両側の乳房の複数の部位に生じることもよくあります。非浸潤性小葉がんの女性では、罹患している乳房または反対側の乳房に浸潤がんが発生する確率は1年間で1~2%です。通常、非浸潤性小葉がんはマンモグラフィーでは発見できず、生検によってのみ発見されます。非浸潤性小葉がんには、古典型と多形型の2種類があります。古典型は浸潤性ではありませんが、発症している場合は、左右どちらの乳房においても浸潤がんが発生するリスクが高くなります。多形型は浸潤がんに進行します。発見されれば手術により切除します。

浸潤がんは以下のように分類されます。

  • 限局性のがん:乳房内にとどまっているがん

  • 周囲に広がったがん:胸壁やリンパ節など乳房付近の組織にも浸潤しているがん

  • 遠隔転移したがん:乳房から他の部位に転移したがん

浸潤性乳管がんは乳管内で発生しますが、管壁を越えて周囲の乳腺組織に浸潤したがんです。乳房以外の部位にも転移することがあります。このがんは浸潤性乳がんの約75%を占めています。

浸潤性小葉がんは乳腺内で発生して周囲の乳房組織に浸潤し、さらに乳房以外の部位にも広がります。他のタイプの乳がんと比べて、両側の乳房に発生する可能性が高くなります。このがんは残りの浸潤性乳がんのほとんどを占めています。

まれな浸潤性乳がんとして以下があります。

  • 髄様がん

  • 管状がん

  • 化生がん

  • 粘液がん

典型的には予後不良となるまれなタイプとして、化生性乳がんや炎症性乳がんなどがあります。通常は予後良好となるまれなタイプとして、髄様がん、粘液がん、篩状がん、管状がんなどがあります。粘液がんは、高齢の女性に発生しやすく、ゆっくりと増殖する傾向があります。

腫瘍の受容体

乳がんの細胞も含め、あらゆる細胞の表面には受容体と呼ばれる分子があります。受容体には特定の物質だけが結合できる構造をもった部分があり、ここにその物質が結合することで細胞の活動に影響を及ぼします。乳がん細胞が特定の受容体をもつかどうかが、転移の速さや治療法に影響します。

腫瘍の受容体には以下のものがあります。

  • エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体:乳がん細胞の中にはエストロゲンに対する受容体をもつものがあります。エストロゲン受容体陽性のがんは、エストロゲンによって刺激されると増殖または転移します。女性の乳がんは、閉経後では約80%、閉経前では20%がエストロゲン受容体陽性です。一部の乳がん細胞はプロゲステロンに対する受容体をもっています。プロゲステロン受容体陽性のがんは、プロゲステロンによって刺激されます。乳がん全体の約70%がプロゲステロン受容体陽性です。エストロゲン受容体が陽性の乳がん、そして可能性としてはプロゲステロン受容体が陽性の乳がんも、陰性の乳がんよりも増殖が遅く、予後も良好です。(エストロゲンとプロゲステロンは女性ホルモンです。)

  • HER2(HER2/neuとも呼ばれます):正常な乳腺細胞には、その増殖を助けるHER2という受容体があります。(HERは、ヒト上皮成長因子受容体[human epithelial growth factor receptor]の略称で、この分子は細胞の増殖、生存、分化に関係しています。)乳がん全体の約15%にはHER2が過剰に認められます。このようながんは非常に速く増殖する傾向があります。

その他の特徴

がんはその他の特徴に基づいて分類されることもあります。

炎症性乳がんはその一例です。この名称は、がんが発生した組織ではなくがんの症状を指します。炎症性乳がんは増殖が速く特に侵攻性で、多くの場合、致死的です。がん細胞が乳房の皮膚のリンパ管を閉塞させるため、乳房が炎症を起こしたように赤く腫れて熱をもちます。通常、炎症性乳がんはわきの下のリンパ節に転移します。リンパ節に触れると硬いしこりが感じられます。ただし、このがんは乳房全体に分布するため、しばしば乳房自体にはしこりを触知しません。炎症性乳がんは乳がんのおよそ1%を占めています。

乳がんの症状

通常、乳がんは最初のうちは無症状です。発見に至る経緯としては、痛みのない乳房のしこりを女性自身(または医療専門職)が発見するのが最も一般的です。

一部の乳がん患者で乳房痛がみられますが、乳房痛には多くの原因があり、通常は女性に乳がんがあることを意味しません。痛みだけでしこりがない場合には、がんであることはめったにありません。

血の混じった乳頭分泌物が、特に両側ではなく片側の乳房のみからみられる場合は、乳がんの症状の1つである可能性があります。

数日たっても消失しない乳房のしこりがある場合や血の混じった乳頭分泌物がみられる場合は、医療専門職に乳房のしこりを評価してもらうべきです。

乳房のしこりは通常、触れたときの感触が周囲の乳腺組織と明らかに異なります。悪性の可能性がある乳房のしこりは、しばしば硬く厚くなっていて、片方の乳房だけにみられます。しかし、良性のしこり(線維腺腫など)にも同じ特徴がみられることがあります。通常、しこりのようなものが散在している場合、特に乳房の外側上部にある場合は、がんではなく線維嚢胞性変化を示唆しています。

早期がんでは、しこりを指で押すと皮膚の下で自由に動くことがあります。

進行すると、通常はしこりが胸壁や皮膚に付着するようになります。癒着を起こしたしこりはまったく動かなくなったり、皮膚と一緒であれば動いたりするようになります。鏡の前に立って腕を頭上に上げることで、しこりが周囲の組織に付着しているかどうかを確認できます。胸壁や皮膚に付着したしこりが乳房内にあると、この動作を行うことで皮膚にしわやくぼみができたり、片方の乳房がもう一方の乳房と違って見えることがあります。

非常に進行したがんでは皮膚表面にしこりが突出したり、化膿したようなただれができることがあります。しこりの上の皮膚はへこみができて革のようになり、質感(色以外)がミカンの皮のような状態(橙皮状)になることもあります。

がんが広がっている場合、わきの下(特に乳がんがある側)のリンパ節が硬く小さなしこりとして触れることがあります。複数のリンパ節が融合したり、皮膚や胸壁に付着したりしていることもあります。リンパ節自体は痛みませんが、軽い圧痛がみられることはあります。わきの下のリンパ節の腫れは、感染症など良性の病気によっても生じることがあります。

ときに、がんが他の臓器に転移して初めて最初の症状が現れることもあります。例えば、乳がんが骨に転移すると、骨が痛んだり弱くなったりする結果、骨折が起こることがあります。がんが肺に転移すると、せきや呼吸困難が起こることがあります。

