急性腎障害(AKI)

(急性腎不全)

執筆者:Anna Malkina, MD, University of California, San Francisco
レビュー/改訂 2023年 3月
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急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣発作や昏睡を来すこともある。水・電解質および酸塩基平衡の障害が急速に発生する。診断は血清クレアチニン値などの腎機能検査に基づく。原因を特定するには,尿指標および尿沈渣検査のほか,しばしば画像検査やその他の検査(ときに腎生検を含む)が必要となる。治療は原因に向けられるが,水分と電解質の管理およびときに透析を行うこともある。

急性腎障害(AKI)のいずれの症例も,血中のクレアチニンと尿素が数日にわたって蓄積し,水分および電解質の障害が発生する。これらの障害のうち最も重篤なのは高カリウム血症および体液過剰(肺水腫を起因しうる)である。リンの貯留は高リン血症につながる。低カルシウム血症は,腎障害のためカルシトリオール(消化管からのカルシウム吸収を低下させる)が産生されず,高リン血症が組織内でリン酸カルシウム沈着をもたらすことで発生すると考えられている。水素イオンを排出できないため,アシドーシスが発生する。有意な尿毒症では,血液凝固が低下し,心膜炎が発生する場合がある。尿量は,AKIの種類と原因によって異なる。

AKIの病因

急性腎障害(AKI)の原因(急性腎障害の主要な原因の表を参照)は以下のように分類できる:

  • 腎前性

  • 腎性

  • 腎後性

腎前性AKIは,腎の不十分な灌流が原因である。主な原因は以下のものである:

腎前性の病態は,血流低下が重度であるか長期に及ぶ場合を除き,典型的には恒久的な腎損傷をもたらさない(それゆえ潜在的に可逆的である)。腎臓の血流低下は,その他の点では機能している腎臓でナトリウムと水の再吸収亢進をもたらし,尿浸透圧高値および尿中トリウム低値を伴う乏尿(尿量が500mL/日未満)を引き起こす。

AKIの腎性の原因は,内因性腎疾患または損傷が関与する。血管,糸球体,尿細管,または間質が侵される場合がある。最も一般的な原因は以下のものである:

糸球体疾患は,糸球体濾過量(GFR)の低下および糸球体毛細血管のタンパク質および赤血球透過性亢進を招き,炎症性の場合(糸球体腎炎),または虚血もしくは血管炎による血管障害によってもたらされる場合がある。

尿細管も,虚血によって障害する場合があり,また細胞残屑,タンパク質または結晶沈着,細胞性または間質性の浮腫によって閉塞しうる。

間質の炎症(腎炎)は,通常免疫またはアレルギー現象が関与する。これらの尿細管損傷の機序は複雑で相互に依存するため,かつて広く用いられていた急性尿細管壊死という用語は,不十分な記載である。

腎後性AKI閉塞性腎症)は,泌尿器系の排尿部および蓄尿部における種々の閉塞が原因である。結晶性またはタンパク質性の物質が沈着した場合は,尿細管内に顕微鏡レベルで閉塞が生じる場合もある。

尿細管やより遠位で限外濾過液の流路が閉塞することで,糸球体の尿腔内の圧力が上昇し,GFRが低下する。閉塞は腎血流にも影響し,当初は輸入細動脈の抵抗を減少して糸球体毛細血管内の血流量と圧力を上昇させる。しかしながら,3~4時間以内に腎血流量は低下し,腎血管の抵抗の上昇により24時間後までには正常な腎血管の50%未満に低下する。24時間の閉塞が軽減した後,腎血管の抵抗が回復して正常化するまでには,最長1週間かかる場合がある。

尿管レベルの閉塞で有意なAKIが発生するには,機能腎が一側だけの場合を除けば,両側の尿管が侵されている必要がある。

男性において排尿が突然(しばしば完全に)停止する状況では,前立腺の腫大に起因する下部尿路閉塞がおそらく最も一般的な原因である。

表&コラム
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AKIの症状と徴候

最初は体重増加と末梢浮腫が唯一の所見となる場合がある。多くの場合,主な症状は基礎疾患の症状であるか,手術の合併症により腎機能が低下したことに起因する症状である。

窒素化合物が蓄積するにつれて,遅れて尿毒症の症状が現れる場合もある。そのような症状としては以下のものがある:

