鎌状赤血球症

(ヘモグロビンS症)

執筆者:Evan M. Braunstein, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 6月
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鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)は,ほぼアフリカ系の人々だけに発生する慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状赤血球が明らかに認められる。診断にはヘモグロビン電気泳動を要する。疼痛発作は鎮痛薬およびその他の支持療法で治療する。ときに輸血を要する。細菌感染に対するワクチン,抗菌薬の予防投与,および積極的な感染症治療は延命につながる。ヒドロキシカルバミドによりクリーゼおよび急性胸部症候群の頻度が減少する可能性がある。

異常ヘモグロビン症は,ヘモグロビン分子に影響を及ぼす遺伝性疾患である。ヘモグロビンSが最初に同定された異常ヘモグロビンであった。ホモ接合体(米国のアフリカ系住民の約0.3%)では,鎌状赤血球貧血がみられ,ヘテロ接合体(米国のアフリカ系住民の8~13%)では,典型的には貧血はみられないが,他の合併症のリスクが高くなる。

鎌状赤血球症の病態生理

ヘモグロビン分子はポリペプチド鎖で構成され,ポリペプチド鎖の化学構造は遺伝的に制御されている。正常な成人型ヘモグロビン分子(ヘモグロビンA)は,α鎖およびβ鎖と命名された2組の分子鎖から構成される。正常な成人の血液には,2.5%以下の割合でヘモグロビンA2(α鎖およびδ鎖から成る)も,また1.4%未満の割合でヘモグロビンF(胎児型ヘモグロビン,β鎖の部位をγ鎖が占めている)も含まれている(妊娠中の異常ヘモグロビン症も参照)。在胎中はヘモグロビンFが多数を占め,出生後徐々に減少していき,特に生後数カ月で大きく減少するが,特定のヘモグロビン合成障害や再生不良性貧血,その他の骨髄不全疾患,および骨髄増殖性腫瘍では,その濃度が上昇する。

一部の異常ヘモグロビン症は,ホモ接合体の患者で重度の貧血を引き起こすが,ヘテロ接合体の患者では軽度である。一部の患者は,2つの異なる異常ヘモグロビン症の複合ヘテロ接合体で,様々な程度の貧血がみられる。

電気泳動の移動度で識別される各種ヘモグロビンは,発見された順にアルファベット(例,A,B,C)で命名されているが,最初に発見された異常ヘモグロビンである鎌状赤血球ヘモグロビンは,ヘモグロビンSと命名された。電気泳動の移動度は同じであるが構造が異なるヘモグロビンは,それぞれ発見された都市または場所にちなんで命名されている(例,ヘモグロビンSメンフィス,ヘモグロビンCハーレム)。ある患者のヘモグロビン組成を表す場合,濃度が最も高いヘモグロビンを最初に記載するのが標準である(例,鎌状赤血球形質ではAS)。

米国でよくみられる貧血として,遺伝子変異によって引き起こされる貧血があり,それらはヘモグロビンS症,ヘモグロビンC症,またはサラセミアを引き起こす。米国への東南アジア系移民が増加したことで,ヘモグロビンE症がよくみられる疾患になっている。

ヘモグロビンSでは,β鎖の6番目のアミノ酸であるグルタミン酸がバリンに置換されている。酸素化ヘモグロビンSは,酸素化ヘモグロビンAよりはるかに溶けにくい;酸素化ヘモグロビンSは半流動性ゲルを形成し,酸素分圧が低い部位で赤血球を鎌状に変形させる。歪んで変形能に乏しい赤血球は,血管内皮に付着して小径動脈および毛細血管を詰まらせ,梗塞が生じる。血管の閉塞は内皮の損傷も引き起こし,それにより炎症が生じ,血栓形成に至る。鎌状赤血球は脆弱であるため,循環血流の機械的損傷により溶血が起こる(溶血性貧血の概要を参照)。代償性の骨髄造血亢進が長期にわたると,骨変形が生じる。

急性増悪

急性増悪(クリーゼ)が間欠的に生じるが,原因不明の場合が多い。一部の症例では,以下のものによりクリーゼが誘発されると考えられる:

  • 発熱

  • ウイルス感染症

  • 局所的な外傷

血管閉塞クリーゼ(疼痛発作)が最も一般的な病型であり,これは組織低酸素により引き起こされ,虚血および梗塞をもたらし,典型的には骨で発生するが,脾臓,肺,または腎臓で発生することもある。