乳房パジェット病では、乳頭がただれて、かさぶた状やうろこ状になったり、乳頭から分泌物が出たりすることが最初の症状になります。これらの変化は特に害がないように見えることもあるため、患者が医師の診察を受ける必要はないと判断することがあります。このがんの患者の多くでは、乳房にしこりもみられます。

炎症性乳がんでは、乳房が赤く腫れて熱をもち、まるで感染を起こしたような状態になります(実際に感染しているわけではありません)。皮膚は毛穴がへこんで革のようになり、ミカンの皮のような状態になったり、すじ状の隆起が生じることがあります。乳頭が陥没することもあります。乳頭からの分泌物もよくみられる症状です。多くの場合、乳房にしこりは認められませんが、乳房全体が大きくなります。

乳がんの診断

  • マンモグラフィーやその他の画像検査(乳房トモシンセシス、超音波検査、MRI検査)または乳房視触診による最初の検出

  • 生検

症状、医療専門職による乳房診察、またはスクリーニングマンモグラフィーの結果から、乳がんを診断するための評価が必要と判断されることがあります。

乳がんに関する評価には、いくつかの画像検査を用いることができます。最初に行う画像検査の種類は、症状と身体診察の結果や、ときにその他の要因によって異なります。

スクリーニングマンモグラフィー(またはMRI検査)でがんを示唆する所見が認められた場合は、通常は次に生検を行います。乳がんのリスクが高い一部の女性には、マンモグラフィーとMRI検査の両方によるスクリーニングを行います。

乳房の症状や変化(しこり、乳房分泌物、圧痛など)のために医師の診察を受けた際に、身体診察で変化が認められた場合は、通常はまず超音波検査を行って、乳腺嚢胞(液体で満たされた袋状の病変)と充実性のしこりとを区別します。嚢胞は通常は悪性(がん)ではないため、両者の判別は重要です。超音波検査の結果で異常がみられるか、結論が出ない場合は、フォローアップとしてマンモグラフィーを行います。

マンモグラフィーによる定期的なスクリーニングで検出される異常のうち、がんであるのはわずか10~15%程度です。

たとえ画像検査で陰性と判定されても、しこりや他の所見からがんが示唆される場合には、生検を行います。

乳房生検

がんが示唆されるすべての異常に対し、生検が行われます。

医師は以下のタイプの生検のうち1つを行います。

  • コア針生検:先端が特殊な中空の太い針を使用して、乳房組織のサンプルを採取します。

  • 直視下(外科的)生検:医師が皮膚および乳房組織を小さく切開し、しこりの一部または全部を切除します。このタイプの生検は、針生検ができない場合に行われます。針生検でがんが検出されなかった後に、針生検でがんを見逃していないことを確かめるために行われる場合もあります。

医師が生検の針を刺す位置を決めるため、生検の際にはしばしば画像検査が行われます。

生検のガイドとして画像検査を行うこともあります。これにより、コア生検の精度が向上します。例えば腫瘤(触知できるかマンモグラフィーで示されるかは問わず)に対しては、異常組織を正確に標的とするため、コア針生検の際に超音波検査を用います。生検の際に画像ガイドを用いて針を刺す場合、その位置にマーク付けるため、クリップが一般に使用されます。

MRI検査でのみ異常が認められる場合は、MRI画像を頼りに位置を確認しながら生検の針を進めます。

定位コア生検は画像ガイド下生検の一種です。乳房に異常なパターンの小さなカルシウム沈着(微小石灰化と呼ばれます)がみられる場合に有用です。このタイプの生検は医師が異常組織の位置を正確にとらえてサンプルを採取するのに役立ちます。定位生検では、医師は2つの角度からマンモグラフィーを撮影し、それらの2次元画像をコンピュータに送ります。コンピュータが画像を比較して異常組織の正確な位置を3次元で計算します。異常な微小石灰化のみられるサンプルを確実に採取できるよう、定位コア針生検で採取する乳房組織をX線撮影します。

ほとんどの場合、これらの検査のために入院する必要はありません。通常は、局所麻酔のみで行われます。

生検では、採取した組織を病理医(生検組織を調べる専門医)が顕微鏡で観察して、がん細胞の有無を判断します。

がん診断後の評価

がんと診断された場合は、外科医、腫瘍内科医(化学療法の専門医)、放射線腫瘍医など、がん専門医(腫瘍医)の診察を受けることになります。これらの医師が、行うべき検査について決定し、治療を計画します。

がん細胞が検出された場合、生検サンプルを分析し、以下のようながん細胞の特徴を調べます。

  • 乳がん細胞の中にホルモン(エストロゲンまたはプロゲステロン)に対する受容体があるかどうか

  • HER2の数

  • がん細胞の分裂速度

  • 一部の種類の乳がんについては、がん細胞の遺伝子検査(多遺伝子パネル検査)

これらの情報は、がんが広がる速さや、どの治療法がより有効になりそうかを医師が推定するのに役立ちます。

乳がんと診断された後、以下の検査を行う場合があります。

  • がんの広がりの有無を調べるための胸部X線

  • 血算、肝臓の検査、カルシウム濃度の測定を含む血液検査(これもがんの広がり有無を調べるため)

  • 乳がんのリスクを高める遺伝子(BRCA遺伝子など)を受け継いでいる危険因子がある場合は、これらの遺伝子がないか確認するための血液または唾液の分析

  • ときに骨シンチグラフィー(全身の骨の画像検査)、腹部と胸部のCT検査、およびMRI検査

  • ときにがん細胞が分泌する物質(腫瘍マーカー)を測定する血液検査

米国のNCCN(National Comprehensive Cancer Network)は、乳がんになったことがある女性の一部を対象として、乳がんの可能性を高める遺伝子変異を受け継いでいるかどうかを検査で確認するよう推奨しています。一部の専門家は医師に、すべての乳がん患者に遺伝子検査を勧めるよう推奨しています。遺伝子検査では、医師は患者に遺伝カウンセラーを紹介する場合があり、遺伝カウンセラーは詳細な家族歴(がんにかかったことのあるすべての近親者を含む)を記録し、最も適切な検査を選択し、結果の解釈を助けることができます。

乳がんの病期診断

がんと診断された場合は、病期を決定します。病期は0からIVまでの数字で示され(下位分類が文字で示されることもあります)、がんの程度と進行度を反映しています。

  • 非浸潤性乳管がんなどの非浸潤性乳がんは0期に分類されます。非浸潤性とは、局所にとどまっているがんを意味します。周囲の組織に浸潤したり、体の別の部位に広がったり(転移)していないがんのことです。

