赤芽球増殖性(骨髄性)プロトポルフィリン症およびX連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症

執筆者:Herbert L. Bonkovsky, MD, Wake Forest University School of Medicine;
Sean R. Rudnick, MD, Wake Forest University School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 12月
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赤芽球増殖性(骨髄性)プロトポルフィリン症(EPP)は,フェロキラターゼ(FECH)の活性の遺伝的な欠乏による。X連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症(XLPP)は,δ-アミノレブリン酸合成酵素2の活性が遺伝的に亢進していることに起因する。EPPおよびXLPPの原因となる酵素はいずれもヘム生合成経路の酵素である(の表を参照)。EPPとXLPPの臨床像はほぼ同じである。典型的にはいずれも乳児期に発症し,たとえ短時間でも日光に曝露するとそう痒感または灼熱感を伴う皮膚疼痛を呈する。晩年には胆石がよくみられ,慢性肝疾患が約10%に発生する。診断は症状ならびに赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン濃度の上昇に基づく。予防は,誘因(例,日光,アルコール,空腹)の回避による。アファメラノチド(afamelanotide)のインプラントにより,光線過敏症を軽減できる可能性がある。急性の皮膚症状は,冷水浴または濡れタオル,鎮痛薬,ならびにコルチコステロイドの局所投与および/または経口投与により治療できるが,その便益を示す客観的エビデンスは弱い。肝不全患者では肝移植が必要になる場合があるが,過剰なプロトポルフィリンの主な産生源は骨髄であるため,肝移植では治癒は得られない。

ポルフィリン症の概要および皮膚ポルフィリン症の概要も参照のこと。)

XLPPはEPPに非常に似ているため,EPPの亜型とみなされることもある。

病因

骨髄性プロトポルフィリン症は,EPP表現型の約90%を占め,フェロキラターゼの活性の遺伝的な欠乏に起因する。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)である;そのため,FECHアレル2つに異常があるか,またはより一般的には,アレルの1つに異常があり,野生型アレルの発現が弱い個人でのみ臨床症状が生じる(1)。

X連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症は残りの10%を占め,骨髄で赤血球特異的なδ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS 2)の活性を亢進させる機能獲得変異に起因する;遺伝形式はX連鎖性である。ヘテロ接合体の女性の表現型は,無症状から男性と同じ表現型を呈すものまで様々である(1)。

EPPの表現型の有病率は約1/75,000人である。しかしながら,UK Biobankの研究では,EPPの有病率は約17,000人に1人であった(2)。著者らはこの有病率の高さの原因を過小診断に求めている。プロトポルフィリンが骨髄および赤血球に蓄積して血漿中に侵入し,皮膚に沈着するかまたは肝臓から胆汁中に排泄される。約10%の患者が慢性肝疾患を発症するが,それらの患者のうち少数は肝硬変を発症し,そこから肝不全に進行する場合がある。より一般的な合併症は,プロトポルフィリンの大量排泄による色素胆石である。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Balwani M, Doheny D, Bishop DF, et al: Loss-of-function ferrochelatase and gain-of-function erythroid-specific 5-aminolevulinate synthase mutations causing erythropoietic protoporphyria and x-linked protoporphyria in North American patients reveal novel mutations and a high prevalence of X-linked protoporphyria. Mol Med 19(1):26–35, 2013.doi:10.2119/molmed.2012.00340

  2. 2.Dickey AK, Quick C, Ducamp S, et al: Evidence in the UK Biobank for the underdiagnosis of erythropoietic protoporphyria. Genet Med 23(1):140–148, 2021.doi:10.1038/s41436-020-00951-8

症状と徴候

骨髄性プロトポルフィリン症およびX連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症の症状の重症度は,同一家系の患者の間でさえも極めて多様である。ある研究では,赤血球プロトポルフィリンの高値がEPPまたはXLPP患者における疾患の重症度および肝機能障害のリスクの主要な決定因子であることが示唆されている(1)。

大半の患者は小児期に発症する。短時間の日光曝露が,皮膚の露出部に重度の疼痛,灼熱感,紅斑,および浮腫を引き起こす場合がある。通常,乳幼児は短時間の日光曝露であってもその後何時間も泣き続ける。患者の病態はしばしば,「日光アレルギー」と誤った名称で呼ばれることがある。EPPおよびXLPPでは,皮膚の腫脹および紅斑がないかあっても軽微な可能性があるため,他のポルフィリン症に比べて長い間診断されないことがある。

骨髄性プロトポルフィリン症の皮膚症状
骨髄性プロトポルフィリン症(急性光線過敏症)
骨髄性プロトポルフィリン症(急性光線過敏症)

左の写真には,日光曝露後にEPPの女児の顔面に生じた紅斑,色素沈着,および痂皮が写っている。右の写真には,日光曝露後にEPPの男児の手および手関節に生じた紅斑および浮腫が写っている。

© Springer Science+Business Media

骨髄性プロトポルフィリン症
骨髄性プロトポルフィリン症

骨髄性プロトポルフィリン症では,皮膚の慢性変化として手の背側皮膚の肥厚および苔癬化などがみられる。

By permission of the publisher. From Bloomer J, Risheg H. In Gastroenterology and Hepatology: Liver.Edited by M Feldman (series editor) and WC Maddrey.Philadelphia, Current Medicine, 2004.

