胆嚢炎

執筆者:Christina C. Lindenmeyer, MD, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2021年 9月
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やさしくわかる病気事典

胆嚢炎は胆嚢に炎症が起きた状態で、多くは胆嚢管をふさいでいる胆石が原因です。

  • 典型的には腹痛、発熱、吐き気がみられます。

  • 通常は、超音波検査で胆嚢炎の徴候を検出できます。

  • 胆嚢の摘出には、しばしば腹腔鏡が用いられます。

胆嚢は、肝臓の下にある洋ナシのような形をした小さな袋状の臓器で、胆汁という、肝臓で作られ消化を助ける液体を蓄えます。人がものを食べて胆汁が必要になると、胆嚢が収縮することにより、胆汁が胆管を通して小腸に送り出されます。(胆嚢と胆管の病気の概要も参照のこと。)

胆嚢炎は、胆嚢結石によって生じる問題の中で、最もよくみられます。胆嚢から胆汁を送り出す胆嚢管という管に胆石が詰まることで発生します(図「肝臓と胆嚢の概観」を参照)。

胆嚢炎は急性と慢性に分類されます。

急性胆嚢炎

急性胆嚢炎は突然発生し、上腹部に持続的で激しい痛みを引き起こします。急性胆嚢炎を発症した患者の少なくとも95%に胆石がみられます。後になって感染が起こることもありますが、ほとんどは感染のない炎症として始まります。炎症が起こると、胆嚢に液体が充満し、胆嚢の壁が厚くなります。

まれに、胆石が存在しない状況で急性胆嚢炎が発生することがあります(無石胆嚢炎)。その場合でも、胆嚢には胆泥(胆石と同様の成分が泥のようになったもの)がたまっていることがあります。無石胆嚢炎は他の種類の胆嚢炎より重篤で、以下の状況に続いて生じることがよくあります。

急性無石胆嚢炎は、おそらくウイルスなどによる感染症が原因で、幼児に生じることがあります。

慢性胆嚢炎

慢性胆嚢炎は、胆嚢の炎症が長期間持続する病気です。ほぼ例外なく、胆石または過去に発生した急性胆嚢炎に起因します。慢性胆嚢炎の特徴は、胆石が胆嚢管を周期的にふさぐことで生じる痛みの反復発作(胆道仙痛)です。

慢性胆嚢炎では、急性の炎症(多くは胆石が原因)が繰り返されて胆嚢に損傷が生じ、通常は胆嚢の壁が厚くなり、胆嚢が瘢痕化して小さくなります。胆石は、胆嚢管に続く胆嚢の開口部、または胆嚢管そのものをふさぐことがあります。胆嚢には通常、胆泥がたまっています。瘢痕が広範囲に及ぶ場合、カルシウムが胆嚢の壁に沈着して、壁の硬化(磁器様胆嚢)を引き起こすことがあります。

胆嚢炎の症状

急性胆嚢炎と慢性胆嚢炎のどちらの場合も、胆嚢の発作は、まず痛みとして始まります。

急性胆嚢炎

急性胆嚢炎の痛みは、胆道仙痛(胆石による痛み)に似ていますが、より激しく痛み、継続時間も長くなります。痛みは15~60分後にピークに達し、その後一定に保たれます。通常は右上腹部に生じ、耐えがたい痛みになることもあります。多くの場合、触診で右上腹部を押されると鋭い痛みを感じます。深く呼吸すると、痛みが強くなることがあります。痛みは、多くの場合右肩甲骨の下部や背中に広がります。吐き気や嘔吐もよくみられます。

2~3時間のうちに、右腹部の筋肉が硬くなることもあります。急性胆嚢炎患者の約3分の1で発熱が起こります。熱は徐々に上昇し、38℃を超えることが多く、悪寒を伴うこともあります。

高齢者の胆嚢炎では、最初の症状や唯一の症状があいまいになることがあります。例えば、食欲不振、疲労感、脱力感、嘔吐などがみられたり、発熱がなかったりすることもあります。

