性腺機能低下症とは、男性でテストステロン、精子、またはその両方の産生量が低下することです。
性腺機能低下症は、精巣に問題があるか、下垂体または視床下部(精巣にテストステロンおよび精子を生産するよう信号を送る脳の領域)に問題があることで起こります。
症状はテストステロンの欠乏が始まった年齢に応じて異なります。
診断は、診察、血液検査、ときに染色体分析に基づいて行います。
治療法は原因によって異なりますが、ホルモン療法が行われることもあります。
下垂体ではゴナドトロピンと呼ばれる卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモンが分泌されます。ゴナドトロピンは、男性の性器を刺激して男性ホルモンであるテストステロンを生産させ、精巣を刺激して精子を生産させます。テストステロンが欠乏すると、成長と性的発達が遅延し、精子の生産量が低下し、陰茎が小さいままである可能性があります。
性腺機能低下症は、胎児が子宮内で発達中に起こることも、小児期の早期や後期に起こることもあります。
性腺機能低下症には、大きく分けて次の2種類があります。
原発性性腺機能低下症では、精巣が不活発で、十分な量のテストステロンが生産されません。
続発性性腺機能低下症では、視床下部または下垂体から、精巣を刺激するホルモンが分泌されません。
原発性性腺機能低下症
原発性性腺機能低下症は、精巣に病気などがある場合に生じます。
クラインフェルター症候群
クラインフェルター症候群は米国では出生男児500人当たりおよそ1人の割合で起こります。原因は染色体の異常で、男児がX染色体を2本以上とY染色体を1本もっていることで起こります。正常な男児は、X染色体とY染色体を1本ずつもっています。この症候群は、原発性性腺機能低下症の最も一般的な原因です。
精巣はしばしば小さく硬く、少量のテストステロンを生産します。男児は身長が高く、腕と脚が異常に長い傾向にあり、胸の組織が発達する可能性があります(女性化乳房)。また、他の男児と比較して筋肉量が少なく、髭と体毛も少ないことが多いようです。思春期(性的成熟)は、起こらないか、遅れたり不完全であったりします。
クラインフェルター症候群は、一般的には思春期に十分な性的成熟がみられないことで初めて特定されるか、あるいは後に不妊症の検査をした際に判明します。
停留精巣
停留精巣(精巣が降りてこないこと)は、片側または両側の精巣が腹部にとどまったままの状態をいいます。通常、精巣は出生直前に陰嚢内へと降りてきます。出生時に、男児の約3%は精巣が降りてきていませんが、ほとんどの場合、何もしなくても生後4カ月までに精巣は自然と降りてきます。多くの場合、停留精巣の原因は不明です。停留精巣は生後1年以内に手術で治療します。
精巣消失症候群(両側無精巣症)
精巣消失症候群(両側無精巣症)は、出生男子20,000人に約1人の割合で起こります。子宮内での発達の早期段階では精巣は存在している可能性が高いですが、出生前または出生直後に身体に吸収されてしまいます。精巣がないため、テストステロンや精子を作ることができません。テストステロンも精子もないため、男性の第二次性徴(髭や筋肉の発達など)はみられず、不妊症となります。
ライディッヒ細胞の欠失
ライディッヒ細胞(精巣の中にあり、正常であればテストステロンを生産する)の欠失は、性器の部分的発達や性別不明性器の原因となります。性別不明性器とは、性器が男性のものか女性のものかがはっきりしない状態のことをいいます。このような問題が生じる理由は、十分な量のテストステロンが生産されないため、胎児の男性器の正常な発達が刺激されないことにあります。
ヌーナン症候群
ヌーナン症候群では、精巣が小さく、十分な量のテストステロンが作られません。ヌーナン症候群の原因は、遺伝子の異常であり、この異常は親から遺伝するか、胎児発生の早期に起こる場合があります。小児には、翼状頸、耳が低い位置にある、低身長、第4指(薬指)が短い、心臓と血管の異常などの特徴がみられます。
続発性性腺機能低下症
続発性性腺機能低下症は、下垂体または視床下部(下垂体をコントロールする脳の一部)に問題があり、精巣を刺激するホルモンを下垂体が分泌できないことで起こります。原因のいくつかには遺伝性疾患が関与しており、ほかにも多くの異常が発生します。
カルマン症候群
カルマン症候群は遺伝性疾患で、思春期の遅れと嗅覚の障害(一部では嗅覚が正常であることもあります)が引き起こされます。カルマン症候群の小児では、黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンの量が不足しています。男児では異常に小さな陰茎および停留精巣がみられます。
汎下垂体機能低下症
汎下垂体機能低下症は、下垂体からのホルモン分泌が停止するか、分泌量が低下することで起こる病気です。汎下垂体機能低下症は、下垂体が損傷(腫瘍やけがなど)を受けた場合に起こる可能性があります。下垂体機能低下症も参照してください。
黄体形成ホルモン単独欠損症