無形成発作(aplastic crisis)は,ヒトパルボウイルスによる急性感染症の発生時に骨髄での赤血球産生が低下することで生じ,その期間に急性赤芽球減少症が起こることもある。

急性胸部症候群(acute chest syndrome)は,肺の微小血管閉塞によって発生し,頻度の高い死因の1つとなっており,死亡率は最大10%である。全ての年齢層で発生するが,小児期に最も多い。急性増悪の繰返しは慢性肺高血圧症の素因となる。

小児では,繰り返す脾梗塞による脾臓の線維化がまだ起きておらず,典型的にはsequestration crisisが生じる。 急性に脾臓での鎌状赤血球のsequestration(滞溜)が起こることで,貧血が増悪する。

小児と成人ともに,hepatic sequestrationが起こることがあり,それにより右上腹部痛が生じる。急速な肝腫大が生じる可能性があり,肝内胆汁うっ滞や腎不全を合併することがある。

持続勃起症は,勃起障害を引き起こしうる重篤な合併症であり,若年男性に最も多くみられる。

合併症

慢性的な脾臓損傷により,autoinfarction(自己梗塞)が生じることがあり,感染,特に肺炎球菌およびSalmonella属細菌(サルモネラ[Salmonella]骨髄炎を含む)に対する易感染性が高まる。これらの感染症は特に幼児期に多く,死に至ることがある。

繰り返す虚血および梗塞により,多数の異なる器官系における慢性の機能障害が生じうる。合併症としては,虚血性脳卒中痙攣発作,股関節の阻血性骨壊死,腎濃縮障害,腎乳頭壊死,慢性腎臓病心不全肺高血圧症,肺線維症,網膜症などがある。

ヘテロ接合体

ヘテロ接合体(ヘモグロビンAS)の患者は,溶血も疼痛発作も経験しない。しかし,慢性腎臓病および肺塞栓症のリスクが高い。さらに,持続的かつ消耗性の運動中に横紋筋融解症および突然死が生じることがある。尿濃縮能障害(低張尿)が多くみられる。片側性血尿(機序不明で,通常は左腎に起因)が生じることがあるが,自然に軽快する。典型的な腎乳頭壊死が起こりうるが,ホモ接合体の患者よりも少なく,極めてまれな腎臓の髄様癌と関連がある。

鎌状赤血球症の症状と徴候

大半の症状は,ホモ接合体の患者のみにみられ,以下に起因して生じる:

  • 貧血

  • 組織の虚血および梗塞に至る血管閉塞イベント

貧血は通常重度であるが,患者によって異なり,通常は代償される;軽度の黄疸および蒼白が多くみられる。

肝脾腫が小児に多くみられるが,成人の脾臓は,たび重なる梗塞およびその後の線維化により,萎縮していることが多い(autosplenectomy)。心拡大および収縮期駆出性(血流)雑音がよく認められる。胆石症および足関節周辺の慢性の打ち抜き皮膚潰瘍が一般的である。

疼痛を伴う血管閉塞クリーゼは,長管骨,手足,背部,および関節に重度の疼痛を引き起こす。大腿骨頭の阻血性骨壊死によって股関節痛が生じることがある。重度の腹痛(肝静脈血栓症が原因のことがある)が,ときに嘔吐を伴って生じることがあり,通常は背部痛と関節痛も伴っている。

急性胸部症候群(acute chest syndrome)は,突然の発熱,胸痛,および肺浸潤を特徴とする。細菌性肺炎に続いて生じることがある。低酸素血症が急速に現れて,呼吸困難を来すことがある。

鎌状赤血球症の診断

  • DNA検査(出生前診断)

  • 末梢血塗抹標本

  • 溶解性試験

  • ヘモグロビン電気泳動(または薄層等電点電気泳動)

実施する検査の種類は患者の年齢に応じて異なる。DNA検査は,出生前診断または鎌状赤血球遺伝子型の診断確定に用いることができる。米国の大半の州で新生児スクリーニングが利用可能で,ヘモグロビン電気泳動が含まれている。小児および成人のスクリーニングおよび診断では,末梢血塗抹標本,ヘモグロビン溶解性試験,およびヘモグロビン電気泳動が行われる。

