脂質異常症

(高脂血症)

執筆者:Michael H. Davidson, MD, FACC, FNLA, University of Chicago Medicine, Pritzker School of Medicine;
Pallavi Pradeep, MD, University of Chicago
レビュー/改訂 2023年 5月
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脂質異常症とは,血漿コレステロール,トリグリセリド(TG)値,もしくはその両方が高値であること,または高比重リポタンパク質コレステロール(HDL-C)が低値であることであり,動脈硬化発生に寄与する。一次的な原因(遺伝性)と二次的な原因がある。診断は,総コレステロール,TG,および各リポタンパク質の血漿中濃度測定による。治療は食習慣の変更,運動,および脂質低下薬である。

脂質代謝の概要も参照のこと。)

血清脂質濃度は連続的であり,正常値と異常値の間に正確な閾値はない。脂質濃度と心血管リスクとの間には直線的関係が存在する(コレステロール値と心血管リスクの表を参照)可能性が高いため,コレステロール値が「正常な」人の多くも,さらに低値を達成することで便益が得られる。したがって,脂質異常症の数値的な定義はない;この用語は,治療が有益となることが証明されている脂質値に対して適用される。

便益が最も強く証明されているのは,上昇した低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)を下げることである。一般人口では,TGが高値である場合にその値を下げたり,高比重リポタンパク質コレステロール(HDL-C)値が低値である場合にその値を上げたりすることの便益を示すエビデンスはそれほど強固ではない。

HDL-C濃度は必ずしも心血管リスクを予測しない。例えば,ある遺伝性疾患が原因でHDL-Cが高値であっても心血管疾患のリスクは低くない場合もあり,また別の遺伝性疾患が原因でHDL-Cが低値であっても心血管疾患のリスクは高くない場合もある。HDL-C濃度によって一般人口における心血管リスクを予測することはできないが,HDL-C濃度自体ではなく,それに随伴する脂質および代謝の異常(高トリグリセリド血症など)といった,その他の要因によりリスクが上昇する可能性がある。

表&コラム
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脂質異常症の分類

脂質異常症は古典的には脂質およびリポタンパク質の上昇パターンによって分類された(Fredricksonの表現型―リポタンパク質のパターンの表を参照)。より実用的な体系としては脂質異常症を原発性と二次性に分け,さらに以下の特徴によって分類するものである:

  • コレステロールのみの増加:純型または孤立性高コレステロール血症

  • TGのみの増加:純型または孤立性高トリグリセリド血症

  • コレステロールおよびTG両方の増加:混合型高脂血症

この体系では,コレステロール濃度やTG濃度が正常範囲内にあっても疾患に寄与しうる特定のリポタンパク質異常(例,低HDL-Cまたは高LDL-C)は考慮されていない。

表&コラム
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脂質異常症の病因

脂質異常症には以下の種類がある:

  • 原発性:遺伝性

  • 二次性:生活習慣およびその他の因子によって引き起こされる

一次的な原因も二次的な原因も脂質異常症に寄与する程度は様々である。例えば,家族性複合型高脂血症では,重大な二次的原因が存在する場合にのみ発現する可能性がある。

一次的な原因

一次的な原因とは単一または複数の遺伝子変異であり,トリグリセリドおよびLDLの産生過剰またはクリアランス障害,あるいはHDLの産生低下またはクリアランス過剰をもたらす(遺伝性[原発性]脂質異常症の表を参照)。

表&コラム
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二次的な原因

成人脂質異常症例の多くは二次的な原因による。

医療などの資源が豊富な国における脂質異常症の二次的な原因で最も重要なのは以下のものである:

  • 座位時間の長い生活習慣に加え,総カロリー,飽和脂肪酸,コレステロール,およびトランス脂肪酸の過剰摂取

トランス脂肪酸は,水素原子が付加された一価不飽和脂肪酸または多価不飽和脂肪酸である;一部の加工食品に使用され,飽和脂肪酸と同様にアテローム形成作用がある。

脂質異常症の一般的な二次的原因としては,ほかに以下のものがある:

  • 糖尿病

  • 慢性腎臓病

  • 原発性胆汁性肝硬変およびその他の肝胆道系疾患

  • 甲状腺機能低下症

  • アルコール乱用

  • サイアザイド系利尿薬,β遮断薬,レチノイド,高活性抗レトロウイルス薬,シクロスポリン,タクロリムス,プロゲスチン,およびグルココルチコイドなどの薬剤;経口エストロゲンがもたらす作用は混合的である(LDL-Cを減少させ,HDL-Cを上昇させるが,TGも上昇させる)

HDL-C低値の二次的な原因としては,喫煙,タンパク質同化ステロイド,HIV感染症ネフローゼ症候群などがある。

糖尿病は特に重大な二次的な原因であり,患者ではアテローム形成作用のある所見の組み合わせ,すなわちTG高値,small dense LDL分画高値,およびHDL低値が全てみられる傾向にある(糖尿病性脂質異常症,高トリグリセリド血症性の高アポB血症)。2型糖尿病患者では特にリスクが高い。この組合せは,肥満,糖尿病コントロール不良,またはその両方に起因し,これが循環血液中の遊離脂肪酸(FFA)を増加させ,肝臓での超低比重リポタンパク質(VLDL)産生増加につながると考えられる。こうしてTG-rich VLDLはTGおよびコレステロールをLDLやHDLに輸送し,TG-rich small dense LDLの形成ならびにTG-rich HDLのクリアランスを促進する。糖尿病性脂質異常症は,一部の2型糖尿病患者の生活習慣の特徴であるカロリー摂取増加と運動不足によってしばしば増悪する。糖尿病を有する女性では,この型の脂質異常症の結果として,心疾患のリスクが特に高い場合がある。

