妊娠後半にみられるむくみ

執筆者:Emily E. Bunce, MD, Wake Forest School of Medicine;
Robert P. Heine, MD, Wake Forest School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 6月
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妊娠の経過とともに、通常足、足首、脚などの組織に体液が貯留し、腫れてむくんでみえるようになります。この状態を浮腫といいます。ときに、顔や手もむくむことがあります。妊娠中、特に第3トリメスター【訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当】に起こるある程度の体液貯留は正常であり、生理的浮腫と呼ばれます。

妊娠中に体液が貯留するのは、体に水分を保持させるホルモン(アルドステロンおよびコルチゾール)が副腎から多く分泌されるようになるためです。また、大きくなっている子宮が脚から心臓への血流を圧迫することでも、体液が貯留します。その結果、水分が脚の静脈にたまって、周囲の組織にしみ出します。

原因

一般的な原因

妊娠中のむくみは通常、以下によるものです。

  • 生理的浮腫

あまり一般的でない原因

あまり多くはありませんが、病気が原因で妊娠中にむくみが生じることがあります(表「妊娠後半にみられるむくみの主な原因と特徴」を参照)。ただし、こういった病気は多くの場合、重篤なものです。具体的には以下のものがあります。

深部静脈血栓症では、体の部分(通常は脚)の深いところにある静脈に血栓が形成されます。妊娠すると、いくつかの理由によりこの病気のリスクが上昇します。妊娠中には、血液の凝固を助けるタンパク質(凝固因子)が体内で多く作られますが、これはおそらく、分娩中の大量出血を予防するための仕組みです。また、妊娠中の変化により静脈で血流が滞ることで、血栓が生じやすくなります。妊婦があまり動かない状態にあると、脚の静脈で血流が滞って、血栓ができる可能性がさらに高くなります。血栓により血流が妨げられる可能性があります。こうした血栓の1つが剥がれると、それが血流に乗って肺へ運ばれ、そこで血流を詰まらせることがあります。この詰まり(肺塞栓症)は生命を脅かすものです。

妊娠高血圧腎症は、妊娠中に血圧と尿中のタンパク質が上昇した状態です。体液貯留が生じることがあり、顔、手、足などにむくみを引き起こし、体重が増加します。重度の妊娠高血圧腎症の場合、脳、腎臓、肺、肝臓などの臓器が損傷したり、胎児に問題が生じたりする可能性があります。

周産期心筋症は、むくみだけでなく息切れや疲労も引き起こします。

蜂窩織炎は、皮膚や皮下組織の細菌感染で、発赤や圧痛を伴う腫れを引き起こすことがあります。蜂窩織炎は、脚の皮膚に最もよく生じますが、体のどの部分にも発生します。

危険因子

様々な状態(危険因子)により、深部静脈血栓症および妊娠高血圧腎症のリスクが上昇します。

深部静脈血栓症の危険因子としては以下のものがあります。

  • 深部静脈血栓症の既往

  • 遺伝性の血液凝固障害

  • 正常な血流が妨げられる脚の静脈の損傷

  • がんや、腎臓または心臓の問題などの血液が凝固しやすくなる病気

  • 喫煙

  • 病気や手術などで体を動かせない状態

  • 肥満

妊娠高血圧腎症の危険因子としては以下のものがあります。

  • 妊娠前からの高血圧

  • 過去の妊娠時の妊娠高血圧腎症、または家系内で妊娠高血圧腎症を起こしたことがある人

  • 年齢が17歳未満または35歳以上

  • 初回妊娠

  • 多胎妊娠

  • 糖尿病

  • 血管の病気

  • 胞状奇胎(異常な受精卵からの胎児を伴うこともある、胎盤の組織の異常な増殖)

