急性ポルフィリン症は,ヘム生合成経路の特定の酵素の欠損に起因する疾患であり,結果としてヘム前駆体が蓄積し,腹痛および神経症状の間欠的発作が引き起こされる。発作は特定の薬剤やその他の因子によって誘発される。診断は,発作時に尿中に認められるポルフィリン前駆体のδ-アミノレブリン酸およびポルフォビリノーゲンが高値であることに基づく。発作の治療にはブドウ糖を用いるか,またはより重度の場合はヘムの静注を行う。鎮痛を含む対症療法を必要に応じて行う。
(ポルフィリン症の概要も参照のこと。)
急性ポルフィリン症としては以下のものがある(有病率の高い順):
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)
異型ポルフィリン症(VP)
遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)
δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)欠損性ポルフィリン症(極めてまれ)
異型ポルフィリン症および遺伝性コプロポルフィリン症の患者では,神経内臓症状を認めるか否かにかかわらず,水疱性の発疹が生じることがあり,特に,手,前腕,顔面,頸部,またはその他の露光部皮膚によくみられる。
ヘテロ接合体では,急性ポルフィリン症が思春期前に臨床的に発現することはまれである;思春期後は約2~4%の症例でのみ発現する。ホモ接合体および複合ヘテロ接合体では,通常小児期に発症し,症状はしばしば重度である。
誘発因子
多数の誘発因子が存在し,典型的には欠陥酵素の触媒能以上にヘム前駆体生合成を促進する。結果として,ポルフィリン前駆体であるポルフォビリノーゲン(PBG)およびδ-アミノレブリン酸(ALA)の蓄積,またはALAD欠損性ポルフィリン症の場合はALAのみの蓄積が生じる。
発作はおそらく,ときに同定不能ないくつかの因子に起因する。同定されている誘発因子としては以下のものがある:
女性(特に月経周期の黄体期)におけるホルモン分泌の変化
薬剤
低カロリー低炭水化物食
アルコール
有機溶剤への曝露
感染症その他の疾患
手術
精神的ストレス
ホルモン因子が重要である。女性は,特にホルモンが変化する時期には男性よりも発作を起こしやすい(例,月経周期の黄体期,経口避妊薬の使用中,妊娠初期の数週間,出産直後)。それにもかかわらず,妊娠は禁忌ではない。
その他の因子として薬物があり,特に肝ALA合成酵素やチトクロムP450酵素を誘導する薬物が重要である。発作は誘発因子となる薬物への曝露後,通常24時間以内に生じる。問題となる薬物は多数あるが,特にバルビツール酸系薬剤,ヒダントイン,その他の抗てんかん薬,トリメトプリム,および性ホルモン(プロゲステロンおよび関連ステロイド)が重要である。ただし,リスクの程度や確実性の程度に大きなばらつきがあり,www.drugs-porphyria.orgやAmerican Porphyria Foundationなどのオンラインデータベースから最新の情報を参照すべきである。
異型ポルフィリン症では日光曝露により皮膚症状が誘発され,まれに遺伝性コプロポルフィリン症でもこの現象がみられる。
急性ポルフィリン症の症状と徴候
急性ポルフィリン症の症状および徴候は,神経系,腹部,またはその両方(内臓神経)にみられる。発作は数時間または数日かけて発症し,最長で数週間持続する場合がある。遺伝子キャリアの大半は,生涯のうちに全く発作を経験しないか,経験したとしてもわずかである。残りのキャリアには症状が繰り返し発生する。一部の女性では,発作の再発がしばしば月経周期の黄体期と一致する。
ポルフィリン症の急性発作
発作の症状および徴候は非特異的であり,他の多くの疾患の経過に類似することがある。典型的には急性発作に先行して,便秘,疲労,精神状態の変化(しばしば「頭の中に霧がかかったような状態」と表現される),および不眠がみられる。発作の最も一般的な症状は以下のものである:
腹痛
嘔吐
腹痛は耐え難いことがあり,腹部圧痛または他の身体徴候の程度とは不釣り合いである。腹部症状は内臓に分布する神経への影響に起因している可能性がある。通常は,炎症は存在せず,腹部に圧痛はなく,腹膜刺激徴候もない。
少数の急性肝性ポルフィリン症患者は,胆石,過度の飲酒,重度の高トリグリセリド血症など,ほかに考えられる原因が見つからない急性膵炎を発症することもある。
体温および白血球数は通常,正常またはわずかに上昇するのみである。麻痺性イレウスの結果,腸管の膨満が生じる恐れがある。発作中の尿は赤色または赤褐色でポルフォビリノーゲン強陽性である。