脂質異常症の症状と徴候

脂質異常症自体は通常は症状を引き起こさないが,TGの濃度が非常に高くなると,錯感覚,呼吸困難,および錯乱を来すことがある。脂質障害は,以下のような,症状を伴う末端臓器の疾患につながる可能性がある:

重度の脂質異常症の患者でみられる所見としては,局所的な脂質沈着(黄色腫)や,血清中の脂質濃度上昇または脂質蓄積に起因するその他の所見などがある。

LDL-C高値は,アキレス腱,肘および膝の腱ならびに中手指節関節に腱黄色腫をもたらすことがある。LDL-Cが高い患者(例,家族性高コレステロール血症または異常βリポタンパク質血症)に生じるその他の臨床所見には,扁平または結節性黄色腫などがある。扁平黄色腫は,平坦またはわずかに隆起した黄色調の斑である。結節性黄色腫は,通常は関節部の伸側にみられる無痛性の硬い結節である。

LDL-C高値の患者では,角膜輪(虹彩周囲の角膜への脂質沈着)および眼瞼黄色腫(眼瞼内側に生じる脂質に富んだ黄色の局面)が発生する可能性がある。眼瞼黄色腫は,脂質値が正常な原発性胆汁性肝硬変患者にも発生することがある。

コレステロールが極度に高値であれば,血漿の外観が乳白色(乳状)になる。

TG値の高度上昇は,体幹,背部,肘,殿部,膝,および手足に発疹性黄色腫をもたらすことがある。重度の高トリグリセリド血症(> 2000mg/dL[> 22.6mmol/L])では,網膜の動静脈が乳白色の外観を呈することもある(網膜脂血症)。

黄色腫の臨床像
発疹性黄色腫(皮膚)
発疹性黄色腫(皮膚)

発疹性黄色腫は,トリグリセリド濃度の上昇による影響が皮膚に現れたものである。

Image provided by Thomas Habif, MD.

発疹性黄色腫
発疹性黄色腫

TG値が高度に上昇した患者では,発疹性黄色腫が体幹,背部,肘,殿部,膝,および手足に生じることがある。

© Springer Science+Business Media

結節性黄色腫
結節性黄色腫

結節性黄色腫は,通常は関節部の伸側にみられる無痛性の硬い結節である。

© Springer Science+Business Media

アキレス腱黄色腫
アキレス腱黄色腫

アキレス腱黄色腫は家族性高コレステロール血症の診断に有用である。

Image courtesy of Michael H.Davidson, MD.

腱黄色腫
腱黄色腫

腱黄色腫(矢印)は家族性高コレステロール血症の診断に有用である。

Image courtesy of Michael H.Davidson, MD.

脂質異常症の診断

  • 血清脂質プロファイル(総コレステロール,TG,およびHDL-Cの測定,ならびにLDL-CおよびVLDL-Cの算出)

脂質異常症の診断は血清脂質値の測定による。ルーチンの測定(脂質プロファイル)には,総コレステロール(TC),TG,HDL-C,およびLDL-Cを含め,その結果を用いてLDL-CおよびVLDL-Cを算出する。

脂質異常症は,しばしばルーチンのスクリーニング検査によって診断される。また,脂質異常症の合併症(例,動脈硬化性疾患)を有する患者で診断が疑われることもある。身体所見はあまり一般的ではなく,あれば原発性脂質異常症を示唆する。

患者に以下がみられる場合,原発性脂質障害が疑われる:

  • 脂質異常症の身体徴候(家族性高コレステロール血症に特有のアキレス腱黄色腫など)

  • 若年(55歳未満の男性,60歳未満の女性)発症のアテローム性動脈硬化性疾患

  • 早発性アテローム性動脈硬化性疾患または重度高脂血症の家族歴

  • 血清コレステロール濃度が190mg/dL(4.9mmol/L)を上回る

脂質プロファイルの測定

総コレステロール(TC),トリグリセリド(TG),およびHDL-Cは直接測定する。TC値およびTG値は,カイロミクロン,VLDL,中間比重リポタンパク質(IDL),LDL,およびHDLを含め,循環している全てのリポタンパク質のコレステロールおよびTGを反映する。疾患がない場合でも,日によってTC値は10%,TG値は最大25%変動する。

TCおよびHDL-Cは非空腹状態で測定することもあるが,最大の精度と一貫性を得られるよう,大部分の患者で全ての脂質測定を絶食時(通常12時間)に行うべきである。

パール&ピットフォール

  • 総コレステロールおよびHDL-Cは非空腹状態でも測定できるが,最大の精度と一貫性を得られるよう,大部分の患者で全ての脂質測定を絶食(通常12時間)時に行うべきである。

炎症状態ではTGおよびリポタンパク質値は増加し,コレステロール値は低下するので,患者に急性疾患があればそれが治癒するまで検査を延期すべきである。また,急性心筋梗塞後の約30日間は脂質プロファイルが変動する可能性があるが,心筋梗塞後24時間以内に得た結果は通常十分な信頼性があり,初回の脂質低下療法の指針にすることができる。

LDL-C値は,HDLおよびVLDLに含まれていないコレステロールの量として算出されることが最も多い。VLDL粒子中のコレステロール濃度は通常は粒子中の総脂質の5分の1であるため,VLDLはTG÷5によって推定される。したがって,LDL-CはFriedewaldの式を使って以下のように推定できる:

equation

算出されたLDLコレステロール値は,全ての非HDL非カイロミクロンコレステロールの測定値を統合したものであり,これにはIDL中およびリポタンパク質[Lp(a)]中のものも含まれる。

