心膜炎

執筆者:Brian D. Hoit, MD, Case Western Reserve University School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 6月
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心膜炎とは心膜の炎症であり,しばしば心膜腔への体液貯留を伴う。心膜炎は,多くの疾患(例,感染症,心筋梗塞,外傷,腫瘍,代謝性疾患)によって引き起こされるが,特発性のことも多い。症状としては胸痛や胸部圧迫感などがあり,しばしば深呼吸により悪化する。心タンポナーデまたは収縮性心膜炎が発生した場合には,心拍出量が大きく低下することがある。診断は症状,心膜摩擦音,心電図変化,およびX線または心エコー検査での心嚢液貯留の所見に基づく。原因の特定には,さらなる評価が必要になる。治療法は原因に応じて異なるが,一般的なものとしては,鎮痛薬,抗炎症薬,コルヒチン,まれに手術などがある。

心膜炎は最も頻度の高い心膜疾患である。先天性の心膜疾患はまれである。

心膜炎の解剖

心膜は2つの層で構成されている。臓側心膜は,心筋に付着した1層の中皮細胞から成る膜であり,大血管の起始部で折り返して(翻転して)強靱な線維層と合流し,壁側心膜として心臓全体を包んでいる。これらの層によって形成された袋状の空間には少量の液体(25~50mL未満)が貯留しており,その液体は主に血漿が限外濾過されたものである。心膜は心腔の拡大を制限して,心臓の効率を高めている。

心膜には交感神経と体性神経が豊富に分布している。伸展を検出する機械受容器が心臓の容積および張力の変化を感知するが,この受容器は心膜由来の疼痛刺激の伝達も担っている可能性がある。壁側心膜には横隔神経が通っており,心膜に対する手術ではこの神経の損傷が生じやすい。

心膜炎の病態生理

心膜炎は以下に分類される:

  • 急性

  • 亜急性

  • 慢性

急性心膜炎は急速に発生して,心嚢の炎症を引き起こし,しばしば心嚢液貯留の原因となる。炎症が心外膜側心筋に波及することもある(心筋心膜炎)。血行動態への悪影響や不整脈はまれであるが,心タンポナーデが起きる可能性がある。

急性の場合は完全に消失するか,消失して再発するか(急性症例の最大30%),亜急性または慢性になることがある。これらの病型は緩徐に発生し,いずれも重要な特徴は心嚢液の貯留である。

亜急性心膜炎は,誘因となる事象の発生から数週間ないし数カ月以内に発生する。

慢性心膜炎は,6カ月以上持続する場合と定義される。

心嚢液貯留は,心嚢内に液体が貯留した状態である。漿液性の液体(ときにフィブリン線維を伴う)のこともあれば,漿液血性の液体や血液,膿,乳びのこともある。

心タンポナーデは,大量の心嚢液貯留によって心臓の充満が障害されることで発生し,これにより心拍出量が低下し,ときにショックから死に至る。液体(通常は血液)が急速に貯留した場合には,たとえ少量(例,150mL)であっても,心膜がそれに適応できるだけ迅速に伸展することができないため,タンポナーデを来す場合がある。緩徐に貯留する場合は,1500mLまではタンポナーデが生じないことがある。被包化された心嚢液貯留によって,右心または左心のみの限局性心タンポナーデが生じることもある。

ときに,心膜炎は心膜の著明な肥厚や硬化を引き起こす(収縮性心膜炎)。

収縮性心膜炎は,現在では以前よりも少なくなっているが,炎症性かつ線維性の著明な心膜肥厚によって発生する。ときに臓側心膜と壁側心膜が互いに癒着したり,これらが心筋と癒着したりする。線維化した組織には,しばしばカルシウム沈着がみられる。硬化して肥厚した心膜は心室充満を著しく障害して,一回拍出量および心拍出量を低下させる。有意な心嚢液貯留はまれである。不整脈がよくみられる。心室,心房,および静脈床の拡張期圧がほぼ同じとなる。全身性の静脈うっ滞が生じることで,全身の毛細血管から多量の体液漏出が起きる結果,就下性の浮腫(dependent edema)や遅れて腹水がみられる。全身静脈圧および肝静脈圧の慢性的な上昇により,心臓性肝硬変と呼ばれる肝臓の瘢痕化を来すことがあり,その場合,肝硬変の評価が最初の受診理由となることもある。左房,左室,またはその両方の収縮によって肺静脈圧が上昇することがある。ときに胸水が生じることもある。

収縮性心膜炎にはいくつかの種類がある:

  • 慢性収縮性心膜炎(根治的治療として通常は心膜切除術が必要)