末梢神経系および中枢神経系の全構成要素が影響を受ける可能性がある。運動神経障害が重度の遷延性発作でよくみられる。筋力低下は通常四肢に始まるが,あらゆる運動神経または脳神経を巻き込んで四肢麻痺に発展する可能性がある。延髄が侵されると呼吸不全が引き起こされる。
中枢神経系が侵された場合は,痙攣発作や精神症状(例,無関心,せん妄,抑うつ,興奮,明らかな精神症,幻覚)が引き起こされることがある。痙攣,精神症的行動,および幻覚が,低ナトリウム血症もしくは低マグネシウム血症によって引き起こされる,または悪化することがある。低ナトリウム血症は,バソプレシン(抗利尿ホルモン[ADH])の過剰分泌による急性発作時および/または急性発作に対する標準治療である低張液(5%または10%ブドウ糖水溶液)の静脈内投与時に生じる場合がある。低マグネシウム血症の原因については,まだ不明な点が多い。一部の患者では可逆性後頭葉白質脳症(PRES)の所見がみられ,これは頭痛,精神状態の変化,痙攣発作,ならびに後頭葉および頭頂葉の浮腫によるものと考えられる視力障害を特徴とする(1)。
過剰なカテコラミンは一般に不穏および頻脈を引き起こす。まれに,カテコラミン誘発性の不整脈によって突然死が引き起こされる。一過性の血圧上昇を伴う動揺性高血圧により血管の変化が生じ,治療しなければ不可逆性の高血圧へと進展する。急性ポルフィリン症における慢性腎臓病は多因子によるものであり,急性高血圧(慢性高血圧につながる可能性がある)が主要な誘発因子の1つである可能性が高い。しかしながら,慢性腎臓病を発症した急性間欠性ポルフィリン症患者において複数の遺伝因子が認められており,特にペプチドおよびアミノ酸の輸送体をコードするPEPT2(peptide transporter 2)遺伝子にみられる近位尿細管でのALAの再吸収に影響を及ぼしうる遺伝的変異が重要である。具体的には,親和性の高いバリアント(PEPT2*1*1)のキャリアでは,親和性の低いバリアントのキャリアよりも腎機能障害の重症度が高いことが判明している。
亜急性および慢性の症状
一部の患者では程度の軽い症状(例,便秘,疲労,頭痛,背部痛または大腿部痛,錯感覚,頻脈,呼吸困難,不眠,抑うつ,不安または他の気分症,痙攣発作)が遷延する。発作間欠期の慢性症状はおそらく多くの患者(特に急性発作を複数回経験している患者)にみられ,最も頻度の高い症状は疼痛である(2)。多くの患者が日常的に症状を経験する。
異型ポルフィリン症および遺伝性コプロポルフィリン症の皮膚症状
内臓神経症状が認められない場合でも,皮膚の脆弱性および水疱性発疹が露光部に生じる場合がある。しばしば患者は日光曝露との関連に気づかない。皮膚症状は晩発性皮膚ポルフィリン症のそれと同じであり,通常は手および前腕の背側,顔面,耳,ならびに頸部に病変が生じる。
急性ポルフィリン症の晩期合併症
急性発作時の運動障害により,発作の間欠期に持続性の筋力低下および筋萎縮が生じる場合がある。急性間欠性ポルフィリン症では中年以降に,肝硬変,肝細胞癌,全身性動脈高血圧症,腎障害がみられる頻度が増え,おそらくこれは異型ポルフィリン症および遺伝性コプロポルフィリン症(特にポルフィリン症発作の既往がある患者)にもあてはまる(3)。
症状と徴候に関する参考文献
1.Jaramillo-Calle DA, Solano JM, Rabinstein AA, Bonkovsky HL: Porphyria-induced posterior reversible encephalopathy syndrome and central nervous system dysfunction. Mol Genet Metab 128(3):242–253, 2019.doi:10.1016/j.ymgme.2019.10.011
2.Simon A, Pompilus F, Querbes W, et al: Patient perspective on acute intermittent porphyria with frequent attacks: A disease with intermittent and chronic manifestations. Patient 11(5):527–537, 2018.doi:10.1007/s40271-018-0319-3
3.Saberi B, Naik H, Overbey JR, et al: Hepatocellular carcinoma in acute hepatic porphyrias: Results from the Longitudinal Study of the U.S. Porphyrias Consortium. Hepatology 73(5):1736–1746, 2021.doi:10.1002/hep.31460