TG濃度が上昇している患者では,定数5を用いるとVLDL-C推定時の誤差が拡大する。より信頼性の高いLDL-Cの推定値を得るために,Martin-Hopkinsの式を用いることがある。この場合,定数5は,患者の非HDL-C値およびTG値に基づき,新しく別の係数に置き換えられる(1)。この新しい係数は,患者の非HDL-C値およびTG値に基づくもので,表から導き出される調節可能な因子である。Friedewald式とMartin-Hopkins式はいずれも血清TG値が400mg/dL未満(4.5mmol/L未満)の絶食中の患者を対象に開発されたもので,いずれも妥当性が確認されている。

Martin-Hopkins式は,以下の通りである:

equation

カイロミクロン分画やVLDL分画をHDL-CやLDL-Cから分離する血漿の超遠心分離法,および免疫測定法を用いればLDL-Cを直接測定することもできる。直接測定は,TGの上昇した一部の患者では有用と考えられるが,通常は不要である。

医学計算ツール(学習用)

その他の検査

一部の患者では追加の脂質検査を行うべきである。

若年性動脈硬化性心血管疾患の患者,心血管疾患の患者(リスクが低い脂質濃度であっても行う;コレステロール値と心血管リスクの表を参照),またはLDL-C高値で薬物療法に抵抗性の患者では,Lp(a)濃度およびC反応性タンパク(CRP)濃度を測定すべきである。Lp(a)濃度の直接測定は,LDL-C値が境界高値の患者で薬物療法の必要性を決定するために行われることもある。

TGの上昇およびメタボリックシンドロームがみられる患者では,LDL粒子数またはアポタンパク質B-100(アポB)の測定が有用である。1つのLDL粒子につき1つのアポB分子が存在するため,アポB値からはLDL粒子数と同様の情報が得られる。アポBの測定値には,レムナントおよびLp(a)を含む全てのアテローム形成粒子が含まれる。

アポB値は(VLDL,IDL,およびLDL中の)全ての非HDL-Cを反映し,LDL-CよりもCADリスクの予測に有用である。非HDL-Cの値(TC − HDL-C)も,LDL-CよりCADリスクの予測に有用であり,高トリグリセリド血症の患者で特にこの傾向が強い。

二次的な原因

新規に診断された脂質異常症患者の大半で脂質異常症の二次的な原因を調べる検査を行うべきであり,原因不明の脂質プロファイルの悪化がみられたときは,その検査を再度行うべきである。そのような検査には,以下の測定が含まれる:

  • クレアチニン

  • 空腹時血糖値および/または糖化ヘモグロビン(HbA1C)

  • 肝酵素

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)

  • 尿タンパク

診断に関する参考文献

  1. 1.Martin SS, Blaha MJ, Elshazly MB, et al: Comparison of a novel method vs the Friedewald equation for estimating low-density lipoprotein cholesterol levels from the standard lipid profile. JAMA 310(19):2061-2068, 2013.doi:10.1001/jama.2013.280532

脂質異常症のスクリーニング

空腹時脂質プロファイル(TC,TG,およびHDL-Cの測定,ならびにLDL-Cの算出)を用いてスクリーニングを行う。スクリーニングを開始するタイミングについては学会によってガイドラインが異なる。心疾患または家族性高コレステロール血症の家族歴がある小児では,危険因子に基づいて早ければ2歳からスクリーニングを開始できる。

脂質の測定時には,以下のような他の心血管系危険因子も併せて評価すべきである:

  • 喫煙

  • 糖尿病

  • 55歳未満の第1度近親男性または65歳未満の第1度近親女性におけるCADの家族歴

  • 高血圧

小児を対象としたスクリーニング

大半の医師は,National Heart Lung and Blood Instituteによる2012年度版ガイドライン(1)に従い以下の通りスクリーニングを行うことを推奨している:

  • 危険因子(例,糖尿病高血圧,重度の高脂血症または若年性CADの家族歴)のある小児:空腹時脂質プロファイルを2~8歳の時点で1回測定する

  • 危険因子のない小児:思春期前(通常は9~11歳)に1回,17~21歳の時点でもう1回,非空腹時または空腹時脂質プロファイルを測定する

成人を対象としたスクリーニング

成人は,20歳時(2, 3) およびその後5年毎にスクリーニングすべきである。

スクリーニングを中止する年齢は明確には確立されていないが,80歳代までの患者のスクリーニングを支持するエビデンスがあり,これは特に動脈硬化性心血管疾患を有する患者に有益とされる(4)。

55歳(男性)または65歳(女性)より前の心疾患(心臓発作,脳卒中,または冠動脈疾患)の広範な家族歴があり,LDL高値,喫煙,糖尿病,肥満などの既知の危険因子がなく,Lp(a)高値の家族歴がない患者は,Lp(a)値の測定によるスクリーニングも受けるべきである。

スクリーニングに関する参考文献

  1. 1.Expert Panel on Integrated Guidelines for Cardiovascular Health and Risk Reduction in Children and Adolescents; National Heart, Lung, and Blood Institute.Expert panel on integrated guidelines for cardiovascular health and risk reduction in children and adolescents.2011.