  • 亜急性(初期段階)の収縮性心膜炎(誘因となる損傷の数週から数カ月後に発生し,まず内科的治療にて管理)

  • 一過性の収縮性心膜炎(典型的には亜急性で,自然に,あるいは内科的治療後に治癒)

  • 滲出性収縮性心膜炎(有意な心嚢液貯留を伴い,臓側心膜に及ぶ心膜の収縮を特徴とし,ときに心タンポナーデの治療が必要になる)

心膜炎の病因

急性心膜炎は,感染症,自己免疫疾患,炎症性疾患,尿毒症,外傷,心筋梗塞,がん,放射線療法,または特定の薬剤が原因となって発生する(急性心膜炎の原因の表を参照)。

感染性心膜炎は大半がウイルス性または特発性である。化膿性細菌性心膜炎はまれではあるが,感染性心内膜炎肺炎,敗血症,穿通性外傷,または心臓手術に続いて発生することがある。しばしば原因を同定できないこともあるが(非特異的または特発性心膜炎と呼ばれる),それらの症例の多くはおそらくウイルス性である。

急性心膜炎症例の10~15%は急性心筋梗塞が原因である。心筋梗塞後症候群(ドレスラー症候群)は,現在ではあまり一般的な原因ではなくなっているが,貫壁性梗塞患者において経皮的冠動脈形成術(PTCA)または血栓溶解薬による再灌流療法が無効である場合に主に発生する。心臓手術の5~30%では,心膜切開後に心膜炎が起こる(心膜切開後症候群と呼ばれる)。心膜切開後症候群,心筋梗塞後症候群,および外傷性心膜炎は,併せてpost-cardiac injury syndromeと呼ばれている。

表&コラム
表&コラム

亜急性心膜炎は,急性心膜炎が遷延したものであり,よって原因は同じである。一部の患者では急性心膜炎の回復の数日から数週間後に一過性の収縮がみられる。

心嚢液を伴う慢性心膜炎または慢性収縮性心膜炎は,ほぼ全ての病因による急性心膜炎に続発する可能性がある。さらに,急性心膜炎の先行なく発生する例もある

大量の心嚢液(漿液性,漿液血性,または血性)を伴う慢性心膜炎は,最も多くは転移性腫瘍によるもので,そのうち特に多いのは肺癌乳癌,肉腫,黒色腫白血病リンパ腫である。

甲状腺機能低下症により心嚢液貯留およびコレステロール心膜炎が発生する場合もある。コレステロール心膜炎はまれな疾患であり,粘液水腫と関連している可能性があり,コレステロールを高濃度で含有する心嚢液が慢性に貯留することで,炎症および心膜炎が誘発される。

ときに慢性心膜炎は原因を同定できないことがある。

一過性の収縮性心膜炎は,感染または心膜切開後の炎症を原因とするものが最も多いが,それ以外は特発性である。

心膜の線維化は,ときに慢性収縮性心膜炎に至ることがあるが,化膿性心膜炎に続いて発生するか,結合組織疾患を伴うことがある。高齢患者で一般的な原因は,悪性腫瘍,心筋梗塞,および結核である。心膜血腫(心嚢内への血液の貯留)は,心膜炎や心膜の線維化につながることがあり,一般的な原因としては,胸部外傷,医原性損傷(例,心臓カテーテル検査,ペースメーカーの植込み,中心静脈ラインの留置によるもの),胸部大動脈瘤破裂などが挙げられる。

心膜炎の症状と徴候

炎症の症候で受診する患者もいれば(急性心膜炎),液貯留または収縮による症候で受診する患者もいる(心嚢液貯留)。症状および徴候は,炎症の重症度と液貯留の量および速さに応じて異なる。心嚢液が大量に貯留していても,緩徐に(例,数カ月かけて)発生すれば無症状のことがある。

急性心膜炎

急性心膜炎では胸痛,発熱,および心膜摩擦音がみられる傾向があり,ときに呼吸困難もみられる。低血圧,ショックまたは肺水腫を伴った心タンポナーデが最初の所見となる場合もある。

オーディオ

心膜と心筋は神経支配が同じであるため,心膜炎による胸痛はときに心筋炎や虚血による胸痛に類似し,前胸部や胸骨下に生じた鈍いまたは鋭い疼痛が頸部,僧帽筋(特に左側),または肩に放散することがある。疼痛は軽度のことから重度のことまである。虚血性胸痛とは異なり,心膜炎による疼痛は胸郭運動,咳嗽,呼吸,食物の嚥下によって増悪するのが通常で,座位で前傾姿勢をとることで軽減することがある。