骨髄性プロトポルフィリン症(皮膚の慢性変化)
骨髄性プロトポルフィリン症(皮膚の慢性変化)

この画像には,骨髄性プロトポルフィリン症患者で特に手指関節部と頭皮によくみられる皮膚の慢性変化(皮膚が粗く,肥厚して,革様になった状態[苔癬化])が写っている。

Image courtesy of Karen McKoy, MD.

骨髄性プロトポルフィリン症(鯉口)
骨髄性プロトポルフィリン症(鯉口)

この写真には,骨髄性プロトポルフィリン症患者の口囲に形成される線状のしわ(鯉口)が写っている。

© Springer Science+Business Media

長時間の日光曝露後に口唇周囲や手背に痂皮が形成される場合がある。しかし,晩発性皮膚ポルフィリン症,異型ポルフィリン症,および先天性骨髄性ポルフィリン症(比較的まれなポルフィリン症の表を参照)で典型的にみられる水疱形成および瘢痕化は生じない。

皮膚の保護を慢性的に怠った場合は,特に手指関節部の皮膚が粗く肥厚して硬くなる(苔癬化)。口囲に線状のしわが形成されることがある(鯉口)。XLPP患者は,EPP患者より重度の光線過敏症および肝疾患を有する傾向がある。

小児は理由を説明できずに外出を拒むため,骨髄性プロトポルフィリン症やX連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症が認識されない場合は精神社会問題を引き起こしうる。疼痛の恐怖または疼痛が起こる予感は極めて辛いため,小児は神経質になるか,緊張がみられる,もしくは攻撃的になる場合があり,外界との分離感や自殺念慮をもつ場合さえある。

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Balwani M, Naik H, Anderson KE, et al: Clinical, biochemical, and genetic characterization of North American patients with erythropoietic protoporphyria and X-linked protoporphyria. JAMA Dermatol 153(8):789–796, 2017.doi:10.1001/jamadermatol.2017.1557

診断

  • 赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン測定

  • FECHまたはALAS 2の遺伝子変異に関する遺伝子検査

疼痛を伴う皮膚光線過敏症を有し水疱形成や瘢痕化を認めない小児および成人では骨髄性プロトポルフィリン症およびX連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症を疑うべきである。小児に胆石がみられる場合は,EPPおよびXLPPの検査を実施すべきである。家族歴は通常は認めない。

赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン値の上昇が認められれば診断が確定する。血漿の蛍光ピークは,410nmでの励起に続いて,634nmで生じる。

また赤血球プロトポルフィリンの分画を行い,遊離プロトポルフィリンおよび亜鉛プロトポルフィリンの比率を判定すべきである。EPPでは,赤血球遊離プロトポルフィリンの比率はほぼ常に85%を超える。15%超の亜鉛プロトポルフィリンの存在はXLPPを示唆する。

血漿中コプロポルフィリン値および尿中ポルフィリン値を測定した場合,それらは正常である。便中プロトポルフィリンは増加する場合があるが,コプロポルフィリンは正常である。

赤血球中プロトポルフィリンの増加が認められ,また発端者で変異が同定されている場合には遺伝子検査を行うことにより,近親者の潜在的キャリアを同定できる。

治療

  • 防護用の衣服の着用と不透明なサンスクリーン剤(opaque sunscreen)による日光曝露の回避

  • 光毒性の予防および緩和に,アファメラノチド(afamelanotide)

  • 皮膚灼熱感に対する,冷罨法,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID),ならびにコルチコステロイドの局所投与および/または経口投与による対症療法

  • 肝胆道系合併症の管理

骨髄性プロトポルフィリン症の治療とX連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症の治療は同様である。骨髄性プロトポルフィリン症またはX連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症の患者には日光曝露を避けさせるべきである;防護用の衣服,帽子および二酸化チタンまたは酸化亜鉛を含有するサンスクリーン剤を使用すべきである。

メラノサイト刺激ホルモンと同種の長時間作用型の薬剤であるアファメラノチド(afamelanotide)はユーメラニンの産生増加をもたらし,これは皮下インプラントとして60日毎の頻度で投与することができ,光線過敏症を軽減し,光への曝露時間を延長でき,生活の質を改善する(1)。

抗酸化物質であるβ-カロテンの経口投与により,光線過敏性が減少する。しかしながら,β-カロテンは症状のコントロールにそれほど効果的でないほか,皮膚にオレンジ色の素沈着を引き起こすため,患者のアドヒアランスが不良となることが多く,しばしば試されるものの,通常は長く続かない。β-カロテンの用量は患者の年齢によって決まる(骨髄性プロトポルフィリン症に対するβ-カロテンの用量の表を参照)。

