胆道閉鎖症は,肝外胆管の進行性硬化による胆道系の閉塞である。診断は血液検査,超音波検査,肝生検,および肝胆道シンチグラフィーによる。治療は手術であり,肝門部空腸吻合術(葛西手術)または肝移植による。
(消化器系の先天異常の概要も参照のこと。)
米国における胆道閉鎖症の発生率は,およそ出生8000~18,000人当たり1例である(1)。
ほとんどの場合,胆道閉鎖症は生後数週間から数カ月が経過した後,おそらく肝外(および,ときに肝内)胆管の炎症および瘢痕化に引き続いて発症する(2)。早産児や出生直後の新生児にみられるのはまれである(あるいは新生児では気づかれない)。炎症反応の原因は不明である。レオウイルス3型やサイトメガロウイルスなど,いくつかの感染性微生物の関与が報告されているが,決定的な関連は認められていない。さらに,いくつかの遺伝子(CFC1,FOXA2)の1つに,異常を伴う遺伝的要素が存在している可能性もある。
胆道閉鎖症は肝硬変に至る可能性があり,進行性かつ不可逆的な肝臓の瘢痕化を伴う。生後2カ月までに肝硬変が生じる可能性があり,欠損部を治療しなければ進行する。
胆道閉鎖症の乳児の約15~25%には,多脾/無脾,腸閉鎖,内臓逆位,心形成異常,腎形成異常など,他の先天異常がみられる。
総論の参考文献
1.Harpavat S, Garcia-Prats JA, Anaya C, et al: Diagnostic yield of newborn screening for biliary atresia using direct or conjugated bilirubin measurements.JAMA 323(12):1141–1150, 2020.doi: 10.1001/jama.2020.0837
2.Lendahl U, Lui VCH, Chung PHY: Biliary Atresia - emerging diagnostic and therapy opportunities. EBioMedicine 74:103689, 2021.doi:10.1016/j.ebiom.2021.103689
胆道閉鎖症の症状と徴候
胆道閉鎖症の乳児は黄疸を呈し,しばしば濃色尿(抱合型ビリルビンを含有する),灰白色便,および肝脾腫がみられる。他の点では健康な乳児で生後2週時点で胆汁うっ滞性黄疸がみられる場合は,原因を特定するための検査が必要である。鑑別診断では他の多くの病因も検討することになるが,胆道閉鎖症は早期診断が極めて重要であり,その理由は,生後45~60日までに肝門部空腸吻合術(葛西手術)を施行すれば,肝移植なしで生存できる可能性が最も高くなるからである(1)。
生後2~3カ月までに,発育不良と栄養障害,そう痒,易刺激性,および脾腫がみられることがある。
無治療の場合は,肝線維化が肝硬変に進行し,結果として門脈圧亢進症,腹水による腹部膨隆,腹壁静脈怒張,および食道静脈瘤による上部消化管出血が発生する。
症状と徴候に関する参考文献
1.Robie DK, Overfelt SR, Xie L: Differentiating biliary atresia from other causes of cholestatic jaundice. Am Surg 80(9):827-831, 2014.PMID: 25197861
胆道閉鎖症の診断
総ビリルビンおよび直接ビリルビン
肝機能検査
血清α1-アンチトリプシン濃度(α1-アンチトリプシン欠乏症を除外するため)
汗中塩化物イオン濃度の測定(嚢胞性線維症を除外するため)
腹部超音波検査
肝胆道シンチグラフィー
通常は肝生検および術中胆道造影
胆道閉鎖症は,総ビリルビン値と直接ビリルビン値両方の上昇によって同定される。α1-アンチトリプシン欠乏症も胆汁うっ滞の原因として比較的頻度が高いため,血清α1-アンチトリプシン濃度を測定すべきである。肝臓の評価に必要な検査としては,アルブミン,肝酵素,プロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間(PT/PTT),アンモニア値などがある。
嚢胞性線維症を除外するために汗中塩化物イオン濃度も測定すべきである(1)。しばしば,新生児胆汁うっ滞に対するその他の代謝性,感染性,遺伝性,および内分泌系の原因について評価するために,さらなる検査が必要となる。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),およびγ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)の血清中濃度の上昇は,胆道閉鎖症の診断を支持するが,他の病型の胆汁うっ滞を除外するものではない。
腹部超音波検査は,肝臓の大きさと胆嚢および総胆管の特定の異常を非侵襲的に評価することができる。胆道閉鎖症の乳児では,胆嚢が収縮して小さくなっているか,観察できないことが多い。しかしながら,これらの所見は非特異的である。ヒドロキシイミノ二酢酸を用いる肝胆道シンチグラフィー(HIDA scan)も行うべきであり,そこで腸管内への造影剤の排泄を認めれば胆道閉鎖症を除外できるが,重度の新生児肝炎やその他の原因による胆汁うっ滞でも排泄の減少や欠如につながりうることから,排泄を認めないことで胆道閉鎖症と診断することはできない。