  • 食欲不振

  • 悪心

  • 嘔吐

  • 筋力低下

  • ミオクローヌス

  • 痙攣発作

  • 錯乱

  • 昏睡

診察では羽ばたき振戦と反射亢進がみられる場合がある。尿毒症性心膜炎が存在する場合は,胸痛(典型的には吸気時または臥位で増悪),心膜摩擦音および心タンポナーデの所見が認められる場合がある。肺の水分貯留は,呼吸困難および聴診時の断続性ラ音を生じる場合がある。

オーディオ

その他の所見は原因に応じて異なる。糸球体腎炎またはミオグロビン尿では,尿がコーラのような色を呈する場合がある。出口部閉塞では,膀胱が触知可能な場合がある。腎臓が急性に腫大すると,肋骨脊柱角に圧痛を呈することがある。

尿量の変化

急性腎障害(AKI)の間に尿量によって腎前性,腎性,腎後性の原因を明確に鑑別することはできない。

急性尿細管障害では,尿量の推移を3つの期間に分けることができる:

  • 前駆期は通常は尿量正常で,その期間は原因因子(例,毒素の摂取量,低血圧の持続期間と重症度)によって異なる。

  • 乏尿期の尿量は典型的には50~500mL/日である。乏尿期の長さは予測できず,AKIの病因と治療開始までの期間に依存する。しかしながら,多くの患者で乏尿は全く認められない。乏尿期のない患者では,死亡率,罹病率,透析の必要性が低い。

  • 乏尿後の期間には,尿量は徐々に正常に戻るが,血清クレアチニンおよび尿素レベルはさらに数日間は下がらないことがある。尿細管機能不全は数日ないし数週間持続することがあり,ナトリウム喪失,バソプレシンに反応しない多尿(大量のこともある),または高クロール性代謝性アシドーシスの形で現れる。

AKIの診断

  • 処方薬およびOTC医薬品の使用ならびに静注ヨード造影剤への曝露の確認を含む臨床的評価

  • 血清クレアチニン値

  • 尿沈渣

  • 尿診断指標

  • 尿検査および尿タンパクの評価

  • 腎後性の原因が疑われる場合は排尿後の残尿量および/または腎超音波検査

尿量の減少または血清BUN値およびクレアチニン値の上昇が認められる場合は,急性腎障害(AKI)が疑われる。

KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury(1)によれば,AKIは以下のいずれかを認める場合と定義される:

  • 48時間以内に血清クレアチニン値が0.3mg/dL(26.52μmol/L)以上上昇した場合

  • 過去7日以内に血清クレアチニン値がベースライン値から1.5倍以上上昇した場合

  • 尿量が6時間にわたり0.5mL/kg/時を下回った場合

評価ではAKIの存在および種類を判定し,原因を検索すべきである。一般に血液検査としては,血算,BUN,クレアチニン,および電解質(カルシウムおよびリンを含む)を含める。尿検査としては,ナトリウム,尿素,タンパク質,およびクレアチニン濃度の測定と尿沈渣の鏡検を行う。早期発見および治療により,腎障害から回復する見込み,および一部の症例では透析を要する状況への進行を予防する可能性が上昇する。

血清クレアチニンが毎日進行性に増加することはAKIの診断指標である。血清クレアチニンは,クレアチニン産生量(除脂肪体重によって異なる)および体内総水分量に依存して最大2mg/dL/日(180μmol/L/日)まで増加しうる。

尿素窒素は10~20mg/dL/日(尿素3.6~7.1mmol/L/日)上昇することがあるが,BUNは手術,外傷,コルチコステロイド,熱傷,輸血反応,静脈栄養,消化管出血または他の内出血によるタンパク質異化の亢進に反応して上昇することが多いため,誤解を生じうる。

血清クレアチニン濃度の上昇はGFRの低下を遅れて反映する指標であることから,クレアチニン値が上昇している場合は,24時間蓄尿によるクレアチニンクリアランスの測定や血清クレアチニン値からクレアチニンクリアランスを算出する種々の計算式は不正確となるため,それらを糸球体濾過量の推定(eGFR)に用いるべきではない。

