新生児の蘇生

執筆者:Arcangela Lattari Balest, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 10月
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出生の過程には広範な生理的変化を伴うため,ときに子宮内での生活中には問題とはならなかった状態が明らかになる場合がある。そのため,全ての出産に新生児蘇生の技能を有する人物の立ち会いが必要である。在胎期間成長パラメータは,新生児の病態のリスクを同定するのに役立つ。

新生児の約10%は,分娩時に何らかの呼吸補助を必要とする。新生児の1%未満が,より広範な蘇生を必要とする。出生時に蘇生を必要とする抑制の原因は数多くある( see table 新生児において出生時に蘇生が必要となりうる問題)。出生体重が1500g未満である場合,蘇生の必要性は有意に増加する。

表&コラム
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アプガースコア

アプガースコアは出生時の新生児の心肺系および神経系の状態を表すのに用いられる。このスコアは蘇生やその後の治療の指針をもたらすツールではなく,個々の患児の予後を決定するものでもない。

アプガースコアでは,新生児の健康状態に関する5つの測定項目(皮膚色[Appearance],心拍数[Pulse],刺激に対する反応[Grimace],筋緊張[Activity],呼吸[Respiration]― see table アプガースコア)それぞれに0から2までの点数が割り当てられる。スコアは,生理的成熟度および出生体重,周産期の母体に対する治療,胎児の心肺および神経学的状態に依存する。5分時のスコアが7~10点であれば正常,4~6点であれば中間,0~3点であれば低値とされる。通常,生後1分および5分時にのみスコアを付ける。5分時のスコアが5点以下の場合は,5点を超えるまで5分毎にスコアを付け続ける。

アプガースコアの低値(0~3点)には多くの考えられる原因があり,これには予後が不良である重度で慢性の問題もあれば,速やかに解消でき予後が良好である急性の問題もある。アプガースコアの低値は臨床所見であり,診断ではない。

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蘇生

新生児の蘇生は,American Academy of PediatricsおよびAmerican Heart Associationの最新の推奨に従うべきである(1)。

準備が不可欠である。周産期の危険因子を同定し,チームのメンバーに役割を割り振り,器具の準備および点検を行う:

  • 陽圧換気(PPV)の施行を含め,新生児の蘇生の始めの数ステップを行える技能を有する人が少なくとも1人は全ての出生に立ち会うべきであり,特異的な危険因子がない場合でも,蘇生術を全て行える能力のあるさらなるスタッフが迅速に対応できるようにすべきである。複雑な蘇生には4人以上のチームが必要になる場合があり,危険因子によっては,出生前から蘇生チーム全員がそろっていることが適切となる場合もある。

  • 早産の分娩では,事前に室温を23~25℃(74~77°F)に設定する。

  • 32週未満の早産児には,温熱マット,帽子,およびビニール袋またはラップを使用すべきである。

蘇生が必要になる可能性を高める周産期の危険因子が多く存在する。新生児において蘇生が必要となりうる問題の表に記載されたもの以外にも,以下の危険因子がある:

  • 出生前ケアの不足

  • 在胎期間が36週未満または41週以上

  • 多胎妊娠

  • 鉗子分娩,吸引分娩,または緊急帝王切開の必要性

  • 胎便による羊水混濁

  • 肩甲難産,骨盤位,またはその他の異常胎位

  • 胎児における特定の異常な心拍数パターン

  • 乳児における感染症の徴候

  • 母体の危険因子(例,発熱,未治療または治療が不十分なB群レンサ球菌感染症)

新生児蘇生のアルゴリズム

* PPV:在胎期間35週以上の乳児には室内気(21%酸素)で,在胎期間35週未満の乳児には21~30%酸素で蘇生を開始する。SpO2目標値に達しない場合,吸入酸素濃度を漸増する。

†3:1の圧迫・換気比(1分間に圧迫90回と呼吸30回)圧迫と換気は同時ではなく連続的に行う。つまり,120回/分の速度で3回圧迫後,0.5秒の換気を1回行う。

CPAP = 持続陽圧呼吸;ECG = 心電図;ETT = 気管内チューブ;HR =心拍数;PPV = 陽圧換気;SpO2 = 酸素飽和度;UVC = 臍静脈カテーテル。

Based on Weiner GM: Textbook of Neonatal Resuscitation, ed.8.Itasca, American Academy of Pediatrics, 2021.