  2. 2.Goff DC Jr, Lloyd-Jones DM, Bennett G, et al: 2013 ACC/AHA Guideline on the Assessment of Cardiovascular Risk.J Am Coll Cardiol 63:2935–2959, 2014.doi: 10.1016/j.jacc.2013.11.005

  3. 3.Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al: 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Blood Cholesterol A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.Circulation 139: e1082–e1143, 2019.doi: 10.1161/CIR.0000000000000625

  4. 4.Kleipool EE, Dorresteijn JA, Smulders YM, et al: Treatment of hypercholesterolaemia in older adults calls for a patient-centred approach. Heart 106(4):261-266, 2020.doi:10.1136/heartjnl-2019-315600

脂質異常症の治療

  • 生活習慣の改善(例,運動,食習慣の改善)

  • LDL-C高値の場合,スタチン系薬剤,胆汁酸吸着剤,エゼチミブ,ベンペド酸,およびPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬

  • TG高値の場合,フィブラート系薬剤,ω-3脂肪酸,およびときに他の処置

一般原則

脂質異常症の治療の主な目標は,動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の予防であり,これには動脈硬化に起因すると考えられる急性冠症候群脳卒中一過性脳虚血発作,または末梢動脈疾患などが含まれる。治療が適応となるのは,ASCVDに罹患している全ての患者(二次予防)および罹患していない患者の一部(一次予防)である。

小児の治療については議論があるが,これは小児期に脂質濃度を低下させることで成人期の心疾患が効果的に予防されるというエビデンスはないためである。また,小児における脂質低下治療の長期の安全性および有効性は不明である。とはいえ,American Academy of Pediatrics(AAP)はLDL-C値が高い小児の一部に対し治療を推奨している。ヘテロ接合体の家族性高コレステロール血症を有する小児は,8~10歳時から治療を開始すべきである。家族性高コレステロール血症を有するホモ接合体の小児では,若年死を予防するために食事療法および薬物療法のほか,しばしばLDLアフェレーシスが必要になり,治療は診断が下された時点から開始する。

治療の選択肢は脂質異常の種類に左右されるが,異なる脂質異常がしばしば併存することがある。単一の異常に複数の治療が必要となる患者もいれば,複数の異常に対して単一の治療で十分な患者もいる。治療には常に,高血圧および糖尿病の治療ならびに禁煙を含めるべきである。また,出血リスクが低く,CADによる死亡または心筋梗塞の10年リスクが20%以上の40~79歳の患者では低用量アスピリンの連日投与も行うべきである。一般に,治療の選択肢は男性と女性で同じである。

LDL-C高値の治療

全ての人にとって,ASCVDを予防するには心臓に良い生活習慣,特に食事と運動に重点を置く必要がある。LDL-Cを低下させるための他の選択肢として,薬剤,栄養補助食品,処置介入などが全ての年齢群で利用できる。これらの選択肢の多くは,他の脂質異常の治療にも効果的である。

食事の変更は理想体重の維持に役立ち,その他の便益もある。食事の変更として具体的には以下のことを行う:

  • 飽和脂肪およびコレステロールの摂取量を減らす

  • 食物繊維および複合炭水化物の割合を増やす

多くの場合,栄養士への紹介が有用である。

運動は一部の患者でLDL-Cを低下させ,理想体重の維持にも不可欠である。

食習慣の変更と運動が可能な場合は常に行うべきであるが,American Heart Association(AHA)/American College of Cardiology(ACC)ガイドラインは,特定の患者群に対しては,スタチン療法のリスクと便益を話し合ったあと,薬物療法を併用することを推奨している(1)。

成人の薬物療法について,AHA/ACCガイドラインでは以下の4つの患者集団に対してスタチン系薬剤による治療が推奨されている:

  • 臨床症状のあるASCVD

  • LDL-C ≥ 190mg/dL(≥ 4.9mmol/L)

  • 40~75歳で糖尿病があり,かつLDL-C値70~189mg/dL(1.8~4.9mmol/L)

  • 40~75歳でLDL-C値70~189mg/dL(1.8~4.9mmol/L)に加え,ASCVDの推定10年リスク ≥ 7.5%

ASCVDのリスクは,コホートのプール解析によるリスク評価式を使って推測される。このリスク計算式は,性別,年齢,人種,総コレステロールおよびHDL-C,収縮期および拡張期血圧,糖尿病,喫煙状況,ならびに降圧薬またはスタチン系薬剤の使用状況に基づく。

若年患者では10年リスクが低くても,長期的なリスクを考慮しなければならないため,生涯リスクの高さ(AHA/ACCリスク計算ツールにより算出する)が重要である。

スタチン系薬剤を投与するかどうかを検討する際には,以下のような他の因子も考慮に入れることがある:

  • LDL-C ≥ 160mg/dL(4.1mmol/L)

  • 若年ASCVD(発症年齢が男性の第1度近親者で55歳未満,女性の第1度近親者で65歳未満)の家族歴

  • 高感度C反応性タンパク(CRP)≥ 2mg/L(≥ 19nmol/L)

  • 冠動脈カルシウムスコアが300 Agatston単位以上(または患者の人口統計学的特性で75パーセンタイル以上)

  • 足関節上腕血圧比 < 0.9

  • 高い生涯リスク

スタチン系薬剤は心血管疾患による死亡率と有病率を下げるというエビデンスがあるため,LDL-Cを低下させる上での第1選択の治療である(2)。その他のクラスの脂質低下薬は,ASCVDを減少させる上で同等の効果が証明されていないため,上昇したLDL-Cに対する第1選択にはならない。

スタチン系薬剤はコレステロール合成に重要な酵素であるヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素を阻害し,これがLDL受容体のアップレギュレーションおよびLDLクリアランスの亢進につながる。スタチン系薬剤は,最大60%のLDL-C低下,HDL-Cのわずかな上昇,およびTGの軽度低下をもたらす。スタチン系薬剤はさらに,内皮の一酸化窒素の産生を刺激することにより,動脈内の炎症,全身性の炎症,またはその両方を抑制すると考えられており,そのほかにも有益な効果を有する可能性がある。

スタチン療法の強度は高,中,低に分類され,治療群および年齢に基づいた用量が処方される(ASCVD予防のためのスタチン系薬剤の表を参照)。スタチン系のうちどの薬剤を選択するかは,患者の併存疾患,併用薬,有害事象の危険因子,スタチン系への不耐性,費用,患者の好みに応じて決定する。

