脂質異常症

(高脂血症)

執筆者:Michael H. Davidson, MD, FACC, FNLA, University of Chicago Medicine, Pritzker School of Medicine;
Vishnu Priya Pulipati, MD, Warren Clinic Endocrinology
レビュー/改訂 2021年 8月
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やさしくわかる病気事典

脂質異常症とは、脂質(コレステロール、中性脂肪[トリグリセリド]、または両方)の濃度が高いか、高比重リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が低い状態をいいます。

  • 生活習慣、遺伝、病気(甲状腺ホルモン低値や腎疾患など)、薬、またはそれらの組合せが影響します。

  • 動脈硬化をもたらし、狭心症、心臓発作、脳卒中、末梢動脈疾患の原因になります。

  • 中性脂肪と各種コレステロールの血中濃度が測定されます。

  • 運動、食生活の変更、薬が有効です。

コレステロールと脂質の病気の概要も参照のこと。)

血液中の重要な脂肪(脂質)には以下のものがあります。

  • コレステロール

  • 中性脂肪(トリグリセリド)

コレステロールは、細胞膜や脳と神経の細胞に必須の成分であるほか、脂肪と脂溶性ビタミンの吸収を助ける胆汁にも不可欠な物質です。体はコレステロールを使って、エストロゲンテストステロンコルチゾールなどの様々なホルモンやビタミンDをつくります。体は必要なコレステロールをすべて体内でつくることができますが、食物からも摂取します。

脂肪細胞に含まれる中性脂肪(トリグリセリド)は、分解され、成長などの体の代謝過程に必要なエネルギーとして使用されます。中性脂肪は、腸と肝臓で脂肪酸という小さな脂肪からつくられます。脂肪酸は体内でつくられるものもありますが、食物から摂取しなければならないものもあります。

リポタンパクはタンパク質や他の物質の分子でできています。リポタンパク質は、コレステロールや中性脂肪などの脂質を運んでいます。これらの脂質は、それ自身では血液中をよどみなく流れることができません。

リポタンパク質には以下のようないくつかの種類があります(表「脂質を運ぶリポタンパク質の種類」を参照)。

  • カイロミクロン

  • 高比重リポタンパク質(HDL)

  • 低比重リポタンパク質(LDL)

  • 超低比重リポタンパク質(VLDL)

リポタンパク質と脂質、特に低比重リポタンパク質(LDL)コレステロールの値は、年齢とともに少しずつ上昇します。普通、男性は女性よりやや高めですが、女性の場合は閉経後に上昇します。加齢に伴いリポタンパク質値が上昇すると、脂質異常症になります。

総コレステロール値(LDL、HDL、VLDLコレステロールを含む)が上昇すると、脂質異常症とみなされるほど高い値でなくても、動脈硬化のリスクが高くなります。動脈硬化は、心臓に血液を供給する動脈、脳に血液を供給する動脈、および体の各部に血液を供給する動脈に影響を及ぼし、それぞれ冠動脈疾患脳卒中末梢動脈疾患を引き起こします。したがって、総コレステロール値が高いと、心臓発作脳卒中のリスクも高くなります。

一般的に、総コレステロール値が低いことは、高いよりも望ましいと考えられています。しかし、コレステロール値が低すぎても、健康的ではない場合があります(低脂血症)。

コレステロールの正常値と異常値を区切る自然な判定値は存在しませんが、成人で望ましいとされる総コレステロール値は、血液1デシリットル当たり200ミリグラム(200mg/dL[5.1mmol/L])未満です。脂質値をより低い水準に維持することは、多くの人にとって有益です。中国や日本など、平均コレステロール値が150mg/dL(3.8mmol/L)程度の一部の国では、米国などより冠動脈疾患が少なくなっています。総コレステロール値が300mg/dL(7.7mmol/L)近くになると、心臓発作のリスクは2倍以上になります。

総コレステロール値は、動脈硬化になるリスクを示す大まかな指標でしかありません。総コレステロール値よりもその中身、特にLDLおよびHDLコレステロール値の方が重要です。LDL(悪玉)コレステロール値が高いとリスクは高くなります。HDL(善玉)コレステロール値が高いと、動脈硬化になるリスクが低下するため、これは通常は病気とはみなされません。ただし、HDLコレステロールの低値(40mg/dL[1mmol/L]未満になる)は、動脈硬化のリスク上昇と関連があります。LDLコレステロール値は100mg/dL(2.6mmol/L)未満が望ましいとされています。