  • 乳房内または乳房付近の組織に広がったがん(限局性乳がんまたは所属リンパ節転移を起こした乳がん)はI~III期に分類されます。

  • 転移性乳がん(乳房とわきの下のリンパ節から体の他の部位に転移したがん)はIV期に分類されます。

がんの病期診断は、医師が適切な治療法を決定し、予後を予測する上で役立ちます。

乳がんの病期の決定には、以下のような多くの要素が関係します。

  • がんの大きさ

  • がんのリンパ節転移の有無

  • 肺や脳などの他の器官にがんが広がっている(転移している)かどうか

その他の重要な病期診断の要素としては、以下のものがあります。

  • グレード:顕微鏡下でのがん細胞の異常の程度、1~3で示される

  • ホルモン受容体の状態:がん細胞の中にエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2があるかどうか

  • がんの遺伝子検査(Oncotype DX検査など):一部の乳がんで、がんにどの異常遺伝子がいくつ存在するか

すべてのがん細胞は異常にみえますが、そのなかでも一部のがん細胞は他のがん細胞よりもさらに異常にみえるため、グレードは一様ではありません。がん細胞が正常な細胞と大きく異なっていないようにみえる場合、がんは高分化型とみなされます。がん細胞が極めて異常に見える場合、それらは未分化型または低分化型であるとみなされます。高分化型のがんは、未分化型または低分化型のがんよりもゆっくりと成長し、広がる傾向があります。顕微鏡下で観察されたこのような違いに基づいて、医師はほとんどのがんのグレードを決定します。

がん細胞内に存在するホルモン受容体遺伝子変異が、がんが様々な治療にどのように反応するか、また予後がどうなるかに影響します。

乳がんの治療

  • 手術

  • 放射線療法

  • 全身化学療法

  • ホルモン遮断薬(ホルモンに作用する薬剤)

乳がんの治療は、患者の病状が十分に評価された後に開始されます。

治療の方法は乳がんの病期と種類、がんがもつ受容体によって異なります。がんの種類によって増殖の速さ、転移のしやすさ、様々な治療に対する反応などの特徴が大きく異なるため、治療方法は複雑です。また、乳がんには未解明の部分が多くあります。結果として、ある患者への最適な治療法について医師の間でも意見が分かれることがあります。

患者と主治医の考え方が治療上の意思決定(共同での意思決定)に影響を及ぼします。患者は、乳がんに関してどんな事実が判明しているか、未解明のことは何か、また選択可能な治療法としてどのような方法があるかを、はっきりと分かりやすく説明してもらうべきです。そうすれば、様々な治療法の利点と欠点を考慮したり、勧められた治療法を受け入れる、あるいは断ることができるようになります。

医師はときに、乳がん患者に、新しい治療法の研究への参加を求めることもあります。新しい治療法は、生存率や生活の質を改善することを目的としています。研究への参加にはどのようなリスクが伴い、どのような有益性が期待できるのか、主治医によく説明を聞き、十分に情報を得た上で参加するかどうかを決定すべきです。

乳がんの治療では通常手術が行われ、放射線療法や化学療法またはホルモン遮断薬による治療などもしばしば行われます。ときに、手術で片側または両側の乳房を切除するか、また乳房の一部あるいは全部を切除するかどうかを患者が選択できる場合もあります。手術では、がんの切除と乳房再建を同じ手術で行うことができる形成外科または再建外科医に紹介される場合があります。

手術

手術では悪性腫瘍(がん)といくらかの周辺組織を切除します。腫瘍の切除には主に2つの選択肢があります。

  • 乳房温存手術と放射線療法の併用療法

  • 乳房切除術

浸潤がん(I期以上)では、乳房温存手術で腫瘍全体を切除できさえすれば、乳房温存手術と放射線療法の併用療法より乳房切除術の方が有効だとはいえません。乳房温存手術では、腫瘍に加え、がんを含む可能性がある組織が残るリスクを抑えるために周囲の正常な組織の一部も切除します。

腫瘍を切除する前に、腫瘍を縮小させるために化学療法を行うこともあります。この方法を用いれば、乳房切除術ではなく乳房温存手術が選択できるようになる場合もあります。

乳房温存手術

乳房温存手術では、乳房のできるだけ多くの部分をそのまま残します。手術の種類を検討する際、医師にとって重要なのは、がんを含む組織を残すリスクを冒さず、がんをすべて確実に切除することです。

乳房温存手術では、医師はまず、腫瘍の大きさおよび切除が必要な周囲の組織の範囲(断端と呼ばれます)を判断します。断端の大きさは、乳房に対する腫瘍の大きさに基づきます。手術により断端とともに腫瘍を切除します。断端の組織は顕微鏡で検査し、腫瘍の外に広がったがん細胞がないか調べます。このような所見は、さらなる治療が必要かどうかを医師が決定するのに役立ちます。

切除する乳房組織の範囲を説明するのに、様々な用語(例えば、腫瘤摘出術、乳房円状部分切除術、乳房扇状部分切除術)が用いられます。

乳房温存手術では、通常は術後に放射線療法を行います。

乳房温存手術の主な利点は、乳房組織の温存および術後の乳房の外観が保たれる可能性があることです。乳房に対して腫瘍が大きい場合には、このタイプの手術はあまり有用ではないと考えられます。このような例では、腫瘍と周辺の正常組織を切除するだけでも、結局は乳房の大部分を切除することになります。乳房温存手術は腫瘍が小さい場合により適しています。乳房温存手術を受ける女性の約15%では周辺組織の切除範囲が少なくて済むため、治療していない乳房と比べても形や大きさにほとんど違いが生じません。しかし、大部分の女性では治療した乳房がいくぶん縮むため、形が変わる可能性があります。

乳房温存手術または乳房切除術のいずれかが選択肢である場合、女性はそれぞれの選択肢を考慮すべきです。乳房を失うことが精神的経験としても身体的経験としても非常に辛いものであると感じ、乳房温存手術であれば自分の体に対するイメージ(身体像)を保てると感じることから、乳房温存手術を好む女性もいます。一方で、乳房組織をすべて切除した方がより安心だと感じたり、乳房切除術を施行すれば放射線療法を受ける必要がなくなる可能性があるという理由から、乳房切除術を希望する女性もいます。

腫瘍を切除する前に腫瘍を縮小させるために化学療法を行うことで、乳房切除術ではなく乳房温存手術が選択できるようになる場合もあります。

乳房切除術

もう1つの手術の主な選択肢として乳房切除術があります。乳房切除術にはいくつかの種類があります。どの種類でも乳房の組織はすべて切除しますが、切除する他の組織、およびそれをどの程度切除するか、あるいは残すかの程度が異なります。

  • 皮下乳腺全摘術では、乳房の下の筋肉と傷を覆うだけの皮膚を残します。これらの組織を残すことで、乳房の再建が非常に容易になります。わきの下のリンパ節は切除しません。