頻呼吸や乾性咳嗽がみられることもあり,また発熱,悪寒,および脱力がよくみられる。特発性心膜炎患者の15~25%は,症状が数カ月または数年にわたって間欠的に再発する(再発性心膜炎)。

心膜炎の最も重要な身体所見は,前胸部で聴取される三相または収縮期および拡張期の摩擦音である。しかしながら,摩擦音はしばしば間欠性で消失しやすく,収縮期のみに聴取されたり,頻度はより少ないが拡張期のみに聴取されることもある。座位で前傾姿勢をとらせても摩擦音が聴取できない場合は,患者を四つん這いにさせて膜型の聴診器で聴診を試みてもよい。ときに,呼吸時に摩擦音の胸膜成分が聴取できる場合があるが,これは心膜に隣接する胸膜の炎症に由来する。

心嚢液貯留

心嚢液貯留は痛みを伴わない場合が多いが,急性心膜炎とともに発生した場合には,疼痛がみられることがある。多量の心嚢液のため,心音の減弱,心濁音界の拡大,心陰影の拡大および変形するなどが起こりうる。心膜摩擦音が聴取されることがある。大量の心嚢液貯留では,左肺底部の圧迫により呼吸音(左肩甲骨付近で聴取される)が減弱し,断続性ラ音が生じることがある。動脈拍動,頸静脈波,および血圧は,心嚢内圧が大幅に上昇してタンポナーデを引き起こさない限り,正常である。

心筋梗塞後症候群では,心嚢液貯留とともに発熱,摩擦音,胸膜炎,胸水,および関節痛が生じる可能性がある。この症候群は通常,心筋梗塞後10日~2カ月以内に発生する。通常は軽度であるが,重度の場合もある。ときに心筋梗塞後に心臓破裂を来し,心膜血腫やタンポナーデを生じることがあるが,通常これは心筋梗塞後1~10日後に起こり,女性でより多くみられる。

心タンポナーデ

外傷による心タンポナーデも参照のこと。)

臨床所見は心原性ショックと同様であり,心拍出量の低下,全身動脈圧の低下,頻拍,および呼吸困難である。頸静脈が著明に怒張する。重度の心タンポナーデでは,ほぼ常に吸気時の収縮期血圧の低下幅が10mmHgを超える(奇脈)。進行例では,吸気時に脈が消失することがある。(ただし,奇脈は慢性閉塞性肺疾患[COPD],気管支喘息肺塞栓症,右室梗塞,および心原性以外のショックでも起こりうる。)心嚢液貯留が少量でなければ,心音は鈍化する。被包化された心嚢液貯留や偏心性または限局性の血腫によって限局性心タンポナーデが生じることがあり,その場合は特定の心腔のみが圧迫される。それらの症例では,身体所見や血行動態上の徴候,一部の心エコー所見が認められない場合がある。

収縮性心膜炎

収縮性心膜炎が発生しない限り,線維化や石灰化によって症状が引き起こされることはまれである。早期にみられる異常は,心室拡張期圧,心房圧,肺動脈圧,および体静脈圧の上昇のみのことがある。末梢静脈のうっ滞による症候(例,末梢浮腫,頸静脈怒張,肝腫大)が拡張早期過剰音(心膜ノック音)を伴って出現することがあり,吸気時に最もよく聴取される場合が多い。この音は,拡張期の心室充満が硬化した心膜によって急激に抑えられるために生じる。

オーディオ

心室の収縮機能(駆出率に基づく)は通常保たれる。肺静脈圧の上昇が持続する,呼吸困難(特に労作時)や起座呼吸が生じる。疲労は重度となりうる。吸気時に静脈圧上昇に伴う頸静脈拡張(クスマウル徴候)がみられるが,これは心タンポナーデではみられない。奇脈はまれであり,心タンポナーデの場合より通常軽度である。左室の心膜に重度の収縮が生じない限り,肺はうっ血しない。

心膜炎の診断

  • 心電図検査および胸部X線検査

  • 心エコー検査

  • 原因を同定するための検査(例,心嚢穿刺,心膜生検)

心電図および胸部X線検査を施行する。心エコー検査を施行して,心嚢液貯留,心タンポナーデを示唆する充満の異常,および心筋障害に特徴的な壁運動異常がないか確認する。血液検査では白血球増多や炎症マーカー(例,C反応性タンパク[CRP],赤血球沈降速度[赤沈])の上昇が認められることがあり,治療期間の目安になることがある。