最初の処置

全ての新生児に対する最初の処置として,以下が挙げられる:

  • 呼吸,心拍数,および皮膚色の迅速な評価(出生から60秒以内)

  • 保温し体温を36.5~37.5℃に維持する

  • 体を拭いて乾かす

  • 児を刺激する

  • 気道が開く体位をとらせる

  • 必要であれば吸引

バルブシリンジの使用を含む吸引は,明らかな気道閉塞があるか陽圧換気を必要とする新生児のみに適応となる。

蘇生の必要がない早産児および正期産児では,臍帯クランプを30秒遅らせることが推奨されている。蘇生が必要な新生児において臍帯クランプを遅らせることに関する推奨については,エビデンスが不十分である。

活発で蘇生を必要としない新生児の90%では,できるだけ早く母子接触(skin-to-skin contact)を確立する。

蘇生の必要性は主に新生児の呼吸努力および心拍数に基づく。心拍数を評価する上では,3点誘導法の心臓モニタリングが望ましい方法である。呼吸の臨床的評価に加え,予想される出生後最初の10分間の酸素飽和度の緩やかな上昇を考慮に入れながら,動脈管前(すなわち右手関節,手,または指)にプローブを装着しパルスオキシメトリーを用いて酸素飽和度をモニタリングする(新生児の酸素飽和度の目標値の表を参照)。

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換気および酸素化

新生児に呼吸努力の抑制がみられる場合,足底を軽く叩く,および/または背中をこすることによる刺激が効果的な場合がある。気道閉塞に対する適応がない限り,吸引は効果的な刺激方法ではなく,無呼吸および徐脈を伴う迷走神経反応を誘発する可能性がある。

呼吸窮迫,努力呼吸,および/またはチアノーゼの持続がみられる心拍数が100/分以上の新生児では,酸素投与および/または持続陽圧呼吸(CPAP)の適応となる。

無呼吸,あえぎ呼吸,または無効な呼吸がみられ心拍数が60~100/分の乳児では,マスクを使用した陽圧換気(PPV)の適応となる。PPVを行う前に最初に口,次に鼻をバルブシリンジで愛護的に吸引することにより,気道を開通させる。頭頸部を中間位(sniffing position)に保ち,顎を前に出し,口を軽く開かせる。正期産児の人工呼吸器の最初の設定値は最大吸気圧(PIP)が20~25cmH2O,呼気終末陽圧(PEEP)が5cmH2O,補助/調節換気(AC)または間欠的強制換気(IMV)で呼吸数40~60回/分とする。具体的な吸気時間を推奨するにはデータが不十分であるが,5秒を超える拡張は推奨されていない。

新生児の心拍数が60/分未満の場合,気管挿管の準備が整うまで,圧迫とPPVが必要とされる。

換気の有効性は,主に心拍数の急速な改善により判断する。心拍数が15秒以内に上昇しなければ,マスクを調整して良好な気密性を確保するとともに,気道が開通するように頭部,口,および顎の位置を確認し,バルブシリンジおよび/または10~12Fのカテーテルを用いて口腔および気道を吸引し,胸壁の拳上を評価する。胸壁が十分に拳上されるよう,気道圧を上げる。最大吸気圧(PIP)は患児が反応する最低レベルに設定すべきであるが,正期産児では十分な換気を得るために最初のPIPは25~30cmH2Oが必要である可能性がある。ほとんどの場合,早産児が十分な換気を得るために必要な圧はより低い。1回換気量が短時間でも過剰になると,新生児の肺を容易に損傷しうるため(特に早産児において),蘇生中は頻繁にPIPを評価し調整することが重要である。蘇生中の1回換気量を測定し管理する機器について報告されており,役立つ可能性があるが,その役割は現在のところ確立されていない。

患児の臨床状態に応じて酸素濃度を変化させられるように,酸素投与にはブレンダーを用いるべきである。陽圧換気は正期産児では21% O2(室内気)で,35週以下の早期産児では21~30% O2で開始すべきであり,パルスオキシメーターの表示に従って調整する。圧迫または挿管を必要とする患児,またはPPVに反応せず心拍数の増加がみられない患児には,100%酸素(吸入気酸素濃度[FIO2]100%)を投与すべきである。高酸素血症(酸素飽和度 > 95%)は避けるべきである。蘇生に良好に反応したが,肺疾患の所見なくチアノーゼの持続がみられる患児は,先天性心疾患を有している可能性がある。