  • 乳頭乳輪温存乳房切除術は皮下乳腺全摘術と同様であり、加えて乳頭と乳頭の周囲の色素に富んだ皮膚(乳輪)を温存します。

  • 単純乳房切除術では、乳房の下の筋肉(胸筋)およびわきの下のリンパ節を残します。

  • 非定型的乳房切除術では、わきの下のリンパ節の一部を切除しますが、乳房の下の筋肉は残します。

  • 定型的乳房切除術では、わきの下のリンパ節、乳房の下の筋肉をすべて切除します。この方法は乳房の下の筋肉にがんが浸潤していない限り、現在ではほとんど行われません。

リンパ節の評価

医師はリンパ節を評価し、がんのわきの下のリンパ節への転移を判断します。リンパ節内でがんが検出された場合は、他の部位にも転移している可能性が高くなります。この場合、異なる治療が必要になることがあります。

乳腺組織(や体の他の部位)からのリンパ液は、リンパ管とリンパ節のネットワーク(リンパ系)を通じて排出されます。リンパ液に含まれている可能性のある異物や異常細胞(細菌やがん細胞など)はリンパ節で捕らえられます。したがって、乳がん細胞はわきの下などの乳房付近のリンパ節に行き着くことがよくあります。通常は、その際に外来細胞や異常な細胞が破壊されます。しかし、ときにがん細胞はリンパ節内で成長し続けるか、またはリンパ節を通り抜けてリンパ管に入り、体内の他の部位に転移することがあります。

医師はまず、わきの下を触診して、リンパ節の腫れがないか調べます。所見によって、以下の1つ以上を行うことがあります。

  • 超音波検査で腫大しているリンパ節がないか調べる

  • 生検(リンパ節を切除するか超音波の画像で針の位置を確認しながら針で組織サンプルを採取する)

  • 腋窩リンパ節郭清:わきの下の多くのリンパ節(一般的に10~20)を切除する

  • センチネルリンパ節郭清術:がんが転移している可能性の高いリンパ節(1つまたは複数)だけを切除する

医師がわきの下のリンパ節腫大を触知した場合やリンパ節が腫れているか分からない場合には、超音波検査を行います。リンパ節の腫れが見つかれば針を挿入し、組織のサンプルを採取して検査します(穿刺吸引細胞診またはコア針生検)。超音波の画像を見ながら、針を目的の位置まで進めます。

生検でがんが検出されれば、手術によりわきの下のリンパ節の切除(腋窩リンパ節郭清)が必要となる可能性があります。わきの下からリンパ節を多数切除することは、たとえリンパ節にがんがあったとしても、がんの治癒には役立ちません。しかし、医師が治療法を決定するのには役立ちます。手術前に化学療法(術前化学療法と呼ばれます)を行った後、腋窩リンパ節を再評価します。

超音波検査後の生検でがんが見つからないときには、センチネルリンパ節生検が行われますが、これは生検サンプルにがん細胞が含まれていなくても、リンパ節の他の部分にがん細胞が存在する可能性があるためです。センチネルリンパ節生検は通常、腫瘤摘出術や乳房切除術など、がんの切除を目的とする手術の一環として行われます。これにより医師は、乳がんに関連する最も重要なリンパ節を特定して調べることができます。そのリンパ節ががんでなければ、すべての腋窩リンパ節を切除するためのさらなる広範囲にわたる手術は必要ありません。

センチネルリンパ節生検では、青い色素や放射性物質を乳房に注入します。これらの物質が通過する経路により、乳房から最初にたどり着くわきの下のリンパ節(複数の場合もあります)を特定できます。それからわきの下を小さく切開し、青色をしているか、放射線(手持ち式の装置で検出)を発しているリンパ節を探します。このリンパ節が、がんが転移した可能性が最も高いもので、がんの広がりを最初に警告するリンパ節であることから、センチネルリンパ節と呼ばれます(「センチネル」とは見張りという意味です)。医師はこのリンパ節を切除し、検査室に送ってがんがないかを調べます。複数のリンパ節が青色をしているか、放射線を発していることがあり、この場合は複数のリンパ節がセンチネルリンパ節とみなされる可能性があります。

センチネルリンパ節にがん細胞が検出されなかった場合は、それ以上リンパ節を切除することはありません。

センチネルリンパ節にがんがあれば、以下のような要因によっては腋窩リンパ節郭清が行われることがあります。

  • 乳房切除術の計画があるかどうか

  • センチネルリンパ節がいくつあるか、またがんがそれらの外に広がっているかどうか

ときに腫瘍の切除手術中に、がんがリンパ節に広がっており、腋窩リンパ節郭清が必要であることが判明する場合があります。患者は手術の前に、もしがんがリンパ節に転移していれば、外科医がより広範囲にわたる手術を行ってもよいかを尋ねられるかもしれません。そうでなければ、必要であれば後から2回目の手術が行われます。

リンパ節を切除すると組織内の水分の排出に影響を与えるため、多くの場合、問題が起こります。腕や手に水分がたまって慢性的なむくみを生じることがあります(リンパ浮腫)。手術後、リンパ浮腫が発生するリスクは生涯続きます。腕や肩の動きが制限されることもあり、理学療法が必要になります。切除するリンパ節の数が多いほど、リンパ浮腫がひどくなります。センチネルリンパ節生検では腋窩リンパ節郭清よりもリンパ浮腫が生じにくくなります。

リンパ浮腫は特別な訓練を受けた療法士が治療します。療法士から、たまった液体の排出をうながすマッサージの方法や、液体が再びたまらないよう包帯を巻く方法を教えてもらいます。浮腫が生じている腕は、重い物を持ち上げるときは浮腫がないほうの腕を使う以外は、できる限り普段通りに使うようにします。指導通りに毎日、浮腫が生じている腕の運動を行い、夜はずっと包帯を巻くようにします。

リンパ節が切除された患者には、普段の診療で医療従事者に対し、切除した側の腕の静脈にはカテーテルや針を入れないように、また、切除した側の腕では血圧を測定しないように頼むよう助言されることがあります。これらの手技により、リンパ浮腫が生じやすくなったり、悪化したりする可能性が高くなります。また、手術した側の手や腕を引っかいたりけがをしたりする可能性のある仕事をするときには、常に手袋をつけることも勧められます。けがおよび感染を避けることは、リンパ浮腫の発生リスク低下に役立ちます。

リンパ節切除後に起こりうる他の問題として、一時的あるいは慢性的なしびれ、慢性的な灼熱感、感染症などがみられることもあります。

センチネルリンパ節とは

乳腺組織からのリンパ液は、リンパ管とリンパ節のネットワークを通じて排出されます。リンパ節はリンパ液に含まれている異物や異常細胞(細菌やがん細胞など)を捕らえる働きをしています。ときに、がん細胞がリンパ節を通り抜けてリンパ管に入り、体内の他の部位に転移することがあります。