中性脂肪値が高いと心臓発作や脳卒中のリスクが高まるかどうかは不明です。中性脂肪値150mg/dL(1.7mmol/L)以上は異常とされますが、高値であるからといってすべての人のリスクが高まるわけではないようです。中性脂肪値が高い人では、同時にHDLコレステロール値が低い、糖尿病慢性腎臓病などの病気がある、あるいは家族や親戚に動脈硬化になった人が多数いるなどの条件が重なると、心臓発作や脳卒中のリスクが高くなります。

善玉のHDLコレステロール値が高いのは有益と考えられ、病気とはみなされません。この値が低すぎる場合は動脈硬化のリスクが高くなります。

リポタンパク(a)はLDLに別のタンパク質が結合した状態のものです。値が30mg/dL(75nmol/L)を超えると、動脈硬化のリスク上昇に関連します。高値は遺伝によるものです。リポタンパク質(a)は食事の影響も、ほとんどの脂質低下薬の影響も受けません。通常は1度測定すれば十分です。

脂質異常症の原因

脂質異常症の原因は、以下のように分類されます。

  • 原発性:遺伝によるもの(遺伝性)

  • 続発性:生活習慣やその他の原因によるもの

原発性の原因および続発性の原因は、様々な程度で脂質異常症に寄与します。例えば、遺伝性の高脂血症を有する人に、高脂血症の続発性の原因も認められる場合は、脂質の値がさらに上昇する可能性があります。

原発性(遺伝性)脂質異常症

原発性の原因には、LDLコレステロールや中性脂肪を過剰に生産したり、これらの物質を除去できなくなったりする遺伝子変異が関与しています。なかには、HDLコレステロールの生産不足や過剰な除去をもたらす遺伝子変異もあります。原発性の原因は、遺伝する傾向があるため、家系内で多発します。脂質異常症の遺伝的な原因の一部は、本章および本マニュアルの別の箇所で説明されています。

原発性脂質異常症の人では、脂質を代謝して排出する体内機能が阻害されるため、コレステロール値と中性脂肪値が最も高くなります。HDLコレステロールが異常に低い傾向が遺伝することもあります。

原発性脂質異常症の結果起こる病態の1つに早発性の動脈硬化があり、これは狭心症や心臓発作につながります。また末梢動脈疾患もそうした病態の1つです。この病気では脚への血流が減少し、歩行時に痛みが生じます(跛行)。脳卒中を招くおそれもあります。中性脂肪値が非常に高くなると、膵炎(すいえん)を起こすことがあります。

中性脂肪値が高くなる遺伝性疾患(家族性高トリグリセリド血症や家族性複合型高脂血症など)を患っている人では、特定の病気や物質により中性脂肪の値が極端に高くなることがあります。こうした病気の例として、よくコントロールされていない糖尿病慢性腎臓病が挙げられます。物質の例としては、多量のアルコール摂取や中性脂肪値を上昇させる薬の使用(経口投与されるエストロゲンなど)が挙げられます。症状は、脚の前面や腕の後面の皮膚にできる脂肪のかたまり(発疹性黄色腫)、脾臓や肝臓の腫大、腹痛、神経の損傷による触覚の低下などです。このような病気は膵炎を起こすことがあり、ときに死に至ります。脂肪の摂取量を1日50グラム未満に制限することで、神経の損傷や膵炎を予防することができます。減量や禁酒も効果があります。脂質低下薬が有効です。

家族性複合型高脂血症

家族性複合型高脂血症では、コレステロール値と中性脂肪値のいずれか、または両方が高くなります。この病気を発症する割合は約1~2%です。普通は30歳を過ぎてから脂質濃度が異常になりますが、もっと早い時期から異常が現れることもあり、特に過体重の人や非常に脂肪分の多い食事をしている人、あるいはメタボリックシンドロームがある人ではこの傾向が強くみられます。

家族性複合型高脂血症の治療としては、運動と太っている場合は減量を行い、飽和脂肪、コレステロール、砂糖の摂取量を制限します。この病気の人の多くに脂質低下薬が必要です。

