バッド-キアリ症候群は、肝臓からの血流を完全にまたは部分的に遮断する血栓によって引き起こされます。閉塞は、肝臓(肝静脈)から下大静脈に向かう大小の静脈のどこにでも起こる可能性があります。
無症状の場合もありますが、疲労、腹痛、吐き気、黄疸などがみられる場合もあります。
腹部に体液が貯留し、脾臓が腫大することがあるほか、ときには食道で重度の出血が起こります。
ドプラ超音波検査では、静脈が狭くなっている部分やふさがっている部分を検出できます。
治療としては、薬を使用して血栓を溶かすか小さくしたり、静脈同士をつないで肝臓を迂回する経路を作る手術を行ったりします。
(肝臓の血管の病気の概要も参照のこと。)
バッド-キアリ症候群は通常、血栓によって肝静脈(肝臓から出る静脈)に狭窄または閉塞が起きたときに発生します。
肝臓から出る血流が遮断されるため、血液が肝臓内にたまり、そのために肝臓が大きくなります。脾臓が腫大することもあります。このように血液がたまると(うっ血)、門脈(腸から肝臓につながる静脈)の血圧が上昇します。こうして門脈の血圧が高くなった状態は門脈圧亢進症と呼ばれ、その結果、食道の静脈が拡張して蛇行することで、静脈瘤ができます(食道静脈瘤)。門脈圧亢進症に加えて、うっ血して損傷した肝臓は、腹部への体液の貯留(腹水)を招きます。腎臓は、塩分と水を保持することで、腹水を助長します。
血栓が大きくなり、下大静脈(肝臓や下半身の他の部分からの血液を心臓に送り込む太い静脈)までふさいでしまうことがあります。腹部の皮膚の表面近くに静脈瘤ができて、目に見えるようになることもあります。
最終的には、肝臓に重度の瘢痕(肝硬変)が生じます。
バッド-キアリ症候群の原因
バッド-キアリ症候群の症状
症状は、閉塞がゆっくりと進行するか突然起こるかによって多少異なります。
通常、閉塞および症状は、数カ月かけて徐々に現れます。疲労がよくみられます。腫大した肝臓は触れると痛むようになり、また腹痛もみられます。体液が脚にたまれば、むくみ(浮腫)になり、腹部にたまれば、腹水になります。食道には静脈瘤が生じることがあります。静脈瘤は破裂して出血することがあり、ときに大出血を起こし(消化管出血を参照)、吐血がみられることもあります。こうした出血は緊急の治療を要する事態です。肝硬変を発症すると、肝不全につながることがあります。肝不全があると、脳の機能に異常が生じ(肝性脳症)、錯乱さらには昏睡に陥ることがあります。
約20%の患者では、閉塞が突然起こります。妊娠中に起こる閉塞は、突然起こる傾向があります。症状の一部は、徐々に進行する閉塞の症状(疲労、肝臓の腫大と圧痛、上腹部の腹痛)と同じです。その他の症状には、嘔吐ならびに皮膚や白眼の黄変(黄疸)などがあります。重度の肝不全はまれです。
バッド-キアリ症候群の診断
以下のいずれかに該当すれば、バッド-キアリ症候群が疑われます。
肝臓の腫大、腹水、肝不全、または肝硬変が起きているが、検査を行っても明らかな原因が見当たらない場合
肝臓と血栓のリスクを高める状態について評価する血液検査で、異常値がみられた場合
肝臓の検査で異常値がみられた場合は、画像検査(一般的にはドプラ超音波検査)を行います。結果がはっきりしない場合は、血管のMRI検査(MRアンギオグラフィー検査)またはCT検査を行います(肝臓と胆嚢の画像検査を参照)。
血管を広げたり、血流の経路を変更したりする手術や処置が予定されている場合は、静脈造影検査が必要です。静脈造影検査では、造影剤(X線画像に写る物質)を鼠径部の静脈に注射した後、静脈のX線撮影を行います。
バッド-キアリ症候群の予後(経過の見通し)
静脈が完全にふさがっている場合、治療せずに放置すると、ほとんどの患者は3年以内に肝不全で死亡します。閉塞が不完全な場合、余命は、それよりも長くなりますが様々です。
バッド-キアリ症候群の治療
薬剤(血栓の溶解または予防)
血流を改善するための処置
肝移植(肝不全が起きている場合)
治療は、病気が進行する速度と重症度によって異なります。
症状が突然生じる場合の原因は血栓であり、血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)が有用です。長期間の治療では、抗凝固薬(ワルファリンなど)で血栓の拡大や再発を予防する必要があります。
静脈が膜で閉塞または狭窄している場合は、血管形成術で膜を除去するか静脈を広げます。この手技(経皮的血管形成術)では、先端にしぼんだ風船(バルーン)の付いたカテーテルを皮膚から血管(頸部の静脈など)に挿入し、静脈がふさがった部分に到達させます。その位置でバルーンを膨らませ、静脈を拡張させます。さらにステント(網目状のワイヤーでできた筒)を挿入して、そこに留置することで、静脈が開通した状態を維持することもできます。
もう1つの対処法は、肝臓を迂回して血液を流す代替経路を作ることです。この方法は経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)と呼ばれ、門脈の血圧を下げる効果があります。この手技では、頸部に局所麻酔をかけ、針の付いたカテーテルを首の静脈(頸静脈)に挿入します。そのカテーテルを大静脈に通して肝静脈へ到達させます。この針を使って、肝静脈の分枝と門脈とを接続する経路(シャント)を作ることで、血液が肝臓を迂回できるようにします。それからステントを入れて、シャントが開通した状態で維持されるように設置します。このシャントにより、血液は門脈(通常は肝臓に血液を送り込む静脈)から直接、肝静脈(肝臓から血液を送り出す静脈)に流れ、肝臓を迂回するようになります。その後、血液は下大静脈を通って心臓に戻ります。しかし、このようなシャントは、肝性脳症(肝機能障害による脳機能の異常)のリスクを高めます。また、シャントがふさがってしまうこともあり、血栓ができやすい人では特によく起こります。
肝移植で救命できることもあり、重度の肝不全を起こしている患者では特に有用です。
この病気によって生じる問題に対しても、以下の治療を行います。
食道静脈瘤からの出血:数種類の止血方法が用いられます。通常は、口から食道に通した内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を介してゴムバンドを挿入し、そのゴムバンドで静脈瘤をしばります(結紮法)。
腹部への体液の貯留(腹水とも呼ばれます):食事の塩分(ナトリウム)を控え、利尿薬を使用することにより、腹部に大量の体液が貯留しないようにします。
ほとんどの患者は、新たな閉塞ができないように、生涯にわたって抗凝固薬を使用する必要があります。