その他の臨床検査所見は以下の通りである:

アシドーシスは通常は中等度で,血漿重炭酸濃度は15~20mmol/Lであるが,敗血症または組織の虚血が基礎にある場合はアシドーシスが重度になることがある。

血清カリウム濃度の上昇は,全体的な代謝,食事による摂取,薬剤のほか,可能性として組織壊死または細胞の破壊にも依存する。

低ナトリウム血症は通常は中等度(血清ナトリウム,125~135mmol/L)で,食事または輸液による過剰な水分補給と相関する。

ヘマトクリット25~30%の正色素性正球性貧血は典型的である。

高リン血症低カルシウム血症は,AKIではよくみられ,横紋筋融解症または腫瘍崩壊症候群の患者では著明となることがある。横紋筋融解症でみられる著明な低カルシウム血症は,壊死した筋肉内でのカルシウム沈着,カルシトリオール産生の減少,副甲状腺ホルモン(PTH)に対する骨の抵抗性,および高リン血症が複合的に影響を及ぼすことで発生する。横紋筋融解症による急性尿細管壊死発生後のAKIの回復期には,腎臓でのカルシトリオール産生の増加,副甲状腺ホルモンに対する骨の反応性の上昇,および損傷した組織に沈着したカルシウムの移動に伴い,高カルシウム血症を併発することがある。これ以外では,AKIからの回復期に高カルシウム血症がみられるのはまれである。

原因の特定

急性腎障害の原因のうち,迅速に回復しうる腎前性または腎後性の原因を最初に除外しなければならない。細胞外液量減少と閉塞を全例で考慮する。薬歴を正確に確認し,腎毒性が生じうる薬剤を全て中止する。尿診断指標(腎前性急性腎障害および急性尿細管障害の尿診断指標を参照)は,入院患者におけるAKIの最も一般的な原因である腎前性AKIと急性尿細管障害を鑑別する上で参考になる。

腎前性の原因は,しばしば臨床的に明白である。その場合は,基礎にある血行動態の異常の是正を試みるべきである。例えば,循環血液量減少では大量輸液を,心不全では利尿薬および後負荷を低下させる薬剤をそれぞれ試すことが可能である。AKIの寛解により腎前性の原因が確認される。

表&コラム
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AKI患者では,ほぼ全例で腎後性の原因を探索すべきである。患者に排尿させた直後に,ベッドサイドで膀胱超音波検査を施行し(または別の選択肢として尿道カテーテルを留置し),膀胱内の残尿量を測定する。排尿後の残尿量が200mLを超える場合は下部尿路閉塞が示唆されるが,排尿筋力低下や神経因性膀胱でも,この量の残尿が生じることがある。カテーテルを留置した場合は,治療に対する尿量の反応を正確にモニタリングするために留置を継続してもよいが,無尿患者では感染リスクを抑えるためにカテーテルを抜去する(下部尿路閉塞が存在しない場合)。

次に腎超音波検査を施行し,より近位の閉塞を診断する。しかしながら,超音波検査を用いた場合,閉塞に対する感度はわずか80~85%にとどまり,その理由は集合管系が必ずしも拡張するとは限らないからであり,特に病態が急性の場合,尿管が覆われている場合(例,後腹膜線維症または腫瘍により),あるいは循環血液量減少を併発している場合が該当する。閉塞が強く疑われる場合は,単純CTにより閉塞部位を確定し,治療法を示唆することができる。

尿沈渣から病因の手がかりが得られることがある。正常な尿沈渣は,腎前性AKI,ときに閉塞性尿路疾患において発生する。尿細管障害の場合は,沈渣には尿細管細胞,尿細管細胞円柱および多数の顆粒円柱(しばしば褐色に色素沈着)が特徴的に含まれる。尿中の好酸球は,アレルギー性尿細管間質性腎炎を示唆している場合があるが,この所見の診断精度は限定的である。赤血球円柱および変形赤血球は,糸球体腎炎または血管炎を示唆するが,急性尿細管壊死で生じるのはまれである。