家族性異常ベータリポタンパク血症

家族性異常ベータリポタンパク血症では、超低比重リポタンパク質(VLDL)コレステロール値、総コレステロール値、中性脂肪値が高くなります。これは、血液中に異常な型のVLDLがたまることが原因です。肘や膝、手のひらの皮膚に脂肪のかたまり(黄色腫)ができ、黄色い隆起が生じます。これはまれな病気で、早期に重い動脈硬化を引き起こします。中年になるまでに、動脈硬化によって、しばしば冠動脈や末梢動脈に閉塞が起こります。

家族性異常ベータリポタンパク血症の治療としては、適正体重を維持し、コレステロール、飽和脂肪酸、炭水化物の摂取量を制限します。普通は、脂質低下薬が必要です。治療により脂質濃度を改善し、動脈硬化の進行を遅らせて、皮膚にできた脂肪のかたまりを小さく、あるいはなくすことが可能です。

家族性高コレステロール血症

家族性高コレステロール血症では、総コレステロール値が高くなります。遺伝によって1つの異常な遺伝子を受け継ぐ場合と、両親から1つずつ、合計2つの異常な遺伝子を受け継ぐ場合があります。2つの異常な遺伝子(ホモ接合体)をもっている人は、異常な遺伝子が1つ(ヘテロ接合体)の人より症状が重くなります。約200人に1人の割合でヘテロ接合体がみられ、250,000から1,000,000人に1人の割合でホモ接合体がみられます。患者のかかと、膝、肘、指の腱に脂肪のかたまり(黄色腫)ができます。まれに、10歳になる前に黄色腫ができることがあります。家族性高コレステロール血症は、急速に進行する動脈硬化を引き起こし、冠動脈疾患により早期に死亡することがあります。異常遺伝子が2つの子どもは20歳までに心臓発作や狭心症を起こすことがあり、異常遺伝子が1つの男性は30~50歳で冠動脈疾患になることがしばしばあります。異常遺伝子が1つの女性もリスクが高くなりますが、このリスクは通常男性より約10歳遅れて現れます。喫煙者や高血圧、糖尿病、肥満の人では、動脈硬化がさらに早く起こる可能性があります。

家族性高コレステロール血症の治療は、飽和脂肪酸とコレステロールを抑えた食事を続けることから始めます。当てはまる場合は、減量や禁煙、運動量を増やすことが推奨されます。通常は1種類以上の脂質低下薬が必要です。一部の人はアフェレーシス(血液をろ過してLDL値を下げる治療法)が必要です。ホモ接合体の家族性高コレステロール血症では、肝移植が有益である場合があります。早期診断と早期治療により心臓発作や脳卒中のリスクを減らすことができます。

家族性高トリグリセリド血症

家族性高トリグリセリド血症では、中性脂肪値が高くなります。この病気は約1%の割合で発生します。この病気がみられる家系では、動脈硬化が若い年齢で発生する家系と、そうでない家系があります。必要に応じて、体重を減らし飲酒量および炭水化物の摂取量を制限することで、たいていの場合中性脂肪値が正常値まで下がります。それで効果がなければ、脂質低下薬を使います。糖尿病がある場合には、きちんとコントロールすることが重要です。

低アルファリポタンパク血症

低アルファリポタンパク血症では、HDLコレステロール値が低くなります。HDLコレステロール値が低いのは、しばしば遺伝性です。様々な種類の遺伝子異常がHDLの低下を引き起こします。HDLコレステロール値を上昇させる薬剤では動脈硬化のリスクが低下しないため、低アルファリポタンパク血症の治療はLDLコレステロール値を下げることにより行います。

リポタンパク質リパーゼ欠損症とアポリポタンパク質CII欠損症

リポタンパクリパーゼ欠損症とアポリポタンパクCII欠損症は、中性脂肪を含む粒子を移動させるのに必要な特定のタンパク質が不足して生じるまれな病気です。この病気では、カイロミクロンを血流から除去できなくなり、中性脂肪値が非常に高くなります。治療しないと、1000mg/dL(11mmol/L)より大幅に高くなることがしばしばあります。症状は小児期から青年期にかけて現れます。繰り返す腹痛発作、肝臓や脾臓の腫大などの症状がみられ、肘、膝、殿部、背中、脚の前側、腕の前面の皮膚にピンクがかった黄色いこぶができます。このこぶは発疹性黄色腫と呼ばれ、脂肪のかたまりです。食事で脂肪を摂取すると、症状が悪化します。この病気が原因で動脈硬化になることはありませんが、膵炎を引き起こすことがあり、死に至る場合もあります。この病気がある場合は、食事中のすべての種類の脂肪、つまり飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸を厳格に制限する必要があります。食事で不足する栄養素をまかなうため、ビタミンのサプリメントを摂取する必要があるかもしれません。リポタンパク質リパーゼ欠損症とアポリポタンパク質CII欠損症について、いくつかの治療法が開発中です。