急性心膜炎

診断は以下の臨床所見と心電図異常の存在に基づくが,これらは全ての症例に必ず存在するものではない。

  • 特徴的な胸痛

  • 心膜摩擦音

  • 心電図異常

  • 心嚢液貯留

異常を示すには,複数回の心電図検査が必要になる場合がある。急性心膜炎の心電図では,STおよびPR部分とT波に限局した異常が(通常は大半の誘導で)出現することがある。(aVR誘導の心電図変化は一般に他の誘導とは反対方向に生じる。)心筋梗塞と異なり,急性心膜炎では対側性変化としてのST低下が認められず(aVRとV1誘導を除く),異常Q波もみられない。心膜炎の心電図変化は4段階で起こることがあるが,全ての症例で全ての段階がみられるわけではない。

  • 第1段階:ST部分が凹型の上昇を示し,PR部分が低下することがある(急性心膜炎:第1段階の心電図の図を参照)。

  • 第2段階:ST部分が基線に戻り,T波は平低化する。

  • 第3段階:T波が心電図全体にわたって逆転する;このT波の逆転はST部分が基線に戻った後に起こり,この点で急性虚血や心筋梗塞のパターンとは異なる。

  • 第4段階:T波の変化が消失する。

急性心膜炎の心エコー検査では,典型的には液体の貯留が描出され,これが診断確定の助けになるが,純粋な線維性の急性心膜炎を呈する患者では心エコー検査は正常となることが多い。心筋障害を示唆する所見としては,新たな局所性またはびまん性の左室機能障害などがある。

MRIでは心膜の炎症の有無,重症度,および急性度を検出できるが,急性心膜炎の診断には一般に不要である。

急性心膜炎:第1段階の心電図

J点が上昇する(aVRおよびV1は除く)。T波は基本的には正常である。ST部分は上向きかつ凹型の上昇を示す。PR部分(aVRおよびV1を除く)が低下する。PR部分の変動は一般的に1つの肢誘導(この例ではaVL)で認められない。

心膜炎による疼痛は急性心筋梗塞や肺梗塞の胸痛と類似することがあるため,病歴と心電図所見が心膜炎に典型的でない場合には,追加の検査(例,血清心筋マーカーの測定,肺シンチグラフィー)が必要になることがある。急性心膜炎では心膜の炎症のためにトロポニン値がしばしば上昇することから,トロポニン値によって心膜炎,急性梗塞,肺塞栓症を鑑別することはできない。非常に高いトロポニン値は心筋心膜炎を示唆する。CK-MB(クレアチンキナーゼ心筋型アイソザイム)は,トロポニンより感度が低く,心筋炎を合併している場合を除き,急性心膜炎では通常は正常値となる。

心膜切開後および心筋梗塞後症候群は同定が難しいことがあり,発症後間もない心筋梗塞,肺塞栓症,および術後の心膜感染との鑑別が必要である。術後2週から数カ月で出現した疼痛,摩擦音,および発熱と,アスピリン,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),コルヒチン,またはコルチコステロイドに対する速やかな反応が診断の参考になる。

心嚢液貯留

診断は臨床所見から示唆されるが,胸部X線で心陰影の拡大が認められて初めて疑われることも多い。心電図では,QRS電位がしばしば低下し,約90%の患者は洞調律を維持する。大量かつ慢性の心嚢液貯留では,心電図で電気的交互脈(P波,QRS波,またはT波の振幅が1心拍毎に増減する)を認めることがある。電気的交互脈には心臓の位置変化(心臓の振り子様運動)が関係している。

心エコー検査では,心嚢液の量を推定でき,心タンポナーデ,ときに急性心筋炎,および心不全を同定できるほか,心膜炎の原因が示唆されることもある。

CTは心嚢液貯留を検出できるが(しばしば他の病態に対して施行された際に偶然検出される),その大きさを過大評価することがあり,心嚢液貯留の可能性を評価するための第1選択の検査ではない。

心電図が正常な患者,心嚢液貯留が少量(50mL未満)の患者,および病歴と診察で疑わしい所見を認めない患者は,継続的な診察および心エコー検査で経過観察とすることができる。その他の患者については,病因を特定するためにさらなる評価を行う必要がある。

収縮性心膜炎

診断は臨床所見と心電図,胸部X線,およびドプラ心エコー検査の所見に基づき疑われるが,通常は心臓カテーテル検査とCT(またはMRI)が必要である。まれに,拘束型心筋症を除外するために右心生検が必要になる。