典型的には、発作は2~3日で治まり、1週間で完全に消失します。急性発作の持続は、重篤な合併症の合図である可能性があります。増大する激しい痛み、高熱、悪寒は、胆嚢に膿瘍(膿がたまった空洞)または裂傷(穿孔)があることを示唆します。膿瘍は、組織が壊死して起こる壊疽に起因します。大きな胆石は、胆嚢の壁を裂いて小腸に入り、小腸をふさぐことがあります。この閉塞により、腹痛や腹部膨満が生じることがあります。

黄疸や、濃い色の尿、薄い色の便がみられる場合、おそらく総胆管に胆石が詰まり、肝臓に胆汁がたまっている(胆汁うっ滞)と考えられます。

膵臓の炎症(膵炎)が起こることもあります。これは、ファーター膨大部(総胆管と膵管が合流する場所)をふさぐ胆石によって引き起こされます。

無石胆嚢炎

無石胆嚢炎では、それまで胆嚢の病気の症状や徴候がみられたことのない人で突然、上腹部に耐えがたい激痛が生じるのが典型的です(胆石のない胆道痛を参照)。炎症は極めて重度であることが多く、胆嚢の壊疽や破裂を引き起こします。

無石胆嚢炎は、非常に容態の悪い患者に起こる傾向があります。例えば、別の理由で集中治療室にいる患者や、ほかにも多くの症状のある患者にみられます。また、容態がかなり悪いため、意思の疎通がうまくできないことがあります。これらの理由から、無石胆嚢炎は最初のうちは見落とされることがあります。

症状は限られており、腹部の腫れ(膨張)、圧痛、原因不明の発熱などです。無石胆嚢炎は、治療しないと65%の患者が死亡します。

慢性胆嚢炎

慢性胆嚢炎の患者は、痛みの発作を繰り返します。上腹部の胆嚢のある部位に圧痛があります。急性胆嚢炎とは対照的に、慢性胆嚢炎の患者では発熱はまれです。痛みは急性胆嚢炎ほど重度ではなく、それほど長引くこともありません。

胆嚢炎の診断

  • 超音波検査、ときにその他の画像検査

胆嚢炎の診断は、主に症状と画像検査の結果に基づいて下されます。

超音波検査は、胆嚢内の胆石の発見に最適な方法です。また超音波検査では、急性胆嚢炎でよくみられる胆嚢周囲の体液貯留や胆嚢壁の肥厚を検出することもできます。超音波検査の機器(プローブ)を上腹部の胆嚢の上で動かすと、患者が圧痛を訴えることがあります。

胆道シンチグラフィー検査は、急性胆嚢炎の診断が困難なときに有効な画像検査です。この検査では、放射性物質(放射性核種)を静脈に注入します。その物質が出す放射線をガンマカメラという機器で検出し、コンピュータで画像を作成します。これにより、肝臓から胆道に向かう放射性物質の動きを追うことができます。肝臓、胆管、胆嚢と小腸の上部の画像が得られます。放射性物質が胆嚢に達しないときは、胆嚢管が胆石でふさがっていると考えられます。また、胆道シンチグラフィー検査は、急性の無石胆嚢炎が疑われる場合にも役立ちます。

肝臓の検査は、肝臓がどれくらい正常に機能していて、肝臓に損傷が起きていないかを評価するために行う血液検査です。しかし、胆管が閉塞していない限り、これらの検査結果は正常またはわずかに高くなっているだけの場合が多いため、この検査で診断を確定することはできません。

その他の血液検査も行います。例えば、白血球数を測定します。白血球数が多い場合は、炎症、膿瘍、壊疽、または胆嚢の穿孔が示唆されます。

腹部のCT検査では、膵炎や胆嚢の穿孔など、胆嚢炎の合併症を検出できます。

胆嚢炎の治療

  • 胆嚢を摘出する手術(胆嚢摘出術)

