エーラス-ダンロス症候群は、関節が過度に柔軟である、皮膚が異常に伸びる、組織がもろいといった症状がみられる、まれな遺伝性結合組織疾患群です。
この症候群は、結合組織の生産を制御する複数の遺伝子の1つに異常があるために発生します。
典型的な症状としては、柔軟な関節、猫背、扁平足、伸びる皮膚などがあります。
診断は症状と身体診察の結果に基づいて下されます。
この症候群の患者のほとんどでは、余命は正常です。
エーラス-ダンロス症候群には根治的な治療法がありません。
エーラス-ダンロス症候群は、結合組織の産生を制御する遺伝子の1つに異常があるために発生します。結合組織は頑丈で、その多くは線維性であり、互いに結合して体の構造を支えるとともに、弾力性をもたらしています。
エーラス-ダンロス症候群には、6つの主な病型と、比較的まれな7つの病型があります。それぞれに異なる遺伝子が関与しており、重症度にも幅があります。病型間で症状は若干異なりますが、すべての病型で結合組織が異常にもろくなり、それによって関節や骨に異常が現れるほか、内臓機能が弱まることがあります。
エーラス-ダンロス症候群の症状
ST MARYS HOSPITAL MEDICAL SCHOOL/SCIENCE PHOTO LIBRARY
エーラス-ダンロス症候群の患者には通常、関節が非常に柔らかい、傷あとが異常になる、傷が治りにくい、血管が傷つきやすい、皮膚が非常に伸びるなどの症状がみられます。皮膚をつまむと数センチメートルも伸び、放すと元に戻ります。
皮下に小さくて硬く、丸いしこりがみられることもあります。
少数の患者では血液が正常に凝固せず、軽微な傷からの出血でも止血が難しいことがあります。
エーラス-ダンロス症候群の合併症
エーラス-ダンロス症候群では、けがに対する体の反応が変化することがあります。例えば、軽いけがでも、傷口が大きく開いてしまうことがあります。このような傷は、通常は過度の出血は伴わないものの、大きな傷跡が残ります。
また、ねんざや脱臼が頻繁に起こります。
胸郭の変形、脊椎の異常な弯曲を伴う猫背(脊柱後側弯症)、内反足といった症状が現れることもあります。
ほとんどの成人で扁平足がみられます。
腸の一部が腹壁から飛び出す場合(ヘルニア)や、腸に異常な袋状の膨らみ(憩室)ができる場合があります。まれに、もろくなった腸に、出血や破裂(穿孔―消化管穿孔を参照)がみられることもあります。
心臓弁の組織がもろいために、弁から漏れが生じることがあります。
エーラス-ダンロス症候群の患者が妊娠すると、早産になるおそれがあります。母親の組織がもろいために、分娩中に子宮が破裂するリスクが高くなります。傷の治りが悪いために、会陰切開や帝王切開で問題が生じることもあります。胎児がエーラス-ダンロス症候群の場合は、胎児を囲んでいる羊膜の袋が早く破れてしまうことがあります(前期破水)。母親や新生児がエーラス-ダンロス症候群にかかっている場合、分娩中やその前後に過度の出血が起こることもあります。
エーラス-ダンロス症候群の診断
医師による評価
遺伝子検査
皮膚生検
合併症を検出するための画像検査
エーラス-ダンロス症候群の診断は、症状と身体診察の結果に基づいて下されます。
診断を確定するため、多くの場合、遺伝子検査を行います。
皮膚のサンプルを採取して顕微鏡で調べる生検を行うことで、エーラス-ダンロス症候群の一部の病型を特定できる可能性があります。
合併症の状態を調べるために、別の検査が行われます。例えば、心臓や血管の異常を見つけるため、多くの場合心エコー検査などの画像検査を行います。
エーラス-ダンロス症候群の予後(経過の見通し)
通常、エーラス-ダンロス症候群の患者は、多くの様々な合併症が生じる可能性があるにもかかわらず、余命は正常です。
ただし、特定の病型では致死的となりうる合併症(通常は出血)が発生します。
エーラス-ダンロス症候群の治療
けがの予防
エーラス-ダンロス症候群を治療する方法も、異常な結合組織を正常に戻す方法もありません。
けがを治療することはできますが、もろくなった組織が裂けやすいため、傷口を縫合しようとすると処置が難しい場合があります。通常は接着テープや医療用皮膚接着剤を用いることで、簡単に傷口をふさぐことができ、傷跡はあまり残りません。
この症候群では、けがをしないような特別な配慮が必要です。例えば、重いタイプのエーラス-ダンロス症候群の小児では、体を保護する服を着たり、服の中に詰め物をします。
手術では、傷口を最小限に抑える特殊な技術が必要で、輸血用に大量の血液を確保しておきます。
妊娠や分娩については、産科医(出産と出産する女性のケアと治療を専門とする医師)の指導を受けなければなりません。
家族には遺伝カウンセリングが提案されます。