敗血症と敗血症性ショック

執筆者:Joseph D Forrester, MD, MSc, Stanford University
レビュー/改訂 2021年 9月 | 修正済み 2022年 12月
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やさしくわかる病気事典

敗血症は、菌血症やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加えて、体の重要な臓器に機能不全が起きている状態です。敗血症性ショックは、敗血症のために生命を脅かすほどの血圧の低下(ショック)と臓器不全が起きている病態です。

  • 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内での感染が多くみられます。

  • 免疫系の機能低下、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁の使用、特定の心臓弁の異常といった特定の条件に当てはまると、リスクが高くなります。

  • まず、体温の上昇(または体温の低下)がみられ、ときに悪寒戦慄や脱力もみられます。

  • 敗血症が悪化すると、心拍と呼吸が速くなり、錯乱をきたし、血圧が低下します。

  • 医師は症状に基づいて敗血症を疑い、血液や尿などのサンプル中の細菌を確認することによって診断を確定します。

  • 抗菌薬を速やかに投与するとともに、酸素吸入と輸液を行い、ときには血圧を上昇させる薬も使用します。

菌血症、敗血症、敗血症性ショックに関する序も参照のこと。)

通常、感染に対する体の反応は感染が起きている部位に限定され、例えば、尿路感染症の症状は、たいていは膀胱に限定されてみられます。しかし敗血症では、感染に対する反応が全身で起こります(全身性反応と呼ばれます)。

この反応では、異常な体温上昇(発熱)または体温低下(低体温症)に加えて、以下のような症状がみられます。

このような症状を全身に引き起こす感染症も多くありますが、敗血症では臓器の機能が低下し始めるとともに、体の一部で血流不足が起こります。

敗血症性ショックは、敗血症のために危険な水準まで血圧が低下している状態(ショック)です。その結果、肺、腎臓、心臓、脳などの内臓に、多くの場合十分な血液が供給されなくなり、結果、内臓が機能不全に陥ります。敗血症性ショックは、集中的な治療と輸液を行っても血圧が低いままであれば診断されます。敗血症性ショックは生命を脅かす状態です。

敗血症および敗血症性ショックの原因

特定の細菌が作り出す毒素によって、体内の細胞が炎症を誘発する物質(サイトカイン)を放出すると、敗血症が起こります。サイトカインには免疫系が感染に対処するプロセスを助ける働きがありますが、以下のような有害な影響を引き起こすことがあります。

  • サイトカインによって血管が拡張し、血圧が低下します。

  • サイトカインによって臓器内部の毛細血管の血液が凝固します。

ほとんどの場合、敗血症は特定の細菌(通常は病院内で感染する細菌)に感染することで起こります。まれに、カンジダ(Candida)などの真菌が敗血症を引き起こすこともあります。敗血症につながる感染は主に、肺、腹部、または尿路から始まります。ほとんどの場合、これらの感染が敗血症につながることはありません。しかし細菌が血流に入ると(菌血症と呼ばれる状態)、敗血症になる可能性があります。感染初期に膿瘍がみられる場合は、菌血症と敗血症のリスクが高まります。毒素性ショック症候群などの場合には、血流に入っていない細菌が放出した毒素によって敗血症になることがあります。

敗血症および敗血症性ショックの合併症

血圧の低下と複数の小さな血栓が、以下のような一連の有害な合併症につながることがあります。

  • 生命維持にかかわる臓器(腎臓、肺、心臓、脳など)への血流量が減少します。

  • これに対処するために心臓の活動が激しくなり、心拍数と送り出される血液の量が増加します。細菌毒素と心臓への負荷により、やがて心臓が弱ります。その結果、心臓から送り出される血液の量が減少し、生命維持にかかわる臓器への血液供給がさらに低下します。

  • 十分な血液が供給されなくなると、組織は乳酸(老廃物)を過剰に血流に放出するため、血液の酸性度が高まります(アシドーシス)。

これらの作用はすべて、以下のように内臓の機能不全が悪化していく悪循環を生じさせます。

  • 腎臓から尿がほとんどまたはまったく排出されなくなり、血液中に代謝性老廃物(尿素窒素など)が蓄積します。

  • 血管の壁から体液が組織内に漏れやすくなり、浮腫が起こります。

  • 肺の血管から体液がしみ出し、それが蓄積して呼吸が困難になり、肺機能が悪化します。

微細な血液のかたまり(血栓)が形成され続けるため、その結果、かたまりを作る血液中のタンパク質(凝固因子)が使い果たされます。そうすると、過度の出血(播種性血管内凝固症候群)が起こる場合があります。