乳腺組織からのリンパ液はやがては多くのリンパ節にたどり着きますが、最初に流れ込むのは通常1つか数個の近くのリンパ節です。これらのリンパ節は、がんの広がりを最初に警告するリンパ節であることから、センチネルリンパ節と呼ばれます(「センチネル」とは見張りという意味です)。

乳房再建術

乳房再建術は乳房切除術と同時に行われることも、後から行われることもあります。

乳房再建術を計画するために、患者は治療中の早い時期に形成外科医に相談すべきです。再建を行う時期は患者の希望だけでなく、ほかに必要な治療によっても決まってきます。例えば再建術の前に放射線療法が行われる場合、再建術の選択肢は限られます。乳房オンコプラスティックサージャリー(がん[腫瘍]の手術と形成手術を組み合わせた手術)も選択肢の1つです。このタイプの手術は、乳房からがんをすべて切除し、乳房の自然な外観を維持または再建するためのものです。

ほとんどの場合、手術は以下により行われます。

  • インプラント(シリコンまたは生理食塩水でできている)の挿入

  • 患者の体の別の部位から採取した組織を使用した乳房の再建

外科医はしばしば下腹部の筋肉から乳房再建のための組織を採取します。あるいは、下腹部の皮膚と脂肪組織(筋肉ではなく)を用いて乳房を再建することもできます。

インプラントの挿入前に、医師はティッシュ・エキスパンダーを使用します。これは風船のようなもので、残っている胸の皮膚と筋肉を伸ばし、乳房インプラントのためのスペースを作ります。ティッシュ・エキスパンダーは乳房切除術中に胸筋の下に入れます。エキスパンダーには、皮膚の上から針を刺すことでアクセスできる小さな弁が付いています。入れてからの数週間、生理食塩水をこの弁から定期的に注入し、エキスパンダーを一度に少しずつ拡張していきます。拡張が完了すると、手術によりエキスパンダーを取り出し、インプラントを挿入します。

ほかには、患者の体の他の部分の組織(皮膚の下の筋肉や組織など)を再建に使用することもできます。これらの組織は、腹部、背中、殿部などから採取し、乳房を形づくるように胸部に移植します。

乳頭と周囲の皮膚は通常、後で行われる別の手術で再建されます。様々な手法が用いられます。例えば体の他の部位の組織や刺青が使用されます。

左右の乳房が釣り合うように反対側の乳房に何らかの手術を施す(豊胸、縮小、挙上)こともあります。

乳房の再建

外科医が乳がんと乳腺組織の切除(乳房切除術)を終えた後に、形成外科医が乳房を再建します。シリコンか生理食塩水の入った乳房インプラントが使用されます。より複雑な手術になりますが、腹部、殿部あるいは背中など体の別の部分から組織を移植する場合があります。

乳房再建を乳房切除術と同時に行う場合は麻酔時間が長くなり、後から行う場合は麻酔を再びかけることになります。

乳頭と周辺組織の再建は後で、しばしば診療所の外来で行われます。全身麻酔は必要ありません。

一般に、放射線療法で治療した乳房よりも再建した乳房の方が見た目には自然で、腫瘍が大きかった場合には特にその傾向があります。

シリコンや生理食塩水の入ったインプラントを使用し、残された皮膚で表面を十分に覆うことができる場合は、インプラント上の皮膚の感覚は比較的正常に保たれます。ただし、どちらのインプラントも触れたときの感覚は乳房とは異なります。体の他の部分から採取された皮膚で乳房を覆う場合は、感覚がかなり失われます。しかし、体の他の部位から採取された組織を用いれば、シリコンまたは生理食塩水の入った乳房インプラントよりも乳房組織に近い感触が得られます。

シリコンのインプラントではときに、中身のシリコンが漏れ出すことがあります。その結果、インプラントが硬くなって不快感を生じたり、外観が損なわれることがあります。また、シリコンが血流に入ることもあります。

漏れ出したシリコンによって体の他の部位にがんが発生したり、全身性エリテマトーデスなどのまれな病気にかかるのではないかと心配する人もいます。シリコンの漏出がこのような深刻な影響を及ぼすことを示す科学的根拠はほとんどありませんが、その可能性を完全に否定することもできないため、シリコン製インプラントの使用は減る傾向にあり、特に乳がんにかかっていない女性が美容外科手術のために使うことは少なくなってきています。

がんのない乳房の切除

特定の乳がんの女性は、反対側の乳房(がんのない方の乳房)にがんが発生するリスクが高くなります。医師は、反対側の乳房にがんが発生する前に反対側の乳房を切除するよう勧める場合があります。この手術は、予防的対側乳房切除術と呼ばれます。この予防的手術は、次のいずれかに該当する女性に適しています。

  • 乳がんの発生リスクを高める遺伝子変異(BRCA1またはBRCA2変異など)を受け継いでいる

  • 乳がんまたは卵巣がんを患ったことのある近親者(通常は第1度近親者)が少なくとも2人いる

  • 胸部に対する放射線療法を30歳未満で受けた

  • 非浸潤性小葉がん(非侵襲型)がある

片方の乳房に非浸潤性小葉がんがある女性では、どちらかの乳房に浸潤性乳がんが発生する可能性が同程度あります。したがって、このような場合に乳がんのリスクを排除する唯一の方法は、両方の乳房を切除することです。一部の女性、特に浸潤性乳がんの発生リスクが高い女性では、この治療法を選ぶこともあります。

予防的対側乳房切除術の利点は次の通りです。

  • リスクを上昇させる遺伝子変異がある乳がんの女性における生存期間の延長のほか、50歳未満で乳がんと診断された女性における生存期間延長の可能性がある

  • 治療後にフォローアップのための厄介な画像検査を受ける必要性が減少する

  • 一部の女性では、不安が減少する

この手術の欠点は次の通りです。

  • 合併症のリスクが2倍になる

予防的対側乳房切除術を行う代わりに、がんについて主治医に乳房を注意深く観察してもらうこと(例えば、画像検査によって)を選択する女性もいます。

放射線療法

放射線療法は、腫瘍の切除部位に残っているがん細胞や近接のリンパ節など周辺組織のがん細胞を殺す目的で行われます。

以下がみられる場合は、乳房切除術後の放射線療法を行います。

  • 腫瘍が5センチメートル以上である。

  • がんが1つまたは複数のリンパ節に広がっている。

このような場合には、乳房切除術後の放射線療法により、胸壁や周辺のリンパ節でのがんの再発が減少し、生存の可能性が高まります。

乳房温存手術後の放射線療法により、原発腫瘍近くに、また付近のリンパ節における乳がんの再発率が大幅に低下し、全生存率が改善する可能性があります。しかし、女性が70歳以上で、腫瘤摘出術を受け、がんがエストロゲン受容体陽性である場合は、放射線療法により再発リスクが大幅に低下したり、生存率が向上したりすることはないため、放射線療法は不要となることがあります。