スタチンの有害作用はまれであるが,肝酵素上昇および筋炎または横紋筋融解症などがある。肝酵素上昇はまれであり,重篤な肝毒性は極めてまれである。筋肉系の症状または重度の有害作用はスタチン系薬剤を服用する患者の最大10%に生じ,用量依存的でありうる。筋肉系の症状は筋酵素(例,クレアチンキナーゼ)の上昇を伴わずに生じる場合がある。有害作用は,高齢患者,複数の疾患を有する患者,および複数の薬剤を使用している患者でより多い。一部の患者では,あるスタチン系薬剤から別のスタチン系薬剤に変更または(一時的な中断後)減量することによって問題が解決する。筋毒性が発生することが最も多いのは,特定のスタチン系薬剤がチトクロムP450 3A4を阻害する薬物(例,マクロライド系抗菌薬,アゾール系抗真菌薬,シクロスポリン)およびフィブラート系薬剤,特にゲムフィブロジルと併用されたときであると考えられる。スタチン系薬剤は妊娠および授乳期間中は禁忌である。

ASCVD患者では,LDL-C値を下げるほどリスクが低くなる。したがって,初期治療はスタチン系薬剤の最大耐用量により行い,LDL-Cを50%以上低下させることを目標とする(高強度療法)。非常に高リスクのASCVD患者(例,最近の心筋梗塞不安定狭心症,または糖尿病などの高リスク併存症を有する患者)において,最大限のスタチン療法にもかかわらずLDL-C値が70mg/dL(1.2mmol/L)を超える場合は,エゼチミブまたはPCSK9阻害薬(例,エボロクマブ,アリロクマブ)を追加すべきである。これらの治療法は,スタチン療法と併用することで主要心血管イベントを減少させることが,大規模臨床転帰試験で証明されている(3, 4)。

スタチン系以外の薬剤もLDL-C低下に役立つ(非スタチン系脂質低下薬の表を参照)。ACCによる2022年版非スタチン療法に関する専門家コンセンサス決定方針(Expert Consensus Decision Pathway on the Role of Nonstatin Therapies)では,ASCVDの一次予防と二次予防の両方における非スタチン療法の役割が紹介されている(5)。スタチン系薬剤は一般的に第1選択薬であるが,スタチンに耐えられない患者,またはスタチン系薬剤の使用にもかかわらずLDL-C目標値を達成できない患者には,非スタチン系薬剤が使用される。

表&コラム
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アデノシン三リン酸クエン酸リアーゼ阻害薬であるベンペド酸は,肝臓でのコレステロール合成を阻害し,LDL受容体を増加させる。この薬剤はLDL-Cを15~17%低下させる(6, 7)。ベンペド酸は筋肉痛や筋力低下を引き起こさないため,スタチン系薬剤に関連する筋肉系の有害作用がある患者で特に有用である。単剤療法として,他の脂質低下療法への追加薬としても使用できる。リスクには高尿酸血症や腱断裂などがある。

胆汁酸吸着剤(コレスチラミン,colestipol,colesevelam)は腸管からの胆汁酸再吸収を阻害し,肝LDL受容体のアップレギュレーションを促し,胆汁合成のため循環血液中のコレステロールを動員する。これは心血管死亡率を低下させることが証明されている。胆汁酸吸着剤は通常,スタチン系薬剤またはニコチン酸とともにLDL-C低下作用を増強するために用いられる。これは妊婦,または妊娠を計画中の女性における第1選択薬である。スタチン系薬剤は,胎児の発育に必須のコレステロール合成の阻害により催奇形性を示す可能性があるため,妊娠中は禁忌である。胆汁酸吸着剤は安全であるが,腹部膨満,悪心,筋痙攣,便秘といった有害作用によって使用が制限される。また,TGを増加させる可能性があることから,高トリグリセリド血症を有する患者での使用は禁忌である。コレスチラミン,コレスチポール,およびコレセベラム(ただしコレセベラムは程度が低い)は他の薬剤,特にサイアザイド系利尿薬,β遮断薬,ワルファリン,ジゴキシン,およびサイロキシンの吸収を阻害し,この作用を低減するためには,本剤の投与を他方の薬剤の投与の少なくとも4時間前または1時間後にする。その効力を高めるため,胆汁酸吸着剤は食事とともに投与すべきである。

コレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブは,腸管からのコレステロール吸収およびフィトステロール吸収を阻害する。エゼチミブは通常LDL-Cを15~20%低下させ,HDL-Cのわずかな上昇およびトリグリセリドの軽度低下をもたらす。エゼチミブはスタチンに耐えられない患者において単剤療法として使用することも,最大量のスタチン系薬剤を使用しているがLDL-C高値が持続している患者において追加薬として使用することもできる。有害作用はまれである。

抗PCSK9モノクローナル抗体(アリロクマブ,エボロクマブ)の皮下注射用製剤は,月1回または月2回投与する。この薬剤は,PCSK9のLDL受容体への結合を阻害することにより,LDL受容体の機能を改善する。LDL-Cの値は40~70%低下する。エボロクマブおよびアリロクマブによる心血管転帰を調べた試験では,動脈硬化性心血管疾患の既往がある患者において心血管イベントが減少した(3)。

PCSK9を標的とするSiRNAは6カ月毎に皮下注射で投与する。インクリシランは肝臓でのPCSK9産生を阻害することにより,LDL受容体の活性を延長させ,LDL-C値を低下させる。LDL-Cが低下することはわかっているが,インクリシランによる心血管系の転帰に関する試験は進行中である。インクリシランは,ASCVDの患者またはヘテロ接合体家族性高コレステロール血症患者に対する,食事療法および最大耐容量のスタチン療法の補助薬として使用できる。