敗血症および敗血症性ショックの危険因子

重篤な感染症に対する抵抗力が低下する条件に該当する人では、敗血症のリスクが高まります。そのような条件としては、以下のものがあります。

  • 新生児である(新生児の敗血症を参照)

  • 高齢である

  • 妊娠している

  • 糖尿病肝硬変などの特定の慢性疾患がある

  • 免疫系を抑制する薬(化学療法薬やコルチコステロイドなど)の使用や特定の病気(がんエイズ免疫疾患など)のために免疫機能が低下している

  • 抗菌薬やコルチコステロイドによる治療を最近受けた

  • 最近入院していた(特に集中治療室に入っていた)

血流に細菌が入りやすい状況にある人でも、リスクが高くなります。具体的には、医療器具を体内に挿入している人(静脈や尿路にカテーテルを入れている人や、ドレナージや呼吸のためのチューブを使用している人など)が該当します。医療器具を挿入する際に、細菌が体内に入り込むことがあります。また、細菌がこうした器具の表面に集まって、感染や敗血症を起こしやすくすることもあります。器具が留置される時間が長くなるほど、リスクは高まります。

ほかにも以下のような場合に敗血症のリスクが高まります。

  • レクリエーショナルドラッグの注射:麻薬などの薬物を注射する際、薬と針が滅菌されていることはめったにありません。毎回の注射で程度の差はあれ、菌血症が生じる可能性があります。このような薬物を使用している場合には、免疫機能を低下させる病気(エイズなど)のリスクも増加します。

  • 人工関節や人工心臓弁を使用している、または特定の心臓弁の異常がある場合:これらの部位に細菌がとどまり集積しやすい傾向があります。その後、細菌が連続的または周期的に血流に放出されます。

  • 抗菌薬による治療にもかかわらず感染が持続する場合:感染症や敗血症を引き起こす細菌の中には、抗菌薬に対して耐性をもつものがあります。耐性菌は、抗菌薬で完全に死滅させることができません。抗菌薬を使用しても感染が持続する場合は、抗菌薬に対する耐性をもつ細菌による感染である可能性が高く、その細菌が敗血症の原因になることがあります。

敗血症および敗血症性ショックの症状

ほとんどの場合、発熱がみられますが、体温の低下がみられる場合もあります。悪寒戦慄や脱力がみられることもあります。このほかにも、最初に起きた感染の種類と部位に応じた症状もみられます(例えば、肺炎の人では、せき、胸の不快感、呼吸困難など)。呼吸、心拍、またはその両方が速くなることがあります。

敗血症が悪化すると、錯乱をきたし、覚醒レベルが低下します。皮膚は熱をもち、赤みを帯びます。脈拍が速くなり、動悸が起こり、呼吸が速くなります。尿の回数と量が少なくなり、血圧が低下します。その後、多くの場合、体温が正常値より低くなり、呼吸が非常に困難になります。血流減少のため、皮膚が冷たく青白くなり、斑点ができたり青く変色したりします。血流減少によって生命維持にかかわる臓器(腸など)を含む組織が壊死し、その結果壊疽(えそ)が起こります。

敗血症性ショックが起これば、治療しても血圧が低下します。死亡する場合もあります。

敗血症および敗血症性ショックの診断

  • 血液サンプルの培養

  • 感染巣を特定する検査(通常は、胸部X線検査とその他の画像検査、体液または組織サンプルの培養)

感染症にかかっていて、突然高熱が出る、体温が低下する、心拍や呼吸が速くなる、血圧が低下するなどの症状がみられる場合は通常、敗血症が疑われます。

診断を確定するために、血流中に細菌が存在するかどうか(菌血症)、敗血症を引き起こしうる別の感染症の徴候があるかどうか、血液サンプル中の白血球数に異常がないかが調べられます。

血液のサンプルを採取し、検査室で細菌を増殖させる検査(培養検査)を試みます(1~3日)。しかし、最初の感染時に抗菌薬が使用されていると、細菌が存在しても培養で増殖しない場合があります。カテーテルを使用している場合には、体内から取り出して先端部を切り取り、それを培養に用いることもあります。血液に触れていたカテーテルに細菌が確認された場合には、血流にも細菌が存在していると考えられます。