放射線療法の副作用として、乳房の腫れ、照射部位の皮膚の発赤や水疱、疲労などがあります。通常、これらの副作用は数カ月からおよそ1年以内に解消します。放射線療法を受けた女性の5%未満に、肋骨の骨折とそれに伴う軽い不快感が生じます。また約1%の女性に、放射線療法を終えて6~18カ月経ってから軽度の肺炎がみられます。肺の炎症に伴い空せきや運動時の息切れがみられ、この症状は最長で6週間ほど続きます。放射線療法後にリンパ浮腫が生じることがあります。

化学療法およびホルモン遮断薬(タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬)

化学療法やホルモン遮断薬(タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬など、ホルモンに作用する薬剤)による治療により、全身でがん細胞の増殖を抑えることができます。

医師は化学療法による治療を行うかどうかを判断するために、患者および乳がんに関係するいくつかの要因を評価し、リスクと便益について患者と話し合います。医師が考慮する因子としては以下のものがあります。

  • がんのリンパ節転移の有無

  • 女性が閉経前か閉経後か

  • エストロゲン受容体またはプロゲステロン受容体の検査結果

  • HER2(human epidermal growth factor 2[ヒト上皮増殖因子2])がん遺伝子の検査結果

  • がんの遺伝子検査(Oncotype DX検査など)

浸潤性乳がんの患者では、通常は化学療法やホルモン遮断薬が手術直後から開始されます。それらの薬剤は数カ月から数年にわたり使用を続けます。タモキシフェンなど一部の薬剤は5~10年間にわたり継続します。腫瘍の大きさが5センチメートルを超えている場合には、手術前から化学療法やホルモン遮断薬を開始することがあります。それらの薬剤は、大半の患者でがんの再発を遅らせたり、予防したりすることができ、一部の患者では生存期間の延長につながります。

がんの遺伝物質を分析することで(予測遺伝子検査)、そのがんが化学療法やホルモン遮断薬に反応するかどうかを予測するのに役立ちます。

乳がんがエストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体陽性かつHER2陰性で、リンパ節転移もない女性では、化学療法が必要なく、ホルモン遮断薬のみで十分な場合があります。

ホルモン遮断薬(内分泌療法)

ホルモン遮断薬は、エストロゲンまたはプロゲステロンの作用を阻害する薬剤で、エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体をもつがん細胞の増殖を抑えます。がん細胞にこれらの受容体がある場合、ときに化学療法に代わって、ホルモン遮断薬が使用されます。ホルモン遮断薬の効果は、がん細胞の中にエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が両方ある場合に最も高く、エストロゲン受容体のみがある場合にもほぼ同等の効果が期待できます。プロゲステロン受容体のみがある場合には、便益は非常に低くなります。

内分泌療法に使用される薬剤としては、タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬などがあります。

  • タモキシフェン:タモキシフェンは経口で投与する、選択的エストロゲン受容体モジュレーターの一種です。エストロゲン受容体に結合して、エストロゲンによる乳房組織の刺激を阻止します。エストロゲン受容体陽性のがんがある女性にタモキシフェンを5年間使用すると、生存率が約25%上昇します。10年間の治療ではさらに効果がある可能性があります。タモキシフェンは脚や肺に血栓ができるリスクを高めます。また、子宮内膜にポリープ(子宮内膜ポリープ)ができる傾向を高めたり(それにより異常子宮出血を引き起こす可能性があります)、子宮体がん(子宮内膜がん)の発生リスクを高めたりもします。そのため、タモキシフェンを服用している女性に異常な性器出血パターンが認められた場合には、主治医の診察を受けるべきです。

  • アロマターゼ阻害薬:アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾールなどの薬剤はアロマターゼ(一部のホルモンをエストロゲンに転換させる酵素)の作用を阻害するため、エストロゲンの血中濃度を低下させる効果があります。閉経後女性では、この種の薬剤がタモキシフェンより大きな効果をもたらすことがあります。アロマターゼ阻害薬は、骨粗しょう症と骨折のリスクを上昇させることがあり、しばしば腟の乾燥を引き起こします。閉経前女性には、卵巣機能を抑制する薬剤(リュープロレリンなど)とアロマターゼ阻害薬を併用する治療が行われることがあり、これは卵巣機能抑制療法と呼ばれます。

化学療法

化学療法は、がん細胞のように急速に増殖している細胞を殺したり、増殖を遅らせるために行われます。化学療法だけでは乳がんを完治させることはできません。手術や放射線療法と組み合わせる必要があります。化学療法は通常は静脈内投与で、投与サイクルを何回か繰り返します。経口投与の場合もあります。1日投与したら2週間以上の回復期間をおくスケジュールが典型的です。化学療法薬は単独で使用するよりも数種類を併用した方が効果的です。化学療法の選択は、近くのリンパ節からがん細胞が検出されたかどうかよって変わります。

よく使用される化学療法薬としては、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセルなどがあります(化学療法を参照)。

副作用(吐き気や嘔吐、脱毛、疲労など)は用いられる化学療法によって異なります。化学療法薬は卵巣内にある卵細胞を破壊するため、不妊症や早期閉経の原因になる可能性があります。また化学療法によって骨髄での血球の増加が抑制されるために、貧血または出血を引き起こしたり、感染症のリスクが上昇します。そこで、骨髄を刺激して血球を増加させるために、フィルグラスチムやペグフィルグラスチムなどの薬剤が使用される場合があります。

HER2標的療法

トラスツズマブペルツズマブは、HER2阻害薬と呼ばれるモノクローナル抗体の一種です。これらはがん細胞に過剰な数のHER2がみられる場合にのみ、転移性乳がんに対して化学療法とともに使用されます。これらの薬剤は、HER2に結合することで、がん細胞の増殖を阻止する働きがあります。ときにこれら両方の薬剤が使用されます。トラスツズマブの投与は通常1年間です。どちらの薬剤も心筋の筋力を低下させることがあります。そのため医師は治療の間、心機能をモニタリングします。

非浸潤がん(0期)の治療

(表「タイプと病期に応じた乳がんの治療」も参照のこと。)

非浸潤性乳管がんの治療は通常、以下のいずれかになります。

  • 乳房切除術

  • 腫瘍とともに周辺の正常組織を広範囲に切除する手術(腫瘤摘出術)と場合により放射線療法

エストロゲン受容体陽性またはプロゲステロン受容体陽性の非浸潤性乳管がんには、治療の一部としてホルモン遮断薬が使用されることもあります。

非浸潤性小葉がん(LCIS)は、がんとして扱われませんが、乳房の腺(小葉)に異常な細胞が形成されます。LCISの人では、乳がんの発生リスクが高くなります。LCISに対する治療法としては以下のものがあります。