心電図変化は非特異的である。QRS電位は通常低い。T波は通常,非特異的な異常を示す。約3分の1の患者で心房細動が起こるが,心房粗動は比較的少ない。

胸部X線側面像で心膜の石灰化が最もよく描出されることが多いが,この所見は非特異的である。

心エコー検査も非特異的である。右室および左室充満圧が同等に上昇する場合,拘束型心筋症と収縮性心膜炎を鑑別する上でドプラ心エコー検査が有用となる。

  • 収縮性心膜炎では,吸気時に拡張期の僧帽弁血流速度が通常25%以上低下するが,拘束型心筋症ではこの低下幅が15%未満である。

  • 収縮性心膜炎では,吸気時の三尖弁血流速度の上昇が正常時より大きくなるのに対し,拘束型心筋症ではこのような所見は認められない。

左房圧が極めて高いために弁通過血流速度の呼吸性変動が鈍化する場合には,僧帽弁輪の組織運動速度の測定が役立つ可能性がある。収縮性心膜炎では僧帽弁輪速度(特に中隔位置)が上昇するが,拘束型心筋症では低下する。

収縮性心膜炎では,中隔変動(septal bounce:吸気中は左室に向かって,呼気中は左室から遠ざかる方向に心室中隔が移動する)と肝静脈血流速度の呼気時の拡張期逆流波(右室充満の減少により生じる)もみられる。

呼吸に伴う心室中隔の移動,内側僧帽弁輪速度の維持または上昇,および肝静脈血流速度の呼気時の拡張期逆流波は,まとめてMayo基準と呼ばれているが,各因子が独立して収縮性心膜炎と関連している(1)。

心臓カテーテル検査(左心および右心)は,臨床所見と心エコー所見から収縮性心膜炎が示唆される場合に施行する。心臓カテーテル検査は,収縮性心膜炎を規定する血行動態異常の確認と定量化に役立つ:

  • 平均肺動脈楔入圧(肺毛細血管楔入圧),肺動脈拡張期圧,右室拡張末期圧,および平均右房圧はほぼ等しく,いずれも約10~30mmHgとなる。

  • 肺動脈および右室収縮期圧は正常であるか,わずかに上昇するのみであり,そのため脈圧は小さい。

  • 心房圧曲線では,x谷とy谷が強調されるのが典型的である。

  • 心室圧曲線では,心室急速充満期にdiastolic dipを認める。

  • 最大吸気時には,左室圧が最低値の時点で右室圧が上昇する(ときにmirror-image discordanceと呼ばれ,心室間の相互依存性の増大を示唆する)。

  • 心室充満が制限されるため,心室内圧曲線は拡張早期に急降下し,その後はプラトーとなる(平方根の記号に似る)。

これらの変化を測定するには,それぞれ独立したトランスデューサーを用いて左心および右心の心臓カテーテル検査を同時に施行する必要がある。このような血行動態の変化は,ほぼ常に有意な収縮性心膜炎がある患者でみられるが,循環血液量減少時には明らかでない場合がある。

拘束型心筋症では右室収縮期圧が50mmHgを超えることが多いが,収縮性心膜炎でそうなることは少ない。肺動脈楔入圧が右房平均圧に等しく,かつ心室圧曲線のearly diastolic dipが右房圧曲線の大きなx波およびy波とともに認められる場合には,どちらかの疾患が存在する可能性がある。

CTやMRIでは5mmを超える心膜肥厚を同定することができる。

  • 5mmを超える心膜肥厚とともに,典型的な血行動態の変化が(心エコー検査とカテーテル検査による評価で)認められれば,収縮性心膜炎の診断を確定できる。

  • 心膜の肥厚も液貯留もみられない場合は,拘束型心筋症の可能性が高くなるが,確定には至らない。

  • 心膜の厚さが正常でも,収縮性心膜炎を除外することはできない。

STIR(short TI inversion recovery)によるT2強調画像での信号増強と心臓MRIでのガドリニウムによる遅延造影により,抗炎症療法に対する反応としての活動性炎症および収縮の消失を実証できるが,これらの所見を認めない場合は,薬物療法に反応する可能性が低い慢性収縮性心膜炎が示唆される。ガドリニウムによる心膜の遅延造影の程度が,後に収縮が逆転または消失する患者を同定する上で特に役立つことがある。

心タンポナーデ

心電図での低電位と電気的交互脈は心タンポナーデを示唆するが,これらの所見は感度・特異度ともに十分でない。心タンポナーデが疑われる場合は,わずかな治療の遅れでも生命の危機につながりうる場合を除き,心エコー検査を施行する。その後は診断および治療を目的とした心嚢穿刺を直ちに施行する。タンポナーデの裏付けとなる心エコー所見としては,以下のものがある:

  • 弁通過血流および静脈血流の呼吸性変動

  • 心嚢液貯留がある状況での右房および右室の圧迫または虚脱

  • 下大静脈のうっ血(深い吸気時の大静脈近位部の径の縮小が50%未満)

ただし,心タンポナーデは基本的には臨床的に診断される病態である。

パール&ピットフォール

  • 有意な心タンポナーデは臨床的に診断されるが,心エコー所見のみでは心嚢穿刺の適応にならない。

タンポナーデが(臨床所見や心エコー所見などにより)疑われるが確定はしていない場合は,右心(スワン-ガンツ)カテーテル検査を施行してもよい。心タンポナーデの場合:

  • 心室圧曲線にearly diastolic dipは認められない。

  • 拡張期圧は上昇し(約10~30mmHg),全ての心腔および肺動脈で等しくなる。

  • 心房圧曲線ではx谷は保たれ,y谷は消失する。

これに対して,拡張型心筋症による重度のうっ血状態では,肺動脈楔入圧や左室拡張期圧が右房平均圧および右室拡張期圧より通常4mmHg以上高くなる。

特に心嚢液を排出する際には,右心カテーテル法を考慮すべきであり,心タンポナーデの確定診断だけでなく,心嚢液貯留を伴う収縮性心膜炎の可能性を明らかにする目的でも施行される。

原因の診断

心膜炎の診断後は,病因と心機能に対する影響を明らかにするための検査を行う。それまで健康であった若年成人がウイルス感染症と急性心膜炎で受診した場合は,詳細な評価は通常不要である。ウイルス性心膜炎を特発性心膜炎と鑑別するのは難しく,高い費用がかかる一方,一般に実際的な側面での重要性はほとんどない。

その他の状況では,診断確定に心膜組織の生検または心嚢液の吸引が必要になることがある。結核の可能性が考えられる場合は,心嚢液の抗酸菌染色および培養が必須である(結核性心膜炎は進行が速いことがあり,コルチコステロイド療法により急速に増悪する可能性がある)。検体を検査して悪性細胞の有無を調べる。ただし,新たに同定された心嚢液貯留に対する完全なドレナージは診断には通常不要である。遷延性(通常3カ月以上)または進行性の心嚢液貯留にも,特に病因が不明の場合,心嚢穿刺が必要となる。

針による心嚢穿刺と外科的ドレナージのどちらを選ぶかは,施設の資源と医師の経験,心嚢液貯留の病因,診断のための組織検体の必要性,および患者の予後に依存する。針による心嚢穿刺は,病因が判明している場合やタンポナーデの存在が疑わしい場合,しばしば最善の方法となる。タンポナーデの存在は確かであるが病因が不明な場合は,外科的ドレナージが最善の方法である(心膜生検を外科的に施行できるため)。

心嚢液の臨床検査は,培養と細胞診を除き,通常は非特異的である。しかし,心嚢内視鏡ガイド下の生検で採取した心嚢液を新しい肉眼的,細胞学的,免疫学的な分析法を用いて検査すれば,ときに特異的な診断が可能になる。

心臓カテーテル検査は,心膜炎を評価し,心機能低下の原因を同定する上で有用である。

CTまたはMRIは転移の同定に役立つが,通常は心エコー検査で十分である。

その他の検査としては,血算,急性期反応物質,ルーチンの生化学検査,培養,自己免疫検査のほか,適切な状況ではHIV検査,ヒストプラズマ症の補体結合反応(流行地域の場合),コクサッキーウイルス,インフルエンザウイルス,エコーウイルス,およびレンサ球菌に対する抗体検査などがある。抗DNAおよび抗RNA抗体検査も有用となりうる。ツベルクリン反応検査(通常はPPD)またはインターフェロンγ遊離試験を施行するが,これらは偽陰性の可能性があり,結核性心膜炎の除外は心嚢液の抗酸菌培養でのみ可能である。

診断に関する参考文献

  1. 1.Welch TD, Ling LH, Espinosa RE, et al: Echocardiographic diagnosis of constrictive pericarditis: Mayo Clinic criteria.Circ Cardiovasc Imaging 7:526, 2014. 