敗血症を引き起こす別の感染症の徴候がないか調べるには、尿、髄液、傷口の組織、肺から排出されたたんなどの体液や組織のサンプルを採取します。これらのサンプルを培養し、細菌の有無を調べます。

感染巣を調べるため、胸部X線検査とその他の画像検査(超音波検査CT検査MRI検査など)を行うこともあります。

臓器の機能不全の徴候や、敗血症のほかの合併症を調べる検査も行われます。具体的には以下のものがあります。

  • 血液検査を行い、乳酸などの老廃物の量、血小板(血液凝固を助ける細胞)の数を調べます。乳酸などの老廃物は増加し、血小板数は減少している可能性があります。

  • 血液検査を行うか、指にセンサー(パルスオキシメーター)を取り付けて血液中の酸素レベルを測定し、肺と血管がどれぐらい機能しているかを調べます。

  • 心電図検査を行い、心拍に異常がみられないかを調べ、心臓に血液が十分に供給されているかどうかを確認します。

  • ショックの原因が敗血症なのか別の問題なのかを調べるために、上記以外の検査を行うこともあります。

敗血症および敗血症性ショックの予後(経過の見通し)

敗血症性ショックを治療しないと、ほとんどの人が死亡します。治療を行ったとしても、死亡のリスクがかなり高く、平均で敗血症性ショックの患者の約30~40%が死亡します。しかし、死亡のリスクは多くの要因に大きく左右され、具体的には、どれだけ迅速に治療を受けたか、感染している細菌の種類(特に抗菌薬に対する耐性の有無)、その人の基本的な健康状態などが影響します。

敗血症および敗血症性ショックの治療

  • 抗菌薬

  • 輸液

  • 酸素

  • 感染源の除去

  • ときに血圧を上昇させる薬

医師は直ちに抗菌薬を使用して、敗血症および敗血症性ショックの治療を行います。抗菌薬による治療が遅れると生存の可能性が大幅に低下するため、医師は検査結果が出て診断が確定されるのを待たずに治療を開始します。治療は病院で行われます。

敗血症性ショックの症状がある場合や重症の場合には、すぐに集中治療室での治療を開始します。

抗菌薬

例えば、尿路感染症を引き起こす細菌は、皮膚感染症を引き起こす細菌とは一般的には異なるため、最初に使用する抗菌薬を選択する際には、感染が始まった部位を考慮して、原因として最も可能性の高い細菌を検討します。また医師は、患者が生活する地域やその地域の病院での感染症において最もよくみられる細菌を検討します。多くの場合(特に細菌の感染巣が不明である場合)、細菌が死滅する可能性を高めるために2~3種類の抗菌薬を同時に使用します。その後、検査結果が出てから、感染を引き起こしている細菌に対して最も効果的な抗菌薬に切り替えます。

輸液

敗血症性ショックがみられる場合は、静脈から大量の輸液も行い、血流の量を増加させて、血圧を上昇させます。投与する輸液の量が少なすぎると効果は得られませんが、多すぎると重度の肺うっ血を生じることがあります。

酸素

マスクを装着して、または鼻カニューレや気管内チューブが挿管されていればそれらの器具から、酸素吸入を行います。必要であれば、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)を使用して呼吸を補助します。

感染源の除去

膿瘍が存在する場合は、膿を排出します。感染の原因と思われるカテーテルやチューブなどの医療器具は取り外すか交換します。手術を行って、感染または壊死した組織を除去する場合もあります。

その他の治療

静脈から輸液を行っても血圧が上がらない場合は、血圧を上げて脳や心臓などの臓器への血流を増やすために、バソプレシンやノルアドレナリンなどの薬(血管を収縮させる薬)を投与する場合もあります。しかし、これらの薬によって臓器内の血管が狭くなることがあるため、臓器を通る血流量が少なくなる場合もあります。

敗血症性ショックがみられる人は、血糖値(グルコース値)が高くなることがあります。高血糖は免疫系による感染への反応を損なうため、医師はインスリンを静脈内注射して、血糖値を低下させます。

血圧を上げるために十分な輸液を行い、薬を投与しているにもかかわらず、また感染巣に対する治療を行っているにもかかわらず血圧が低いままの患者には、コルチコステロイド(ヒドロコルチゾンなど)を静脈内投与することがあります。

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