黄体形成ホルモン単独欠損症は、下垂体ホルモンのうち黄体形成ホルモンのみが欠損していることで起こります。黄体形成ホルモンが欠損している場合、精巣の発達と精子の分泌は卵胞刺激ホルモンによってもコントロールされているため、これらの機能は発達します。しかしながら、精巣から十分な量のテストステロンが分泌されないため、黄体形成ホルモン単独欠損症の男児は第二次性徴がみられません。男児は成長を続け、腕や脚が異常に長くなることがあります。
プラダー‐ウィリー症候群
プラダー‐ウィリー症候群は遺伝性疾患で、染色体の一部が欠失していることで起こります。生殖器の機能が異常に低く、そのため成長と性的な発達が制限されます。男児では停留精巣、また陰茎と陰嚢の発達不全が起こります。
体質性の思春期の遅れ
一部の小児では、正常ではあるものの単に思春期が通常の年齢で始まらないことがあります。この現象は体質性の思春期の遅れと呼ばれています。体質性の思春期の遅れは男児でより多く認められ、多くの小児で親または兄弟姉妹に思春期の遅れの家族歴がみられます。
体質性の思春期の遅れがある小児では、小児期および青年期に低身長がよくみられますが、思春期が予想される時点で、思春期に一般的に起こる急激な成長スパートが遅れるため、成長がしばしば減衰します。その結果、青年期の早期には体質性の思春期の遅れがみられる小児と同年代の小児の間で身長に顕著な差が生じます。体質性の思春期の遅れがある小児は、一般的に18歳までには思春期の徴候を示し、最終的には身長も正常に伸び、正常な発達を遂げます。しかしながら、思春期の遅れによって不安がもたらされる場合があります。
体質性の思春期の遅れの原因は、ホルモンや遺伝の問題でも基礎にある病気(炎症性腸疾患や摂食障害など)でもありませんが、医師は低身長と思春期の遅れの他の原因を否定するための評価を行う場合があります。
男性性腺機能低下症の症状
性腺機能低下症の症状はテストステロンの欠乏が始まった年齢に応じて異なります。
男子の胎児では、妊娠12週以前にテストステロンが欠乏していた場合、性器の不完全発達につながります。尿道が陰茎の先端ではなく、下側に開口する場合があります。 テストステロンの欠乏が妊娠の後期に起きた場合、陰茎または精巣が異常に小さく、精巣が陰嚢に降りてこないことがあります。
男子の新生児の場合は、性器が男性らしくない(男性化不全)、あるいはより女性のような外見を示すことがあり、しばしば性別不明性器と呼ばれます。
男子の小児で、テストステロンの欠乏が思春期が予想される時期に起きた場合、性的な発達が不完全となります。アンドロゲン欠乏症の男児は、年齢の割に高い声のままで筋肉も未発達です。陰茎、精巣、陰嚢も未発達です。陰毛と腋毛が薄く、体毛はありません。乳房が膨らみ(女性化乳房)、腕と脚が異常に長いことがあります。
男性性腺機能低下症の診断
血液検査
染色体分析
医師は、男児の発達が異常であるか、思春期が遅れている場合に、性腺機能低下症の診断を検討します。医師は男児の陰茎および精巣を調べ、年齢にふさわしく正常に発達しているかどうかをみます。
診断を確定するため、医師は血液検査を実施し、テストステロン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンの濃度を測定します。黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの濃度は、性腺機能低下症が原発性か続発性かを医師が特定する際の手がかりになります。医師は他のホルモンの値も測定します。
医師は、染色体分析も行うことがあり、特にクラインフェルター症候群が疑われる場合に行います。染色体と遺伝子は、血液サンプルを分析することで評価できます( see page 染色体異常と遺伝子異常の検査)。
男性性腺機能低下症の治療
ときに手術
ホルモン補充療法
性腺機能低下症では、原因に応じて様々な治療が行われます。
停留精巣では、医師は手術を行って、停留している精巣を陰嚢に下降させます。通常はこれにより精巣は正常に機能することができます。手術による修復は、その後の合併症の予防に役立ちます。
続発性性腺機能低下症では、医師は下垂体または視床下部にある何らかの基礎疾患を治療します。テストステロンを補充投与し、用量を18~24カ月間かけて増量します。治療は思春期が正常に始まる年齢(しばしば12歳頃)で開始します。
テストステロン欠乏症では、続発性性腺機能低下症と同じく、医師は青年期の男子にテストステロンの注射を2~4週間毎に行い、用量を18~24カ月間かけて増量します。年齢が上がるにつれて、テストステロンは、皮膚パッチ薬またはゲルによっても投与することができます。
体質性の思春期の遅れでは、医師はテストステロン注射を4~6カ月間にわたって行います。 テストステロンは投与量が少なければ、思春期を促しつつ男性的な特徴を発達させ(男性化)、それでいて本来到達すべき成人の身長まで伸びる可能性が損なわれることはありません。
遺伝性の疾患は治癒させることはできませんが、ホルモン療法により性徴の発達を促すことができるでしょう。