周産期心筋症の危険因子としては以下のものがあります。

  • 30歳以上である

  • 過去に診断されている心筋症または他の心臓の問題

  • アフリカ系である

  • 多胎妊娠

  • 妊娠高血圧腎症

  • 妊娠前からの高血圧

評価

生理的浮腫の診断を下すには、深部静脈血栓症、妊娠高血圧腎症、心疾患、蜂窩織炎のほか、考えられる他の原因の可能性をすべて否定する必要があります。

警戒すべき徴候

脚のむくみがみられる妊婦では、以下の症状に注意が必要です。

  • 血圧が140/90mmHg以上

  • 片方の脚またはふくらはぎのみのむくみで、特にその部位に熱感、発赤、または圧痛がある場合や発熱がある

  • 手のむくみ

  • 急に悪化するむくみ

  • 錯乱、呼吸困難、視覚の変化、振戦(ふるえ)、けいれん、急な腹痛、急な頭痛(妊娠高血圧腎症によって起こる可能性のある症状)

  • 胸痛

受診のタイミング

以下がある場合、直ちに病院に行くべきです。

  • 妊娠高血圧腎症または心疾患を示唆する症状

その他の警戒すべき徴候がみられる女性は、その日のうちに医師の診察を受ける必要があります。警戒すべき徴候がない女性は、受診すべきですが、数日の遅れが問題になることは通常ありません。

医師が行うこと

医師はまず、むくみを含めた症状と病歴について質問します。次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、むくみの原因と必要になる検査を推測することができます(表「妊娠後半にみられるむくみの主な原因と特徴」を参照)。

医師は以下について質問します。

  • むくみがいつ始まったか

  • どのくらいの間むくみが続いているか

  • 何らかの行動(左側を下にして横になるなど)によってむくみが軽減したり悪化したりするか

左側を下にして横になることで生理的浮腫が軽減します。

医師は深部静脈血栓症や妊娠高血圧腎症、周産期心筋症の発症リスクを高める状態についても質問します。

原因を示唆している可能性がある他の症状についても質問します。深部静脈血栓症、肺塞栓症、妊娠高血圧腎症、高血圧、または心筋症などの心臓の問題があるかについても質問があります。

身体診察では、医師は深刻な原因の徴候がないか確認します。妊娠高血圧腎症の症状を確認するために、医師は血圧を測定し、心臓と肺の聴診を行うとともに、妊婦の反射を調べる場合や、検眼鏡(小さい懐中電灯のような手持ち式の器具)で眼の奥を調べる場合もあります。また、特に脚や手、顔に、むくみがないか探します。むくみのある部位があれば、発赤や熱感、圧痛の有無を確認します。

検査

深部静脈血栓症が疑われる場合、患側の脚のドプラ超音波検査が行われます。この検査では脚の静脈の血栓によって引き起こされた血流の障害が描出されます。

妊娠高血圧腎症が疑われる場合、尿サンプル中のタンパク質を測定します。高血圧に加え、尿中のタンパク質が高い場合、妊娠高血圧腎症が示唆されます。診断がはっきりしない場合、患者に24時間にわたって尿を採取するよう依頼し、その量に含まれるタンパク質を測定します。この測定方法の方が正確です。しかしながら、尿中のタンパク質の値が正常でも妊娠高血圧腎症が存在することがあります。頭痛を伴う高血圧、視覚の変化、腹痛、または血液検査もしくは尿検査の異常も妊娠高血圧腎症を示唆することがあります。

周産期心筋症が疑われる場合は、心電図検査、胸部X線検査、心エコー検査、および血液検査を施行して心機能を確認します。

治療

むくみが病気から生じているものであれば、その病気を治療します。

妊娠中に正常に起こるむくみである場合、以下によって軽減することができます。

  • 左側を下にして横になることで、心臓に戻る血液が流れる太い静脈(下大静脈)を子宮が圧迫しなくなる

  • 脚を挙上して頻繁に休息を取る

  • 弾性サポートストッキングを着用する

  • 血流(特に脚の血流)を妨げないゆったりとした衣服を着用する(例えば、足首やふくらはぎの周りを締めつける靴下やストッキングを穿かない)

要点

  • 妊娠中の脚や足首のむくみには正常(生理的)なものもあり、第3トリメスター【訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当】に生じます。

  • 医師は身体診察、血圧測定、血液検査、尿検査、ときに超音波検査の結果に基づき、むくみの深刻な原因を特定します。

  • 妊娠自体が原因の場合、左側を下にして横になる、定期的に脚を挙上する、サポートストッキングを着用する、血流を妨げないゆったりとした衣服を着用するなどの方法によりむくみを軽減できます。

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