挿管および胸骨圧迫

患児がマスクによる陽圧換気に反応しない場合,または心拍数が60/分未満の場合,その患児には気管挿管を行うべきである。出生前に横隔膜ヘルニアが診断されているか,臨床的に疑われる児でPPVが必要な場合には即時の気管挿管の適応となる。この状況では,腸管を膨張させて肺をさらに障害しないよう,バッグマスクPPVは避けるべきである。挿管が必要な場合,児の心拍数を最も正確に評価する方法として心電図モニタリングが推奨される。

チューブのサイズおよび挿管の深さは,患児の体重および在胎期間に応じて選択する。

気管内チューブの直径は以下の通りである:

  • 1000g未満または在胎28週未満の乳児では2.5mm

  • 1000~2000gまたは在胎28~34週の乳児では3mm

  • 2000gを超えているか在胎34週を超えている乳児では3.5mm

挿入の深さについては,口唇に以下の印がくるまでとする:

  • 1kg未満の乳児では5.5~6.5cm

  • 1kgの乳児では7cm

  • 2kgの乳児では8cm

  • 3kgの乳児では9cm

多くの気管内チューブには,初回留置をガイドして挿入深度を声帯の位置と合わせるために挿入用の印が付けられている。

挿管後直ちに医師が呼吸音を聴取して,左右差がないか確認する。チューブの挿入が深すぎると,右主気管支の選択的挿管により左側の呼吸音が減弱することが多い。

比色検出器を用いて呼気中の二酸化炭素を検査することにより,気管挿管を確認すべきである。陽性結果であれば,比色計の指示薬が紫/青から黄色に変化し,気管挿管が確認される。陰性結果は最も多くは食道挿管によるが,換気が不十分な場合や,心拍出量が極めて不良な場合にもありうる。指示薬が黄色のままである場合は,アドレナリンによる直接汚染か,機器の不良を示唆している可能性もある。

適切な気管内チューブの深さは,チューブの先端が胸部X線上で鎖骨と気管分岐部のほぼ中央に位置する深さであり,椎骨レベルT1~T2とほぼ一致する。

34週以上(または2000g以上)の乳児では,挿管が困難な場合にはラリンジアルマスクを使用してもよい。チームのメンバーが気管内チューブを留置できない場合は,在胎期間にかかわらず,適切なバッグマスクPPVにより児を維持できる。このような患児では,胃の減圧を可能にするために経鼻胃管を留置すべきである。

挿管後に十分な最高吸気圧においても心拍数が改善せず,胸部の拳上が十分でない場合には,気道が閉塞している可能性があり,吸引を行うべきである。径の小さいカテーテル(5~8F)で気管内チューブ内の粘稠度の低い分泌物を除去できる可能性があるが,粘稠度の高い分泌物,血液,または胎便には無効である。このような場合,胎便吸引器により持続吸引を行いながら気管内チューブを抜去することができ,ときには太いカテーテル(10~12F)で直接気管を吸引してもよい。気管を吸引した後,再度挿管する。

児の換気が十分で,心拍数が60/分未満にとどまっている場合,胸郭包み込み両母指圧迫法を用いて圧迫・換気比3:1,圧迫90回,換気30回/分の割合に調整した胸骨圧迫を行うべきである。胸骨圧迫における二本指法はもはや推奨されていない。胸骨圧迫開始時には,もし挿管がまだであれば,挿管が常に適応となり,酸素濃度は100%に上げるべきである。胸骨圧迫を60秒間行った後,心拍数を再評価すべきである。

児に十分な換気と1分間の胸骨圧迫を行っても重度の徐脈が持続する場合は,可及的速やかに臍静脈にカテーテルを挿入するか,骨髄(IO)針を留置してアドレナリンを血管内投与する。アクセスを確保する間に気管内チューブを介してアドレナリンを1回投与してもよいが,この経路の有効性は不明である。推奨されるアドレナリンの用量は,0.02mg/kg(0.1mg/mL溶液[以前は1:10,000溶液として知られていた]で0.2mL/kg)を3~5分毎に必要に応じて静脈内または骨髄内に反復投与する。血管確保の間に行うべきアドレナリン気管内投与の推奨用量は,0.1mg/kg(0.1mg/mL溶液[1:10,000溶液]で1mL/kg)である。より高用量のアドレナリンは推奨されていない。

