慢性肝炎の概要

執筆者:Sonal Kumar, MD, MPH, Weill Cornell Medical College
レビュー/改訂 2022年 8月
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やさしくわかる病気事典

慢性肝炎は、肝臓の炎症が最低6カ月以上持続する病気です。

  • 一般的な原因としては、B型およびC型肝炎ウイルス、特定の薬などがあります。

  • ほとんどの場合は無症状ですが、全身のけん怠感、食欲不振、疲労などの漠然とした症状がみられることもあります。

  • 慢性肝炎は、肝硬変のほか、最終的には肝臓がんや肝不全に進行することがあります。

  • 診断を確定するために生検が行われることもありますが、慢性肝炎は通常、血液検査の結果に基づいて診断が下されます。

  • 抗ウイルス薬やコルチコステロイドなどの薬を用いたり、進行した症例には肝移植が必要になったりすることがあります。

肝炎の概要B型肝炎[慢性]C型肝炎[慢性]も参照のこと。)

慢性肝炎は、急性ウイルス性肝炎と比べてはるかに少ない病気ですが、数年間、ときには数十年間も続くことがあります。多くの場合かなり軽症で、重大な肝傷害は引き起こしません。しかし、一部の患者では、持続的な炎症によって少しずつ肝臓が損傷していき、最終的には肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)や肝不全に至り、ときに肝臓がんが発生することがあります。

慢性肝炎の原因

慢性肝炎の最も一般的な原因は以下のものです。

慢性肝炎の約60~70%はC型肝炎ウイルスに起因し、C型急性肝炎の少なくとも75%が慢性化します。

成人のB型肝炎のうち約5~10%の症例で慢性化し、ときにD型肝炎の同時感染を伴います。(D型肝炎は単独では起こらず、B型肝炎との同時感染としてのみ起こります。)B型急性肝炎は、感染した新生児では最大で90%、幼児では25~50%で慢性化します。

まれですが、臓器移植の後に免疫系を抑制する薬を服用している人、がんの治療薬を服用している人、HIVに感染している人など、免疫機能が低下している人にE型肝炎ウイルスによる慢性肝炎がみられることがあります。

A型肝炎ウイルスは慢性肝炎を引き起こしません。

非アルコール性脂肪肝炎(肝臓の慢性炎症の一種)は、通常、過体重(肥満)や糖尿病の場合や、血液中のコレステロールや他の脂肪(脂質)の濃度が異常な場合に発生します。これらの病態はすべて、体内での脂肪の合成を増やしたり、脂肪の処理(代謝)や排泄を遅くしたりします。その結果、脂肪が蓄積して肝細胞に保持されます(脂肪肝)。脂肪肝は慢性炎症を引き起こし、最終的には肝硬変に進行する可能性があります。(大量の飲酒以外の状況で生じた脂肪肝は、非アルコール性脂肪性肝疾患[NAFLD]と呼ばれます。)

アルコールは、消化管で吸収された後、通常は肝臓で処理(代謝)されます。アルコールが処理される際には、肝臓に損傷を与える物質が生成されます。アルコール性肝疾患は、何カ月も、または何年も大量に飲酒する人に発生するのが典型的です。アルコール性肝疾患の特徴は、脂肪肝と広範囲の肝臓の炎症で、それによって肝臓の細胞が死んでしまうことがあります。飲酒を続けると、肝臓に瘢痕組織が形成され、最終的に肝臓の正常組織の大部分が取って代わられ肝硬変になる可能性があります。

まれに、慢性肝炎は以下のものに起因することがあります。

自己免疫性肝炎は、身体が自己の組織を攻撃することによって生じる炎症(自己免疫反応)に似た慢性の炎症です。自己免疫性肝炎は、男性よりも女性に多くみられます。

特定の薬剤は、特に長期にわたって服用する場合、慢性肝炎を引き起こすことがあります。そのような薬剤としては、アミオダロン、イソニアジド、メトトレキサート、メチルドパ、ニトロフラントイン、タモキシフェンなどがあり、まれな薬剤としてはアセトアミノフェンがあります。

同じウイルスや薬でも、実際に慢性肝炎を発症するかどうか、また発症した場合の重症度は人によって異なりますが、その正確な理由は分かりません。

知っていますか?