臨床所見からときに腎性の原因が示唆される。糸球体腎炎の患者は,しばしば浮腫,著明なタンパク尿(ネフローゼ症候群),または皮膚および網膜における動脈炎の徴候を呈し,内因性腎疾患の病歴がないことも多い。喀血は,多発血管炎性肉芽腫症または抗GBM病(グッドパスチャー症候群)により生じる場合がある。特定の発疹(例,結節性紅斑,皮膚血管炎,円板状エリテマトーデス)は,クリオグロブリン血症全身性エリテマトーデス(SLE),またはIgA血管炎を示唆している場合がある。尿細管間質性腎炎および薬物アレルギーは,薬歴と斑状丘疹状または紫斑性の発疹から示唆され,顕微鏡的多発血管炎も同様の場合がある。

腎性の原因をさらに鑑別するには,抗ストレプトリジンO抗体価および補体価,抗核抗体,抗好中球細胞質抗体を測定する。

それでも診断を確定できない場合には腎生検を施行することがある(臨床検査所見に基づく急性腎障害の原因の表を参照)。

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画像検査

腎超音波検査に加えて,その他の画像検査がときに用いられる。尿管閉塞を評価する場合,順行性および逆行性尿路造影より単純CTが好まれる。CTは軟部組織の構造およびカルシウム含有結石の詳細な撮像能力に加え,放射線不透過性ではない結石の検出が可能である。

ヨード造影剤は可能であれば回避すべきである。しかしながら,臨床所見から大血管性の原因が示唆される場合は,腎動脈造影および静脈造影がときに適応となる。MRアンギオグラフィーは,腎動脈狭窄ならびに動脈および静脈での血栓症の診断でますます利用が増加していたが,これはMRIで使用されるガドリニウムが血管造影および造影CTで使用されるヨード造影剤と比較して,AKIのリスクが低いと考えられていたからである。しかしながら,最近のエビデンスから,AKI患者のほか慢性腎臓病の患者でも発生する重篤な合併症である腎性全身性線維症の発生機序にガドリニウムが関連している可能性が示唆されている。このため,腎機能が推算糸球体濾過量(eGFR)30mL/min/1.73m2未満の患者では,ガドリニウムの使用は可能であれば避けるべきである。臨床的に適応があれば,腎性全身性線維症のリスクが低いことから,group IIのガドリニウム造影剤を優先して使用すべきである(2)。

腎の大きさ(画像検査で測定する)を把握しておくと参考になり,正常または腫大した腎臓では回復が期待されるが,腎臓が小さい場合は慢性腎機能不全が示唆される。しかしながら,以下のような一部の慢性腎臓病では腎腫大を呈する傾向がある:

AKIの病期分類

患者の体液量が最適になり,泌尿生殖器の閉塞が除外されれば,血清クレアチニン値または尿量に基づいてAKIを3つの病期に分類することができる(急性腎障害の病期分類基準[KDIGO 2012]の表を参照)。

表&コラム
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診断に関する参考文献

  1. 1.KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes) Acute Kidney Injury Work Group: KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury.Kidney Inter Suppl.2:1-138, 2012.

  2. 2.ACR Manual on Contrast Media: Version 10.3.American College of Radiology Committee on Drugs and Contrast Media.2021.

AKIの治療

  • 肺水腫および高カリウム血症の迅速な治療

  • 高カリウム血症,肺水腫,代謝性アシドーシス,尿毒症症状をコントロールするため,必要に応じて透析

  • 腎機能障害の程度に応じた薬剤レジメンの調節

  • 通常は水,ナトリウム,リン,およびカリウムの摂取制限,ただしタンパク質は十分に摂取させる

  • ときにリン吸着剤(高リン血症に対して)および腸管内カリウム吸着剤(高カリウム血症に対して)

救急治療

生命を脅かす合併症に対処し,集中治療室で対応するのが望ましい。肺水腫の治療は,酸素,血管拡張薬(例,ニトログリセリン)の静脈内投与,利尿薬(AKIではしばしば無効),または透析による。