急性ポルフィリン症の診断
ポルフォビリノーゲン(PBG)およびクレアチニンの尿スクリーニング検査
尿検査が陽性の場合,尿中ALAおよびPBGならびにクレアチニンの定量
急性肝性ポルフィリン症(AHP)の確認および病型の判定には,遺伝子解析
正確な遺伝子検査が普及する前は,AIPの診断確定には,赤血球中のPBGデアミナーゼ(別名HMBS)の活性測定が用いられていた。しかし,AIP患者の約5%では赤血球中のPBGデアミナーゼの活性が正常で,正常と重複する境界域の活性を有する患者は20%にも上るため,診断確定のためにこの検査をルーチンに行うことはもはや推奨されていない。まれではあるが,生化学検査で尿中ALAおよびPBG/クレアチニン比の上昇が認められるが遺伝子検査で原因となる変異が見つからなかった場合には,依然としてこの検査が必要になることがある。このような状況はまれにしか起こらない(約500分の1)。
急性発作
急性発作は急性腹症(ときに不必要な外科手術につながる)の他の原因や原発性の神経または精神疾患と混同されるため,誤診がよくみられる。しかしながら,過去に遺伝子キャリアと診断された患者や家族歴が陽性の患者ではポルフィリン症を疑うべきである。遺伝子キャリアであることが判明している場合でも,他の原因を考慮しなければならない。
症状発生前には存在しなかった赤色または赤褐色の尿は主要な徴候であり,しばしば本格的な発作の際に認められる。原因不明の腹痛を呈する患者では,特に重度の便秘,嘔吐,頻脈,筋力低下,延髄障害,または精神症状が生じた場合,尿検体を調べるべきである。
ポルフィリン症が疑われる場合には,定量的または半定量的な迅速検査法を用いて尿でPBGを分析する。結果が陽性の場合または臨床的な疑いが強い場合には,尿中ALA,PBG,およびクレアチニンの定量が必要であり,同じ検体での測定が望ましい。尿中クレアチニン濃度で補正したPBGまたはALA値が正常範囲の5倍を上回る場合は,それと同程度のポルフィリン前駆体の排泄増加が潜伏期にも生じる遺伝子キャリアでない限り,ポルフィリン症の急性発作を示唆する。
尿中PBG/クレアチニン比と尿中ALA/クレアチニン比が正常値であれば,別の診断を考慮しなければならない。尿中総ポルフィリンの測定とこれらのポルフィリンの高速液体クロマトグラフィーによるプロファイルが役立つ。尿中のALAおよびコプロポルフィリンが高値でPBGが正常範囲内またはわずかに高値であれば,鉛中毒,δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)欠損性ポルフィリン症,または遺伝性高チロシン血症1型が示唆される。24時間蓄尿検体の分析は不要である。その代わりに随時尿検体が用いられ,PBG濃度およびALA濃度を検体のクレアチニン濃度と関連させることによって補正する。
電解質(マグネシウムを含む)を測定すべきである。低張液輸液後の過度の嘔吐もしくは下痢または抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)による,低ナトリウム血症が存在する可能性がある。
急性ポルフィリン症の病型の決定
治療は急性ポルフィリン症の病型に依存しないため,特定の病型の同定は主に近親者での遺伝子キャリアを見つけるために行われる。近親者の過去の検査から病型および遺伝子変異が既知である場合,診断は明確であるが,確定を遺伝子解析により行う場合がある。
赤血球中の酵素であるALADの活性は,容易に測定可能であり,ALAD活性が重度(正常の10%未満)に低下しているALAD欠損性ポルフィリン症の診断確定に役立てることができる。同様に,赤血球中のPBGデアミナーゼ活性を測定して急性間欠性ポルフィリン症の診断の目安とすることができ,赤血球PBGデアミナーゼ濃度が正常値の約50%であれば急性間欠性ポルフィリン症が示唆される。ただし,急性間欠性ポルフィリン症患者の約5%では,赤血球PBGデアミナーゼ活性は正常である。そのため,多くの医療機関では,赤血球酵素活性の測定に代わって遺伝子検査が行われるようになっている。
診断の指針となる家族歴が認められない場合,ポルフィリン(および前駆体)の特徴的な蓄積パターンおよび血漿中,尿中,便中への排泄パターンによって急性ポルフィリン症の様々な病型を鑑別する。特殊な検査でALA濃度およびPBG濃度の上昇が示された場合は,便中のポルフィリンを測定することがある。便中のポルフィリンは,急性間欠性ポルフィリン症では通常は正常範囲内またはわずかに上昇しているが,遺伝性コプロポルフィリン症および異型ポルフィリン症では上昇している。便中のポルフィリンは急性ポルフィリン症の無活動期には認められないことが多い。