  • 古典型非浸潤性小葉がん:がんがないか調べるための外科的切除の後、がんが発見されなければ、注意深い経過観察および、ときに浸潤がんの発生リスクを軽減するためにタモキシフェン、ラロキシフェン、またはアロマターゼ阻害薬

  • 多形型非浸潤性小葉がん:異常のある領域の外科的切除および、ときに浸潤がんの発生リスクを軽減するためにタモキシフェンまたはラロキシフェン

経過観察では、最初の5年間は身体診察を半年から1年に1回、以後は年1回行い、併せてマンモグラフィーを年1回行います。浸潤性の乳がんが発生する可能性はありますが、発生しても通常は増殖速度が遅く、多くの場合は効果的に治療できます。また、非浸潤性小葉がんの場合、浸潤性乳がんが反対側の乳房に生じる可能性も同程度にあり、そのリスクを排除するには左右の乳房を両方とも切除するしか方法がありません(両側乳房切除術)。一部の女性、特に浸潤性乳がんの発生リスクが高い女性では、この治療法を選ぶこともあります。

非浸潤性小葉がんの女性には、多くの場合、ホルモン遮断薬であるタモキシフェンが5年間投与されます。これにより浸潤性乳がんの発生リスクは低下しますが、リスクを完全になくすことはできません。閉経後女性には代わりにラロキシフェンまたはときにアロマターゼ阻害薬が投与されることもあります。

早期浸潤がん(I期およびII期)の治療

乳房内にとどまっている乳がんでは、付近のリンパ節への広がりにかかわらず、ほとんどの場合、可能な限り腫瘍を切除する手術を行います。以下のいずれかが行われます。

  • 乳房温存手術(腫瘤摘出術)とその後の放射線療法

  • 場合により乳房再建を伴う乳房切除術

最初の手術時に腋窩リンパ節郭清(わきの下から多くのリンパ節を切除する)またはセンチネルリンパ節生検(乳房に最も近い1つまたはいくつかのリンパ節を切除する)を行うことがあります。

腫瘍全体に加えて周囲の正常組織を切除する必要があるため、腫瘍が大きすぎない場合に限り、乳房切除術ではなく乳房温存手術が選択されます。

手術後には、腫瘍の分析結果に応じて、化学療法、ホルモン遮断薬、HER2阻害薬、またはこれらを併用する治療が行われる場合があります。

手術前に化学療法(術前化学療法)が行われることがある理由はいくつかあります。腫瘍が胸壁に張り付いている場合、腫瘍の切除を可能にするために化学療法が役立ちます。化学療法は、乳房全体に比して大きい乳がんを縮小させるのにも役立ちます。これにより乳房温存手術を行える可能性が高くなります。

術前化学療法は、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、およびHER2をすべてもっている乳がん(トリプルネガティブ乳がんと呼ばれます)やHER2のみをもっている乳がんの治療でも検討されることがあります。

局所進行がん(III期)の治療

より多くのリンパ節に転移している乳がんでは、以下が行われる場合があります。

  • 手術前に腫瘍を縮小させる薬剤(通常は化学療法)の投与

  • 乳房温存手術または乳房切除術

  • 手術後に通常は放射線療法

  • 手術後に化学療法、ホルモン遮断薬、またはその両方

手術後に放射線療法、化学療法、その他の薬剤を用いるかどうかは、以下のような多くの要因によって決まります。

  • 腫瘍の大きさ

  • 閉経しているか

  • 腫瘍にホルモン受容体があるか

  • がん細胞が検出されたリンパ節の数

転移(IV期)または再発したがんの治療

リンパ節を越えて転移した乳がんの場合、根治は望めませんが、大半の人が2年以上生きることができ、小数ながら10~20年生きる人もいます。治療の効果は腫瘍の生物学的特徴によって変わりますが、症状を軽減して生活の質を改善することはできます。しかし、治療には深刻な副作用を伴うものもあります。このため、治療を行うかどうかの決断や、どの治療を選択するかは極めて個人的な問題になります。

治療の選択は以下によって決まってきます。

  • がんにエストロゲンまたはプロゲステロンに対する受容体があるかどうか

  • がんが広がる前の寛解期間の長さ

  • がんが広がっている臓器および体内の部位(転移した部位)の数

  • 女性が閉経後であるか、まだ月経があるか

がんが症状(痛みやその他の不快感)を引き起こしている場合は、通常は化学療法またはホルモン遮断薬による治療が行われます。痛みは鎮痛薬で治療します。症状を軽減するために他の薬剤も使用することがあります。根治的な治療法を選択できない場合は、症状を軽減するための治療(緩和療法と呼ばれます)を行います。

がんに以下の特徴がみられる場合は、化学療法よりホルモン遮断薬(内分泌療法)の方が望ましい治療になります。

  • エストロゲン受容体陽性のがんである。

  • 診断と初期治療から2年以上がんが再発していない。

  • がんにさし当たり生命を脅かす危険性がない。

以下のように状況に応じて内分泌療法を選択します。

  • タモキシフェン:タモキシフェンは閉経前女性に対するホルモン遮断薬として最初に選択されることが多いです。

  • アロマターゼ阻害薬:エストロゲン受容体陽性乳がんの閉経後女性には、タモキシフェンよりもアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンなど)の方が初回治療として効果が高いことがあります。

  • プロゲスチン:メドロキシプロゲステロンやメゲストロール(megestrol)などの薬剤は、アロマターゼ阻害薬やタモキシフェンがもはや効果的でない場合に使用されることがあります。

  • フルベストラント:この薬剤は、タモキシフェンで効果が得られなくなった場合に使用されることがあります。この薬剤はがん細胞のエストロゲン受容体を破壊します。

あるいは、閉経前女性ではエストロゲンの生成を止めるために、卵巣の摘出手術または卵巣の機能を阻害する薬物療法(ブセレリン、ゴセレリン、リュープロレリンなど)を行うこともあります。これらの治療法はタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬と併用されることがあります。

トラスツズマブは、HER2をもつがんが全身に広がっている場合に使用することができます。トラスツズマブの単剤療法か、トラスツズマブと化学療法(パクリタキセルなど)、ホルモン遮断薬、またはペルツズマブ(別のHER2阻害薬)との併用療法を用いることができます。

別のタイプのHER2阻害薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(ラパチニブやネラチニブ[neratinib]など)は、HER2の活性を阻害します。