急性ポルフィリン症を誘発する薬物(Drug Database for Acute PorphyriaまたはAmerican Porphyria Foundation drug databaseを参照)を避ける必要はない。

一部の患者では,急性の皮膚症状は,冷水浴または濡れタオル,鎮痛薬,ならびにコルチコステロイドの局所投与および/または経口投与により軽減できる。しかしながら,多くの患者では,そのような非常に効果的な方法が見つからない。症状の回復には最長で1週間かかる可能性がある。

こうした方法が無効であれば(例,光線過敏症の亢進,ポルフィリン値の上昇,黄疸の進行が患者に認められる),ヘマチン投与および/または赤血球の過多輸血(すなわち,ヘモグロビン値が正常範囲を上回るようにする)によってプロトポルフィリンの過剰産生を低減しうる。胆汁酸の投与が胆汁へのプロトポルフィリン排泄を促進する場合がある。

プロトポルフィリンの腸肝循環を阻害し,便中への排泄を増加させるために,コレスチラミンまたは炭の経口投与が行われている。

ビタミンEの経口投与(800単位/日)も抗酸化作用および肝保護作用を期待して用いられるが,その便益を示す客観的エビデンスは乏しい。

非代償性の末期肝疾患がある患者では,肝移植が必要である。急性間欠性ポルフィリン症と同様,EPP患者はModel for End-stage Liver Disease(MELD)スコアにおける標準化された例外ポイントの候補ではない。しかしながら,肝移植では基礎にある代謝障害は是正されないため,移植肝にはEPPの肝障害がしばしば発生する。

造血幹細胞移植はEPPに対する根治的治療であるが,通常はリスクが便益を上回るため,ルーチンには施行されない。肝移植後に造血幹細胞移植を行うことでEPPを根治し,移植肝の損傷を予防できるが,この治療の最適なタイミングは確立されていない。光毒性による内臓への重篤な損傷を回避するため,肝移植または他の長時間手術の最中は,手術室の照明から患者を保護すべきである。光源は,約380~420nmの波長を遮断する市販のフィルターで覆うべきである。内視鏡検査,腹腔鏡検査,および短時間(1.5時間未満)の腹部手術は通常,光毒性による損傷を引き起こさない。

パール&ピットフォール

  • 手術室の照明は,骨髄性プロトポルフィリン症患者の内臓に光毒性による損傷を引き起こす可能性がある。

表&コラム
表&コラム

情報および話し合いの場を提供し,健診とともに遺伝カウンセリングの機会も与える医師患者間の定期的な協議が重要である。肝機能検査ならびに赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン濃度を年1回確認すべきである。

肝機能検査で異常が認められた患者は,肝臓専門医が評価すべきである;線維化の程度を判定するために肝生検が必要になる場合がある。慢性肝疾患が判明している患者は,6カ月毎に肝臓超音波検査,CT,またはMRIによる肝細胞癌のスクリーニングを行うべきである。

ビタミンDの欠乏がよくみられるため,ビタミンD濃度を確認すべきである(患者は日光曝露を避ける傾向がある);低値であればサプリメントを投与する。

全てのEPPおよびXLPP患者にA型肝炎ワクチンおよびB型肝炎ワクチンを接種し,飲酒を避けるよう指示すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Langendonk JG, Balwani M, Anderson KE, et al: Afamelanotide for erythropoietic protoporphyria.N Engl J Med 373:48–59, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1411481.

要点

  • 骨髄性プロトポルフィリン症(EPP)は,皮膚が短時間でも日光に曝露すると重度の疼痛,灼熱感,紅斑,および浮腫を引き起こす;これらの症状は,他のポルフィリン症の誘因となる薬剤では誘発されない。

  • 患者の約10%に肝硬変が発生し,ときに肝不全に進行する。

  • 赤血球中および血漿中のプロトポルフィリン濃度を測定する。

  • 日光曝露の回避およびときに薬剤(例,β-カロテン,アファメラノチド[afamelanotide])の使用により症状を予防する。

  • ヘマチン投与および/または赤血球の過多輸血により,プロトポルフィリンの過剰産生を抑制しうる。

  • X連鎖顕性(優性)プロトポルフィリン症(XLPP)の臨床像はEPPに似ているが,EPPに比べて光過敏性と肝疾患が重度である。

  • XLPPの診断に有用な手掛かりは,赤血球亜鉛プロトポルフィリンの比率上昇である。

  • XLPPの管理はEPPの管理と同様である。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Porphyria Foundation: Aims to educate and support patients and families affected by porphyrias and to support research into treatment and prevention of porphyrias

  2. American Porphyria Foundation: Safe/Unsafe Drug Database: Provides a list of medications available in the United States to assist physicians in prescribing for patients with porphyrias

  3. European Porphyria Network: Promotes clinical research about porphyrias

  4. The Drug Database for Acute Porphyrias: Provides an up-to-date list of medications available in Europe to assist physicians in prescribing for patients with porphyrias

  5. United Porphyrias Association: Provides education and support to patients and their families; provides reliable information to health-care providers; fosters and supports clinical research to improve diagnosis and management of the porphyrias

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