Soret帯(約410nm)励起後の血漿の蛍光発光によって,それぞれ異なる発光ピークをもつ遺伝性コプロポルフィリン症と異型ポルフィリン症を鑑別できる。特に異型ポルフィリン症では626nmに蛍光ピークがあるのが特徴で,正確な診断確定に有用である。この検査は簡単かつ有用であるものの,基準となる大規模な検査施設の多くで利用できない。
急性ポルフィリン症の家族に対する検査
常染色体顕性(優性)型の急性ポルフィリン症(急性間欠性ポルフィリン症,遺伝性コプロポルフィリン症,異型ポルフィリン症)の遺伝子キャリアの子供が疾患を遺伝的に受け継ぐリスクは50%である。一方,ALAD欠損性ポルフィリン症(常染色体潜性遺伝[劣性遺伝])の患者の子供は絶対保因者であるものの,臨床的な疾患を発症する可能性は極めて低い。早期診断とそれに続くカウンセリングにより罹病のリスクが低下するため,罹患家系の小児には思春期発来前に検査を行うべきである。
まず発端者に遺伝子検査を実施し,その後全ての第1度近親者に的を絞った遺伝子検査を再度実施することが強く推奨される。遺伝子検査で病的変異を明らかにできないまれな例では,関連する赤血球酵素活性を測定することがある。しかしながら,既述のように赤血球PBGデアミナーゼの活性には健常者との重複があり,また白血球中のコプロポルフィリノーゲン酸化酵素(CPOX)またはプロトポルフィリノーゲン酸化酵素(PPOX)の活性の測定は困難で,商業検査施設でも研究施設でももはや利用できないため,確定診断を下すには遺伝子検査が望ましい。
赤血球酵素活性の測定値は,検体の処理方法および輸送方法により変動する可能性がある。
ポルフィリン症のない人におけるPBGデアミナーゼ活性とAIP患者におけるPBGデアミナーゼ活性には重複がある。
AIP患者の約5%では,赤血球PBGデアミナーゼ活性が正常である。
遺伝子解析は子宮内診断(羊水穿刺または絨毛採取による)で行えるが,大半の遺伝子キャリアの予後は良好であるため,ほとんど適応とはならない。
急性ポルフィリン症の予後
医療およびセルフケアの進歩によって,症状を有する急性ポルフィリン症患者の予後は改善している。それでもなお,一部の患者では発作の再発または永続的な麻痺や腎不全を伴う進行性の病態が生じる。また,オピオイド鎮痛薬が頻繁に必要になるとオピオイド依存につながる可能性もある。
急性ポルフィリン症の治療
可能であれば誘因を除去する
ブドウ糖(経口または静注)
重度の疼痛に対して麻薬およびその他の鎮痛薬
悪心および嘔吐に対してオンダンセトロンおよび/またはプロメタジン
ヘム(静注)
ギボシラン(皮下)
急性発作の治療は,全ての急性ポルフィリン症で同じである。考えられる誘因(例,過剰なアルコール摂取,薬剤)を同定し取り除く。発作が軽度でない限り,患者を暗く静かな個室に入院させる。心拍数,血圧,および水・電解質バランスをモニタリングする。神経学的状態,膀胱機能,筋肉および腱の反射機能,呼吸機能,酸素飽和度を継続的にモニタリングする。
必要に応じて,ポルフィリン生成作用のない薬剤を用いて症状(例,疼痛,嘔吐)を治療する。
ブドウ糖を1日当たり300~500g投与することにより,肝ALA合成酵素(ALAS 1)のダウンレギュレーションが起こり,症状が緩和される。ブドウ糖は嘔吐がなければ経口で投与できるが,嘔吐があれば静注する。通常のレジメンでは,10%ブドウ糖液3Lを中心静脈カテーテルから24時間かけて投与する(125mL/時)。しかしながら,水分過剰とその結果生じる低ナトリウム血症を回避するために,50%ブドウ糖液1Lを投与してもよい。
ヘムの静注はブドウ糖よりも効果的であり,重度の発作,電解質平衡異常,または筋力低下が生じた場合には速やかにこれを行うべきである。ヘムにより,通常3~4日で症状が消失する。ヘムによる治療が遅れると,神経障害が重症化し,回復が遅れ,場合によっては完全な回復が得られない。ヘムは,米国ではガラスバイアル中で滅菌水で溶解して使用する凍結乾燥ヘマチンとして入手できる。通常用量は3~4mg/kg,1日1回,4日間の静注である。代替法としてアルギン酸ヘムがあり,これも同じ用量で投与するが,5%ブドウ糖または2倍もしくは4倍に希釈した生理食塩水で溶解する点が異なる。ヘマチンおよびアルギン酸ヘムは,静脈血栓症および/または血栓性静脈炎を引き起こす場合がある。こうした有害事象のリスクは,ヘムをヒト血清アルブミンと結合させて投与すると低下するようである。この結合によって,ヘマチンの凝集が発生する確率も低下する。そのため,大半の専門家は,ヘマチンまたはアルギン酸ヘムをヒト血清アルブミンとともに投与することを推奨している(1)。
