混合性結合組織病は,全身性エリテマトーデス,全身性強皮症,および多発性筋炎の臨床所見を特徴とし,リボ核タンパク質抗原に対する血中の抗核抗体価が著しく上昇する,特異的に定義されるまれな症候群であり。手の腫脹,レイノー症候群,多発性関節痛,炎症性ミオパチー,食道運動の減弱,および間質性肺疾患がよくみられる。診断は,臨床的特徴,リボ核タンパク質に対する抗体,および他の自己免疫疾患に特異的な抗体がみられないことの組合せによる。治療法は疾患の重症度と臓器病変により異なるが,通常はコルチコステロイドと追加の免疫抑制薬を使用する。
混合性結合組織病(MCTD)は世界中の全ての人種に発生しており,青年期と20歳代で最も発生率が高い。本疾患の患者の約80%が女性である。MCTDの原因は不明である。多くの患者で,本疾患が古典的な全身性強皮症または全身性エリテマトーデス(SLE)へと徐々に進行する。
MCTDの症状と徴候
レイノー症候群(レイノー現象)は,他の症状出現より何年も先に起こることがある。初発症状はしばしば,早期のSLE,全身性強皮症,多発性筋炎,または関節リウマチにすら類似している。多くの患者では分類不能な結合組織疾患があるように最初は思われる。症状は進行して広範囲に及ぶことがあり,臨床パターンは時間の経過とともに変化する。
初期において,手の広汎性の腫脹は典型的であるが常に存在するわけではない。皮膚所見には,ループスまたは皮膚筋炎のような発疹などがある。広汎型の全身性強皮症に類似した皮膚の変化や,指先の虚血性壊死または潰瘍が生じることがある。
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ほぼ全ての患者に多発性関節痛がみられ,75%に明らかな関節炎がみられる。関節炎は変形を生じないことが多いが,関節リウマチの場合と類似した侵食性の変化および変形(例,ボタン穴変形およびスワンネック変形)が存在することがある。圧痛を伴うこともある近位筋の筋力低下がよくみられ,典型的には筋酵素(例,クレアチンキナーゼ)高値を伴う。
腎障害(膜性腎症が最も一般的)は約25%の患者に発生し,一般的に軽度である;病的状態または死亡を伴う重度の障害はMCTDでは非典型的である。MCTD患者の最大75%で肺が侵される。肺では間質性肺疾患として発現することが最も多く,肺高血圧症が1つの主な死亡原因である。心不全が起こることがある。シェーグレン症候群が発生することがある。
MCTDの診断
抗核抗体(ANA),抗ENA抗体(U1リボ核タンパク質[RNP]に対する抗体),ならびにSmith(Sm)抗体および抗DNA抗体の検査
臨床像から判断する臓器障害
全身性エリテマトーデス(SLE),全身性強皮症,または多発性筋炎が疑われる患者で,さらにオーバーラップの特徴がみられる場合は,MCTDを疑うべきである。
ANAおよびU1-RNP抗原に対する抗体の検査を最初に行う。ほぼ全ての患者で,蛍光抗体法によるANA検査(斑紋型が示される)で抗体価が高値となる。U1-RNPに対する抗体がみられ,通常は非常に抗体価が高い。可溶性核抗原のSm成分(リボヌクレアーゼに抵抗性を有する)に対する抗体(抗Sm抗体)および二本鎖DNAに対する抗体(定義ではMCTDでは陰性)を測定し,他の疾患を除外する。MCTDの診断を下すには,抗RNP抗体の存在では不十分であり,典型的な臨床所見も必要である。
リウマトイド因子がみられることが多く,抗体価が高いことがある。赤血球沈降速度はしばしば亢進する。
肺高血圧症は肺機能検査および心エコー検査で可能な限り早く発見すべきである。さらなる評価は症状と徴候に応じて行う;筋炎,腎障害,または肺障害の症状があれば,それらの器官の検査を行う。
クレアチンキナーゼ,MRI,筋電図,または筋生検が,MCTDの一部としての筋炎の存在を確認するのに役立つことがある。
MCTDの予後
10年全生存率は約80%であるが,予後はどの症状が優勢であるかに大きく依存する。全身性強皮症および多発性筋炎の特徴を認める患者は予後が悪い。患者は動脈硬化のリスクが高い。死因には,肺高血圧症,腎不全,心筋梗塞,大腸穿孔,播種性感染症,および脳出血などがある。無治療で長年にわたり寛解を維持している患者もいる。
MCTDの治療
軽症例には非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)または抗マラリア薬(例,ヒドロキシクロロキン,クロロキン)
中等症例および重症例にはコルチコステロイドとその他の免疫抑制薬(例,メトトレキサート,アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル)
レイノー症候群にはカルシウム拮抗薬(例,ニフェジピン)およびときにホスホジエステラーゼ阻害薬(例,タダラフィル)
全般的な管理および初回の薬物療法は,特異的な臨床的問題に合わせて行うが,SLEまたは主要な臨床像に対するものに類似する。中等症または重症の患者の大半は,コルチコステロイド(特に早期に治療した場合)とその他の免疫抑制薬(例,メトトレキサート,アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル)に反応する。軽症例は,NSAID,抗マラリア薬(例,ヒドロキシクロロキン,クロロキン),またはときに低用量のコルチコステロイドにより管理することが多い。主要臓器の重度の障害は通常,より高用量のコルチコステロイド(例,プレドニゾン1mg/kgの1日1回経口投与)および追加の免疫抑制薬を必要とする。患者に筋炎または全身性強皮症の特徴が生じた場合,治療はそれらの疾患に関するものとなる。
レイノー症候群を有する患者は,症状に基づいて,血圧が耐えられる範囲でカルシウム拮抗薬(例,ニフェジピン)およびホスホジエステラーゼ阻害薬(例,タダラフィル)により治療すべきである。
全ての患者について動脈硬化がないか注意深くモニタリングすべきである。長期のコルチコステロイド療法を受けている患者には骨粗鬆症の予防を行うべきである。免疫抑制療法を併用する場合は,Pneumocystis jiroveciiなどの日和見感染症に対する予防措置(ニューモシスチス肺炎の予防を参照)を講じるとともに,一般的な感染症(例,レンサ球菌性肺炎,インフルエンザ,COVID-19)に対するワクチンを接種しておくべきである。
一部の専門家は,症状に応じた1~2年毎の肺機能検査および/または心エコー検査による定期的な肺高血圧症のスクリーニングを推奨している。
要点
MCTDはほとんどの場合,SLE,全身性強皮症,および/または多発性筋炎に類似する。
一般的に,ANAおよびU1-RNPに対する抗体がみられ,抗Sm抗体および抗DNA抗体はみられないが,診断を下すには抗RNP抗体の存在では不十分である。
肺高血圧症を予測すること。
軽症例はNSAIDまたは抗マラリア薬により治療し,より重症の症例はコルチコステロイドおよび,他の免疫抑制薬により治療する。