蘇生に反応しない場合

患児が蘇生に反応せず蒼白および/または灌流不良がみられる場合,5~10分にわたる生理食塩水10mL/kgの静注による循環血液量の増量が推奨される。早産児では,脳室内出血のリスクがあるため,電解質輸液製剤またはコロイド輸液製剤のボーラス投与はより長期間(30~60分)かけて行うべきである。未交差のO型Rh陰性濃厚赤血球も循環血液量の増量に使用可能であり,特に急性で重度の失血があった場合に行う。

炭酸水素ナトリウムおよびアトロピンなどの薬剤は,蘇生の過程において推奨されていない。ナロキソンは呼吸抑制の管理の初期のステップでは推奨されておらず,2018年のコクランレビュー(Cochrane Review)では,新生児におけるこの薬剤の安全性と有効性について判断するにはエビデンスが不十分であるとされた。

患児が蘇生に反応しないか,最初の反応後に突然悪化した場合,気胸を除外する必要がある。聴診において片側性の呼吸音減弱が認められることで臨床的に気胸が疑われることがあるが,呼吸音は前胸部を良好に伝達するため,両側性の呼吸音の存在から判断の誤りにつながる可能性がある。胸部の透光検査を行ってもよいが,これはすぐに使用できる強い光源がないこと,十分に部屋を暗くできないことから,しばしば限られる。さらに,皮膚の薄い小柄な患児では気胸と誤診される可能性があり,皮膚の厚い大柄の患児では気胸が見逃される可能性がある。胸部X線は典型的には蘇生中に有効活用するには時間がかかりすぎるが,ベッドサイドでの超音波検査は,もしすぐに利用可能であれば,正確で迅速な診断をもたらす可能性がある。気胸は蘇生に対する無反応の可逆的な原因であるため,確定診断がされていない場合でも経験的根拠に基づいて両側の胸腔穿刺を考慮すべきである。

胸腔穿刺は予想されていなかった胸水の診断および治療となる場合がある。

蘇生を行わない場合

症例によっては,蘇生が適切でない可能性もある:

  • 出生前に診断された致死的異常を有する乳児:分娩前に余裕をもって家族と相談して,互いに合意できる計画を立てておく。

  • 超早産児(extremely preterm infant):推定された出生前の在胎期間はしばしば正確ではないことを念頭に置きつつ,各施設のガイドラインに従う。

疑われていなかった重度の異常が出生時に発見された新生児では,最初の診断や予後が正確ではない可能性があるため,蘇生を試みるべきである。

可能であれば,生存可能性の限界の判断に新生児専門医が関与すべきである。産科的な妊娠週数データは母親に関する記録からだけでなく,直接母親からも収集すべきであり,それらを用いて分娩予定日と可能性のある在胎期間の範囲をそれぞれ独立して算出すべきである。両親との話し合いでは,推定在胎期間と出生体重(既知の場合),胎児の性別,単胎妊娠/多胎妊娠の別,およびコルチコステロイドによる出生前の治療に基づいて,地域および国の最新のアウトカムデータを考慮すべきである。許容されるアプローチがいくつかある場合,蘇生を試みるかどうかの判断に際しては両親の意見が最も重要な因子である。

大半の家族と医師にとって,蘇生の目標は重度の合併症なく児が生存することにある。バイタルサインが検出できない状態で産まれ,約20分にわたる適切な蘇生にもかかわらず生命の徴候が回復しない新生児では,この目標を達成できる可能性が低く,Textbook of Neonatal Resuscitationのガイドラインに従えば,このような状況下での蘇生中止は妥当と考えられる(1)。しかし,重度の徐脈が持続する場合に,どれぐらいの間,蘇生を続けるかや,蘇生中止後に心拍数が上昇した場合に何を行うべきかに関する確立したガイドラインはない。このような場合,治療の目標に照らして介入の妥当性を評価すべきである。

総論の参考文献

  1. 1.Weiner GM, ed: Textbook of Neonatal Resuscitation, ed.8.Itasca, American Academy of Pediatrics, 2021.

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