  • 慢性肝炎は肝硬変に進行するまで疑われないことがあります。

慢性肝炎の症状

約3分の2の患者では慢性肝炎は徐々に発生し、多くの場合、肝硬変になるまで肝疾患の症状はみられません。残りの3分の1は、急性ウイルス性肝炎の発生後(多くは数週間後)に肝炎が持続するか再発して、慢性肝炎になります。

慢性肝炎では、漠然とした体調不良(けん怠感)、食欲不振、疲労などの全身症状が生じます。ときに微熱や上腹部の不快感もみられます。黄疸(過剰なビリルビンの沈着によって皮膚や白眼が黄色くなる)は、肝不全が生じない限りまれです。慢性肝炎患者の多くでは症状がみられません。

多くの場合、最初の具体的な症状は、肝疾患が進行して肝硬変の所見がみられるようになると現れます。具体的な症状としては以下のものがあります。

  • 脾臓の腫大

  • 皮膚にみられる、小さなくものような形の血管(くも状血管腫)

  • 手のひらの発赤

  • 腹部への体液の貯留(腹水

  • 出血傾向(血液凝固障害)

  • 食道静脈瘤による消化管出血

  • 黄疸

  • 脳の機能の低下(肝性脳症

  • 肝臓がん

脳の機能が低下する理由は、ひどい損傷を受けた肝臓が血液から有害物質を正常に除去できないためです。そうした物質が、その後血液中に蓄積し脳に到達します。肝臓は正常な状態では、血液中から有害物質を取り除いて分解し、無害な副産物として胆汁(消化を助ける緑がかった黄色の液)中や血液中に排泄しています(肝臓の機能を参照)。肝性脳症の治療によって、脳の機能の低下が永続的なものになるのを予防できます。

損傷を受けた肝臓はもはや血液凝固を助けるタンパク質を十分に合成できなくなるため、血液が正常に凝固できません。

少数の患者で、黄疸やかゆみがみられ、便の色が薄くなります。黄疸やかゆみが発生する理由は、損傷を受けた肝臓が血液から正常にビリルビンを取り除くことができないためです。そうしてビリルビンが血液中に蓄積し、皮膚に沈着します。ビリルビンは黄色い色素で、赤血球の正常な分解の際に老廃物として作られます。便の色が薄くなる理由は、肝臓から出る胆汁の流れが遮られ、便中に排泄されるビリルビンが減少するためです。ビリルビンは、便の色を典型的な茶色にする物質です。

自己免疫性肝炎では、そのほかにも、体の他の器官系を侵す症状が現れることがあります。具体的な症状としては、月経の停止、関節の痛みや腫れ、食欲不振、吐き気などがあります。自己免疫性肝炎の患者には、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎、セリアック病などの別の自己免疫疾患や、貧血や甲状腺や腎臓の炎症を引き起こす自己免疫疾患も存在することがあります。

多くの人では何年もの間、慢性肝炎の進行はみられません。一部の人では慢性肝炎が徐々に悪化します。その後の見通しは、原因となるウイルスの種類と治療が可能かどうかによって異なります。

  • C型慢性肝炎は、治療しないでいると、約20~30%の患者で肝硬変を引き起こします。しかし、肝硬変の発生までには何十年もかかることがあります。肝臓がんのリスクは、通常は肝硬変がある場合にのみ増加します。

  • B型慢性肝炎は悪化する傾向があり、ときには急速に、ときには数十年かけて肝硬変に至ります。B型慢性肝炎も、肝硬変が発生してもしなくても肝臓がんのリスクを増加させます。(他の病気を原因とする肝疾患の患者では、通常、肝硬変が発生した場合にのみ肝臓がんのリスクがあります。)まれに、B型慢性肝炎は治療を行わなくとも自然に治まることがあります。

  • B型肝炎とD型肝炎の慢性的な同時感染では、治療しないでいると、最大70%の患者が肝硬変になります。

  • 自己免疫性肝炎は、ほとんどの患者で効果的に治療できますが、一部の患者は肝硬変を発症します。

  • 薬によって引き起こされた慢性肝炎は、その薬の使用を中止すれば、多くの場合完全に解消します。

慢性肝炎の診断

  • 血液検査

  • ときに生検

以下の場合に慢性肝炎が疑われることがあります。

  • 典型的な症状がみられる場合。

  • 血液検査(他の理由で行ったもの)で肝酵素値の上昇が検出される場合。

  • 過去に急性肝炎があった場合。

また、18歳以上のすべての人は、症状の有無にかかわらず、少なくとも1回はC型肝炎の検査を受けるべきです。C型肝炎は無自覚であることが多いため、そのような検査が推奨されます。

慢性肝炎の検査は、通常、肝酵素や肝臓で作られるその他の物質の濃度を測定する血液検査(肝臓の検査)により開始します。この検査は、肝炎の診断の確定や除外、原因の特定、肝傷害の重症度の判定に役立ちます。

