腹腔内膿瘍

執筆者:Parswa Ansari, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York
レビュー/改訂 2021年 9月
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膿瘍(のうよう)は、膿がたまった空洞で、通常は細菌感染が原因で生じます。

  • 大半の人で絶え間ない腹痛と発熱が生じます。

  • CT検査などの画像検査を行うことで、膿瘍と他の問題を区別することができます。

  • 治療としては、膿瘍から膿が排出され、抗菌薬が投与されます。

急性腹痛も参照のこと。)

腹腔内膿瘍は、横隔膜の下部、腹部中央部、骨盤内、または腹腔の後部に形成されることがあります。また膿瘍は腎臓、脾臓、膵臓、肝臓、前立腺などのあらゆる腹部臓器の内部や周囲にも形成されることがあります。膿瘍を治療しないと、大きくなって周辺の血管や臓器が損傷する可能性があります。ときに細菌が血流に入り(敗血症)、離れた位置にある臓器や組織に広がることがあります。そのような場合は、死に至ることがあります。

消化器系しょうかきけい

腹腔内膿瘍の原因

腹腔内膿瘍の一般的な原因は、虫垂炎憩室炎(けいしつえん)、クローン病膵炎骨盤内炎症性疾患などの病気によって引き起こされた感染や炎症が周囲に広がることです。

ときに、がん、潰瘍(かいよう)、または損傷を原因とする腸穿孔(ちょうせんこう)によって腹腔内膿瘍が発生することや、腹部のけがや腹部に対する手術の後に膿瘍ができることもあります。

腹腔内膿瘍の症状

腹腔内膿瘍の具体的な症状は、膿瘍が生じた部位によって異なりますが、大半の人では絶え間ない不快感または痛みがみられ、全身のだるさ(けん怠感)を感じ、しばしば発熱が生じます。その他の症状としては、吐き気や食欲不振、体重減少などがあります。

横隔膜下の膿瘍は、例えば虫垂が破裂して細菌を含んだ体液が流れ出し、これが腹部臓器の圧力で上に押されたり、呼吸時の横隔膜の上下動で吸い上げられるなどして形成されます。症状としては、せき、呼吸時の痛み、胸痛、片方の肩の痛みなどがあります。この場合の片方の肩に感じる痛みは、関連痛(実際に問題のある場所ではない領域に痛みを感じるもの)の例です。関連痛は、肩と横隔膜が同じ神経を共有しているために、脳が痛みの源を誤って解釈することから起こります( see figure 関連痛とは)。

腹部中央部の膿瘍は、虫垂の破裂、腸の破裂、炎症性腸疾患憩室性疾患、腹部の創傷が原因で生じます。通常は腹部の膿瘍のある部位に痛みが感じられます。

下腹部の膿瘍は太ももや直腸周辺(傍直腸窩とよばれます)に及ぶことがあります。

骨盤内膿瘍は腹部中央部の膿瘍を引き起こすものと同じ病気か、婦人科の感染症を原因として生じます。症状としては、腹痛、腸が刺激されるために起こる下痢、膀胱刺激による尿意切迫感や頻尿などがあります。

腹腔後部にできる膿瘍(後腹膜膿瘍)は、腹腔と腹部臓器を覆っている腹膜の後ろにできます。原因は他の腹部膿瘍と同様で、虫垂の感染と炎症(虫垂炎)、膵臓の炎症と感染症(膵炎)などです。痛みは、通常は腰に生じ、股関節で脚を動かすと強くなります。

膵臓の膿瘍はまれですが、典型的には急性膵炎の発作後に生じます。多くの場合、膵炎が回復して1週間かそれ以上経過した後に発熱、腹痛、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。

肝臓の膿瘍は細菌またはアメーバ(単細胞寄生虫)が原因で起こります。細菌は、感染した胆嚢(たんのう)、穿孔や打撲などの外傷、腹部の感染症(近くの膿瘍など)から肝臓に到達したり、別の感染部位から血流に乗って肝臓に達します。腸に感染したアメーバ(ごく小さい寄生虫)は血管を通って肝臓に達します。肝臓の膿瘍の症状は、食欲不振、吐き気、発熱などです。腹痛はある場合とない場合があります。

脾臓の膿瘍は、感染が血流に乗って脾臓に達すること、脾臓の損傷、または横隔膜下など近くの膿瘍から感染が広がることが原因です。腹部の左側、背部、左肩が痛むことがあります。

腹腔内膿瘍の診断

  • 画像検査

  • 穿刺吸引(せんしきゅういん)

膿瘍は、最初に生じる症状が通常は漠然とした軽いもので、より多くみられるそれほど深刻ではない問題と誤解されることがあるため、誤診されがちです。

膿瘍が疑われる場合は通常、腹部および骨盤のCT検査、ときに超音波検査や腹部および胸部のX線検査、またはMRI検査が行われます。このような検査は、膿瘍を他の問題と判別し、膿瘍の発生源、大きさ、位置を確認するのに役立ちます。

診断を確定し膿瘍を治療するため、医師はときに皮膚に針を刺して、膿瘍から膿のサンプルを吸引し(穿刺吸引)、排膿用の管を留置することがあります。針を刺す位置を確認するために、CT検査または超音波検査が用いられます。このサンプルを検査室で調べて感染している微生物を特定することで、最も効果的な抗菌薬を選択することが可能になります。

膿瘍の特定に役立てるため、ときに、核医学検査を行います。検査にあたり、放射性核種を用いて体の特定の部位に集まる物質を標識(目印を付けること)します。評価する部位によって使用する物質は異なります。

腹腔内膿瘍の予後(経過の見通し)

腹腔内膿瘍では、約10~40%の患者が死に至ります。予後は、膿瘍の特定の性質や膿瘍の場所よりも、膿瘍の原因と患者の全般的な医学的状態に左右される度合いが高くなります。

腹腔内膿瘍の治療

  • 膿の排出

  • 抗菌薬

腹腔内膿瘍はほぼすべて、手術または針と細い柔軟性のあるチューブ(カテーテル)により膿を排出する必要があります。針とカテーテルを刺す位置を確認するために、CT検査または超音波検査が用いられます。針とカテーテルが膿瘍に達したことが確認されたら、針は抜き取られますが、カテーテルはそのまま留置されます。通常は数日から数週間にわたりカテーテルを介して膿が排出されます。

感染が広がるのを防ぎ、感染を根治させるために、通常は排膿に加えて抗菌薬が用いられます。膿を検査室で分析して感染している微生物を特定することで、最も効果的な抗菌薬を選択することが可能になります。排膿せずに、抗菌薬の投与だけで膿瘍が治ることはまれです。

針とカテーテルを膿瘍まで安全に穿刺できない場合は、手術による排膿が必要になることがあります。膿瘍が排膿されれば、感染源も手術で治療されます。例えば、結腸の穿孔(穴)によりできた膿瘍であれば、通常は結腸のその部分が切除されます。

適切な栄養補給を続けることが重要です。膿瘍のため、または膿瘍の原因のために食事ができない場合は、チューブを用いた栄養補給(経腸チューブ栄養と呼ばれます)または静脈内への栄養補給(静脈栄養と呼ばれます)を受けることがあります。

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