LDL-C濃度を低下させる栄養補助食品には,食物繊維サプリメントや,植物ステロール(シトステロール,カンペステロール)またはスタノールを含む市販のマーガリン等の製品などがある。食物繊維サプリメントは,吸収の減少や排泄の増加など,様々な方法でコレステロール値を低下させる。燕麦をベースとする食物繊維サプリメントは,総コレステロールを最大18%減少させる。植物ステロールおよびスタノールは,腸管内のミセルからコレステロールを解離させることによって,コレステロール吸収を減少させ,HDL-CまたはTGに影響を及ぼさずにLDL-Cを最大10%低下させる。

コレステロールエステル転送タンパク阻害薬は,研究中の薬物クラスであり,HDL-Cを上昇させると同時にLDL-Cを低下させる可能性がある。コレステロールエステル転送タンパク(CETP)は,肝臓および脂肪組織で産生される血漿糖タンパク質で,主にHDLに結合して血中を循環し,HDLからApoB含有粒子へのコレステロールエステルの転送を媒介する。

ホモ接合体家族性高コレステロール血症に対する薬剤

ホモ接合体の家族性高コレステロール血症に対する薬剤には,PCSK9阻害薬,ロミタピド,エビナクマブなどがある。ロミタピドは,ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質の阻害薬であり,肝臓および腸管内でTG-richリポタンパク質の分泌を妨げる。低用量で開始し,約2週毎に漸増する。脂肪由来のカロリーを食事の20%未満に抑えなければならない。ロミタピドは消化管の有害作用(例,下痢,肝臓脂肪の増加,肝酵素の上昇)を引き起こす恐れがある。エビナクマは,LPLや内皮リパーゼの阻害物質であるアンジオポエチン様タンパク質3に結合してその作用を阻害する遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体である。LDL-C値(47%),TG値,およびHDL-C値を低下させることができる。エビナクマブは月1回の点滴静注で投与する。痛風,インフルエンザ様疾患,および輸注反応(infusion reaction)を引き起こす可能性がある。

処置を伴うアプローチ

処置を伴うアプローチは,重度の高脂血症(LDL-C > 300mg/dL[> 7.74mmol/L])で血管疾患のない患者に限定して使用される。LDLアフェレーシスは,家族性高コレステロール血症の患者など,従来治療に抵抗性の血管疾患がありLDL-C > 200mg/dL(> 5.16mmol/L)の患者に行われることがある。選択肢としては,LDLアフェレーシス(体外血漿交換でLDLを除去する)のほか,まれではあるが回腸バイパス(胆汁酸の再吸収を阻害する),肝移植(LDL受容体の移植)などがある。最大耐容量による治療を行ってもLDL-Cを十分に低下できないときには,ほとんどの場合LDLアフェレーシスが選択すべき処置となる。アフェレーシスは,薬物療法に対する反応が限られている,または薬物療法に反応しないホモ接合体の家族性高コレステロール血症患者でも一般的に行われる治療である。

小児におけるLDL-C高値

家族歴および糖尿病以外の小児期の危険因子には,喫煙,高血圧,HDL-C低値(< 35mg/dL[< 0.9mmol/L]),肥満,および運動不足などがある。

American Heart Associationは,LDL-Cが110mg/dL(2.8mmol/L)を上回る小児に対して食事療法を推奨している(8)。

8歳以上で以下のいずれかが認められる小児には,薬物療法が推奨される:

  • 食事療法に対する反応が不良で,LDL-Cが190mg/dL以上(4.9mmol/L以上),かつ,若年性心血管疾患の家族歴がない

  • LDL-Cが160mg/dL(4.13mmol/L)以上で若年性心血管疾患の家族歴がある,または若年性心血管疾患の危険因子を2つ以上有する

小児に使用される薬剤には多くのスタチン系が含まれる。家族性高コレステロール血症の小児は,LDL-Cの値を少なくとも50%低下させるため,2つ目の薬剤を必要とする。

トリグリセリド高値

TG高値が単独で心血管疾患の一因となるかは不明であるが,TGは冠動脈疾患の原因となる複数の代謝異常(例,糖尿病メタボリックシンドローム)に随伴する。TGが高値であれば低下させるのが有益であるという合意が形成されつつある。目標値はないが,濃度150mg/dL(1.7mmol/L)未満が一般に望ましいとみなされている。いずれのガイドラインでも小児のTG上昇の治療については具体的に取り上げられていない。

全体的な治療戦略は,運動,減量,ならびに濃厚な糖質およびアルコールの回避を含む生活習慣の改善を最初に実行することである。ω-3脂肪酸に富んだ海水魚を週に2~4サービング摂取すると効果的なこともあるが,ω-3脂肪酸の量はしばしば必要量よりも少なく,その場合は栄養補助食品による補給が役立つことがある。糖尿病患者では血糖値を厳格にコントロールすべきである。これらの方法が無効であれば脂質低下薬を考慮すべきである。著明なTG高値(1000mg/dL[11mmol/L]超)を呈する患者には,診断時に薬物療法を開始し,急性膵炎のリスクをより迅速に低下させることが必要になる場合がある。

フィブラート系薬剤はTGを約50%低下させる。フィブラート系薬剤は内皮リポタンパク質リパーゼ(LPL)を刺激すると考えられ,それにより肝臓や筋肉で脂肪酸酸化が亢進し,肝臓でのVLDL合成が減少する。また,HDL-Cも最大20%上昇させる。フィブラート系薬剤は,ディスペプシア,腹痛,および肝酵素の上昇などの消化管有害作用を引き起こすことがある。胆石症を引き起こすことはまれである。フィブラート系薬剤はスタチン系薬剤と併用すると筋毒性を増強し,またワルファリンの作用を増強する場合がある。