心膜炎の治療

  • 疼痛および炎症に対して非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),コルヒチン,およびまれにコルチコステロイド

  • 心タンポナーデおよび大量の心嚢液貯留の一部に対して心嚢穿刺

  • ときに薬剤の心嚢内投与(例,トリアムシノロン)

  • ときに収縮性心膜炎に対する心膜切除術,特に症状がある場合

  • 基礎疾患(例,がん)の治療

急性心膜炎を初めて発症した患者では,入院が必要になる場合もあるが,とりわけ中等量または大量の液貯留がある患者と,体温上昇,亜急性の発症,免疫抑制,最近の外傷,経口抗凝固療法,アスピリンまたはNSAIDの初回コースへの無反応,心筋心膜炎といった高リスク因子を有する患者では入院の必要性が高くなる。入院は,病因を特定するともに,心タンポナーデの発生に備えて経過を観察するために必要である。入院しない患者では,早期からの綿密なフォローアップが重要である。原因として考えられる薬剤(例,抗凝固薬,プロカインアミド,フェニトイン)があれば中止する。心タンポナーデには,直ちに心嚢穿刺(心嚢穿刺の図を参照)を施行する;たとえ少量でも貯留液の除去は救命につながる可能性がある。

心嚢穿刺

死につながる可能性もある心嚢穿刺は,緊急時(例,心タンポナーデ)を除いて,心臓カテーテル室にて心エコーのガイド下で施行されるべきであり,また可能であれば心臓専門医または胸部外科医の監督下で行うべきである。蘇生用の機材をその場に用意しておく必要がある。静注薬による鎮静(例,モルヒネ0.1mg/kgまたはフェンタニル25~50μg + ミダゾラム3~5mg)が望ましい。患者に臥位をとらせ,頭部を水平位から30°挙上する。

無菌的条件下で皮膚および皮下組織をリドカインで浸潤麻酔する。

75mmショートベベルの16G針を,3方活栓を介して30mLまたは50mLシリンジに接続する。心膜には,左右どちらかの剣状突起と肋骨が交差する点から刺入するか,剣状突起の先端部から内上方へ胸壁の近くに向けて針を進めることができる。シリンジに一定の陰圧をかけながら針を進める。

撹拌した生理食塩水を注射することにより,心エコー図をガイドとして利用することができる。心エコー法は,至適な穿刺部位および針の進路を特定する目的でも利用が増えている。

所定の位置に達したら,皮膚に接した状態で針を鉗子で固定して,針先が必要以上に進んで心臓を刺したり冠動脈を損傷したりしないようにする。心筋に接触または刺入した際に発生する不整脈を検出するため,心電図モニタリングが必須である。原則として,右房圧および肺動脈楔入圧(肺毛細血管楔入圧)をモニタリングする。

心嚢内圧が右房圧より低くなるまで(通常は大気圧以下になるまで)心嚢液を排液する。持続的なドレナージが必要な場合は,プラスチック製のカテーテルを針を通して心嚢内まで挿入し,針を抜去する。カテーテルは2~4日間留置することができる。

疼痛は通常,コルヒチンまたはアスピリン325~650mg,経口,4~6時間毎またはその他のNSAID(例,イブプロフェン600~800mg,経口,6~8時間毎)でコントロールできる。治療の強度は患者の苦痛によって決まる。重度の疼痛にはオピオイドが必要になることもある。補助的治療としてのコルヒチン投与(0.5~1mg,経口,1日1回,3カ月)は,急性心膜炎を始めて発症した患者における再発率および症状持続に有意な減少をもたらし,第1選択の治療法として使用されることが多くなってきている。

特発性およびウイルス性心膜炎の軽症例は,大半で1週間以内に良好な反応がみられるが,至適な治療期間は不明である。典型的には,少なくとも心嚢液貯留および炎症の所見(例,赤血球沈降速度,C反応性タンパク[CRP]値)が全て消失するまで治療を行うべきである。

特定の適応(例,結合組織疾患,自己免疫性または尿毒症性心膜炎,コルヒチンまたはNSAIDに対する無反応)がある患者には,コルチコステロイド(例,プレドニゾン60~80mg,経口,1日1回,1週間,以降は速やかに漸減する)を使用できるが,この種の薬剤はウイルスの増殖を促進し,漸減中に再発がよくみられることから,ルーチンには使用されない;漸減中にはコルヒチンが特に有用となりうる。もう1つのアプローチは,低用量プレドニゾン(0.2~0.5mg/kg,経口,1日1回)を2~4週間投与後,約3カ月かけてゆっくりと漸減する方法である。コルチコステロイドを使用する場合は,投与開始前に結核性および化膿性心膜炎を除外しておくべきである。トリアムシノロン300mg/m2の心嚢内投与は,全身性の有害作用を回避でき,かつ非常に効果的であるが,典型的には再発例または治療抵抗例にのみ選択される。