高カリウム血症の治療は,必要に応じて10%グルコン酸カルシウム10mL,ブドウ糖50g,インスリン5~10単位の点滴静注による。これらの薬剤は体内の総カリウム量を低下させないため,さらなる(ただし遅効性の)治療が必要になる(例,ポリスチレンスルホン酸ナトリウム,利尿薬,透析)。

アニオンギャップ増大を伴う代謝性アシドーシスの炭酸水素ナトリウムによる是正については議論があるが,重度の代謝性アシドーシス(pH7.20未満)のアニオンギャップ以外の部分を是正することはしばしば推奨されており,炭酸水素ナトリウムの緩徐な静脈内投与(5%ブドウ糖水1L中に炭酸水素ナトリウム150mEq[またはmmol]以下,投与速度50~100mL/時)で治療することができる。身体緩衝系の変動と酸産生の速度は予測困難であることから,十分な是正を達成するのに必要な重炭酸の量の算出は通常は推奨されない。その代わりに,重炭酸を持続静注で投与し,アニオンギャップを連続的にモニタリングする。

血液透析または血液濾過は,次の場合に開始する:

  • 重度の電解質異常を他の方法でコントロールできない(例,カリウム値 > 6mmol/L)

  • 薬物治療にもかかわらず肺水腫が持続する

  • 代謝性アシドーシスが治療に反応しない

  • 尿毒症症状の発生(例,尿毒症に起因すると考えられる嘔吐,羽ばたき振戦,脳症,心膜炎,痙攣発作)

血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン値は,おそらく急性腎障害(AKI)における透析導入の最適な指標ではないと考えられる。重篤ではない無症状の患者,特に腎機能の回復が見込まれる患者においては,透析は症状が出現するまで見合わせ,そうすることで中心静脈カテーテルの留置とそれに伴う合併症を回避することができる。

アニオンギャップの臨床計算ツール
医学計算ツール(学習用)

一般的な方法

腎毒性薬剤は中止するとともに,腎排泄される全ての薬剤(例,ジゴキシン,一部の抗菌薬)を調整する;その際は血清中濃度が有用である。

1日の水分摂取は,前日の尿量に,腎以外の排泄量(例,吐物)の測定値,さらに不感蒸泄として500~1000mL/日を足したものに等しい量に制限される。水分摂取量は,低ナトリウム血症ではさらに制限し,高ナトリウム血症では増加させることができる。体重増加から水分過剰が示唆されるが,正常な血清ナトリウムが維持されていれば水分摂取量を減少せず,その代わりに,食事でのナトリウム摂取量を制限する。

ナトリウムおよびカリウムの摂取量は,欠乏症の既往や消化管からの喪失がみられる患者を除き,最小限とする。食事は十分に摂取させ,1日のタンパク質摂取量を約0.8g/kgとする。経口または経腸栄養が不可能な場合,静脈栄養が用いられるが,AKIにおいては体液過剰,高浸透圧および感染のリスクが静脈栄養によって上昇する。カルシウム塩(炭酸カルシウム,酢酸カルシウム)または鉄含有もしくは合成リン吸着剤を食前に摂取させることが,血清リン値を5.5mg/dL未満(1.8mmol/L未満)に維持するのに役立つ。

透析を受けていない患者で血清カリウム値を6mmol/L/日未満に維持するのに補助が必要な状況(例,利尿薬など他の治療法でカリウム値を低減できない場合)では,作用発現まで数時間待てる場合,陽イオン交換樹脂が処方される。ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは経口または経直腸製剤が使用可能であり,パチロマーおよびジルコニウムシクロケイ酸ナトリウムは経口製剤のみが使用できる。

膀胱カテーテル留置が必要になることはまれであり,尿路感染症および尿路敗血症のリスクを高めることから,必要な場合にのみ用いるべきである。

多くの患者で,閉塞が軽減されると活発で劇的でさえある利尿がみられるが,これは閉塞時の細胞外液の増加に対する生理的反応であり,体液の状態に障害をもたらすものではない。しかしながら,大量のナトリウム,カリウム,マグネシウム,その他の溶質の排泄を伴う多尿は,低カリウム血症,低ナトリウム血症,高ナトリウム血症(自由水が供給されない場合),低マグネシウム血症,または末梢の血管虚脱を伴う細胞外液量の著明な減少を招く場合がある。この乏尿後の期間においては,水・電解質バランスに対する緊密な注意が必須である。閉塞の軽減後に塩分と水分を過度に投与すると,利尿が長引く可能性がある。乏尿後の利尿が認められた場合には,尿量の約75%に相当する0.45%食塩水を補充することで,体液量減少および自由水の喪失過剰の傾向を予防しつつ,もし多尿の原因が過剰な体液である場合には,身体から過剰な体液を排泄できる。

