腫瘍随伴(「がんに伴う」という意味、がんの概要も参照)症候群は、がんによって血液中を循環する物質を原因とする異常な症状が引き起こされると発生します。このような物質は、腫瘍から分泌されたホルモンであったり、免疫系によって作られた抗体であったりします。これらの物質は様々な組織や臓器の機能に影響を及ぼし、腫瘍とは遠く離れた部分に症状を引き起こします。腫瘍随伴症候群は神経系や内分泌系(ホルモンを分泌する器官)などの様々な器官系に影響を与え、神経系の変化、低血糖、下痢、高血圧などの問題が生じます。
がん患者の約20%に腫瘍随伴症候群が発生します。腫瘍随伴症候群がみられるがんで特に多いのは、以下のものです。
腫瘍随伴症候群の診断では、血流にのって循環している腫瘍随伴症候群の原因物質の検査がしばしば行われます。腫瘍随伴症候群の治療では、まず最初に症状の治療を行います。最終的には、基礎にあるがんを治療することが腫瘍随伴症候群をコントロールする最善の方法です。
全身性の腫瘍随伴症候群
がん患者では、発熱、寝汗、食欲減退、体重減少がよくみられます。以下の症状はあまり一般的ではありません。
消化管症候群
特定のがんが分泌する物質によって水様性下痢が生じることがあります。腸にできる特定のがんは、便中に大量のタンパク質を排出することで、血液中のタンパク質の濃度が低下することがあります。
内分泌症候群
小細胞肺がんは、副腎を刺激してコルチゾールというホルモンの分泌量を増加させる物質を分泌し、その結果、筋力低下、体重増加、高血圧を引き起こすことがあります(クッシング症候群)。また、小細胞肺がんがバソプレシンを分泌し、水分の貯留、ナトリウム濃度の低下、筋力低下、錯乱、けいれん発作が起こる場合もあります。
固形腫瘍のある患者または白血病の患者では、血液中のカルシウム濃度が非常に高くなることがあります(高カルシウム血症症候群)。がんがホルモン様物質(副甲状腺ホルモンに類似)を血液中に分泌し、その作用で骨からカルシウムが放出されると、高カルシウム血症症候群が起こります。また、がんが直接骨に浸潤することでカルシウムが血液中に放出される場合にもカルシウム濃度が高くなることがあります。血液中のカルシウム濃度が高くなると、結果として腎不全や錯乱(悪化すると昏睡に陥る)が起こり、気づかずにすぐに治療を行わないと、死に至ることさえあります。
その他のホルモンの分泌が過剰になると(通常は膵臓のカルチノイド腫瘍による)、紅潮、喘鳴(ぜんめい)、下痢、心臓弁膜症などのカルチノイド症候群が引き起こされることがあります。
神経症候群
多発神経障害は末梢神経(脳や脊髄以外の神経)の機能不全で、筋力低下、感覚喪失、反射の低下が起こります。亜急性の感覚神経障害は、まれな種類の多発神経障害で、ときにがんが診断される前に発生します。生活に支障をきたす感覚喪失と協調運動障害が生じますが、筋力低下はほとんど起こりません。ギラン-バレー症候群は、別の種類の神経機能障害で、全身の筋力低下を引き起こします。ホジキンリンパ腫の患者で多くみられます。
亜急性小脳変性症は、乳がんや卵巣がん、小細胞肺がん、その他の固形腫瘍の患者にまれに発生します。この病気は、自己抗体(体内の自己の組織を攻撃する抗体)による小脳の破壊が原因となっている可能性があります。歩行が不安定になる、腕と脚の協調運動ができない、発話困難、めまい、複視などの症状がみられます。がんが発見される前に症状が現れることもあります。
自分では制御できない眼球運動(眼球クローヌス)や、腕や脚の筋肉の素早い収縮(ミオクローヌス)が、一部の神経芽腫の小児に起こることがあります。
亜急性の運動神経障害は、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の患者に起こることがあります。脊髄の神経細胞が侵され、腕や脚の筋力低下が生じます。
腫瘍に対する抗体により様々な異常症状が現れます。この抗体は脳組織とも反応して、精神機能の変化、見当識障害、視覚の変化、筋力低下を引き起こします。
イートン-ランバート症候群は、小細胞肺がんの患者に起こることがあります。神経を通じて筋肉を正常に活動させることができず、筋力が極度に低下するのが特徴です。
亜急性壊死性脊髄症は、脊髄にある神経細胞が急速に失われることによって麻痺が生じるまれな症候群です。
皮膚症候群
がん患者で最も多くみられる皮膚症状はかゆみです。顔面紅潮もよくみられます。