症例報告から,バソプレシン受容体拮抗薬であるトルバプタンが急性発作時の低ナトリウム血症の管理に役立つことが示唆されている。
急性肝性ポルフィリン症の成人患者の治療にはギボシランが使用できる。これは肝臓のALA合成酵素1を選択的に標的とし,著明なダウンレギュレーションをもたらすsiRNA(small interfering RNA)である(2, 3)。2.5mg/kgを月1回皮下投与すると,AIPの発作の再発頻度および重症度が低下する。ギボシランは肝細胞に取り込まれ,そこでALA合成酵素1の活性を低下させる結果として,血漿中および尿中のALAおよびPBG濃度の著明な低下,急性発作の減少,「レスキュー」としてのヘム静注の必要性の低下,ならびに生活の質の改善をもたらす。ギボシランは一般に忍容性が良好であり,副作用として血清アラニンアミノトランスフェラーゼ値およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値の上昇(黄疸を伴わない)がみられるものの,本剤の一時的または完全な中止を要するほど重度となる患者はごく少数に過ぎない。ギボシランは,血清クレアチニン値の軽度上昇と血漿ホモシスチン値の上昇(程度は様々)とも関連付けられている。ギボシランには膵炎のリスクがある可能性もある(4, 5)。また,ギボシランに起因する重度の疲労が報告されている。
一般的に使用される抗てんかん薬の多くは発作を悪化させるため,痙攣発作の治療は困難である。レベチラセタムは,安全に使用できる抗てんかん薬であると考えられている。
発作の再発
ギボシランによる最適化された長期治療を受けている患者,またはギボシランに耐えられない患者で,重度の発作が繰り返し認められる場合は,腎障害または恒久的な神経学的損傷のリスクがあるため,依然として肝移植が選択肢である。肝移植の成功は,急性間欠性ポルフィリン症の恒久的な治癒につながる。肝臓のPBGデアミナーゼの欠乏が肝移植によって是正されれば,生化学的にも(PBGおよびALAの濃度の正常化),症状的にも寛解に至る(6)。最近,欧州におけるAIPに対する肝移植の臨床経験が,2002~2019年に移植を受けた12カ国38人の患者[うち34人が女性]を対象とした後ろ向き研究で報告された(7)。1年および5年生存率はそれぞれ92%および82%であり,これは他の代謝性疾患における肝移植後の生存率と同程度である。移植時に神経学的異常が進行していた患者では,生存率が低かった。生来の肝臓を残したまま補助的に移植片の移植を受けた患者1人を除き,肝移植後にAIP発作を起こした患者はいなかった。肝臓と腎臓の同時移植も成功している(8)。遺伝性コプロポルフィリン症に対して肝移植を行った例は報告されていない。肝移植を行ったALAD欠損性ポルフィリン症の1児では,入院期間が減少したものの生化学マーカーの改善はみられなかった(9)。
American Association for the Study of Liver Disease(AASLD)の最新の診療ガイドラインには肝移植の適応として肝性ポルフィリン症の明確な記載はなかったが,肝性ポルフィリン症は全身症状を伴う肝代謝性疾患に含めるのが適切と考えられる。Model for End-stage Liver Disease(MELD)スコアの例外ポイントが標準化されていない状況では,AIPへの肝移植は移植施設が属するUNOS(United Network for Organ Sharing)地域内の地域審査委員会への嘆願に頼らざるを得ないだろう。
急性ポルフィリン症患者はたとえ肝臓が構造的に正常にみえるとしても(すなわち,肝硬変がない),肝臓の提供者になるべきではない;ポルフィリン症の診断を受けたことのないレシピエントに急性ポルフィリン症様の症状がみられているのがその理由であるが,このような結果は急性ポルフィリン症が肝臓の疾患であることを確立するのに貢献した。活動性疾患および末期腎不全を有する患者は,透析の開始時に神経損傷が進行するリスクがかなり高いため,腎移植(肝同時移植の有無を問わない)を考慮すべきである。
治療に関する参考文献
1.Bonkovsky HL, Healey JF, Lourie AN, and Gerron GG: Intravenous heme-albumin in acute intermittent porphyria. Evidence for repletion of hepatic hemoproteins and regulatory heme pools. Am J Gastroenterol 86: 1050–1056, 1991.