スタチン系薬剤は,TGが500mg/dL(5.65mmol/L)未満の患者でLDL-C高値もある場合に使用できる;スタチン系薬剤はVLDLの低下を介して,LDL-CおよびTGの両方を低下させる可能性がある。TGのみが上昇しているのであれば,選択すべき薬剤はフィブラート系である。

高用量のω-3脂肪酸(1~6g/日のエイコサペンタエン酸[EPA]およびドコサヘキサエン酸[DHA])は,TGの低下に有用な場合がある。ω-3脂肪酸のEPAおよびDHAは,海水魚の魚油やω-3カプセルの活性成分である。有害作用には曖気および下痢などがある。これらの有害作用は魚油カプセルを食事時に分割投与(例,1日2回または1日3回)することによって軽減できる。ω-3脂肪酸は他の治療の有用な補助となりうる。ω-3脂肪酸製剤の処方は,TGの値が > 500mg/dL(> 5.65mmol/L)の患者に適応がある。

一部の国では,Apo CIII阻害薬(アポ CIIIのアンチセンス阻害薬)であるボラネソルセン(volanesorsen)が利用できる。これはリポタンパク質リパーゼ欠損症患者をはじめ,TGの値が著しく高い患者でTGを低下させる。週に1回注射で投与される。

HDL-C低値

HDL-C高値は低い心血管リスクを予測するが,HDL-C値を上昇させることで死亡リスクが低下するかどうかは不明である。Third Report of the NCEP Expert PanelのガイドラインはHDL-C低値を40mg/dL未満(1.04mmol/L未満)と定義している;このガイドラインはHDL-Cの目標濃度を特定しておらず,HDL-Cを上昇させる介入はLDL-C目標が達成されてからのみ行うことを推奨している(9)。LDL-CとTGを低下させる治療を行うことで,HDL-Cも上昇することが多く,3つの目的はときに同時に達成されうる。

いずれのガイドラインでも小児の低HDL-Cの治療については具体的に取り上げられていない。

パール&ピットフォール

  • HDL-C高値は低い心血管リスクを予測するが,HDL-C値を上昇させる治療により心血管イベントまたは死亡のリスクが低下するかどうかは不明である。

治療は,運動の増加および減量などの生活習慣の改善である。アルコールはHDL-Cを上昇させるが,そのほかに多数の有害作用があるので治療としてルーチンには推奨されていない。生活習慣の改善のみでは不十分な場合に薬剤により濃度が上昇することがあるが,HDL-C濃度上昇により死亡率が低下するかどうかは不明である。

ニコチン酸(ナイアシン)はHDL-C上昇に最も効果的な薬剤である。作用機序は不明であるが,HDL-C産生増加とHDL-Cクリアランス阻害の両方が考えられる;また,コレステロールをマクロファージから動員する可能性もある。ナイアシンはTGを低下させ,用量1500~2000mg/日ではLDL-Cも低下させる。ナイアシンは紅潮,そう痒,および悪心を引き起こすが,低用量アスピリンの前投与でこれらの有害作用を予防できる。徐放性製剤では紅潮の発現頻度がより低い。しかし,ポリゲルによって放出制御されるナイアシンを除き,大半のOTC医薬品の徐放性製剤は推奨されない。ナイアシンは肝酵素の上昇を招くことがあり,ときに肝不全,インスリン抵抗性,ならびに高尿酸血症および痛風を引き起こす。また,ホモシステイン濃度も上昇させることがある。高用量ナイアシンとスタチン系薬剤の組合せにより,ミオパチーのリスクが上昇することがある。LDL-C濃度が平均値でHDL-C濃度が平均未満の患者では,ナイアシンとスタチン系薬剤の併用療法が心血管疾患予防に効果的となる可能性がある。LDL-Cを70mg/dL未満(1.8mmol/L未満)に低下させるためにスタチン系薬剤を投与されている患者では,ナイアシンを投与しても追加の便益は得られないようであり,虚血性脳卒中などの有害作用が増える可能性がある。

フィブラート系薬剤はHDL-Cを上昇させる。フィブラート系薬剤は,TG > 200mg/dL(> 2.26mmol/L)かつHDL-C < 40mg/dL(< 1.04mmol/L)の患者の心血管リスクを低下させる可能性がある。

Lp(a)高値

Lp(a)高値の患者に対する通常のアプローチは,LDL-Cを積極的に低下させることである。Lp(a)高値で進行性の血管疾患を有する患者では,Lp(a)を低下させるのにLDLアフェレーシスが用いられている。

Lp(a)の正常上限は約30mg/dL(75nmol/L)であるが,アフリカ系アメリカ人ではより高値である傾向がある。Lp(a)高値の治療指針となるデータ,または治療の効果を証明するデータはほとんどない。ナイアシンはLp(a)を直接低下させる唯一の薬物であり,高用量では20%を超えてLp(a)を低下させることがある。Lp(a)値を低下させる臨床開発段階のRNA療法がいくつかある。

併存症のある患者の治療

糖尿病性脂質異常症の治療には,LDL-Cを低下させるため生活習慣の改善およびスタチン系薬剤を常に用いるべきである。膵炎のリスクを低下させるため,TG濃度が500mg/dL超(5.65mmol/L超)の場合には,TGを低下させるのにフィブラート系薬剤を使用できる。メトホルミンはTGを低下させ,これは糖尿病治療時に他の経口血糖降下薬ではなくメトホルミンが選択される理由の1つであると考えられる。一部のチアゾリジン系薬剤(TZD)は,HDL-CとLDL-Cをいずれも上昇させる。一部のTZDもTGを低下させる。これらの血糖降下薬は,糖尿病患者の脂質異常治療に脂質低下薬の代わりとして選択すべきではないが,補助療法として有用な可能性はある。TG値が著明に高値で,至適なコントロールがされていない糖尿病患者は,経口血糖降下薬よりもインスリンによく反応する可能性がある。