胆道閉鎖症の確定診断は,肝生検および術中胆道造影による。ときに,診断の参考にするために内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を施行することもできる。古典的な組織学的所見は,線維化による門脈域の拡張と胆管増生である。胆管には胆栓もみられることがある。術中胆道造影では肝外胆管の開存がみられない。
診断に関する参考文献
1.Kobelska-Dubiel N, Klincewicz B, Cichy W: Liver disease in cystic fibrosis. Prz Gastroenterol 9(3):136-141, 2014.doi:10.5114/pg.2014.43574
胆道閉鎖症の治療
術中胆道造影
肝門部空腸吻合術(葛西手術)
しばしば肝移植
胆道閉鎖症が推定される児には,術中胆道造影による外科的検索が必要である。胆道閉鎖症が確定した場合は,同じ手術の一部として肝門部空腸吻合術(葛西手術)を施行すべきである。葛西手術は理想的には生後1カ月までに施行すべきである。生後60日以降になると,予後が有意に悪化する。
術後には,多くの患児で胆汁うっ滞の持続,再発性の上行性胆管炎,発育不良などの重大な慢性の問題がみられる。胆汁うっ滞が術後3カ月以上持続する場合は,移植センターへの紹介を考慮すべきである。上行性胆管炎の予防として術後1年間は抗菌薬の予防投与(例,トリメトプリム/スルファメトキサゾールまたはフラジオマイシン)が処方されることが多い。ウルソデオキシコール酸など,胆汁分泌を促進する薬剤(利胆薬)が術後にしばしば使用される。成長を支えるのに十分な摂取量を確保するために,脂溶性ビタミン(A,D,E,およびK)を補充するなどの栄養療法が非常に重要である(1)。至適治療がなされていても,約50%の患児は肝硬変を発症して肝移植が必要になる。
肝門部空腸吻合術を受けられない患児には,しばしば1歳までに肝移植が必要になる。
治療に関する参考文献
1.Mouzaki M, Bronsky J, Gupte G, et al: Nutrition support of children with chronic liver diseases: A joint position paper of the North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition and the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition.J Pediatr Gastroenterol Nutr 69(4):498–511, 2019. doi: 10.1097/MPG.0000000000002443
胆道閉鎖症の予後
胆道閉鎖症は進行性であり,無治療では生後数カ月までに門脈圧亢進症を伴う肝硬変を起こし,肝不全を来して1歳までに死に至る。肝門部空腸吻合術は一部の患児には無効であり,また大半の患児では症状緩和のみが目的となる。肝移植後の長期生存率(肝門部空腸吻合術の既往の有無を問わない)は約80%である(1, 2)。
予後に関する参考文献
1.Lendahl U, Lui VCH, Chung PHY: Biliary Atresia - emerging diagnostic and therapy opportunities. EBioMedicine 74:103689, 2021.doi:10.1016/j.ebiom.2021.103689
2.Sundaram SS, Mack CL, Feldman AG, et al: Biliary atresia: Indications and timing of liver transplantation and optimization of pretransplant care. Liver Transpl 23(1):96-109, 2017.doi:10.1002/lt.24640
要点
ほとんどの場合,胆道閉鎖症は生後数週間が経過した後,おそらく肝外(および,ときに肝内)胆管の炎症および瘢痕化に引き続いて発症する。
患児は黄疸を呈し,しばしば濃色尿(抱合型ビリルビンを含有する),灰白色便,および肝脾腫がみられる。
生後2~3カ月までに,発育不良と栄養障害,そう痒,易刺激性,および脾腫がみられることがある。
血液検査結果,超音波検査,肝胆道シンチグラフィー,肝生検,および術中胆道造影よって診断する。
治療は肝門部空腸吻合術(葛西手術)を可能な限り早期に,理想的には生後30日までに行うことであり,生後60日以降になると,この手術の成功率は著しく低下する。
多くの場合,その後に肝移植が必要になる。