サイクロスポーラ症は、サイクロスポーラ・カエタネンシス(Cyclospora cayetanensis)という寄生虫によって引き起こされる小腸の感染症です。主な症状は、差し込むような腹痛と吐き気を伴う水様性下痢です。
本ページのリソース
人は寄生虫で汚染された輸入食品や水を摂取してサイクロスポーラ Cyclosporaに感染することがあります。
サイクロスポーラ症の症状は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の人など、免疫機能が低下している人で重症化することがあります。
症状は様々ですが、水様性下痢、差し込むような腹痛、発熱、体重減少などがみられます。
医師は便のサンプルの中にサイクロスポーラ Cyclosporaを検出することでこの感染症の診断を下します。
サイクロスポーラ症の治療にはトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)が用いられます。
(寄生虫感染症の概要も参照のこと。)
サイクロスポーラ症は、衛生状態の悪い温暖な気候の地域で最もよくみられます。流行地域の居住者やその地域への旅行者にはリスクがあります。
米国、カナダ、欧州では、サイクロスポーラ症の報告が増加しています。米国における集団発生は、通常は夏に発生し、ラズベリー、ブラックベリー、イチゴ、ブルーベリー、バジル、シラントロ(コリアンダー、パクチー、シャンツァイ)、サヤエンドウ、スナップエンドウ、調理済みの野菜、様々な種類のレタスといった生鮮食品の摂取が関連しています。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
サイクロスポーラ症の症状
サイクロスポーラ症の主な症状は、突然の非血性の水様性下痢と吐き気です。その他の症状には、発熱、差し込むような腹痛、嘔吐、疲労、体重減少などがあります。免疫機能が正常な人では、症状は数日から1カ月以上続きます。再発することもあります。
免疫機能が低下している人(末期のHIV感染症の人など)では、サイクロスポーラ症は長引く重度の下痢を引き起こすことがあります。
サイクロスポーラ症の診断
便検査
サイクロスポーラ症の診断には、便のサンプルを顕微鏡で調べてサイクロスポーラ Cyclosporaの虫卵を探します。特殊な技術を用いると、虫卵を特定できる可能性を高めることができます。基準となる一部の検査施設では分子生物学的手法により寄生虫のDNAを特定することができます。
便検査でも長引く下痢の原因を特定できない場合、医師は内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を用いて、消化管の上部を調べ、さらに組織のサンプルを採取(生検)して、顕微鏡で観察したり寄生虫のDNAを分析したりします。
サイクロスポーラ症の治療
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)
代替として、シプロフロキサシン
健康な人なら、大半が治療をしなくても回復します。治療をしない場合、症状が数日から1カ月以上続くことがあり、再発する可能性もあります。
サイクロスポーラ症に対する選択すべき治療法は、2倍量のTMP/SMXを7~10日間服用する治療です。
HIV感染症の人では、抗レトロウイルス薬を用いて可能な限り効果的にHIV感染症の治療を行うことが非常に重要です。そうした治療で免疫系の機能が強化され、下痢またはその他の症状の抑制につながることは少なくありません。末期のHIV感染症の人では、TMP/SMXの用量を増やし、治療期間を長くすることが有益になる可能性があります。
シプロフロキサシンのほか、ときにニタゾキサニド(nitazoxanide)が、サイクロスポーラ症に対するTMP/SMXの代替薬として使用されます。
サイクロスポーラ症の予防
便で汚染された可能性がある食べものや水を摂取しないようにすることが、サイクロスポーラ症を予防する最善の方法です。
サイクロスポーラ症が流行している地域(熱帯および亜熱帯地域など)への旅行者は、日常的な薬品による消毒や殺菌法で水や食べものを処理してもサイクロスポーラが死滅する可能性は低いことを認識しておくべきです。(米国疾病予防管理センター[CDC]:寄生虫 ― サイクロスポーラ症:予防と管理[Centers for Disease Control and Prevention [CDC]: Parasites - Cyclosporiasis: Prevention & Control]を参照のこと。)国際旅行者向けの詳しいアドバイスがCDCイエローブック:食品および水に関する注意事項(CDC Yellow Book: Food & Water Precautions)に掲載されています。
流行地域では、飲料水は煮沸させ、皮をむいていない果物は食べないようにし、野菜は十分に加熱調理するべきです。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国食品医薬品局(FDA):サイクロスポーラの予防、対応、および研究行動計画(U.S. Food & Drug Administration: Cyclospora Prevention, Response and Research Action Plan)
米国疾病予防管理センター(CDC):イエローブック:食品および水に関する注意事項(Centers for Disease Control and Prevention (CDC) Yellow Book: Food & Water Precautions)
CDCイエローブック:サイクロスポーラ症(CDC Yellow Book: Cyclosporiasis)
CDC:サイクロスポーラ症(サイクロスポーラ感染症)(CDC: Cyclosporiasis (Cyclospora Infection))