甲状腺機能低下症慢性腎臓病,肝疾患,またはこれらの疾患の組合せを有する患者の脂質異常症治療では,基礎疾患をまず治療してから脂質異常の治療を始める。甲状腺機能が正常低値(TSH濃度が正常高値)の患者における脂質濃度異常はホルモン補充によって改善する。脂質異常を引き起こす薬剤は減量または中止を考慮すべきである。

治療のモニタリング

治療開始後は脂質濃度を定期的にモニタリングすべきである。特定のモニタリング間隔を支持するデータはないが,治療の開始または変更から2~3カ月後,および脂質濃度が安定してからは年に1,2回の測定が一般的である。

スタチン系薬剤の使用に伴う肝毒性および重度の筋毒性は,全使用者の0.5~2%に発生する。肝酵素値のルーチンなモニタリングは不要であり,クレアチンキナーゼ(CK)のルーチンな測定は横紋筋融解症の発症予測に有用ではない。患者が筋肉痛またはその他の筋肉症状を発症しない限り,筋酵素濃度を定期的に測定する必要はない。スタチン系薬剤により誘発された筋損傷が疑われる場合は,スタチン系薬剤の使用を中止し,CKを測定する場合がある。筋肉系の症状が軽減したら,用量の減量,または別のスタチン系薬剤を試すことができる。スタチン系薬剤を中止して1~2週間以内に症状が治まらなければ,筋肉系の症状を引き起こす他の原因(例,リウマチ性多発筋痛症)を探すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al: 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Blood Cholesterol A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.Circulation 139: e1082–e1143, 2019.doi: 10.1161/CIR.0000000000000625

  2. 2.US Preventive Services Task Force, Mangione CM, Barry MJ, et al: Statin Use for the Primary Prevention of Cardiovascular Disease in Adults: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA 328(8):746-753, 2022.doi:10.1001/jama.2022.13044

  3. 3.Sabatine MS, Giugliano RP, Keech AC, et al: Evolocumab and clinical outcomes in patients with cardiovascular disease.N Engl J Med 376:1713–1722, 2017.15

  4. 4.Schwartz GG, Steg PG, Szarek M, et al: Alirocumab and cardiovascular outcomes after acute coronary syndrome.New Engl J Med 379:2097–2107, 2018.doi: 10.1056/NEJMoa1801174.

  5. 5.Writing Committee, Lloyd-Jones DM, Morris PB, et al:.2022 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Role of Nonstatin Therapies for LDL-Cholesterol Lowering in the Management of Atherosclerotic Cardiovascular Disease Risk: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee [published correction appears in J Am Coll Cardiol 2023 Jan 3;81(1):104]. J Am Coll Cardiol 80(14):1366-1418, 2022.doi:10.1016/j.jacc.2022.07.006

  6. 6.Goldberg AC, Leiter LA, Stroes ESG, et al.Effect of Bempedoic Acid vs Placebo Added to Maximally Tolerated Statins on Low-Density Lipoprotein Cholesterol in Patients at High Risk for Cardiovascular Disease: The CLEAR Wisdom Randomized Clinical Trial [published correction appears in JAMA. 2020 Jan 21;323(3):282]. JAMA 2019;322(18):1780-1788.doi:10.1001/jama.2019.16585

  7. 7.Ray KK, Bays HE, Catapano AL, et al.Safety and Efficacy of Bempedoic Acid to Reduce LDL Cholesterol. N Engl J Med 2019;380(11):1022-1032.doi:10.1056/NEJMoa1803917

  8. 8.de Ferranti SD, Steinberger J, Ameduri R, et al: Cardiovascular Risk Reduction in High-Risk Pediatric Patients: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation 139(13):e603-e634, 2019.doi:10.1161/CIR.0000000000000618

  9. 9.National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III): Third Report of the National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III) final report. Circulation 106(25):3143-3421, 2002.

要点

  • 脂質濃度の上昇は動脈硬化の危険因子であるため,症候性の冠動脈疾患および末梢動脈疾患につながる可能性がある。

  • 脂質異常症の原因としては,座位時間の長い生活習慣,カロリー,飽和脂肪酸,コレステロール,およびトランス脂肪酸の過剰摂取,脂質代謝の遺伝的(家族性)異常などがある。

  • 血清脂質プロファイル(総コレステロール,トリグリセリド,および高比重リポタンパク質[HDL]コレステロールの測定,ならびに低比重リポタンパク質[LDL]コレステロールおよび超低比重リポタンパク質[VLDL]コレステロールの算出)を用いて診断する。

  • 9~11歳時に1回と,17~21歳時にもう1回(重度高脂血症または若年性冠動脈疾患の濃厚な家族歴があるか,または他の危険因子がある場合は,2~8歳時に)スクリーニング検査を施行すべきである;成人は20歳時から,その後5年毎にスクリーニングする。

  • スタチン系薬剤による治療は,American College of Cardiology/American Heart Associationが定義した4大リスク群のほか,それ以外の場合でも危険因子の特定の組合せと脂質高値がある患者において,動脈硬化性心血管疾患のリスクを低減するために適応となる。

  • スタチン系以外の薬剤を追加する前に,アドヒアランス,生活習慣の改善,およびスタチン系薬剤の使用を最適化する;LDL-C値が70mg/dL(1.8mmol/L)を超え,動脈硬化性心血管疾患のリスクが高い患者では,エゼチミブまたはPSCK9阻害薬の追加が妥当である。

  • その他の治療は脂質異常の種類によって異なるが,必ず含めるべきなのは,生活習慣の改善,高血圧および糖尿病の治療,禁煙であり,冠動脈疾患による心筋梗塞または死亡リスクが高い一部の患者では低用量アスピリンの連日投与も含めるべきである。

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