2.Balwani M, Sardh E, Ventura P, et al: Phase 3 trial of RNAi therapeutic givosiran for acute intermittent porphyria.N Engl J Med 382: 2289–2301, 2020.
3.Sardh E, Harper P, Balwani M, et al: Phase 1 trial of an RNA interference therapy for acute intermittent porphyria.N Engl J Med 380: 549–558, 2019.
4.Majeed CN, Ma CD, Xiao T, et al: Spotlight on givosiran as a treatment Option for adults with acute hepatic porphyria: Design, development, and place in therapy. Drug Des Devel Ther 16:1827–1845, 2022.doi:10.2147/DDDT.S281631
5.Ventura P, Bonkovsky HL, Gouya L, et al: Efficacy and safety of givosiran for acute hepatic porphyria: 24-month interim analysis of the randomized phase 3 ENVISION study. Liver Int 42(1):161–172, 2022.doi:10.1111/liv.15090
6.Dowman JK, Gunson BK, Mirza DF, et al: Liver transplant for acute intermittent porphyria is complicated by a high rate of hepatic artery thrombosis.Liver Transpl 18: 195–200, 2012.doi: 10.1002/lt.22345
7.Lissing M, Nowak G, Adam R, et al: Liver transplantation for acute intermittent porphyria. Liver Transpl 27(4):491–501, 2021.doi:10.1002/lt.25959
8.Wahlin S, Harper P, Sardh E, et al: Combined liver and kidney transplantation in acute intermittent porphyria. Transpl Int 23(6):e18–e21, 2010.doi:10.1111/j.1432-2277.2009.01035.x
9.Thunell S, Henrichson A, Floderus Y, et al: Liver transplantation in a boy with acute porphyria due to aminolaevulinate dehydratase deficiency.Eur J Clin Chem Clin Biochem 30: 599–606, 1992.