続発性脂質異常症

脂質異常症は多くの場合、続発性の原因によるものです。

脂質異常症の最も重要な続発性の原因として以下のものがあります。

  • 体を動かさない生活習慣に加え、総カロリー、飽和脂肪、コレステロール、トランス脂肪(コラム「脂肪の種類」を参照)を食事から過剰に摂取する

よくみられるその他の続発性の原因には以下のものがあります。

食生活の影響は大半の人にある程度現れますが、その程度には個人差があります。多量の動物性脂肪をとっていても、総コレステロール値が望ましい範囲にとどまる人がいる一方で、厳しい低脂肪食を続けても、総コレステロール値が高い値から下がらない人もいます。この違いは主として遺伝的なものだと考えられます。個人の遺伝的素質によって、体がこれらの脂肪をつくり、使用し、排出する速度は異なります。また、体型は必ずしもコレステロール値の目安になりません。過体重でもコレステロール値が低い人や、痩せているのに高い人もいます。カロリーのとりすぎや過度の飲酒は、中性脂肪値を上昇させます。

知っていますか?

  • 体型からコレステロール値を予想することはできません。過体重でもコレステロール値が低い人や、痩せているのに高い人もいます。

ある種の病気では、脂質値が上昇します。十分にコントロールされていない糖尿病慢性腎臓病は、総コレステロール値や中性脂肪値を高めます。一部の肝疾患(特に原発性胆汁性肝硬変)や甲状腺機能低下症(甲状腺の活動が不十分になった状態)でも、総コレステロール値が上昇します。

経口エストロゲン、経口避妊薬、コルチコステロイド、レチノイド、サイアザイド系利尿薬(ある程度)、シクロスポリン、タクロリムスなどの薬や、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染とエイズの治療に用いる抗ウイルス薬の使用は、コレステロール値や中性脂肪値を上昇させることがあります。

喫煙、HIV感染、よくコントロールされていない糖尿病、ネフローゼ症候群などの腎疾患は、HDLコレステロール値を下げる要因になります。ベータ遮断薬やタンパク質同化ステロイドなどの薬も、HDLコレステロール値を低下させます。

脂質異常症の症状

血液中の脂質濃度が高値でも、普通は無症状です。たまに、数値が特に高い場合に、脂肪が皮膚や腱(けん)にたまって、黄色腫と呼ばれるこぶを形成することがあります。ときに角膜の端に乳白色または灰色の輪ができることもあります。中性脂肪値が非常に高くなると、肝臓や脾臓の腫大、手足のピリピリ感や灼熱感、呼吸困難、錯乱が起こる可能性があり、膵炎になるリスクも高まります。膵炎は激しい腹痛を起こし、ときに死に至ります。

脂質異常症の症状
アキレス腱黄色腫
アキレス腱黄色腫

    アキレス腱黄色腫は、家族性高コレステロール血症の診断に有用です。

Image courtesy of Michael H.Davidson, MD.

腱黄色腫
腱黄色腫

    腱黄色腫は家族性高コレステロール血症の診断に有用です。

Image courtesy of Michael H.Davidson, MD.

発疹性黄色腫
発疹性黄色腫

    重度の中性脂肪(トリグリセリド)高値では、体幹、背中、肘、殿部、膝、手、脚に発疹性黄色腫が生じることがあります。

© Springer Science+Business Media

まぶたの眼瞼黄色腫
まぶたの眼瞼黄色腫

    眼瞼黄色腫は、まぶたと眼の端(眼角)にみられる黄白色のプラークです。眼瞼黄色腫はときに家族性高コレステロール血症の患者にみられることがありますが、コレステロール値が正常な人にもみられることがあります。

Image courtesy of Michael H.Davidson, MD.