抗凝固薬は心嚢内出血や致死的な心タンポナーデを引き起こすことがあるため,急性心膜炎では一般に禁忌であるが,急性心筋梗塞を合併している早期の心膜炎では投与できる。まれに(例,慢性収縮性心膜炎がある場合),心膜切除術が必要になる。

疼痛を伴う急性心膜炎の再発は,NSAIDおよび/またはコルヒチン0.5mg,経口,1日2回の6~12カ月間とその後は漸減に反応する場合がある。これらの薬剤で十分でない場合は,原因が感染性でないと推測できるのであれば,コルチコステロイドを試してもよい。難治例はインターロイキン1受容体拮抗薬(例,アナキンラ[anakinra],リロナセプト[rilonacept])で治療される。

感染は特異的な抗菌薬で治療する。完全なドレナージがしばしば必要となる。

心膜切開後症候群,心筋梗塞後症候群,または特発性心膜炎は,抗菌薬の適応とならない。NSAIDを十分量投与することで疼痛と心嚢液貯留をコントロールできる場合がある。疼痛,発熱,および心嚢液貯留をコントロールする必要がある場合は,プレドニゾン(例,20~60mg,経口,1日1回)を3~4日間投与してもよい。反応が良好であれば,用量を徐々に減らし,7~14日後に中止することができる。しかし,ときに何カ月にもわたる治療が必要になることもある。術後3日目から,コルヒチンを2mgの負荷投与に続き1mg,経口,1日1回で30日間投与することにより,心臓手術後の心膜切開後症候群の発生率を低減できる可能性がある。急性心筋梗塞の患者で心膜炎が発生した場合は,アスピリンを使用すべきである。

リウマチ熱,他の結合組織疾患,または腫瘍に起因する心膜炎の場合は,治療は基礎疾患に対して行う。

外傷による心嚢液貯留には,損傷を修復して心嚢内から血液を排出するために,ときに手術が必要となる。

尿毒症による心膜炎は,より頻回の血液透析,吸引,またはコルチコステロイドの全身もしくは心嚢内投与に反応する可能性がある。トリアムシノロンの心嚢内投与が有用となりうる。

慢性の心嚢液貯留では,原因が既知であれば,その原因に対する治療が最善である。症状を伴う再発性または遷延性の心嚢液貯留は,バルーン心膜切開術または心膜開窓術で治療することができる。無症状で原因不明の心嚢液貯留は,経過観察のみでよいこともある。

慢性収縮性心膜炎によるうっ血は,食塩制限と利尿薬で軽減できる可能性がある。ジゴキシンは心房性不整脈または心室収縮機能障害がみられる場合にのみ適応となる。

症状を伴う収縮性心膜炎(例,呼吸困難,原因不明の体重増加,胸水の新規発生または増加,腹水などを伴う)の患者と慢性収縮のマーカー(例,悪液質,心房細動,肝機能障害,心膜石灰化)が認められる患者では,通常,心膜切除術が必要となる。しかしながら,軽度の症状しかみられない患者(ほとんど有益とならないため)と高度の石灰化または広範な心筋障害を有する患者は,手術の候補としては不適切であると考えられる。

心膜切除術の死亡率は,New York Heart Association(NYHA)の心機能分類クラスIVの患者では40%に達する場合がある(心不全のNew York Heart Association分類の表を参照)。放射線照射や結合組織疾患に起因する収縮性心膜炎の患者では,重度の心筋障害を来す可能性が特に高く,心膜切除術が有益とならないことがある。

新たに収縮性心膜炎と診断され,血行動態的に安定しており,かつ慢性収縮の所見が認められない患者に対しては,心膜切除術の代わりに抗炎症薬の投与を3カ月間にわたり試してみてもよい。MRIで心膜の炎症を認める患者でも,心膜切除術ではなく,まず内科的治療を試してみることが有益な可能性がある。

要点

  • 心膜炎のある患者に,心膜の炎症および/または心嚢液の貯留による症状および徴候がみられる。

  • 通常は心電図検査と心エコー検査で十分に診断できるが,収縮性心膜炎の診断には右心および左心カテーテル検査,CT,またはMRIが必要になる場合がある。

  • 疼痛の治療には非ステロイド系抗炎症薬,コルヒチン,またはその両方を使用し,原因が感染以外の場合はコルチコステロイドを追加してもよい。

  • 液貯留は通常,原因に対する治療に反応するが,再発を繰り返したり症状が遷延したりする心嚢液貯留にはドレナージ(経皮的または外科的)が必要となりうる。

  • 症状を伴う慢性収縮性心膜炎には通常,心膜切除術が必要であるが,早期の収縮性心膜炎には,まずは試験的な薬物療法で治療することができる。

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