急性ポルフィリン症の予防
急性ポルフィリン症のキャリアは以下を避けるべきである:
有害な可能性がある薬剤の使用(Drug Database for Acute PorphyriaまたはAmerican Porphyria Foundation drug databaseを参照)
大量の飲酒
喫煙
身体的または精神的なストレスまたは消耗
有機溶剤(例,除草剤,ペンキまたはドライクリーニング用製品)への曝露
急激なダイエット
絶食
肥満に対する食事は体重を徐々に減らすようなものとし,寛解期間中のみとすべきである。異型ポルフィリン症または遺伝性コプロポルフィリン症のキャリアは日光曝露を最小限にとどめるべきである;紫外線B波のみを遮断するサンスクリーン剤は無効であるが,酸化亜鉛または二酸化チタンを含有するものは有益である。United Porphyrias AssociationやAmerican Porphyria Foundation,European Porphyria Network(Epnet)などの支援団体から,書面による情報の提供や直接のカウンセリングが受けられる。
患者の医療記録にはキャリアであることを目立つように記載すべきであり,患者本人も,キャリアであることを証明し注意事項が記されたカードを携帯し,メディカルアラートジュエリーを装着しておくべきである。
高炭水化物食は急性発作のリスクを低減する可能性がある。軽度の急性発作であれば,デキストロースまたはグルコースの摂取を増やすことで発作を治療できることがある。肥満および齲歯のリスクを減らすために,長期の使用は避けるべきである。
腎障害を予防するため,慢性的な高血圧は積極的に治療すべきである(安全な薬剤を用いる)。腎機能障害の所見が認められる患者は,腎臓専門医に紹介する。
急性ポルフィリン症のキャリア,特に活動性疾患を有する患者では肝細胞癌の発生率が高い。49歳以上の患者には,年1回または2回,超音波検査による肝臓のスクリーニングを含むサーベイランスを行うべきである。早期介入で治癒を得られる可能性があり,期待余命を延長させる。
再発性または予測可能な発作
予測可能な発作を繰り返している患者(典型的には月経周期と関連する発作を起こす女性)には,ギボシランを用量2.5mg/kg(体重)の月1回の皮下注射で使用することができる。あるいは,急性発作の発生が予想される時期の直前にヘムによる予防的治療を行うか,週1回の予防投与(より安価である)を行うことが有益となる場合がある(1)。標準化されたレジメンはなく,専門医へのコンサルテーションを行うべきである(1, 2)。
一部の女性にみられる頻回の月経前発作は,ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニストと低用量エストロゲンの併用投与によって抑える。低用量の経口避妊薬がときに奏効するが,プロゲスチン成分がポルフィリン症を増悪させる可能性が高い。
もう1つのアプローチはポルフィリノーゲンデアミナーゼHの野生型メッセンジャーRNA(mRNA)を肝細胞に導入することで,酵素の濃度を上昇させる方法であり,非臨床研究で有望であることが実証されている(3, 4)。
予防に関する参考文献
1.Yarra P, Faust D, Bennett M, et al: Benefits of prophylactic heme therapy in severe acute intermittent porphyria. Mol Genet Metab Rep 19:100450, 2019.doi:10.1016/j.ymgmr.2019.01.002
2.Kuo HC, Lin CN, Tang YF: Prophylactic heme arginate infusion for acute intermittent porphyria. Front Pharmacol 12:712305, 2021.doi:10.3389/fphar.2021.712305
3. Sardh E, Harper P, Balwani M, et al: Phase 1 trial of an RNA interference therapy for acute intermittent porphyria.N Engl J Med 380(6): 549–558, 2019.
4.Wang B, Rudnick S, Cengia, Bonkovsy HL: Acute hepatic porphyrias: Review and recent progress.Hepatol Commun 3:193−206, 2019.
要点
急性ポルフィリン症は腹痛および神経症状の間欠的な発作を引き起こす;日光曝露が誘因となる皮膚症状が認められる病型もある。
発作には,ホルモン,薬剤,低カロリー・低炭水化物食,およびアルコール摂取など,多くの誘因がある。
発作では通常,重度の腹痛(腹部の圧痛はない)および嘔吐がみられる;末梢神経系および中枢神経系のあらゆる構成要素が侵される可能性があるが,筋力低下の頻度が高い。
発作時の尿はしばしば赤褐色である。
ポルフォビリノーゲン(PBG)の定性的な尿検査を実施し,そこで陽性となれば,δ-アミノレブリン酸(ALA)とPBGの測定により確認する。
急性発作はブドウ糖の経口または静脈内投与により治療し,重度の発作はヘムの静注により治療する。
急性発作を繰り返す患者は,ヘム静注,ギボシラン,または一部の症例では肝移植により治療する。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Martin P, DiMartini A, Feng S, et al: Evaluation for Liver Transplantation in Adults: 2013 Practice Guideline by the AASLD and the American Society of Transplantation.American Association for the Study of Liver Diseases 2013.
American Porphyria Foundation: Aims to educate and support patients and families affected by porphyrias and to support research into treatment and prevention of porphyrias
American Porphyria Foundation: Safe/Unsafe Drug Database: Provides an up-to-date list of medications available in the United States to assist physicians in prescribing for patients with porphyrias
European Porphyria Network: Promotes clinical research about porphyrias
The Drug Database for Acute Porphyrias: Provides an up-to-date list of medications available in Europe to assist physicians in prescribing for patients with porphyrias
United Porphyrias Association: Provides education and support to patients and their families; provides reliable information to health-care providers; fosters and supports clinical research to improve diagnosis and management of the porphyrias