眼瞼黄色腫がんけんおうしょくしゅ(まぶた)
眼瞼黄色腫がんけんおうしょくしゅ(まぶた)

    この男性だんせいには、うえまぶたの皮膚ひふ黄色きいろのできものがあり、これはコレステロールのりょうおおくなっているサインかもしれません。

© Springer Science+Business Media

脂質異常症の診断

  • 血液検査によるコレステロール値の測定

血液サンプル中の総コレステロール値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂肪値を測定します。これらの値をまとめて脂質プロファイルといいます。食べものや飲みものを摂取すると中性脂肪値が一時的に上がるため、検査用の血液を採取する前の、少なくとも12時間は絶食する必要があります。

血液中の脂質濃度が非常に高い場合は、特別な血液検査を行い、原因疾患を特定します。原因疾患としては、数種類の遺伝性疾患(原発性脂質異常症)があり、これによって脂質異常が引き起こされ、様々なリスクが生じます。

知っていますか?

  • スティック状のマーガリンとは異なり、主に液状油から作られたマーガリン(チューブまたは容器入りマーガリン)や、植物スタノールやステロールを含むマーガリンは、バターの摂取を制限する必要がある人にとって、より健康的なバターの代替品となります。

スクリーニング

空腹時脂質プロファイルとは、12時間の絶食後に総コレステロール値、中性脂肪値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値を測定する検査です。通常は、冠動脈疾患のリスクがないか評価するための検査の一環として、20歳から5年毎に測定を行います。

医師は脂質値の測定だけではなく、同時に高血圧糖尿病、脂質高値の家族歴など、心血管疾患の他の危険因子についてもスクリーニングを行います。

小児や青年の場合は、家系内に重度の脂質異常症を有する人や、若年で冠動脈疾患を発症した人がいるなどの危険因子があれば、空腹時脂質プロファイルを用いたスクリーニングを2~8歳の時期に行うことが推奨されます。危険因子がない小児の場合、通常は空腹時脂質プロファイルを用いたスクリーニングを思春期に入る直前(9~11歳)に1回、17~21歳の間でさらに1回行います。

脂質異常症の治療

  • 減量

  • 運動

  • 飽和脂肪酸の少ない食事

  • 多くの場合脂質低下薬

最善の治療法は、過体重であれば減量する、喫煙者はタバコをやめる、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量を減らす、運動量を増やす、そして必要であれば脂質低下薬を服用することです。

定期的な運動は、中性脂肪値を下げ、HDLコレステロール値を上げる効果があります。例えば、速足で30分間以上のウォーキングを毎日するとよいでしょう。

小児の治療は難航することがあります。米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)と国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)は、脂質値の高い一部の小児に対して治療を推奨しています。食生活の変更が推奨されます。脂質値が非常に高く、食生活の変更で効果がみられない一部の小児(特に家族性高コレステロール血症の小児)に対しては、脂質低下薬を使用してもよいでしょう。

脂質制限食

飽和脂肪酸やコレステロールが少ない食事をすることで、LDLコレステロール値を下げることができます。ただし、中性脂肪値が高い人は、大量の糖分(食事または飲料のいずれも)、精製された小麦粉(市販の焼き菓子のほとんどに使用されているものなど)、デンプン質の食べもの(イモ類や米など)も避ける必要があります。

摂取する脂肪の種類が重要です(脂肪の種類を参照)。脂肪には、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸があります。飽和脂肪酸は他の型の脂肪よりもコレステロールの値を上昇させます。そのため、毎日の飽和脂肪酸の摂取量は、総摂取カロリーの5~7%までに抑える必要があります。多価不飽和脂肪酸(オメガ3とオメガ6を含む)には、血液中の中性脂肪値とLDLコレステロール値を下げる働きがあります。ほとんどの食品ラベルに、脂肪の含有量が表示されています。

飽和脂肪酸は、肉、卵の黄身、全脂肪乳製品、マカデミアナッツなど一部のナッツ類、ココナッツに多く含まれています。植物油は飽和脂肪酸の量が比較的少ない油ですが、含有量が本当に少ないのは一部の植物油に限られます。