出生前スクリーニング

出生前診断の感度は,PCR技術の普及に伴って大幅に向上している。鎌状赤血球のリスクがある家系(例,貧血の病歴もしくは家族歴または示唆的な人種的背景を有する夫婦)に推奨される。妊娠10~12週目の絨毛採取によりDNA検体が入手可能である。妊娠14~16週目の羊水を検査することも可能である。遺伝カウンセリングのために診断が重要である。

新生児スクリーニング

現在,全例検査が推奨されており,しばしば一連の新生児スクリーニング検査の1つとなっている。ヘモグロビンF,S,A,Cを鑑別するために推奨されている検査は,酢酸セルロースまたはクエン酸寒天を用いたヘモグロビン電気泳動,薄層等電点電気泳動,または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるヘモグロビン分画検査である。診断確定には生後3~6カ月で再検査を要することがある。生後数カ月でのヘモグロビンSの溶解性試験は信頼性が低い。

小児および成人のスクリーニングと診断

鎌状赤血球症またはその形質の家族歴がある患者は,末梢血塗抹標本,ヘモグロビン溶解性試験,およびヘモグロビン電気泳動によるスクリーニングを行うべきである。

鎌状赤血球症またはその合併症(例,発育不良,急性の原因不明の骨痛(特に手指),大腿骨頭の無菌性壊死,原因不明の血尿)が示唆される症状または徴候がみられる患者,および正球性貧血(特に溶血がみられる場合)がみられるアフリカ系の患者では,溶血性貧血に対する臨床検査,ヘモグロビン電気泳動,および赤血球の鎌状化についての検査が必要である。鎌状赤血球症が存在する場合,赤血球数は通常200万~300万/μL(2~3 x 1012/L)であり,これに比例してヘモグロビンも減少している;赤血球は正球性である(小球性であればαまたはβサラセミアの合併が示唆される)。有核赤血球が頻繁に末梢血中にみられ,10%以上の網状赤血球増多が一般的である。染色後の塗抹乾燥標本で鎌状赤血球(三日月型,しばしば端が伸びたり尖ったりしている)が認められることがある。

ホモ接合体の状態は,電気泳動でヘモグロビンSとともに種々の量のヘモグロビンFのみが認められることによって,鎌状赤血球を呈する他の異常ヘモグロビン症と鑑別される。ヘテロ接合体は,電気泳動でヘモグロビンSよりもヘモグロビンAが多く認められることによって鑑別される。ヘモグロビンSは,特徴的な赤血球の形態を明らかにすることによって,類似した電気泳動パターンを示す他の種類のヘモグロビンと鑑別しなければならない。

診断に骨髄検査は用いられない。他の貧血と鑑別するために骨髄検査を行った場合,正赤芽球を主体とする過形成がみられる;鎌状化または重症感染症で骨髄が無形成となることがある。他の疾患(例,手足の疼痛を引き起こす若年性関節リウマチ)を除外するために赤沈値を測定した場合,低値を示す。

骨格X線検査での偶発的所見として,頭蓋骨板間層の拡大および板間層における太陽光線様の骨梁形成がみられることがある。長管骨では,しばしば骨皮質の菲薄化,密度の不整,および骨髄腔内での骨新生を認める。

原因不明の血尿では,鎌状赤血球症が疑われていない患者であっても,鎌状赤血球症の形質を考慮すべきである。

増悪の評価

鎌状赤血球症であると確認された患者が疼痛,発熱,その他の感染症状など急性増悪を呈した場合,無形成発作を考慮し,血算および網状赤血球数の測定を行う。網状赤血球数が1%未満で,特にヘモグロビンが患者の通常レベルを下回るまで低下した場合は,無形成発作が示唆される。骨髄無形成を伴わない疼痛発作では,白血球数が増加し,特に細菌感染時には左方移動がしばしば認められる。血小板数は通常増加するが,急性胸部症候群では低下することがある。血清ビリルビン値を測定した場合は通常上昇し(例,2~4mg/dL[34~68μmol/L]),尿にウロビリノーゲンが含まれることがある。

胸痛または呼吸困難を呈している患者では,急性胸部症候群および肺塞栓症を考慮する;胸部X線およびパルスオキシメトリーが必要である。急性胸部症候群は鎌状赤血球症における主な死因であるため,早期の認識および治療が極めて重要である。低酸素血症または胸部X線での肺実質浸潤からは,急性胸部症候群または肺炎が示唆される。肺浸潤を伴わない低酸素血症からは,肺塞栓症が示唆される。