入院

急性または慢性胆嚢炎の患者は入院する必要があります。飲食は禁止とされ、水分と電解質を補給する点滴を受けます。腸が閉塞している場合は胃を空の状態に維持し、腸に貯まる液体を減らすために、また胆嚢を休ませる目的でも、吸引ができるように、医師がチューブを鼻から胃に入れることがあります。

通常、抗菌薬が静脈内投与され(感染の可能性があるため)、痛み止めを服用します。

胆嚢摘出術

以下の場合、通常は、症状が現れてから24~48時間以内に胆嚢を摘出します。

  • 急性胆嚢炎の診断が確定し、手術のリスクが小さい。

  • 患者が高齢または糖尿病である(このような患者では、胆嚢炎が感染症を引き起こす可能性が高くなるため)。

  • 膿瘍、壊疽、胆嚢の穿孔などの合併症が疑われる。

  • 無石胆嚢炎がある。

発作が治まっている間は、必要に応じて、手術を6週間以上遅らせることがあります。手術のリスクを著しく高める病気(重篤な心疾患、肺疾患、腎疾患、重篤な肝疾患など)がある場合、適切な治療でその病気をコントロールできるようになるまで手術を遅らせます。手術を遅らせるか完全に避ける必要がある場合は、感染を治療しその広がりを防ぐために、胆嚢の内容物を排出する必要があります。排出は、腹壁を通して胆嚢内にチューブを入れ、液体が体外に出るようにして行います。あるいは、超音波内視鏡をガイドにした内視鏡検査の際に、体内から排出用のチューブを挿入することもできます。超音波内視鏡検査では、先端に小さな超音波装置を組み込んだ内視鏡を口から胃や小腸に通します。超音波画像をガイドにして、胆嚢と小腸の間、または胆嚢と胃の間にチューブを挿入します。

慢性胆嚢炎では、通常、現在の発作が沈静化してから胆嚢を摘出します。

胆嚢を摘出する手術(胆嚢摘出術)では、通常は腹腔鏡(観察用の柔軟な管状の機器)が使用されます。この方法では、腹部を小さく切開し、そこから腹腔鏡と手術器具を挿入し、手術器具で胆嚢を摘出します。外科医は、腹腔鏡に搭載された小さなカメラの映像により、体内での操作を見ることができます。

手術後の痛み

まれに、胆嚢(および胆石)を摘出したにもかかわらず、胆嚢の発作が起きているかのような痛みが新たに、あるいは繰り返し起こることがあります。下痢が起こることもあります。この状態は胆嚢摘出後症候群と呼ばれることもあります。この症候群の原因は不明ですが、少数の患者では、オッディ括約筋(総胆管や膵管と小腸との間にある輪状の筋肉)の機能不全が原因ではないかと考えられています。この筋肉の機能不全があると、総胆管からの胆汁の流れや膵管からの分泌物の流れが遅くなり、ひいては両方の管の圧力が上昇して痛みが生じることがあります。胆嚢を摘出した後、管内に残った小さな胆石が痛みの原因になることもあります。もっと多いのは、過敏性腸症候群消化性潰瘍など、胆嚢とは関連のない病態による痛みです。

痛みの原因が管の内圧の上昇によるものかどうかを判定するには、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査または胆道シンチグラフィー検査(肝臓と胆嚢の画像検査を参照)が必要になることがあります。ERCPでは、内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を口から挿入して腸に到達させ、その内視鏡を通して圧力測定器を挿入します。管の内圧が高ければ、内視鏡を介して手術器具を挿入し、オッディ括約筋を切開して広げます。痛みの原因が括約筋の機能不全である場合は、この方法(内視鏡的乳頭括約筋切開術)で症状を軽減できます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 国際機能性消化管疾患財団(IFFGD)(International Foundation for Functional Gastrointestinal Disorders[IFFGD]):消化器疾患の患者が自身の健康を管理していく上で役立つ信頼できる情報源。

  2. 米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所(NIDDK)(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases[NIDDK]):消化器系の仕組みに関する包括的な情報と、研究や治療選択肢など関連するトピックへのリンク。

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