また、肝炎ウイルスが感染症を引き起こしているかどうかを特定するための参考にする目的でも、血液検査を行います。ウイルスが特定されない場合は、自己免疫性肝炎など、他の原因を調べる別の血液検査が必要です。

ときには、診断を確定するために肝生検を行うこともあります。肝生検により以下のことも可能になります。

  • 炎症の重症度を判定する

  • 瘢痕化(線維化)や肝硬変が生じているかどうかを判断する

  • 肝炎の原因の特定に役立つ可能性もある

しかし、新たな検査技術の開発が続くにつれて、肝生検が行われる頻度は減少しています。例えば、肝傷害の程度を判定したり、肝臓の他の問題がないか確認したりする目的で、以下の検査が行われる場合があります。

超音波エラストグラフィーおよび磁気共鳴エラストグラフィーでは、腹部に超音波を照射することで、肝組織の硬さを判定します。

肝臓がんのスクリーニング

B型慢性肝炎(または何らかの肝疾患に起因する肝硬変)の患者では、肝臓がんのスクリーニングを6カ月毎に行います。次の2つの検査が行われます。

  • 超音波検査

  • ときにアルファ-フェトプロテインの血中濃度の測定

肝臓がんがあると、アルファ-フェトプロテイン(胎児の未熟な肝細胞が正常時から作るタンパク質)の測定値が高くなることがあります。

慢性肝炎の治療

  • 原因の治療(例えばB型またはC型肝炎に対する抗ウイルス薬)

  • 合併症の治療

慢性肝炎の治療では、原因の治療と合併症(肝硬変患者の腹水肝性脳症など)の管理に重点が置かれます。

薬が原因である場合は、その薬の使用を中止します。他の病気が原因の場合は、その治療を行います。原因がアルコール性肝疾患である場合は、医師は生活習慣の変更、主に禁酒を勧めます。

B型肝炎とC型肝炎

B型慢性肝炎が悪化しているまたは、肝酵素の値が高いかウイルス量が多い場合は、通常は抗ウイルス薬を使用します。B型肝炎には根治的な治療法がありません。

一部の患者では、薬物治療を中止するとB型肝炎が再発する傾向があり、さらに重症化することがあります。したがって、このような患者は抗ウイルス薬を無期限に服用する必要があります。

C型慢性肝炎では、余命が非常に短い場合を除き、すべての患者に抗ウイルス薬による治療が推奨されます。治療は8週間から24週間続けます。C型肝炎の治療により、体内からウイルスを排除し、炎症を食い止め、瘢痕化や肝硬変への進行を予防することができます。

非アルコール性脂肪肝炎

非アルコール性脂肪肝炎の治療では、この病気に寄与している病態の管理に重点が置かれます。例えば、治療法には以下のものがあります。

  • 体重を減らす

  • 健康的な食事をとる(体重と糖尿病のほか、ときに脂質濃度のコントロールに役立ちます)

  • 糖尿病の治療薬を使用する

  • 脂質濃度を低下させる薬を使用する

  • この病気に寄与する可能性がある薬(タモキシフェン、コルチコステロイド、合成エストロゲンなど)を使用しない

  • 殺虫剤などの毒性物質を避ける

自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎の治療には、通常はコルチコステロイド(プレドニゾン[日本ではプレドニゾロン]やブデソニドなど)と、免疫抑制薬であるアザチオプリンを併用します。これらの薬は炎症を抑え、症状を和らげ、長期的な生存率を改善します。こうした治療を行っていても、肝臓の瘢痕は徐々に悪化することがあります。

治療を中止すると炎症が再発するため、ほとんどの患者は生涯にわたって薬の服用を続ける必要があります。しかし、コルチコステロイドを長期にわたって用いると著しい副作用が起こる可能性があります。そのため、医師は通常、徐々にコルチコステロイドの用量を減量し、患者が使用を中止できるようにします。その後、患者はアザチオプリンやミコフェノール酸(免疫系を抑制する別の薬)を無期限に服用します。

合併症の治療

慢性肝炎の原因や病型にかかわらず、肝硬変肝不全、合併症に対する治療が必要になります。

例えば、腹水の治療では、塩分の摂取を制限したり、腎臓から尿中へのナトリウムと水の排泄を促す薬(利尿薬)を服用したりします。

肝性脳症の治療では、脳の機能を低下させる原因となる有害物質を体から除去するための薬を服用します。

肝移植

重症の肝不全では肝移植も考慮されます。

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