場合によっては、薬物療法の代わりに、あるいは薬物療法の前に放射線療法を行うことがあります。例えば、1カ所だけにがんが見つかり、それが骨である場合には、骨への放射線照射だけを行う場合があります。放射線療法は骨に転移したがんに最も効果的な治療法で、増殖を数年間にわたって抑制できることもあります。脳に転移したがんに対しても、多くの場合、放射線療法が最も効果的な治療法です。

体の別の部位(脳など)にできた単独の腫瘍を摘出する手術を行う場合もあります。このような手術を行うことで症状を軽減できます。症状の緩和に役立てるために乳房切除術(乳房の切除)が行われることがあります。しかし、他の部位にがんが転移していて、それを治療しコントロールできている場合には、乳房の切除が延命に役立つのかどうかは明らかではありません。

パミドロン酸やゾレドロン酸などのビスホスホネート系薬剤(骨粗しょう症の治療薬)を投与することで、骨の痛みや骨量減少が軽減し、骨への転移が原因で起こる骨の問題を予防したり、遅らせることができる場合もあります。

特殊なタイプの乳がんの治療

炎症性乳がんの治療では通常、化学療法と放射線療法を併用し、乳房切除術を行います。

乳房パジェット病の治療は他のタイプの乳がんの治療と同様です。ほとんどの場合、単純乳房切除術または乳房温存手術とリンパ節の切除を行います。乳房温存手術では、通常は術後に放射線療法を行います。これよりまれですが、乳頭のみを周囲の正常組織とともに切除することもあります。別のタイプの乳がんも存在する場合、治療はそのがんのタイプに基づきます。

葉状腫瘍の治療は通常、腫瘍とともに、「十分なマージン」と呼ばれる広範囲にわたる周辺の正常組織(腫瘍の周囲の最低1センチメートル)を切除します。腫瘍が乳房の他の部分に比べて大きい場合は、腫瘍とマージンを十分に切除するために単純乳房切除術を行うこともあります。葉状腫瘍が再発するかどうかは、がんが認められないマージンの幅や、葉状腫瘍が良性か悪性かによって異なります。悪性の葉状腫瘍は、肺、骨、脳などの遠く離れた場所に転移することがあります。葉状腫瘍が転移した場合の治療に対する推奨は整備されてきていますが、放射線療法や化学療法が有用になる場合があります。

妊よう性の温存

乳がんの治療を受けている間、女性は妊娠してはいけません。

治療後に出産(妊よう性の温存)を希望する場合、治療を開始する前に生殖内分泌科医に紹介されます。そして、様々な化学療法薬が妊よう性に及ぼす影響や、治療後の出産を可能とする方法について知ることができます。

妊よう性を温存するための選択肢として、卵巣刺激法や卵子または胚の凍結による生殖補助医療などがあります。

妊よう性温存のための方法の選択は以下によって決まります。

  • 乳がんの種類

  • 計画されている乳がんの治療の種類

  • 患者の希望

生殖補助医療ではホルモン剤を使用します。エストロゲンまたはプロゲステロン受容体陽性のがんがある女性には、これらの治療を受けることのリスクとメリットについて医師が説明を行います。

治療後のフォローアップ

治療の第1段階の完了後は、乳房、胸部、首、わきの下の診察を含むフォローアップの身体診察を通常は毎年受けます。定期的なマンモグラフィーと乳房自己検診も重要です。以下の症状がみられたら、速やかに主治医に報告する必要があります。

  • 乳房のしこりやそのほかの変化(どのようなものでも)

  • 乳頭や分泌物の変化

  • 痛み(腕や脊椎など)

  • わきの下の腫れ

  • 食欲不振や体重減少

  • 胸痛

  • 慢性的な乾いたせき

  • 性器出血(月経に関連しない場合)

  • 重度の頭痛

  • かすみ目

  • めまいまたは平衡感覚の障害

  • しびれまたは筋力低下

  • その他異常と思われる症状や長く続く症状

胸部X線検査、血液検査、骨シンチグラフィー、CT検査といった診断のために行う検査は、がんの再発を疑わせる症状がみられない限り行う必要はありません。

乳がんの治療はその後の生活に様々な影響を及ぼすことがあります。家族や友人、支援団体による援助が支えとなります。カウンセリングも役に立つことがあります。

乳がんの予後(経過の見通し)

一般的に、予後は以下によって決まります。

  • がんの大きさ

  • がんのタイプ

  • リンパ節または他の器官への転移の有無

(米国国立がん研究所のSEER[サーベイランス、疫学、および最終結果]プログラム[Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER) Program]も参照のこと。)

がん細胞が存在するリンパ節の数および位置は、がんが治癒可能かどうか、そうでない場合に女性がどれくらい生存できるかを決定する主な要因の1つです。

乳がんの5年生存率(診断から5年後に生存している女性の割合)は以下の通りです。

  • がんが最初にできた部位にとどまっている場合(限局性)は99%

  • がんが付近のリンパ節に転移しているが、それ以上の広がりはない場合(周囲に広がったがん)は86%

  • がんが遠く離れた場所に転移している場合(転移性)は29%

  • 十分な評価が行われておらず、がんの病期分類も行われていない場合は58%

以下の場合に乳がんの女性の予後は悪くなる傾向にあります。

  • 20代や30代で乳がんと診断される

  • 腫瘍が大きい

  • がん細胞の分裂が速い(明確な境界がない腫瘍や乳房全体に分布しているがんなど)

  • 腫瘍にエストロゲンまたはプロゲステロンに対する受容体がない

  • 腫瘍にHER2が過剰に認められる

  • BRCA1遺伝子変異がある

米国では、非ヒスパニック系の黒人女性は、非ヒスパニック系の白人女性と比べて乳がんによる死亡率が高くなっています。

BRCA2遺伝子変異のために、今あるがんが悪い結果につながることはおそらくありませんが、BRCA遺伝子変異のいずれかをもっていることで、乳がんの再発リスクが上昇します。

乳がんにおける終末期の問題

転移性乳がんの女性では、生活の質が損なわれたり、さらなる治療を行っても生存期間が延長する可能性が低い場合があります。最終的には、延命を試みるより、快適な状態を保つことの方が重要になる場合もあります。

がんの痛みは、適切な薬剤を使用することで十分にコントロールできます。痛みがある場合は、和らげるための治療を行うよう主治医に頼むべきです。また、治療を行えば、便秘、呼吸困難、吐き気などの煩わしい症状も緩和されます。

心理カウンセリングや、スピリチュアルカウンセリングなども利用するとよいでしょう。

転移性乳がんの女性は、医療に関する意思決定ができなくなった場合に備えて、自分自身がどのような治療やケアを望むかをまとめた事前指示書をあらかじめ用意しておくようにします。また、遺言書を作成したり見直したりすることも重要です。

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