発熱を呈している患者では,感染症および急性胸部症候群を考慮する;培養,胸部X線,およびその他の適切な診断検査を行う。

鎌状赤血球症の予後

ホモ接合体患者の寿命は着実に延びており,50歳を超えている。一般的な死因は,急性胸部症候群,併発感染症,肺塞栓症,重要臓器の梗塞,肺高血圧症,および慢性腎臓病である。

鎌状赤血球症の治療

  • 広域抗菌薬(感染症に対して)

  • 鎮痛薬および輸液(血管閉塞性の疼痛発作に対して)

  • 酸素(低酸素症に対して)

  • ときに輸血

  • 予防接種,葉酸補充,およびヒドロキシカルバミド(健康維持のため)

  • 造血幹細胞移植(進行した合併症に対して)

治療には,通常の健康維持のための措置に加え,合併症が生じたときの特異的な治療が含まれる。合併症は支持療法で治療する。In vivoで効果的な抗鎌状化薬は存在しない。脾臓摘出に価値はない。

入院の適応には,重篤な(全身性を含む)感染症が疑われる場合,無形成発作,急性胸部症候群のほか,しばしば難治性疼痛,または輸血が必要になる場合がある。発熱のみでは入院の理由とならない場合がある。ただし,急性疾患と考えられ,体温が38℃を超える患者では,培養検体の採取と抗菌薬の静脈内投与を可能にするために入院させるべきである。

抗菌薬

重篤細菌感染症が疑われる患者または急性胸部症候群の患者には,直ちに広域抗菌薬が必要である。

鎮痛薬

疼痛発作は鎮痛薬(通常はオピオイド)の十分量の投与により管理する。静注モルヒネ(持続または急速静注)が効果的かつ安全である;ペチジンは避ける。クリーゼ時の疼痛および発熱は5日程度続くことがある。オピオイドの需要を軽減するために非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が有用であることが多いが,腎疾患を有する患者では慎重に使用する必要がある。

輸液

脱水は鎌状化の一因となり,クリーゼを誘発しうるが,クリーゼ時に積極的な補液が助けになるかどうかは不明である。それでも,正常な循環血液量の維持が治療の中心となっている。

酸素

低酸素症の治療に必要な場合は,酸素を投与する。

輸血

多くの状況で輸血が行われているが,その効果は実証されていない。ただし,反復性の脳血栓症を予防する上で(特に小児の場合),ヘモグロビンSの割合を30%未満に維持するために,長期の輸血療法が適応となる。

急性期の状況における輸血の具体的な適応としては以下のものがある:

  • 急性のsplenic sequestration

  • 無形成発作

  • 心肺系の症状または徴候(例,高拍出性心不全,酸素分圧が65mmHg未満の低酸素血症)

  • 術前の使用

  • 持続勃起症

  • 酸素供給の改善が有益と考えられる生命を脅かす事象(例,敗血症,重症感染症,急性胸部症候群,脳卒中,急性の臓器虚血)

  • ときに妊娠

輸血は,合併症のない疼痛発作時には役に立たない。

無形成発作,splenic sequestration,またはhepatic sequestrationが起きている場合など,目標が貧血の是正である場合は単純輸血が行われることがある。急性胸部症候群や脳卒中などの重症の急性事象の発生時には,ヘモグロビンSの割合を下げ,虚血を予防するために,交換輸血を行う。これは最新のアフェレーシス装置を用いて実施できる。ただし,事前のヘモグロビンが低値(7g/dL[70g/L]未満)の場合には,この処置を最初の赤血球輸血の前に開始してはならない。部分交換輸血により,鉄の蓄積および過粘稠が最小限に抑えられる。

根治的治療

造血幹細胞移植が依然として鎌状赤血球症に対する唯一の根治的治療である。この治療法に伴うリスクを考慮すると,一般的には進行した合併症のある患者のみに限定すべきである。

ヘモグロビンSの量を減少させる遺伝子治療や遺伝子編集技術が現在臨床試験段階にある。この分野は急速に進歩しており,近い将来,鎌状赤血球症を治療するために幹細胞治療の利用が広まる可能性が高い。

健康維持

長期管理に関して,特に小児期では,以下の介入により死亡率が低下する:

  • 肺炎球菌,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae),インフルエンザ(不活化ワクチンで,生ワクチンは使用しない),および髄膜炎菌ワクチン

  • 重篤細菌感染症の早期発見および治療

  • 抗菌薬の予防投与で,生後4カ月から6歳までの経口ペニシリンの予防的継続投与を含む

  • ヒドロキシカルバミドの投与および葉酸補充

通常は,葉酸補充(1mgの1日1回経口投与)が処方される。

ヒドロキシカルバミドは,ヘモグロビンFを増加させ,それにより鎌状化を減少させることで,疼痛発作が(50%)減少し,急性胸部症候群および輸血の必要性も低下する。繰り返す疼痛発作または他の合併症がある患者で適応となる。ヒドロキシカルバミドの用量は定まっておらず,血算および有害作用に基づいて調節する。ヒドロキシカルバミドは,好中球減少症および血小板減少症を引き起こす。さらに,催奇形性もあるため,妊娠する可能性のある年齢の女性に投与してはならない。

新たに3つの薬剤が鎌状赤血球症の治療に使用可能になっている。L-グルタミンおよびクリザンリズマブ(crizanlizumab)は,どちらも血管閉塞を標的とする薬剤であり,ランダム化比較試験で疼痛発作を減少させることが明らかにされた(1, 2)。L-グルタミンは鎌状赤血球の酸化ストレスを軽減すると考えられている一方,クリザンリズマブ(crizanlizumab)は鎌状赤血球の血管内皮への接着に寄与するP-セレクチンを阻害する。ボクセロトール(voxelotor)は,ヘモグロビンSの重合を阻害して酸化ヘモグロビンを安定化させるが,ランダム化比較試験においてヘモグロビン値を上昇させる効果が示された(3)。これらの薬剤は現在,鎌状赤血球症患者の治療レジメンに組み込まれつつあるが,その効力に関するデータは依然として限られている。

小児における経頭蓋ドプラ法による血流測定は,脳卒中のリスクの予測に役立つ可能性があり,多くの専門家が2~16歳の小児に対して年1回のスクリーニングを推奨している。リスクの高い小児では,ヘモグロビンSを総ヘモグロビン量の30%未満に保つように,交換輸血を予防的に長期にわたり行うことが有益と考えられる;鉄過剰が多くみられ,スクリーニングと治療が必要になる。

赤血球輸血を頻回に受けている患者には,鉄過剰による合併症を予防または遅延させるためのキレート療法を考慮すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Ataga KI, Kutlar A, Kanter J, et al: Crizanlizumab for the prevention of pain crises in sickle cell disease.N Engl J Med 376(5):429–439, 2017. doi: 10.1056/NEJMoa1611770

  2. 2.Niihara Y, Miller ST, Kanter J, et al: A phase 3 trial of l-glutamine in sickle cell disease.N Engl J Med 379(3):226–235, 2018. doi: 10.1056/NEJMoa1715971

  3. 3.Vichinsky E, Hoppe CC, Ataga KI, et al: A phase 3 randomized trial of voxelotor in sickle cell disease.N Engl J Med 381(6):509–519, 2019. doi: 10.1056/NEJMoa1903212

要点

  • ヘモグロビンSのホモ接合体の患者は異常β鎖を有するため,赤血球が脆弱で相対的に変形しにくいことから,毛細血管を詰まらせて組織の梗塞を引き起こすことがあるほか,溶血を生じて貧血を起こしやすい。

  • 疼痛発作,sequestration crisis,無形成発作,急性胸部症候群などの様々な急性増悪がみられる。

  • 長期合併症には,肺高血圧症,慢性腎臓病,脳卒中,無菌性壊死,感染症のリスク増大などがある。

  • ヘモグロビン電気泳動を用いて診断する。

  • 急性クリーゼでは,疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を投与し,貧血の悪化(骨髄無形成またはsequestration crisisが示唆される)および急性胸部症候群または感染症の徴候をチェックするとともに,生理食塩水の投与により正常な循環血液量に回復させた後に維持輸液を行う。

  • ワクチン接種と抗菌薬の予防投与により感染症を予防するとともに,ヒドロキシカルバミドの投与により疼痛発作を抑制し,合併症のリスクを低減する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Sickle Cell Disease Association of America: provides comprehensive patient education and support, including peer mentoring, to patients with sickle cell disease

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