AKIの予後

急性腎障害(AKI)後の腎機能回復に関する予後は,発病前の腎機能と相関する。慢性腎臓病(CKD)が基礎にある患者は,AKIの発生,AKIの治療としての透析の必要性,および末期腎不全(ESRD)への進行のリスクが高い。

非乏尿性AKI(尿量 > 500mL/日)の予後は,乏尿性または無尿性AKIより良好である。利尿薬による補助の有無にかかわらず,尿量の増加は腎機能の回復またはAKI重症度の低下を示唆する。それでも,AKIからの回復は将来のCKDおよびESRDの危険因子である。2020年にAKIのない状態で入院した米国のメディケア受給者における全院内死亡率は2.71%であったのに対し,透析を必要としないAKIの入院患者では9.9%,透析を必要とするAKIの患者では33.1%であった。全体として,AKIで入院した患者のうち,退院して自宅に戻ったのは3分の1未満であった (1)。

予後に関する参考文献

AKIの予防

急性腎障害(AKI)は,外傷,熱傷または重度の出血のある患者および大手術を受ける患者において,正常な水分バランス,血液量および血圧を維持することでしばしば予防できる。等張食塩水の輸液および輸血が助けになることがある。

ヨード造影剤の使用は最小限に抑え,特にリスク群(例,高齢患者や既存の腎機能不全,体液量減少,糖尿病,または心不全を有する患者)では最小限にすべきである。造影剤が必要な場合は,静注造影剤の量を最小限に抑え,非イオン性および低浸透圧性または等浸透圧性造影剤を使用し,非ステロイド系抗炎症薬の使用を避け,検査前に生理食塩水を1mL/kg/時で12時間静脈内投与する前処置を行うことにより,リスクを低下させることができる。造影剤投与の前後には,生理食塩水の代わりに等張性の炭酸水素ナトリウム溶液の点滴も行われて成功を収めており,特に代謝性アシドーシスを合併している患者でよく行われている。N-アセチルシステインは,かつて造影剤腎症を予防する目的で使用されていたが,最近の研究の大半では成績の改善がみられておらず,現在はこの適応での使用は推奨されていない。

特定の腫瘍性疾患(例,リンパ腫,白血病)の患者で細胞傷害性薬剤の投与を開始前には,尿酸塩尿を軽減するため,経口補水または輸液の増量により尿量増加をはかるとともに,ラスブリカーゼまたはアロプリノールの投与を考慮すべきである。尿のアルカリ化(炭酸水素ナトリウムまたはアセタゾラミドの経口または静脈内投与)がこれまで推奨されることもあったが,尿中カルシウムリン酸沈着および結晶尿をもたらす可能性があり,これによりAKIが増悪する場合もあることから,議論がある。

要点

  • AKIの原因は腎前性(例,腎血流低下),腎性(例,腎臓に対する直接的影響),腎後性(例,腎臓より末梢側での尿路閉塞)の可能性がある。

  • AKIでは細胞外液量減少および腎毒性物質を考慮し,尿診断指標を得て,残尿量を測定して閉塞を同定する。

  • 画像検査では静注ヨード造影剤の使用は避けるか最小限に留める。

  • 肺水腫,高カリウム血症,代謝性アシドーシス,他の治療に反応しない尿毒症症状に対し,必要に応じて血液透析または血液濾過を開始する。

  • AKIのリスクを有する患者に対しては,正常な水分バランスを維持し,可能であれば腎毒性物質(静注のヨード造影剤を含む)の使用を回避し,造影剤または細胞傷害性薬剤の投与が必要な場合は水分補給や薬剤投与などの予防措置を講じることでリスクを最小化する。

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