多価不飽和脂肪酸を含む植物油から作られるマーガリンは、飽和脂肪酸がおよそ60%と高いバターよりも普通は健康的です。しかし、スティック状のマーガリンおよび加工食品には、LDL(悪玉)コレステロール値を上昇させ、HDL(善玉)コレステロール値を低下させてしまうトランス脂肪酸が含まれています。主に液状油から作られたマーガリン(チューブまたは容器入りマーガリン)は、バターに比べて飽和脂肪酸が少なく、コレステロールを含まず、スティック状のマーガリンよりもトランス脂肪酸が少なめです。植物スタノールやステロールを含むマーガリン(およびその他の食品)は、総コレステロール値とLDLコレステロール値を下げる働きがあります。

野菜、果物、全粒穀物は脂肪が少なくコレステロールを含まないため、たくさん食べることが推奨されます。また、腸で脂肪に結びついてコレステロール値を下げるのに役立つ水溶性繊維が豊富な食物も推奨されます。このような食物には、オートブラン、オートミール、豆類、米ぬか、大麦、柑橘類、イチゴ、リンゴの果肉などがあります。便秘の解消に利用されるオオバコにも、コレステロール値を下げる働きがあります。

知っていますか?

  • オートブラン、オートミール、豆類、米ぬか、大麦、柑橘類、イチゴ、リンゴの果肉などの食べものには、コレステロールの低下を促す働きがあります。

脂質低下薬

脂質低下薬による治療を行うかどうかは、脂質濃度だけでなく、冠動脈疾患や糖尿病にかかっているかどうか、あるいは冠動脈疾患になる他の主な危険因子があるかどうかにより異なります。冠動脈疾患または糖尿病の人では、スタチン系薬剤と呼ばれる脂質低下薬を使用することで、心臓発作や脳卒中のリスクが低下する可能性があります。コレステロール値が非常に高い人や、その他の点で心臓発作や脳卒中になるリスクが高い人にも、脂質低下薬の服用が有益な場合があります。

脂質低下薬には、以下のように様々な種類があります。

  • スタチン系薬剤

  • コレステロール吸収阻害薬

  • 胆汁酸に結合する薬

  • PCSK9(前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬

  • フィブラート系薬剤

  • オメガ3脂肪酸のサプリメント

  • ナイアシン

  • ベムペド酸

それぞれが異なる仕組みで脂質濃度を下げます。したがって、それぞれ異なる副作用があり、脂質濃度に与える影響もそれぞれ異なります。薬を服用する場合でも、飽和脂肪酸の少ない食生活を送ることが推奨されます。

脂質低下薬には、脂質濃度を下げるだけでなく、冠動脈疾患を予防する働きもあります。さらに、スタチン系薬剤は早期死亡のリスクを減らすことが証明されています。

中性脂肪が非常に高値の場合および膵炎のリスクがある場合は、食生活の変更と中性脂肪値を低下させる薬(通常はフィブラート系薬剤またはオメガ3脂肪酸の処方薬)の両方が必要になります。

コレステロール値を下げるための処置

コレステロール値を下げるための医学的処置は、LDLコレステロール値が非常に高値で食事や脂質低下薬によっても改善しない場合にのみ行われます。対象としては、家族性高コレステロール血症の人などが挙げられます。最もよく行われる処置はLDLアフェレーシスです。LDLアフェレーシスは、血液を体内から体外に出して特殊な装置に流し、そこでLDLコレステロールを分離する処置で、手術ではありません。分離後の血液を体内に戻します。

コレステロール値が上昇する原因の治療

コレステロール値が上昇するか上昇する危険因子があるような病態も治療する必要があります。糖尿病であれば、注意深く血糖値を管理する必要があります。腎臓や肝臓の病気、甲状腺機能低下症も治療します。薬剤によってコレステロール値が上昇している場合、その薬剤の用量を少なくするか、または別の薬剤を代わりに投与することがあります。

治療経過のモニタリング

医師は通常、治療を開始して2~3カ月後に血液検査を行い、脂質値が低下しているかどうかを判定します。脂質値が十分に低下したら、年に1~2回の血液検査でフォローアップを続けます。脂質に対する特定の目標値は設定されていません。その代わり、医師は特定の割合(典型的には30~50%)だけ脂質値を下げようと努めます。

一部の脂質低下薬はときに筋肉や肝臓に問題を引き起こすことがあるため、通常は薬物療法開始時に血液検査が行われます。そうすることで、副作用が現れたときに、最初(ベースライン)の測定値と比較することができます。

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